想いは誰のもの?
想いは誰のもの?
「あ、マスター来て来て!」
「どうしたの?リリス」
「これこれ!マスターに似合うんじゃない?」
シミュレーターにて…アクセサリーショップを見て回っていると、一緒に来ていたリリスが離れたところから私を呼ぶ。
そもそも、何故リリスとアクセサリーショップにいるのかというと…。
〜回想〜
『ねえ、ちょっとマスター!』
『リリス?どうかした?』
『マスターってば、最近アテシに対して全然時間割いてくれなくない!?キリエライトとはお茶したりしてるくせにー!』
『いやぁ…リリスって一応悪魔じゃん?その…あんまり魔性特性の英霊と一緒にいると、インドラ様に怒られるからさ』
『一応じゃなくても悪魔なんですけど!?てかそんな理由で構ってくれないなんてひどくない!?悪魔差別!?』
『リリスさぁ…インドラ様がどんな神様か知ってるでしょ?なら、悪魔に対して何を思うのかくらいわかるでしょ?』
『ぐぬぬ…これだから魔性殺しってやつはぁ…』
『まあ私も…たまにはリリスと、どこかに遊びには行きたいけどさ…』
『えっ!?』
『ただ…黙って出かけてもどうせバレるし…』
『じゃあさ!直談判しよ!あの神様に!』
『えっ!?いや、そんなことしたらリリスが消し炭にされるかも…』
『マスターも一緒に行くに決まってんじゃん!ほらほら、あの神様のとこ行くよー?』
『ちょっとリリス!?引っ張らないでって!』
…
…
『許す』
『あ、許すんですか!?』
『やったー!許可下りたー!』
『ただし、そいつに妙なことはするなよ?』
『もー神様ってば…アテシが大好きなマスターに危害加えるわけないでしょ?』
『ま、あまり懸念はしておらんがな。だが、貴様は人を殺す魔性ではある。神の立場としては、そう野放しにもできん』
『ま、そりゃ仕方ないよねー。マスターがそんなに心配ならさ、見張ってくれててもいいよー?アテシは本当にマスターと遊びに行きたいだけだし』
『…よかろう。ならばヴァジュラたちに見張らせるとする。何か妙なことをすれば、即神罰を落とす。そのことは、努々忘れんことだ』
『はーい!ってなわけで、神様から許可下りたから行くよー?』
『はいはい…』
〜回想終わり〜
というわけで…。
インドラ様が何故か許可をくれたので、こうしてシミュレーターで買い物をしているのだ。
リリスなら、本当に何もしないと思ったからなんだろうか?
「ちょっとマスター!早く来てって!」
「はいはい。で、どれが私に似合いそうなの?」
「ほら、これだよこれ」
「ん?これって…」
リリスが指さしたもの。
それは、藤の花がついた簪だった。
たくさんの紫色の花が、簪から垂れ下がるように咲き乱れている、とても綺麗なものだった。
「この紫の花、確かマスターの国の花でしょ?桜の方が有名かもしれないけどさ、この大人っぽい紫もいいと思うんだよねー」
「藤の花だね。確かに桜もそうだけど、藤の花も好きな人はたくさんいるよ」
「でしょ?ならさ、これ買っちゃいなよマスター」
「でも私、簪の使い方わからないしなぁ…」
「えー?でも、ちゃんとした使い方しなくても、こうするだけでも可愛いと思うよ?」
そう言うとリリスは、簪を私の耳に引っ掛けるようにして、髪に差す。
シャラッ…と耳元で飾りが揺れる音がする。
「うん、やっぱり似合う」
私を見たリリスが、優しく微笑む。
「…そう?」
「うん、似合うよー?それにさ、髪に差さなくてもデスクに飾ったりしておけるんじゃない?」
「デスク…確かに飾れるかも」
「なら決まり!じゃあ一旦アテシに貸してねー」
「えっ?まさかリリスが払うつもりじゃ…」
「あったりまえでしょー?これは、アテシからマスターへのプレゼントなんだから」
「プレゼントって…」
「今日アテシに時間作ってくれたから。ね?」
「…うん。ありがとう」
「…ありがとうはアテシの方だよ」
簪を手に、レジへと向かうリリス。
帰ったら、すぐデスクに飾ろう…。
「お待たせー!はい、じゃあこれはマスターに」
ご丁寧に綺麗にラッピングされた簪を、リリスから受け取る。
「ありがとう、リリス」
「どういたしまして」
「リリスは何も買わないの?」
「んー?アテシはほしいものは特にないよー?強いて言うなら…マスターとの時間とか?」
「…そっか」
「んじゃ、帰ろっか。あんまり長居したら、あの神様から文句言われそうだしさ!」
「…うん。帰ろう」
私に簪を買ってくれただけなのに、どこかご機嫌な様子のリリス。
心の中でリリスにもう一度お礼を言い、シミュレーターを出た。
プシューッ
「ん?戻ったか」
「あ…いらっしゃってたんですね」
先程自室にいたインドラ様が、マイルームのベッドでくつろいでいる。
私がリリスと何をしていたかは、ヴァジュラたちが霊体化して監視していたから、全部知っているはずだけど…。
