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真に身に沁みる酒

Fate Grand Order インドラ&女夢主 — www.pixiv.net · All chapters

真に身に沁みる酒

「みんなありがとう。お疲れ様」

日課のカジノ荒らしが終わった私は、一緒に来てくれた新選組のメンバーに声をかける。

「いえいえ、もう沖田さんにとっても日課ですからね!何なら宝物庫周回にもついて行きますよ、マスター!」

「沖田ちゃんの出番はないでしょ」

「沖田君、無理はいけないよ」

「ぶー…」

二人に止められて不満げな沖田さん。

流石に宝物庫周回にはライダーたちを連れて行くことにしているので、本日の沖田さんの出番はここまでである。

「マスターちゃん、いつも頑張ってるみたいだけどさ…あんまり根を詰め過ぎないようにね」

「ありがとう、はじめちゃん」

林檎を齧り出した私に、はじめちゃんが声をかけてくれる。

最近はQPを稼ぐために、ほぼ毎日カジノ荒らしと宝物庫周回をしている。

なので林檎を食べたら、宝物庫のパーティーと合流するのだが、それが毎日続いていたせいか、どうやら心配をかけてしまっていたらしい。

そうは言っても、英霊たちの強化や私用の出費のためにQPが必要になってくるので、周回しないわけにはいかないのだが…。

「よし…行くか…」

最後の林檎を食べ終えた私は、修練場へと急ぐ。

「無理しないでよ…本当に」

はじめちゃんが呟いた声は、足早に遠ざかっていった私には聞こえなかった…。

〜宝物庫周回〜

「ふぅ…今日も今日とて、随分と汗をかいたな」

「ええ、お疲れ様です」

「ありがとうみんな…」

「うふふ、今日も大漁ですわね」

「よし、これで全部だね」

バーソロミュー、アンとメアリー、太公望がドロップしたQPを数えてくれている。

私もみんなに混ざり、集計していたのだが…。

「うっ…」

急に、こめかみの辺りに痛みが走った。

「マスター?」

「どうしました?」

近くにいたアンとメアリーが気づいてくれた。

「ごめん、何でもない。ちょっと疲れたのかな」

「まあ無理もない。いつものことながら、周回続きだったはずだ」

「この後はゆっくり休まれた方がいいですよ」

「うん、そうだね…」

バーソロミューや太公望からも心配されてしまったが、何とか今日集めた分は集計しおわった。

後は収納庫に入れるだけだ。

そう思い、後ろを振り返ろうとすると…。

「ん……あれ…」

目の前の景色がぐにゃりと歪んで見え出した。

そしてそのまま視界がぼやけたかと思うと…。

ドサッ

「マスター!?」

「どうされましたマスター!?」

気がつくと、すぐ目の前には床…。

そして誰かが私を呼ぶ声…。

「マスター!?しっかりして!」

「大変!急いで医務室へ!」

額に鈍い痛みを感じ始めたとき、私の意識はそこで途絶えた…。

「…ん」

「気がついたか」

目を覚ますと、そこには見覚えのある天井。

そして私の顔を覗き込むピオ先生。

「倒れたそうだが、記憶は?」

「…えっと、確かQPをしまおうとして…」

「太公望やバーソロミューたちが血相を変えて運び込んで来た。おまけに倒れた際に床に額を打ちつけたのだろう、額が僅かに切れて出血していた。3針縫う怪我だ」

「3針も…いたた」

眉の上辺りが妙にズキズキと痛むかと思えば、切れちゃったのか…。

「所謂過労というやつだ。当然、お前には心当たりがあるはずだが?」

「…はい」

ピオ先生に睨まれ、言い訳もできずに小さく返事をする。

ここ最近、明らかに周回をし過ぎていた。

それも、QPを稼ぐために何度も林檎を齧りながら。

プシューッ

「目は覚めたかしら?」

「あ…所長…」

医務室の扉が開き、オルガマリー所長がベッドに近づいてきた。

明らかに何か言いたげな険しい顔をしている…。

「すみません…ご心配をおかけしました」

「それはもういいわ。ただ、貴女に聞きたいことがあるの」

所長は手に持ったタブレットを見つめながら、私に質問する。

恐らく素材の在庫を管理している端末だ。

「ここ最近、QPを集めるために貴女が周回をし過ぎているって、サーヴァントたちから情報が回ってきたわ。彼らの強化に必要とはいえ、この量…明らかに集め過ぎよ。私用で使うなとは言わないけど、貴女…何に費やしているの?」

