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心をくるんだ葉っぱ

Fate Grand Order インドラ&女夢主 — www.pixiv.net · All chapters

心をくるんだ葉っぱ

「すまないな、マスター。君も忙しいだろうに、手伝わせてしまって」

「気にしないで、エミヤ」

厨房にて…私はエミヤとともに、ひたすら手を動かす作業に明け暮れていた。

その作業というのが…。

「何年ぶりだろうなぁ…」

「まさか柏餅はともかく、君がちまきの葉を巻けるとはな。経験があって助かった」

「随分前だけどね、教わったことがあったんだ」

そう、今は5月。

端午の節句の時季が近いということで、柏餅に柏の葉を巻き、ちまきに笹の葉を巻く…という作業を繰り返している。

それも、大量に…。

「他の厨房組では国が違うからな。タマモキャットは工程を知っていたようだが、彼女の手では餅に毛がついてしまう。だが、流石にこの量をひとりで捌くのは骨が折れるものでな」

「大丈夫、だから手伝いを申し出たんだよ」

「桜餅のときもそうだったが…大食い連中には本当に手を焼かされる」

「何なら厨房組にも、大食いメンツがいるしね」

「やれやれ…料理をする者としては、美味そうに食べてもらえるのはありがたいことなんだが」

やれやれ…とは言うが、その顔がどことなく嬉しそうなのは、私の見間違いのはずがない。

本当に好きでやってるんだなぁ…。

「そういえば、ちまきを食べるのは関西圏だけなのだが、もしやマスターも?」

「あ、それは秘密ね」

「おや、そうか…なら仕方ない。だが、柏餅もちまきも端午の節句で欠かせない食べ物だからな。どちらかだけ作るというのは、流石に不公平と言うものだろう。日本の英霊たちは、出身地がバラバラだろうからな」

「そうだね、せっかくなら両方あった方がいいだろうしね」

「まあ、如何せんこの量だ…手間ではあるがな」

そういえば、エミヤは知っているのだろうか?

柏餅が何故、柏の葉を餅に巻くのか…。

雑談の流れで、聞いてみることにした。

「ああ、子孫繁栄を願ったからだと言われている」

「子孫繁栄?柏の葉が?」

「柏の葉は、新芽が出るまで古い葉が落ちない植物なんだ。新しい命が生まれてから、世代交代する…つまり跡継ぎが途絶えないと捉えることもできる。だから先人たちは、子どもの誕生や成長を祝う端午の節句に、餅を柏の葉でくるんだとされているんだ」

「へえ…跡継ぎが途絶えない、か」

「昔は、家の名を残すことが何よりも大切にされてきたからな。そう願掛けするのは、自分が生きた証を残しつつ、次の世代へ繋ぐための大切な儀式だったのだろう」

「ちまきも、そういうルーツなの?」

「ちまきは、邪気を払う厄除けの意味合いだ」

「厄除けか…桃の節句もそうだったけど、端午の節句でも同じような願いを込めたんだね」

「それは当然だろうな。子どもの成長を願っているのは、いつの時代も変わらないのだから」

「うん、そうだね」

やっぱり知っていましたか…。

もうこの人、生前に和菓子職人の経験があるんじゃないのかな?

