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その香りを纏う

Fate Grand Order インドラ&女夢主 — www.pixiv.net · All chapters

その香りを纏う

「む?マスターか」

「あれ?カーリーさん?」

昼食を食べるために食堂へ向かう途中、廊下で会ったのはインド神話の戦鬼…カーリー女神だった。

いつもは別側面の殲滅女神ドゥルガーとして過ごすことが多いはず…。

「今日はカーリーさんが出てきているんですね」

「ああ…女神の刃が鈍らぬよう、時折ドゥルガーに頼み込み、入れ替わっている」

「どちらも万全でいられるように…ですか?」

「そうだ。…む?むむっ?」

「カーリーさん?」

穏やかに話していたカーリーさんが、急に表情を変えて私に近づく。

「動くな、マスター」

「は、はい…」

どうしたんだろう?

そう思っていると、カーリーさんが私の首と肩あたりに顔を近づけ、スンスンッ…と匂いを嗅ぎ出した。

そして何か納得したような表情になった。

「…なるほど」

「カーリーさん?私…何か匂いました?」

「ああ、しばしな」

「何の…匂いでしょう?」

「うむ。これは、まあ間違いない」

「インドラの匂いだな」

「…ッ!?」

カーリーさんの言葉に、顔に一気に熱が集まった。

耳まで熱い…。

茹でダコってこのことか…。

「そう照れるな。汝の匂いとインドラの匂いが喧嘩せず、よぉーく混ざっている。悪くは、ない」

私をからかうようにニヤリと笑うカーリーさん。

「カ、カーリーさん…それはあまり廊下では…」

「む?何故だ?隠すことでもあるまい。愛する者の匂いは、落ち着く。そうであろう?」

「も、もうその辺で…!!」

そういえばこの女神様…旦那様LOVEだった。

そりゃ隠す理由なんてないよな…。

「まったく…汝は誠に、愛らしい。いっそ、食ってしまおうか?」

「…え“?」

………食う?

それ比喩?直喩?

「あの…カーリーさん?」

「ふっ、冗談だ」

「!……もう…」

「そう不貞腐れるな。さて、頃合いだ。女神はそろそろ戻るとする」

「…はい、また…」

そう言うとカーリーさんは少し笑い、上機嫌に去っていった。

あああああ…!!

時間差でまた羞恥がぶり返してくる…。

匂い?匂いって何!?

それ人間の私でもわかるような匂い!?

カーマちゃんといいカーリーさんといい、何ならインドラ様といい…

インドの神様って、やたら匂いで相手から何かを感じ取ってるよなぁ…。

前にカーリーさんに、直に匂いを嗅ぎたいから服を脱げって剥ぎ取られそうになったし。

私の部屋だったから応じたけど。

私の匂い、か…。

…

…

いや、無理だ…。

『私の匂いってどんな匂いなんですか?』

なんて、流石にインドラ様には聞けない…。

聞いたら…私の中でいろいろ終わる気がする。

そんなこんなで考え事をしながら歩いていたら、いつの間にか私の部屋に戻ってきていた。

食堂行くつもりだったのに、何してんだ私…。

あ。

そういえば…。

ふとあるものの存在を思い出し、部屋に入ってチェストの中を漁る。

確か前に特異点で買い物したときに買って…それでこの辺りにしまったままだったはず…。

ガサガサ…

あ、あった…。

それはパッケージに包まれたままの、香水の瓶。

マリーたち女性陣と買い物したときに、良し悪しがわからない私に代わりマリーが選んでくれた香水。

重い香水の香りがあまり得意じゃない私に、つけていても気分が悪くならない、軽い香りのものを選んでくれたんだっけ。

なんだかんだあって、一度もつけないままチェストにしまいこんでいた。

今日は特に予定はないし…つけてみよう。

えっと?確か香水って、本来は胸元やウエストにつけて体の内側から香らせるものって聞いたことがあるけど、初めてつけるから、手首に軽くつけるくらいにしようかな。

私も香りを確認したから大丈夫だとは思うけど、食堂に行って匂いで迷惑かけちゃいけないからね…。

手首だけなら、最悪手を洗えば落とせるし…。

プシュッ

左の手首に、少ない量だけ出るようにうまく調整しながら振りかける。

ふわりといい香りが舞う。

やっぱりいい香りだ…。

マリーのセンスのよさに感動する。

右手首を軽く擦りつけ、香りを移す。

うん、特につけすぎたわけじゃないし…大丈夫なんじゃないかな?