「それ…は…」

「しかも昨年の夏からのようね。カジノの周回と宝物庫をほぼ毎日」

「えっと…所長」

「何?」

「…怒らないで聞いてほしいんですが」

「ものによるわね」

「う…ですよね…」

「それで?何に使っているの?」

「はい…それは…」

恥ずかしいのか気まずいのか…。

いろんな感情がごっちゃになりながらも、所長にQPの使い所を白状する。

そしてそれを聞いた所長は…。

「嘘…でしょ?信じられない…」

顔をしかめながら頭を抱えてしまった…。

何ならそばにいたピオ先生ですら、呆れてものも言えない様子だ。

まあ…それもそのはず…。

「インドラ神へ捧げる良質な酒を買い漁っていたとか…誰が想像つくのよ…」

「…返す言葉もありません」

「信じられない…。これってあれよね?ムニエルがよく言ってる『推し活』ってやつよね?」

「いや、それは違う…のかな?」

貢ぎ物って考えたら、間違ってないかも…?

「金はよく考えて使うものだぞ、マスター。神への酒などにつぎ込んで、お前に何が返ってくる?」

「いや、その…見返りは別に…」

「だからよく考えて使えと言っている。僕が費やすとすれば医療器具や薬品くらいだが、それは医術の進歩のための投資というものだ。どうしてそこまで無駄金をつぎ込める?」

「うぅ…」

あれ?何でだろ?

無駄金じゃないと言いたいのに、真意を突いているピオ先生の言葉に反論ができない…。

プシューッ

「おい、あいつが倒れたと聞いたが」

「「あ…」」

「ちょうどいいところに来たな」

何で本当にちょうどいいときに来るんですか?

タイミングよすぎますよインドラ様…。

「…その傷」

「縫合をした。しばらくすれば抜糸できる」

「…顔に傷なぞ拵えおって」

「ご心配をおかけしました…」

「コホン…ちょうどいいところに来てくれました、インドラ神」

「何だ」

突然現れたインドラ様に少々固くなりながら、所長がインドラ様に、私が倒れた経緯を説明していく。

そして、それを聞いたインドラ様は…。

「………」

何かを考えている様子…。

「…医神」

「何だ」

「こいつが部屋に戻るのはいつになる?」

「必要な検査や処置は済ませた。もう部屋に戻しても構わない」

「そうか」

「わっ…!?」

それだけ言うと、私を抱き上げるインドラ様。

そしてそのまま医務室を出ていく…。

「…大丈夫かしら?」

「問題ない。言うべきことを言うだけだろう」

プシューッ

着いたのは、私の部屋。

ベッドの上に私を降ろし、自分も腰を下ろすインドラ様。

「何を言いたいのか、わかっているであろうが…」

「はい…」

威圧するような目と声で、私をじわじわと責め立てていく。

「神が何よりも苦行を嫌うということは、十分承知しているはずだ」

「はい…」

「にも関わらず、神への捧げ物のために、その脆弱な身を粉にして倒れるまで金を稼いでいただと?」

「…はい」

インドラ様の声がどんどん低くなり、それに伴い圧がかかっていく。

耐えきれず、私の顔も徐々に下を向いていく…。

「神への捧げ物を欠かさんとする、その姿勢は買ってやる。だがそれでお前が体を壊しては、神の立場がなくなるというものだ。お前は神に『瀕死の信者に捧げ物を要求し、挙句死なせた神』という汚名を着せるつもりか?」

