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待ちわびた時

Fate Grand Order インドラ&女夢主 — www.pixiv.net · All chapters

待ちわびた時

「みんな、ありがとう。お疲れ様でした」

「うむ、お疲れ」

「お疲れ様です」

素材集めの周回を終え、私は英霊たちにお礼の言葉をかける。

今日はちょっとドロップ率が悪かったらしく、目標の数が集まるまで林檎を齧りまくることになった。

私もだけど、英霊たちの方が疲れてるはず。

「まったく…もはや毎度のことではあるが、神に何度神雷を落とさせるつもりだ」

「いえ、はい…本当に助かりました。いつも頼ってしまってすみません」

「…まあよい。非力でちっぽけな人間からの助けを拒む程、神も狭量ではない」

「インドラさまを頼りたい、という気持ちは理解できます」

「それはぼくもわかるよー。キシシッ」

だってインドラ様…魔性エネミーが相手だとめちゃくちゃ強いんですもん…。

おまけに回復すればNP増えるから、宝具を回しやすいことこの上ないし…。

「神は疲れた。部屋に戻る」

「はい、ありがとうございました」

そう言うと、インドラ様はヴァジュラたちを引き連れて去っていった。

他の英霊たちも次々と部屋に戻っていく。

さて、素材の数を更新して、あとは周回に付き合ってくれた英霊たちのステータスを確認して…。

「あっ」

ひとつ、忘れていたことがあった。

私はインドラ様のステータスを確認する。

「そうだった…インドラ様絆14になってたんだ」

先程の周回中に、インドラ様の絆レベルが14に上がっていたのだ。

最後の夢火を渡さなければいけない…。

「忘れる前に、届けよう」

私はアイテムボックスから夢火を取り出し、インドラ様の部屋へ向かった。

「そういえば…初めてインドラ様の部屋にお邪魔するかも」

インドラ様の部屋は、最初はストームボーダーでの部屋を案内し、シミュレーターで好きなように改造してもらって構わない、と説明はした。

でもその後インドラ様の部屋を訪ねることは一度もなく、最終決戦を迎えてお別れとなった。

そしてこのカルデア基地で再会したインドラ様にまた部屋を案内し、それ以降一度も訪ねなかった。

インドラ様…流石にあの無機質な部屋のままにしてるわけないよな。

どんな部屋にしてるんだろう?

あの空の特異点みたいな、ちょっとした神殿みたいな感じかな?