とりあえず、今日はこのまま過ごしてみよう…。

でもとりあえず、食べ損ねた昼食をとりに行くとしましょうかね…。

〜食堂〜

「お、マスターじゃねえか」

「ビーマ、A定食お願い」

「おう、任された!」

厨房に立っていたビーマに定食の注文をする。

待っている間暇なので、食堂を見回してみる。

すると…

「…あ」

食堂の奥のほうの席…以蔵さんや酒吞ちゃん、荊軻さんに景虎さんと一緒のテーブルに、よく見慣れた神様の姿があった。

談笑しながらもいつもの神様らしく、静かにお酒を酌み交わしている。

こちらには気づいていないらしい。

こんな昼から、よく飲めるよなぁ…。

「はいよ、お待ちどう!」

ビーマの声が聞こえ、厨房へと振り返る。

「ありがとう、いただきます」

御膳を受け取ろうとすると…。

「ん?何か嗅ぎ慣れねえ匂いだな…何だ?」

私の手元を見つめながら、ビーマが呟いた。

おや、早速気づかれたか…。

「あ、軽く香水つけてて…もしかして香りがきつかったかな?」

「あぁ香水か。いいや、きつくはねえ…いい香りだと思うぜ?」

「ありがとう、それならよかった。でも料理の匂いがしてるのによく嗅ぎ分けられたね」

「匂いには敏感なのさ。なんせ料理人は味覚だけじゃない、嗅覚も大事だからな」

「なるほど…」

「それとマスター…奥にいらっしゃるが、こんな手前の席でいいのか?」

にっと笑いながら、食堂の奥に目をやるビーマ。

ビーマにまで知られてるのか…。

「…いいよ、私今から昼食だから。そばに寄ったらお酌させられて食べれなくなりそうだし」

「流石にそこは配慮してくださるとは思うが…まあマスターがいいならそれでいい」

「……はぁ…」

近くの席に着く。

私はこれから、一体何人の英霊たちにからかわれるはめになるんだ…。

「ごちそうさまでした、美味しかったよ」

「おう、お粗末さん」

食べ終えた御膳を返却口に返し、食堂を出ようとすると…。

「何だ、いたのか…人間」

「…ッ!?」

食堂の奥からよく響く声が届く。

一体誰に向けて言っているのか…そんなもの考えるまでもない。

「…見つかっちまったな」

苦笑いしながらこちらを見るビーマ。

正直に言う。

酔っぱらいの相手とか本当は御免被る。

でも…

「何を突っ立っている。そばに寄れ」

って神様に言われたら動かないわけにはいかないじゃないですか…。

「それなら頼んじまって悪いがマスター…この料理ついでに持って行ってもらえるか?」

ビーマができたばかりの料理の大皿を私に持たせてきた。

完全に逃げ場がなくなった…。

覚えてろよ、ビーマ…。

「…ただいま伺います」

軽くビーマを睨みつけながらも、私はおとなしく料理を運びながら奥の席へと向かった。

〜しばらくして〜

「やっとお開きか…」

酔い潰れた以蔵さんと荊軻さんは坂本さんたちが引き取り、まだまだけろりとした様子の酒吞ちゃんは暇潰しにと出かけて行った。

景虎さんも川中島してくる…だとか。

テーブルに残された空いた食器を運んでいく私。

「悪いなマスター。片付けまで任せちまって」

「今ビーマしかいないでしょ?なら全部任せるのは気が引けるよ」

「助かる…だが、あとはこっちでやる。だからお前さんは早いとこお相手をしたほうがいい」

「え?」

チラッ…と目線を私の斜め上に向けるビーマ。

振り返ると…

「戻るぞ、人間」

「ぇ…うわッ!?」

視界にインドラ様を捉える前に、片手で体を担ぎ上げられる。

いやいや、貴方さっきまでアイラーヴァタに座ったまま寝てませんでしたか!?