「いえ…違います」

「ならば己の身の丈に合った捧げ物をせよ!お前が苦行を経て捧げた酒を、神が気分よく飲み干せるとでも思っておるのか!?」

「…いいえ」

「わかったのなら、まず己が身を案じろ。神への捧げ物を考えるのはそれからだ。擦り切れた身で神の御前に現れるな。神にとっては不敬に等しいことであるぞ」

「そーそー。インドラさまと謁見するなら身嗜みはしっかりしないとね」

「その優れない顔色も、好ましくありません」

「ましてや顔に傷を拵えおって…」

「…はい、すみませんでした」

本当に、心配をかけてしまった。

インドラ様が怒っているのは、自分の威権に関わるからでもあるけど、それでも半分以上は私の身を案じてくれているからだ。

「幸福に満ちた人間からの捧げ物ほど身に沁みる酒はないというのに…。お前は常に余裕を持つことを忘れるな。それこそ、神のようにだ」

「…はい」

幸福に満ちた人間…。

それはきっと、幸福な笑顔を浮かべた人間のことなんだろうな。

『擦り切れた姿を見せるな』と言いながら、インドラ様自ら私を医務室に迎えに来てくれたし…。

「とはいえ…お前の意を無下にする気はない。お前が買い込んだという良質な酒を献上せよ。もちろん…その傷が治ってからだ」

「…わかりました」

ただ酒が飲みたいだけなんじゃ?って思うときもあるけど、この神様はやっぱり人間が好きなのかもしれない。

〜おまけ〜

英霊たちの連絡網により、マスターが倒れたと聞いたアルジュナ。

おまけに倒れた理由が、インドラに捧げる酒を買うためにQPを稼ごうとして無理を続けた結果だということまで聞いてしまった…。

マスター…父が申し訳ございません…。

胃を押さえて項垂れるアルジュナ。

「もしもーし?大丈夫?」

「!」

不意に聞こえてきた声に顔を上げると、そこにいたのは斎藤一だった。

「何か胃を痛めてるみたいだけど…」

「ああ、いえ…何でもありません」

「そう?ならいいけど、あんまり身内のことで思い詰めないようにね?」

「それは…」

どうやらこの男には、こちらの事情を見抜かれているようだった。

洞察力…はたまた苦労人の勘なのか…。

「この前、マスターちゃんが倒れたでしょ?」

「はい…」

「だから僕たちでさ、再発防止のために目を光らせることにしたのよ」

「再発防止…ですか?」

「そう。QPのドロップ率を上げる礼装を持てるだけ持って行って、カジノへ行く日は宝物庫には行かせない。逆に宝物庫に行くなら、ストームポッドを使い切らせてカジノには行かせない。あとは山南さんと僕でQPの経理を引き受けて、大きな出費がないかチェックする…ってとこかな?」

「なるほど…」

確かに、サーヴァントの自分たちにもできることはたくさんある。

ならば自分も何かできることはないだろうか?と考えるアルジュナ。

「まあ贅沢言うなら、帝釈天様に酒を控えてもらえれば大助かりなんだけど、流石に神様相手じゃ言いづらくてね」

「はい…父が申し訳ありません…」

「ああ、いいのいいの。できることをやれば少しずつでも効果は出てくるはずだからさ」

そうは言うが、マスターが良い酒を買おうと動いたのは、少なからずインドラから酒を求められたからでもある。

責任を感じるな、と言われても難しい…。

「あ…」

「ん?どうかした?」

「でしたら父には、なるべく私から酒を献上するようにしてみます」

「それは…確かに助かるけど、君にかなり負担がかからない?」

「私は実の息子ですから、マスターのためにも何かしら動かなければなりません。私の負担ならばご心配なく…もしもの時はビーマ兄様にも協力を仰ぐつもりです」

「なるほどね。確かに実の息子からの酒なら嬉しいことこの上ないだろうし、厨房組を巻き込めるのも心強いねぇ」

「私にできることは、この程度ではありますが…」

「何言ってんの…マスターちゃんの負担を減らすには十分でしょ」

「ならいいのですが…。ではクエストやQPの管理については、どうかよろしくお願いします」

「ああ…任せろ」

先程までへらへらとした、掴みどころのなかった斎藤の表情と口調が、急に真剣なものに変わった。

思わず身が引き締まるアルジュナ。

「…んじゃ、そちらは頼みましたよ」

そう言うと、いつもの調子でひらひらと手を振って去っていく斎藤。

そしてその場に残されたアルジュナ。

マスターのために、私も動かねば…。

踵を返し、まずはビーマに相談するために食堂へと向かうのだった。

END