「こちらにいましたか」

「何やってんのー?」

「あれ、ヴァジュラ」

ふと聞こえてきた声に顔を上げると、ヴァジュラたちが宙に浮きながらこちらを見下ろしていた。

「何やら大量に作っていますが」

「これ、餅ってやつだよねー?前に食べた桜餅みたいなやつー?」

「ああ、そうだ。だが桜餅のように、葉を食べることはできないがな」

「皿代わりとして乗せるのならわかりますが、食べられないのに葉にくるむのですか?」

「意味なくなーい?」

「いいや?大事な意味があるさ」

ヴァジュラたちの質問に対して、エミヤの和菓子講座(2回目)が始まる…。

「なるほど。子孫繁栄に厄払いですか」

「人間って好きだよねー。願掛けってやつ」

「それはそうだとも。願掛けは神頼みとも言えるからな」

「神頼み…確かに、子どもの成長を神に願ってはいますね」

「そのための食べ物かー。インドラさまも喜びそうだねー」

まあ…甘い物好きなら、食べるだろうな。

この前食べた桜餅も、気に入ったみたいだし。

「ああ、よかったらこの柏餅とちまき…少し持って行くといい。マスターや君たちの分もな」

「え?私もいいの?」

「手伝ってくれたのだから、当然だろう?おかげさまで、後は私だけでも何とかなりそうだ。ずっと作業をしていて疲れただろう?ゆっくり休むといい」

そう言うと、大きめのお皿に柏餅とちまきを盛りつけて、お盆に乗せてくれたエミヤ。

「ありがとう。じゃあ、いただいていきます」

「こちらこそだ。ありがとな、マスター」

エミヤからのお礼を受けて、お盆を受け取り厨房を出る。

「くんくん…何か葉っぱの匂いに混じって、甘い匂いもしてるねー」

「蒸したお餅と、餡子の匂いだね。あ、そういえばインドラ様はどこにいるの?」

「貴女のお部屋です。では参りましょう」

「わかった、行こう」

そうしてヴァジュラたちとともに、雑談をしながらマイルームを目指して歩いていく。

プシューッ

「ただいま戻りました、インドラ様」

「…ん?その手に持っているものは何だ?」

「柏餅とちまきというものです」

「餅を葉っぱでくるんだ甘味なんだってー」

部屋に戻った私とヴァジュラたちは、お盆をテーブルに置いて、お茶を淹れる支度をする。

「以前召し上がった、桜餅と似たような餡子が入ったお菓子です。お茶は要りますか?」

「いや、酒でよい」

「わかりました」

自分とヴァジュラたちの分だけ、カップを用意していると、皿に盛られた柏餅とちまきを、じっと見つめているインドラ様。

「これは…食えるものなのか?随分と固い葉に覆われているように見えるが」

「葉は食べられません。中に味付けしたお餅が入っているんです」

「以前食ったものは葉ごと食えたものだが、何故わざわざ食えん葉でくるむ必要がある?」

どうやら桜餅のことを言っているらしい。

確かに、桜餅を食べた後なら妥当な疑問だ。

「それはですね…」

私は先程エミヤから聞いたばかりの由来を、インドラ様に話した。

「…相も変わらず、願掛けが好きな民族だな」

「願掛け自体は、日本以外でもありますよ?」

「それは認識している。その上で、だ。植物の成り立ちひとつで、よくもまあ…そのような発想ができるものだ」

「子孫繁栄は…人間からしたら、生きた証になりますからね」

「ま、神は特に否定はせん。命あるものならば、ごく自然な願いだからな」

だよね…。

次の世代へ繋げていくことを、忌まわしいと思うはずないよね…。

だってこの神様、短い生でも精一杯生きてほしいっていう想いが根本にありそうだから。

「お湯が沸いたようです」

「茶葉はここねー」

「あ、ありがとうヴァジュラ」

3人分のお茶を淹れて、テーブルに運ぶ。

「この葉…色が違うようだが」

「あ、それはエミヤが中の餡子の違いがわかりやすいように、違う色の葉を使ったんです。緑の葉はこし餡で、茶色の葉は粒餡です」

「このちまきには何が入っているのですか?」

「ちまきは何も入ってないよ。少し甘みをつけたお餅が入ってるだけだから、素朴な味なんだよ。エミヤがアルミカップに餡子を詰めてくれたから、つけて食べても大丈夫だよ」

そう、あの職人…じゃない弓兵は、実はそんなところまで気を利かせていて…。

アルミカップに粒餡とこし餡、両方を詰めたものが添えてあったことに、つい先程気づいた。

やはりあの人、生前に職人に弟子入りした経験があるのでは?

「これはどうやって食べるのですか?」

「ここを引っ張れば解けるよ」

ちまきを解くのに、苦戦しているヴァジュラ。

ちまきは、ものによるかもしれないけど、意外としっかり縛られている。

でも覚えてしまえば、解くのは簡単だ。

「出てきました。白い餅ですね」

「インドラさまー!食べれるよー!」

「…ならば、食ってみるか」

ヴァジュラが葉っぱを剥いて、一口大にカットした柏餅を、楊枝を使って口に運ぶインドラ様。

桜餅はそのまま食べてたけど、流石に柏餅はそのまま食べるには大きかったらしい。

食べ方に品を感じる…。

神々の王モードだからかな?