「インドラ様…自分で歩きますから…」

「神に命ずるな」

えぇ…。

この神様めんどくさい…。

プシューッ

部屋の自動ドアを開けると、インドラ様は担ぎ上げていた私をベッドに下ろす。

そして自分もその隣に座った…のだが…。

「どうか…されました?」

「…」

何だろう?

インドラ様にじーっと見つめられる。

思えば…宴のときもインドラ様の隣に座らされるはめになったのだが、その時からやけにインドラ様からの視線を感じていた。

空いた食器を片付けたり、ビーマの料理やお酒を運ぶために何度も離席したからだと思っていたが…。

「…その匂い」

「え?」

「よく知らん匂いがするが…何だ?」

「匂い?……あっ」

私はデスクに向かい、香水の瓶を手に取る。

「もしかしてこの匂いですか?」

蓋を開けてインドラ様に差し出す。

「…あぁ、確かにそれだ。お前から嗅ぎ慣れん匂いがしているとは思ったが」

「手首にほんの少しつけていたんですが、もしかしてこの香り…お嫌いでしょうか?」

「別に嫌いはせん」

「…勘違いだったらすみませんが、インドラ様」

「何だ」

「宴のとき、やけにインドラ様からの視線を感じたんですが、これが原因ですか?」

「……まあ、そんなところだ」

よく知らない匂いに警戒していたインドラ様…。

ちょっと想像してみる。

…

…

野生動物?

飼い犬か飼い猫?

あ、ダメだこれ以上想像したら…

うっかりニヤけそうになって、バレる…。

「つけないほうがいいですかね?」

「気にする必要はない。が、日頃から香を纏わぬ者から香の匂いがするのは何事かと考えはする…というだけだ」

あの…これさ、もしかして…

普段香水をつけない私から、知らない香水の匂いがしたからって理由で…浮気を疑われてたりした…?

だからあんなに見られてたとか…?

