貴方の好きなところ
貴方の好きなところ
「何読んでるんスか?マスター」
「あ、これ?」
レクリエーションルームにて…ゲームに勤しむガネーシャさんのそばで、おっきーから借りた同人誌を読んでいた私。
ゲームの合間のお菓子休憩なのか、ポテチを齧りながら私の手元を覗いてきた。
「…中性的なイケメンが好みなんスか?」
「えっ…何急に」
「この同人誌『美人』って言葉が似合うイケメンばっかじゃないスか」
「…悪い?」
「な〜に開き直っちゃってんスか!別に悪いなんて言ってないのに…。あ、じゃあこの際聞いちゃおっかな?マスターってどんな男がタイプなんスか〜?」
「えー…」
確かに…ガネーシャさんに指摘された通り、ビジュだけなら中性的な顔立ちは好みではあるんだけど…。
詳しく挙げるなら…そうだなぁ…。
「えっと?まずさっき言ったみたいに『美人』って言葉が似合う中性的な顔立ちで…」
「ふむふむ」
「マッチョよりは細身の方が好きで…」
「ふむふむ」
「肌は色白の方が好きかな」
「…ん?」
「あと…銀髪とか白髪みたいにこう…色素が薄いっていうのかな?」
「…あのさ、マスター」
「ん?」
途中から何か考え事をしていた様子のガネーシャさんが、何やら躊躇いがちに口を開いた。
「それ…ほぼカルナさんじゃないスか?」
「えっ?」
カルナ…さん?
いや、ちょっと待てよ?
『美人』という言葉が似合う顔、細身の体、色白で髪も白い…。
…
…
確かに!!
「えぇ〜!?ちょっ、ちょっとマスター!マジでカルナさんじゃないスか!まさかカルナさんのこと狙って…」
「いや、ないない!カルナさんに対してそういう感情はないよ!」
「本当っスか?」
「本当だよ!」
言われてみれば確かに、カルナさんの特徴にぴったり当てはまるし、英霊たちの中では話しやすいから仲がいい方になるけど!
だからってそういう『好き』じゃないから!
「そもそもさ…ビジュの特徴だったら、ピオ先生にだって当てはまるよ」
「あ〜確かに目つき悪いけど綺麗系の顔っスね。しかもマスター…またしても仲いいじゃないっスか」
「確かに話しやすいから仲いいけどさ…」
「も〜浮気者っスね〜このこの〜!インドラ様に言いつけちゃうっスよ〜?」
「マジでやめて?それは」
「えっ…何スか急に低い声出して…」
「マジで洒落にならないんだわ」
「お、おう…言葉に実感が込もってるっスね…」
一応、仲のいい男性英霊と関わっても特に気にしないって言ってはもらえてるんだよな。
ただその二人は、何というか…。
どっちも太陽神の息子だし、カルナさんに至ってはインドラ様もよく知ってるスーリヤ神が父親にあたるわけだし。
仲がいいだけならまだしも、好みのタイプなんて言っちゃったら流石にあの神様も見逃してくれる気がしない…。
「実際それで好きになるかって言われると、それはまた別の話だからさ」
「まあ、そっスね。現にインドラ様は、マスターの好みに掠ってすらいないっスからね〜。いや多少は掠ってる…かも?しれないっスけど、どストライクってわけじゃないし」
「あとカルナさんやピオ先生の耳に入ったら嫌な気分にさせちゃうかもしれないから、あんまり言いふらさないでほしいかな。ピオ先生は気にしなさそうだけど」
「わかってるっスよ!別に言いふらす相手もいないっスからね。おっきー以外」
「おっきーにも言わないで」
本人の前でこの話思い出して、めちゃくちゃ挙動不審な態度とってバレそう。
《マーちゃんひどくない!?》
カルナさんは貧者の見識で読み取れちゃうから。
《あー…それは隠せる自信ない…》
「ま、目の保養ってやつっスよね。そのくらいだったらインドラ様も許してくれるんじゃないっスか?じゃないといろいろどうかと思うっス…」
「うん…それは私も思う」
「ほう…」
「…ッ!?」
「そりゃ思うはずっス!自分は綺麗な女性見て目の保養どころか手出しまくってる神様なんスから、マスターが目の保養に好みの男を見ることくらい許してやってもいいはずっスよ!」
「あ……ガネーシャ…さん…」
「まあ…否定はせん」
「でしょー?」
「が…神にそこまで物申すとは珍しいではないか、ガネーシャよ」
「………え?」
先程から会話に混ざっている、物凄く聞き覚えのある声…。
ぺらぺらと喋り続けていたガネーシャさんが、ようやく声の主に気づき、後ろをゆっくりと振り返る。
「イ、イ、インドラ様…ッ!?」
