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あくまでお前は…

Fate Grand Order インドラ&女夢主 — www.pixiv.net · All chapters

あくまでお前は…

「邪魔するぞ」

「あ、インドラ様」

レイシフトへ向けて魔術礼装を着替えていると、部屋にインドラ様が入ってきた。

「ん?それは新しい礼装か?」

「これですか?以前からありましたけど、インドラ様が見るのは初めてでしたかね?」

着替えた礼装は、ロイヤルブランド。

黒で統一されたスーツの礼装だ。

ネクタイを締め終えた私は、上着を羽織ってボタンを留める。

クイック支援の礼装ではあるけど、思い起こせばインドラ様がアタッカーを務めるパーティーでは着たことがなかった。

NPチャージやHP回復のスキルが使える礼装でないと、NP不足で3ターン周回ができないから。

「まるで男の服装だな」

「そうですね。このスーツは男性用ですから」

「…何だと?」

「え?」

あれ、どうしたんだろう?

なんかインドラ様が顔を顰めてるけど…。

「何故男の服装をする必要がある」

「え…いや、そういう魔術礼装ですから」

「先程の口ぶりから察するに、その服…女物もあるのではないか?」

「確かに女性用のスーツも存在します。ネクタイがなくて、スラックスかスカートかを選べます」

「ならば何故それを作らせん」

「女性用のスーツだと、動きづらいんですよ」

スーツのスカートは、所謂タイトスカートになるから、動きにくいことこの上ない。

おまけに、女性用スーツの礼装を作ってもらうとすると、バランスを取るために、確実に靴がパンプスになりかねない。

女性英霊たちはともかく、私は脱げやすくて歩きづらいパンプスを履いて特異点探索をしたいとは思えない。

少しヒールのついたブーツなら慣れたんだけどね。

「…お前は女であろう。少しは華のある服を着ろ」

「そう言われましても…」

「『調査において華など必要ない』とでも言うつもりか?」

「…と言うより、私はこの礼装好きなんですけどね」

「…何故だ?」

「私の性に合ってますから」

「性に合っている?」

「確かに私は女ではありますが、上品なドレスを着ておとなしく座っているのは性に合わないんです」

正直、おしとやかにしている自分なんて、とてもじゃないが想像できない。

そう振る舞えって言われたら努力はするけど、姫か騎士を選べと言われたら、迷わず騎士を選ぶのが私だ。

「はぁ…まったく…この神のそばに置く女が、こうも無骨で無鉄砲な女とは」

「…今お気づきになったんですか?」

「勘違いするな。最初から、そういう人間だということの認識はしていた」

それは本当だろうな。

そういう『女』だとは思わなかったかもしれないけどね。

「ならば仕方ない…」

「?」

「寄れ」

「え?はい」

さほど離れてはいないが、言われた通りインドラ様に近づく私。

「これを持て」

「え?これは…」

近づいた私の目の前で、手の上に何かを顕現させたインドラ様。

「薔薇の…ブローチ?」

それは黒い薔薇の花と緑の葉がついた、ブローチだった。

薔薇の花に朝露なのか雨粒なのか、数滴程の透明な雫がついていてとても綺麗だった。

手を伸ばして、ブローチを受け取る。

「その礼装はあまりにも地味過ぎる。せめて花の飾りくらいはあってもよかろう。上着の胸元につけておけ」

「あ…ありがとうございます」

私はブローチを、左胸につけてみる。

真っ黒なスーツに、真っ黒な薔薇のブローチにはなったけど、薔薇の花がひとつついただけで、ちょっとオシャレにはなったかもしれない。

プシューッ

「マスター!準備ができましたよー!」

今回のレイシフトメンバーである、フローラが部屋にやってきた。

「あ、今行く!ではインドラ様…素材集めに行ってきます」

インドラ様に頭を下げ、フローラとともに管制室に急ぐ。

「……言い忘れたが…まあ、よいか」

マスターが去った後、ポツリと独り言を呟いたインドラであったが、すぐにベッドに腰を下ろし、くつろぎ出した…。

〜レイシフト先〜

「よし、着いたね」

レイシフトしたのは、東京。

今日はここで終の花を集める予定だ。

「あら?」

制服の霊衣に着替えたパールさん。

だが、何やら空を見上げている。

「どうしました?パールさん」

「今、ポツッときたような…」

「む?雨か?」

私服姿の水着スカディ様も、空を見上げる。

ポツッ

ポツッ

サアァァァ…

「わ、降ってきました!」

「え?」

「まずいですね…私たちはまだいいとして、マスターさんが濡れてしまいます」

「ひとまずはルーンで……おや?」

ルーンを使おうとしたスカディ様が手を止め、私を見つめる。

「マスター?お主何故濡れておらぬ?」

「え?あ、本当ですね」

「マスターのまわりに、何やら防御壁のようなものが見えますが、一体…」

「???」

小雨…と言うにはかなり本格的に降り出した雨。

にも関わらず、何故か私の体は雨に一切濡れていないのだ。

雨が当たらないように、何かでガードされているような…。

「あら、マスター。よく見れば、素敵なブローチをしていますね。それもインドラ様からの贈り物ですか?」

「え?あ、うん…」

フローラに胸につけたブローチを指摘され、どこか気恥ずかしい。

「まあ!インドラからですか!」

インドラ様からの贈り物と聞き、パールさんまで目を輝かせている…。

「…」

「スカディ様?」

何やら訝しげな表情をしたスカディ様が、私に近づいて胸元をじっと見つめ出した。

「あら、もしや…」

「ああ、間違いない」

「え?何か…あるんですか?」

フローラとスカディ様が、何かに気づいた様子。

「あ!もしかして、インドラが…?」

「はい。そのようですね」

「ふふ」

パールさんまで気づいた様子。

インドラ様…って言ってたよな?