そんな想像をして歩いていると、ついにインドラ様の部屋の前についた。

深呼吸をして、ドアをノックする。

コンコンッ

「インドラ様、お休みのところをすみません。先程渡し忘れたものがあったので参りました。ご都合がよろしくないようでしたら、出直しますが…」

もしインドラ様が寝てたとしても、ヴァジュラたちがいるから、何かしら返事は返ってくるはず。

いや、あの神様物音に敏感だから、今ので起きたかもしれないけど。

「入れ」

「!」

と、インドラ様の返事が聞こえてきた。

一瞬固まった私だったが、自動ドアを開ける。

プシューッ

「失礼します」

部屋に足を踏み入れた瞬間…。

「えっ…」

目の前に広がる光景に、思わず声が漏れた。

インドラ様の部屋は、あの空の特異点のような場所でも、お城のような場所でもなかった。

壁一面に本が敷き詰められた本棚、ダークブラウンで統一されたデスクやサイドテーブル、重厚なデザインのラグ…。

『書斎』という言葉がぴったりと当てはまるような部屋だった。

何か…意外だな。

意外なはずなのに、どこかインドラ様のイメージにもしっくりくるような部屋だった。

「おい、何をぼんやり突っ立っておる。早く入れ」

「あ!し、失礼しました…」

インドラ様から声をかけられ、はっと我に返った私は急いで自動ドアを閉める。

「妙に挙動不審だが…何だ?」

「あ、すみません…インドラ様のお部屋にお邪魔したのが、初めてだったので」

「…言われてみれば、そうであったか」

そして当のインドラ様は、奥のスペースにアイラーヴァタを顕現させて、そこに腰掛けている。

あ、そうか…。

アイラーヴァタが玉座だから、オジマンディアスみたいな玉座つきの神殿を作る必要はないんだな。

何ならインドラ様は、オジマンディアスやセミラミスみたいに建築に造詣が深いわけじゃないし。

それに…この神様が神殿を作るなら、シミュレーターじゃなくて本物の空に作るだろうしね。

「それで?渡し忘れたものとは…」

「あ、はい。夢火をお渡ししようと思っていたんですが、忘れていたので今届けに来ました」

私は近づいてきたヴァジュラに、夢火を渡す。

「本来不可能と言われる、英霊との絆の限界を超える奇跡を起こす火…か」

「これで5個目ですので、インドラさまが受け取れる夢火は最後ですね」

「英霊どころかインドラさまは神様だぞー?絆を深められることにちゃーんと感謝しろよー?キシシッ」

「それは…もちろん」

私は、夢火は絆10になった英霊たち全員に渡してるわけではないので、尚更だ。

さて…じゃあ目的は達成したから帰ろう…。

「おい、どこへ行く」

「え?どこって…部屋に戻ろうかと…」

「用が済んだからといって帰るつもりか?初めて神の部屋を訪れたというのに、何とも淡白な女だ」

「インドラさまがそうおっしゃっていますので」

「まだ帰っちゃダメだからなー?キシシッ」

ヴァジュラたちが部屋の鍵をかけ、ドアの前に立ち塞がる。

えぇ…この神様めんどくさい…。

私にあれこれ言える立場なんだから、まだ部屋にいてくれって素直に言えばいいのに…。

いや、言うわけないか。

「わかり…ました」

ドアから離れ、改めてインドラ様の部屋を見渡してみる。

「気になるか?」

「…本はよく読みますので、こんなにたくさんあるとちょっと気になってしまうといいますか…」

そういえばインドラ様…図書館で見かけたとき、そこそこの数の本読んでた気がする。

神様も読書…するんだな…。

書いたのは人間なのに。

「別に読んでも構わん」

「え…本当ですか?」

「たまにヴァジュラに入れ替えさせているが、神の興味を特別惹く程の書物は、今のところそう多くはない」

「こうおっしゃいますが、たまによく読まれている本はあります」

「黙っておれ、ヴァジュラ」

「そうなんだ…」

一体何の本なのか気にはなるけど、多分教えてはもらえないだろうな…。

私は本棚に近づき、一冊の本を手に取った。

「あっ…これは…」

表紙を見ただけで、私はそっと戻した。

あの文字…多分サンスクリット語だったと思う。

流石に読めない…。

「ん?読まんのか?」

「…すみません、サンスクリット語は読めなくて」

「ああ…言語の壁というやつか。神はどの言語も読解自体はできるが、お前は別か」

「インドラ様は神様ですし、英霊たちも聖杯からの知識で言語の壁はないんだと思います。私は生身の人間なので、勉強しないと身につかないんです…」

「お前の話す日本語とやらは、特に難易度が高い言語だと聞く。ならば、他国の言語なぞ容易く覚えられるのではないか?」

「いえ、そういう問題じゃないと言いますか…」

魔術礼装に翻訳の機能がついてて本当によかったと思う。

じゃないと、言葉による交渉ができないから不便なことこの上ない。

「はぁ…ならば仕方ない。その辺りの棚は、近々中身を入れ替えさせる」

「え?」

「日本語に訳したものならば読めるであろう?」

「え、それは…」

「何だ、まだ不満か?」

「そうではなくて…とてもありがたいのですが、何故そこまでしてくださるのですか?」

「何故…と聞くか。お前のためであることは、流石に察しているであろう?」

「それは…まあ…」

「…どうやら、己のこととなると途端に察しが悪くなるようだな」

インドラ様はまたため息をつくと、アイラーヴァタから降りて私のもとへ近づいてきた。

そして本棚と自分で私を挟むように、私のすぐ目の前に立った。

「お前が神の部屋を訪れるこの時を、一体神がどれほど待ちわびたと思っている?」

「え?」

私が…部屋に来るのを?

「待てども愚鈍な人間は来ず…やむを得ず神がお前の部屋を訪ねることとなった。まあ…今となっては、それはそれでよいのだが」

じゃあ…私の部屋に来るようになったのは、私がなかなか訪ねて来ないから痺れを切らして…ってこと?