「…なるほど。味を引き立てる塩味はないが、甘味としてはこんなところであろう」

味を引き立てる塩味というのは、以前食べた桜餅と比較しているらしい。

一見満足してなさそうに聞こえるが、どうやら合格ラインではある様子。

その証拠に、すでにもう一切れの柏餅に楊枝を刺し始めているインドラ様…。

「ん!甘ーい!」

「ちまきも美味しいです。餡子がなくても食べられますね」

「えー?どれどれ?もむもむ……うーん、ちょっと味気ないかも?ぼくは餡子つけよーっと」

「お茶で口直しすれば、食べられる」

「いいのー」

ヴァジュラたちも、柏餅やちまきを食べている。

どうやら、味には満足してもらえた様子。

私も柏餅に手を伸ばし、葉っぱを剥いていく。

「どのみち剥いて食うというのに、わざわざ葉を巻くことは疑問ではあったが」

「?」

ふとインドラ様が呟く。

「そこまで不思議な話でもないようだな」

「…というと?」

「餅を葉でくるむのは、願いを込めるため…と言ったな?」

「はい」

「ならば納得できる。甘味でなくとも、葉というものは常日頃からそのように使うものなのだろう」

「常日頃から?」

「何だ?お前にしては察しが悪いではないか」

「…使う、とはどのように?」

「…決まっている」

酒を一口飲み、再び口を開くインドラ様。

「『言葉』だ」

「え?」

「言の葉…と言うであろう。感情や心…想いを紡ぎ出すためには、言の葉という葉を使うものだ」

「!」

「感情というものは、剥き出しのままでは脆い。そのままでは伝わらず終いになる。だからこそ、それをくるむ葉が必要となる。しかし時に、切れ味の鋭い葉でくるまれた感情を投げつける者もいる。それを食らった者は…どうなるかわかるか?」

「…傷つきます」

「そうだ。その鋭い葉が、絡み合った糸を断ち切るかの如く作用するのならよい。だがそれは加減次第だ。加減を誤ればいとも容易く傷をつけるほど、鋭いものだ。それを理解せず、軽々しく投げつける者は多い。だからこそ、お前たちの間でも語り継がれるのであろう?『言葉はよく選んで使え』とな」

「…確かに、そうですね」

「お前ならば、容易く答えると思ったのだがな」

「え…」

インドラ様…私に期待し過ぎですよ…。

あと、インドラ様がそんなこと言うの、何か珍しいなって思っちゃったんだよ。

「お前たちは、願掛けやら験担ぎやら…そういったものを好む民族であるからな。ならばと思い、ひとつ話を聞かせてやったまでだが…どうやらお前には響かんらしい」

「えっ?いやいや、響きましたよ!?さっきのお話物凄く腑に落ちましたよ!?」

「…」

ん?あの…インドラ様?

今…何というか…妙に…。

もしや私の焦った反応見て楽しんでたり…?

「そのわりに、反応が薄かったではないか。まあ…致し方なしというものか」

「いや、あれは咄嗟の反応ができなかっただけですから!」

「…」

あ!そのちょっと澄ました顔…。

何か含みのある緩んだ表情…。

やっぱりちょっとからかって楽しんでるな!?

「………」

目の前の神様にからかわれて、すっかり不貞腐れてしまった私は、柏餅を無言で食べる。

「ん?何だ?もう不貞腐れたか?少々からかっただけであろう?」

「…知りません」

不貞腐れた感情の勢いで柏餅を飲み込み、ちまきの帯を解き、中身をもぐもぐと咀嚼する。

「そう拗ねるな。単なる戯れだ」

「わかっています」

ジトッとした目つきのまま、柏餅やちまきを食べている私に、ついに本気のため息をつくインドラ様。

「些か遊び過ぎたか?いい加減機嫌を直さんか」

「機嫌が悪いわけじゃありません。前触れもなくからかわれて納得いかないだけです」

「本気にするでない。単なる戯れだ」

「本気にはしてません」

「ならば機嫌を直せ」

「今直してるところです」

「ああ言えばこう言う…童の我が儘と変わらんぞ」

「インドラ様から見れば、私は子どもです」

「童女に手を出した覚えはない」

「またやってますね」

「ほっとけば治まるでしょ」

「あれで罵倒の言葉が一切出てこないのが、逆に不思議なものです」

「キシシッ…そりゃそうでしょー。だってマスター、本心を淡々と並べてるだけだもん」

「却ってインドラさまを困惑させているのが、何とも言えませんね」

「あんなの戯れだから大丈夫だよー。あ、これ味噌餡だ!甘じょっぱくて美味しー!」

「それ、ぼくにも」

インドラとマスターのわりと平和な言い争いを完全に放置して、甘味を頬張り続けるヴァジュラたちであった…。

END