…

…

怖っ…。

冗談抜きで危なかったかも…。

「これは以前、特異点で買い物をしたときに買ったもので、ずっとしまいこんだままだったんです。思い出したのでつけてみようと思って」

「ま、お前の香ならば神から特に言うことはない」

やっぱり疑われてたんだ、私…。

でもインドラ様って、疑わしきは即罰するってイメージ持ってたんだけど、意外とちゃんと確かめてから行動に移すんだな…。

「…あぁ、それと」

「え?」

「その香…神にも少し寄越せ」

「あ…はい、どうぞ」

手に持ったままの瓶をインドラ様に手渡す。

受け取ったインドラ様は一振り、自分に向けて軽く振りかけた。

「…なるほど、悪くはない」

「この香り、気に入ったんですね」

「ああ。お前の香りだと思えば、悪くない」

「はい!?」

唐突にとんでもない落雷…いや、爆弾落としたよこの神様…。

ちょっと変な声出ちゃったじゃないですか…。

「もともとお前自身の匂いも悪くないが、この香もお前の香りだと思えば、悪い気はしない」

「〜〜〜!!」

さらっととんでもないことを言うインドラ様。

対する私は羞恥と、神を嫉妬させた優越感がごっちゃになった感情に、ただただ悶えることしかできなかった。

〜おまけ〜

「おや、ラーマ…に、カルナ…」

「…アルジュナか」

「アルジュナ、お前も食事か?」

食堂に入ったアルジュナの視界に入ったのは、ビーマ特製のカレーを頬張るラーマ、そしてカルナの姿だった。

「おうアルジュナ!ちょうど追加のカレーが出来上がったところだ!お前もどうだ?」

「ビーマ兄様…ではお言葉に甘えて」

「よかったら隣が空いているぞ」

「…では有り難く」

ラーマの真向かいにはカルナが座っているが、まあこの際気にすることでもない。

ラーマの言葉に甘え、隣に腰掛ける。

「そら、できたぞ」

「ありがとうございます、兄様」

ビーマが運んできた料理に手をつけようとした時だった…。

「ん?馴染みの顔が揃っているな」

ピシッ

ものすごく聞き覚えのある声…。

ここ最近自分の胃痛の種となっている、今ものすごく顔を合わせたくない神…。

「イ、インドラ神…!?」

「…」

「インドラ様…」

焦るラーマ。

特別反応のないカルナ。

今来ちまうかー、と言いたげなビーマ。

「…インドラ…神…」

まだ何も食べていないのに、胃がシクシクと悲鳴を上げだしたアルジュナ。

「我が息子よ…壮健か?」

息子の姿を見つけ、ご機嫌な様子の神。

(壮健ではないだろうな)

口には出さないが、心で呟くカルナ。

(インドラ神…息子の苦労も知らず…)

同じく口には出さないが、頭を抱えるラーマ。

(マスターは…流石にいねえか…)

状況が悪化しないか、気が気でないビーマ。

「…私は変わらず、です」

何とか言葉を紡ぐアルジュナ。

「変わらず?その割には声に覇気がないが」

((何故そういうところだけは敏感に感じ取るんだインドラ神/様!!))

心の中で絶叫するラーマとビーマ。

「…まあよい、神も同じものを貰うとするか」

「あ、はい…承知しました」

席に移動するインドラ。

慌てて準備をしようと動くビーマ。

「…ん?」

と、何かに気づき動きを止めるビーマ。

「どうした」

「あ、いえ…何でもありません。どうぞお席に…用意でき次第運びますんで」

「そうか」

ビーマの様子に何かを勘づきながらも、気にする様子もなく席に着くインドラ。

カルナの隣…つまり、アルジュナの目の前に。

そして目の前の息子の顔を見つめる…。

(オレは一向に構わんが、よりによってそこに座るのか…インドラよ)

流石にアルジュナに同情するカルナ。

(インドラ神、目の前は…目の前は流石にアルジュナが食べづらかろうよ…)

さらに頭を抱えるラーマ。

(息子の顔を見たいって気持ちも、わからなくはないんだがなぁ)

準備をしながらも心の中で呟くビーマ。

(………食べづらい)

案の定気まずさが最高潮なアルジュナ。

「イ、インドラ神…食事中に顔を凝視するのは流石にやめてやってほしい。いくら父親とて、神に見られ続けるのは気を遣ってしまうものだぞ?」

「…そのようなもの、神はまったく気にならんが…そういうものなのか?」

「そういうものだとも。インドラ神は神だから、神の目が気にならぬのだよ」

「……ならば仕方ない」

(ナイスだラーマ!)

(ラーマ…この恩は必ず…!!)

心の中で歓声を上げるビーマと、ラーマへの感謝で胸がいっぱいなアルジュナ。

「お待たせしました、インドラ様」

「ああ」

インドラの目の前に皿を置くビーマ。

「!」

(あー…やっぱりか…)

先程気づいた異変が、やはり勘違いではないことを改めて実感してしまったビーマ。

「…」

ビーマの異変を『貧者の見識』で読み取り、察した様子のカルナ。

厨房に戻ったビーマは他の者に、特にアルジュナに気づかれないように、小さく息をつく。

(インドラ様…マスターの香水と同じ匂いがするな)

先日マスターの香水の香りを知ったビーマと…

(なるほど。この香水はマスターのものか)

隣にいるインドラから漂う香りと、ビーマの考えを合わせて察知したカルナ。

((…マスターが来ないことを祈るしかないな))

END