「今頃気づいたか」
私とガネーシャさんの背後に立ち、こちらをじっと見下ろしているインドラ様…。
私も、声が聞こえるまで気づかなかった…。
一体いつからいたのか…。
「私もいますよ?」
「あ…パールさん…」
「げっ…ママン!?」
「『げっ』とは何でしょうか?『げっ』とは」
「ひっ…!?」
インドラ様の後ろから顔を出したパールさんだったが、ガネーシャさんが思わず上げた悲鳴に対し、笑顔のまま重力…いや圧力をかけ始めた。
「おい、親子喧嘩ならば他所でやれ」
「喧嘩ではなく説経です」
「ならばよいが…このような狭き場所で三叉戟を振り回すなよ?」
「大丈夫です。加減はしますから」
「シヴァの槍で加減なぞ期待できるか」
それはインドラ様が言うことでもない気がするんですが…。
「と、言うわけで…その堕落した生活態度を悔い改めるまで、私の説経は終わりませんからね!?」
「ひぇ〜!助けてマスター!」
「お前はこっちだ」
「え…ちょっ…うわぁ!?」
インドラ様は私を片腕で抱き上げた。
そのままレクリエーションルームを立ち去る。
「ガネーシャさん助けて…」
「あっ!マスター!?」
「聞いてますか?ガネーシャ」
ガシャンッ
「ひっ!聞いてます!ちゃんと聞いてますから槍を床に叩きつけないでくださいっス!」
逃げ場のなくなったガネーシャさんは、おとなしく説経を受けることとなった。
そして私はインドラ様に連行されるのだった。
プシューッ
連れて来られたのは、インドラ様の部屋。
部屋の奥にある、明らかにキングサイズといえる広いベッドに降ろされた。
そして私の隣に腰を下ろすインドラ様。
「話は聞かせてもらった」
「…」
「神はお前の好みに掠ってすらいない…ガネーシャの言葉を借りるのならば、このような内容で間違いないな?」
「えっと…合ってるようなそうじゃないような…」
「何を取り繕う?要は、ヴァイカルタナや医神のような男がお前の好みだと言っておったではないか」
「…あくまでも、外見の好みの特徴に当てはまったのがその二人だったっていうだけです」
「ならば間違いではなかろう。見てくれで好みか否かを判断するのは、ある意味本能でもあるからな」
「…」
その二人に関してはLIKEの方の好きなんだけど…。
「故に…お前に問うとしよう」
「え?」
「お前は…一体神の何に焦がれた?」
「…ッ」
インドラ様を好きな理由…。
そうか…インドラ様には言ってなかったっけ。
「………」
ひとつ間を置いて、口を開く。
「…貴方に惹かれたのは、あの空の特異点です」
「…」
「でも最初に抱いた感想は『この方がアルジュナのお父さんなんだ…』といったものでした」
「えー?他にもっとあるんじゃない?」
「些か感想が少ないのでは?」
「お前たちは黙っていろ。簡潔ではあるが、まあ事実でもある」
そう、初めはあくまで『アルジュナのお父さん』という括りでしかなかった。
神様らしい神様だけど、いざ話してみると緊張感こそあれど、どこか親しみやすさも感じた。
例えるなら『友達のお父さん』だ。
友達の家に遊びに行った時、友達のお父さんと顔を合わせたときの、何とも言えない緊張感…。
だからその時は、そんなに意識していなかったんだと思う。
それが、ここまで焦がれることになったのは…
「貴方の…あの本気の姿を見たときからです」
「…」
そう。それは間違いない。
プライドを捨て、息子の前で宿敵に負けてたまるかとがむしゃらに戦い勝利にしがみついた、あの姿。
インドラ様自身が忌み嫌う姿ではあるけど、あの姿を見たから私は、この神様の人間臭さと不器用さも垣間見た。
ギャップというやつだろうな…。
常に完璧で余裕のある神々の王の姿と、泥臭く余裕のない圧倒的な強さの英雄神の姿…その二つの姿故に苦悩しているインドラ様を見てしまったから。
完全無欠の神様ではない…だからこそ惹かれてしまったんだと思う。
「だから…私の好みから外れてるとか…そういう問題じゃないんです」
「…」
好みのタイプじゃないから、なんて関係ない。
だって、好きになっちゃったんだから。
「…今の話を聞く限り、美点が何一つないのだが?」
「そんなことないよー」
「あのお姿に惹かれたマスターは、見る目をお持ちかと思われますが」
「神のあのような無様な姿を見ておきながら、一体何に惹かれるという!?」
「インドラさまの本当の強さを目にしちゃったんだから仕方ないんだよー」