もしかして、このブローチって…。

「聞け、マスターよ」

「は、はい?」

「その薔薇をモチーフとしたブローチには、インドの雷霆神の加護がついておる」

「雨を凌ぐ加護…とかですか?」

「正確には雨風を凌ぐ加護だな。お主…雨に濡れんどころか、風にも吹かれていないであろう?」

「え?風吹いてるんですか?」

よく見ると、フローラやパールさんの髪がふわふわと揺れている。

どうやら雨だけでなく、風まで吹いているらしいのだが、今の私には一切の風を感じない。

「もしや…レイシフト先で雨が降ることを予見していたのでしょうか?」

「インドラ様は雷雨の神様ですし…きっと、マスターが雨風に打たれて風邪を引かないようにと、それをお渡しになったのではないでしょうか?」

「なかなか良いものを贈るではないか」

「…」

いや、この礼装に華がないからって理由でもらっただけなんだけど…。

「えー!気になります!一体どういった経緯でインドラからもらったんですか?」

「ふふ、恋バナというやつか?私に縁はないが、他人の恋バナを聞く分には、楽しみではあるな」

「いやいや、お二方!そんな大したやりとりじゃないですし、あといくらサーヴァントの体でも濡れたら寒いでしょうから、どこかで雨宿りを…」

「なに、心配するな。ルーンで弾く」

ルーンって便利だなぁ…。

「まあ、どのみちこの雨で素材集めは厳しいですからね。周囲を警戒しつつ、雨が止むまで待つ方が吉かと」

「というわけで…だ、マスター」

「インドラとの惚気話、たっぷり聞かせてもらいますからねー?」

目の前に惚気話を迫る女神様✕3…。

これは…もう逃げ場がない…。

私は三柱の女神様たちから質問攻めに遭い、雨が止んでも素材集めのことなど、すっかり忘れてしまっていた。

インドラ様…。

前にもこんなことがあった気がしますが…。

今回は逃げ場が一切ないので…

どうか…お許し下さい…。

〜おまけ〜

「あ、インドラ様」

「ん?花の女神か」

廊下を歩いていたフローラは、向かい側から歩いてくるインドラに声をかけた。

「マスターの薔薇のブローチ…あれはインドラ様自らお作りになったもののようですね」

「確かにそうだが…何かあるのか?」

「素敵な贈り物です!雨風を凌げたおかげで、マスターが風邪を引くことは免れましたから!」

「当然だ…雨風だぞ。神が操れんはずがあるまい。まあ、風に至っては本来の管轄の神がいるのだが…」

「ええ。ただ…だからこそお聞きしたいのです」

「何をだ」

フローラは意を決して、インドラに質問する。

「何故『黒い薔薇』をモチーフにしたのですか?」

「…何故、不吉な花言葉を持つ花を使ったのか…と言いたいわけか?」

「いえ、そうじゃありません」

「…何が言いたい」

「確かに黒い薔薇の花言葉には、ネガティブな意味のものが有名ではあります。『恨み』『憎しみ』といったものがありますから」

「…」

「でも黒い薔薇には、ポジティブな意味の花言葉も存在します。存在…するのですが、それは『あくまであなたは私のもの』『決して滅びることのない愛』『永遠の愛』といったものです」

「…」

「インドラ様が、マスターに対して恨みや憎しみを抱えているはずがありません。黒い薔薇を選んだのは、後者の花言葉を込めたからですよね?」

インドラは黙ったまま話に耳を傾けていたが、フローラの問いかけに対し、ようやく口を開く。

「何故そう言い切れる?あいつとて人間…神の気に入らんことをしでかす可能性もある。決めつけるのは早計というものだぞ、花の女神よ」

「うふふ。そうでしょうか?贈り物に加護をつけたのは、マスターを護るためでしょう?」

「…ッ」

「前にマスターに贈ったイヤリング…あれにも魔性殺しの加護がついていましたよね?マスターが寝る前に身に着けている、指輪にも」

「…ッ!?あいつ、そこまで話したのか…」

「あ、マスターには怒らないであげてくださいね?私とパールヴァティ様とスカディ様が、質問攻めにしたからなんです」

「………」

これだから女神どもは…。

三柱の女神たちに質問攻めにされたマスターに、ほんの少し同情するインドラ。

「インドラ様は…もうマスターが他の神を信仰することは、お許しにならないようですね」

「当然だ。そうなった暁には実力行使に出る。あいつにも、それは言って聞かせている」

「でも、人間との関わりは制限しないんですね」

「あいつとて人間だ。人間同士で親しくなるのは自然なことであろう」

「なるほど。では…」

「マスターが人間の男性を愛し、結婚することになった場合はどうなさるおつもりですか?」

「…」

核心をついた質問にも、インドラは顔色ひとつ変えずに答える。

「先程言ったであろう?あいつが人間と親しくなるのは、道理というものであると。ならば神はいちいち目くじらを立てはせん」

「じゃあ人間が相手なら、マスターが別の男性と結ばれても構わないということですか?」

「今そう言ったであろう。神は許さんがな」

「いいのですか?仮にも愛する女性なのに」

「だからこそ、アレを贈ったまでだ」

「…ブローチのことですか?」

「黒い薔薇にしたのも、そのためだ」

フローラの横を通り過ぎる際に呟いたのは、愛の重さ故…それでもどこかマスターを信じているような言葉だった…。

「『あくまでお前は神のもの』とな」

END