「…神様のお部屋に気軽にお邪魔するのは、流石に気が引けたので」

何ならインドラ様から『部屋に来い』って、一度も言われたことがないから…。

「だが…」

「…ッ!?」

不意に伸びてきたインドラ様の手が、そっと私の頬に触れる。

その指先が、私の唇をなぞる…。

「今…ようやく手元に来た獲物を、神がみすみす逃がすわけがなかろう?そのための餌ならば、惜しまずに用意してやる」

私を見下ろすインドラ様の目は、雷のように眼光が鋭く、獲物を追い詰めた捕食者そのものだった。

「なに…退屈はさせん。二度とこの部屋から出たいと思わんようにしてやってもよいが…それでは新鮮味というものがなくなる。罠を仕掛けるのもよいが、たまには神から出向いてやらねばな」

〜おまけ〜

「本当によろしいのですか?」

「おう、気にすんな」

食堂にて…酒盛りをしていたクー・フーリンたちから酒の瓶を受け取ったアルジュナ。

ただそばを通っただけだったのだが、アルジュナの授かりの英雄の性質故なのか…いい酒が手に入ったからと手渡されたのだ。

自分は酒は飲まないので…と返そうとしたが、どうせなら酒豪の父親…つまりインドラにくれてやれと言われたので、厚意に甘えて受け取ることにした。

さて…インドラ神はどこにいるだろうか?

食堂にはインドラの姿はなかった。

ならば…自室か、はたまたマスターの部屋だ…。

マスターの部屋を訪ねて、インドラ+マスターの姿を見ると確実に胃に負担がかかると思ったアルジュナは、まずインドラの自室を訪ねることにした。

インドラ神の部屋ならば、まず気まずい状況に鉢合わせることはないだろう…。

不穏なフラグを漂わせていることに気づかず、インドラの自室の近くまでやってきた。

プシューッ

「あっ…」

「え…?」

と、突然インドラの部屋の自動ドアが開き、中からマスターが出てきた。

「アル…ジュナ…」

「…マス…ター…?」

見事なフラグ回収…いや、まさかの急展開に口調がたどたどしくなってしまうアルジュナ。

鉢合わせたマスターも、どこか気まずそうだ。

な、何故…?

何故マスターが…インドラ神の部屋から?

何故も何もないのだが…。

つい最近マスターが、インドラの部屋に出入りするようになった。

アルジュナはそれを知らなかっただけだ。

「え…っと…インドラ様部屋にいるから用事あるなら今なら大丈夫だよ、じゃあね!」

「あっ…マスター…」

早口でまくし立てるように喋ると、その場を足早に立ち去ってしまったマスター。

気まずいことこの上ないので、当然といえば当然なのだが。

そしてひとり残されたアルジュナは…。

「うっ…」

胃が悲鳴を上げだした…。

インドラの部屋の目の前だが、今インドラの顔を見て平静でいられる自信がない。

酒を渡すのは…いつでもできる。

今回は出直すか…。

そう思い、痛む胃を押さえながら踵を返そうとしたときだった…。

プシューッ

「ん?我が息子よ…神に何か用か?」

「…ッ!?」

何故だ…今日は…厄日なのだろうか?

何故よりによって今…。

またしても自動ドアが開き、今度はインドラが出てきた。

マスターが部屋を出ていくところさえ見ていなければ、何事もなく酒を渡すことができたというのに。

「どうした?それは…酒のようだが」

インドラが手に持つ酒に気づいた。

こうなったらもう、後戻りできない…。

何とかインドラに向き直り、酒を差し出す。

「先程…クー・フーリンたちから、いい酒が手に入ったからインドラ神に差し上げてはどうか?と…受け取りましたので」

「ほう、神への捧げ物としての礼儀はなっておるようだな」

「はい…それから、申し訳ありませんが…この後すぐに予定がありますので、私はこれで失礼させていただきます」

「ん?何だ、もう行くのか」

「はい…失礼します」

何とかそれだけ言うと、アルジュナは風のような速さでその場を離れる。

そしてそのままラーマが訓練をしているシミュレーター室に駆け込んだ。

「ん?アルジュナ?一体どうs…」

アルジュナに気づいたラーマは声をかけるが、明らかに胃の辺りを押さえながら苦悶の表情をしているアルジュナを見て、何があったかをすぐに察した。

「あー…とりあえず話を聞こう」

「…助かります」

訓練を一時中断し、アルジュナから話を聞くことにしたラーマ。

それに申し訳ないと思いつつも、今あった出来事を重い口調でラーマに話すアルジュナなのであった…。

END