「誰もが目を奪われる…そう表現しても過言ではないかと」
「目も向くであろうよ…あのように泥臭い姿を晒したのだからな」
「マスターはあのお姿を見て幻滅することはないのですから、心配しなくてもよいのでは?」
「そーそー。どんなインドラさまも受け入れてくれるってことなんだから自信持ちなよー。キシシッ」
「…黙らんか」
「ご命令とあらば黙りますが、先程からマスターの方を一切向かれないのは何故でしょう?」
「!?」
「…」
「今の全部マスターに言いたかったことでしょ?ならぼくたちじゃなくて、マスターに言わないと」
「余計なことを言うな!」
「…」
私の話が終わってから一切私の方を向かずに、いや向けずに耳を赤くしながらヴァジュラたちに文句言ってるのが、インドラ様の本音なんだろうな…。
〜おまけ〜
「カルナ貴様ぁ…ッ!」
「!?」
廊下を歩いていたカルナに、突如怒声と共に魔力を帯びた大量の矢が襲いかかる。
すぐさま槍を振るい、すべての矢を弾き落とす。
殺意があったわりには、精度が低かった。
恐らくオレの姿を見て怒り任せに矢を放っただけであろうな…。
そう推測したカルナは、尚も自分に弓を向けている男に向き直り言葉を放つ。
「何の真似だ、アルジュナ」
「黙れ…ッ」
「せめてシミュレーターへ行け。何があったか知らんが、相手にはなってやる」
「何があったか知らん…だと?」
「?」
カルナからすれば、何があったか知らん…が本音なのだが、怒りに燃えているアルジュナからすれば煽りにしか聞こえなかったようだ。
「ふざけるな…ッ!よりによって何故…何故貴様がマスターに優遇されている!?」
「マスターに優遇?何の話だ?」
アルジュナがここまで怒りに震えている理由…。
それは、カルナがマスターの好みのタイプだということを知ってしまったからだ。
アルジュナがどこでそれを知ったのか…。
〜昨日〜
『ん?何やら悲鳴のようなものが…』
『あれはただの雑談っスよ!大した話じゃないっスから!』
(ガネーシャ神がパールヴァティ女神に叱られていただけか…)
『え?いやあれは、マスターの好みってそういうタイプってだけっスよ』
(マスターの…好みの…タイプ!?)
『あのときママンもいたから聞こえてたっしょ?カルナさんやギリシャの医神みたいなタイプが好きだって』
(は…?カルナが?マスターの…タイプ…?)
『さっきインドラ様が連れてったから、もう誤解は解けてるはずっスよ。だって別に恋愛感情じゃないんスから問題ないじゃないスか』
(カルナが…マスターの…好みのタイプ……)
〜回想終わり〜
つまりガネーシャの声を盗み聞きしてしまい、怒りに燃えているというわけだ。
最後の『恋愛感情じゃない』という言葉も聞こえていたはずだが、どうあれ自分よりカルナが選ばれたことが納得いかない様子。
アスクレピオス?
普段から世話になっているので、弓を向けるようなことはできない。
だが、こいつは違う。こいつだけは…。
「…何やらオレがマスターから贔屓を受けていると思い込んでいるようだが、オレよりもインドラの方が十分優遇されている」
「ぅッ…インドラ神の話はするな…ッ!それに神相手ならば私が口出しをする権利はない!」
「実の息子ならば十分に権利はあるはずだが」
「黙れ!インドラ神に至っては仕方ない…だが貴様だけは許さん!」
一体何の話をしている?
いまだにアルジュナの意図が読めないカルナは、貧者の見識を発動させ、目の前の男を推し量る。
「!?」
予想外の結果に、一瞬呆気にとられてしまったカルナだが、すぐに目の前のアルジュナに言葉を返す。
「…話し合いでは埒が明かんようだな。シミュレーターへ向かえ。怒りでカルデアを破壊し、マスターに迷惑をかけることはお前も望まないはずだ」
「貴様…この状況でマスターの名を口にするか…いいだろう!ならばこの機に私の方が優れていると思い知らせてやる!」
そう言い残し、シミュレーターへと足早に向かうアルジュナ。
一方のカルナは自身の持つ端末で、アシュヴァッターマンとラーマに向けてメッセージを送った。
『シミュレーターが壊れる前に止めてほしい』と。
あの男を前にすると、やはり自分の中でも掻き立てられるものがある。
誰かに止めてもらう必要があるかもしれない。
「…行くとするか」
槍を握りしめ、シミュレーターへと向かうカルナなのであった。
END