「それは、あの女悪魔からの贈り物か」
「はい」
私はインドラ様の前でラッピングを解いて、簪を取り出す。
「髪飾りか」
「…上手につける自信がないので、ここに飾るつもりではありますけど」
デスクの上のペン立てから、ペンをすべて取り出して、引き出しにしまう。
そしてそこに、簪を立てて飾る。
レジンで作られた紫の花が、シャラシャラ…と音を立てて揺れる。
「その花…」
「ああ、藤の花です」
「…」
「インドラ様?」
インドラ様は、飾った簪をじっと見つめる。
「お前は…」
「はい?」
「その花の花言葉を知っているのか?」
「えっ…花言葉?」
藤の花の花言葉…。
「すみません、存じ上げません…」
「そうか…」
「インドラ様は、ご存じなんですか?」
「当然だ」
インドラ様…何故か花言葉に詳しいよな…。
いつ調べたんだろうか…。
「ちなみに…教えていただくことはできますか?」
「…知りたいか?」
「まあ…はい」
「ほう…」
「?」
一旦目を伏せたかと思えば、意味深な笑みを浮かべるインドラ様。
「まあ…お前が知りたいのならば、仕方ない」
「え…」
「よかろう。教えてやる」
そう言うとインドラ様は、私に目配せをする。
あ、隣に来いってことですね…。
ベッドに近づき、インドラ様の隣に腰を下ろす。
私が来たのを合図に、インドラ様が口を開いた。
「藤の花言葉は主に『優しさ』『歓迎』『忠実』ではあるが…紫の藤には他にも『気品』や『知性』といったものもある」
「素敵な花言葉ですね」
「そして…」
「!」
隣に座る私に顔を近づけ、顎を掬うインドラ様。
「『君の愛に酔う』だ」
「!?…んっ…ッ…」
そう言った直後、唇を塞がれる。
唇を這う舌が口の中に侵入し、舌と絡み合う…。
「…っ…はぁ…ッ…」
そして、そっと唇が離される…。
「知りたい…と言ったのはお前の方だ」
「…ッ!!」
私の体を抱き寄せて、耳元で囁くインドラ様。
そのまま体を、ベッドに沈められる…。
「神の愛に酔うまで、じっくりと教えてやる」
片手で前髪をかき上げ、妖艶な笑みで私を見下ろすインドラ様。
貴方の愛に酔う?
そんなの、もう今更じゃないですか…。
頬に触れたインドラ様の手に自分の手を添え、私はすべてを受け入れるように目を閉じた…。
〜おまけ〜
「ねえねえ、神様」
「…お前か、女悪魔」
食堂にて…食事が出来上がるのを待っていたインドラのもとに、リリスがやってきた。
警戒してはいるのだが、どうもこの女悪魔は、マスターを弄ぼうとする気配がほとんどない。
その代わり、契約した自分のマスターに対し、なかなかに重い愛を抱えている様子。
マスターに危害がないのなら、それに越したことはないが…。
「何の用だ」
「んー…この前のお礼ってやつ?」
「礼?」
「えー覚えてないの?マスターがアテシと遊びに行くのを、許してくれたこと」
「…ああ、そのことか」
「魔性の英霊はマスターに一切近づけないって聞いたからさ。ちなみにさ、何でアテシは許してくれたわけ?」
「…お前があの人間を毒牙にかけるつもりがないのなら、そう警戒する必要もなかろう」
「えー?いいの?そんなに甘くて。アテシ一応悪魔だよ?まあ、許してくれるんなら嬉しいけどさー」
「普段からあいつにちょっかいをかける者と比べれば、まだマシだ」
「マシ、ね…」
リリスは、この前マスターに贈った簪のことを思い出す。
「神様はさぁ」
「まだ何かあるのか」
「あの簪見ても、アテシがマスターにとって無害だって思えるの?」
「…何の話だ」
「とぼけなくていいよー。藤の花の花言葉…神様なら知ってんでしょ?」
藤の花の花言葉…。
それは『優しさ』『気品』『忠実』『知性』といったものや『恋に酔う』『君の愛に酔う』といったものがあるのだが…。
それからもうひとつ…。
藤は蔓の植物であり、他の木に巻き付いて育つその性質から、こんな花言葉がある。
「『決して離れない』」
「…」
「あ、その顔…やっぱり知ってたんだ」
インドラの表情が僅かに変わったのを、見逃さなかったリリス。
リリスの表情が、真顔に変わる。
「アテシは離れないよ、マスターからは」
「…」
「でも、それだけ。マスターと一緒に死ぬ瞬間がくれば、アテシはそれでいいんだ」
目の前の神に聞かせる信念とも、独り言ともとれる言葉を残し、去っていくリリス。
その背中を見つめながら、心の中で呟くインドラ。
お前が欲する、あいつの最期…。
お前自身の手で、あいつの生涯に幕を引くつもりならば容赦はせん。
が、命の灯火が消える瞬間をともに迎える…。
それだけならば…まあ許すとしよう。
だが『それ以外』は神のものだ。
あいつの身を酔わせる恋や愛といった想い…。
すべて…この神のものであることは忘れるでないぞ?女悪魔よ…。
END