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一番の負担と理解

Fate Grand Order インドラ&女夢主 — www.pixiv.net · All chapters

一番の負担と理解

「みんな、ありがとう。お疲れ様」

「お疲れ様でしたー」

「お疲れ様です」

素材集めのレイシフトが終わり、英霊たちに声をかける。

「今日は大量に集まりましたね」

「…」

「マスター?」

「ああ、うん…そうだね」

「………」

声をかけてきたアルトリア・アヴァロンに、何とか返事を返す。

しかし、そこは楽園の妖精。

妖精眼ですぐに異変を見抜かれてしまう。

「マスター。この後は安静にしているように」

「…バレた?」

「私に隠し事が通用するとは、思わないことです。思えば、レイシフト前と比べると、顔色もよくありません。痛みが悪化してきたのではないですか?」

「…痛み止めは飲んだんだけどね」

アルトリアに見抜かれたこと…。

それは、生理痛が悪化していることだ。

部屋を出る前に、痛み止めは飲んできた。

だが、やはりそれだけでは治まらなかった。

徐々に痛みが強くなり、今は正直立っているのがやっとな状態だ。

「その状態で素材集めに出かけたことは、褒められたものではありません。貴女の体調が第一です。体調不良でレイシフトを中止したとしても、誰も貴女を責めるようなことはしないのですよ?」

「……返す言葉もない」

「まだまだ言いたいことはありますが、とりあえずすぐにでも部屋で休むように。何なら、アスクレピオスを連れてきましょうか?」

「大丈夫…痛み止めはまだあるし、部屋に湯たんぽあるから…」

「そうですか。ですが、体調が悪化した場合は遠慮なく医療班を呼ぶように。いいですね?」

「うん…」

アルトリアから短めの説経を受けながら、部屋まで送ってもらった私。

そして、部屋の前に着いた。

「今日は無闇に出歩かないように」

「うん…ありがとう…」

そう言うと、アルトリアは去っていった。

私も、部屋の扉を開ける。

プシューッ

「戻ったか」

「あ…インドラ…様…」

自動ドアを開けると、部屋にはインドラ様の姿が。

「ん?何だ…妙に顔色が悪いが…」

私の顔を見るなり、眉を顰めるインドラ様。

この距離で見抜かれるなんて、今の私ってそんなに顔色悪いのかな…。

「すみません…今日はもう横になります…」

「…具合が悪いのか?」

とりあえず湯たんぽを用意しようと思い、ケトルに水を入れてスイッチを入れる。

「…月経…じゃなくてえっと…月のものと言えばわかりますか?」

「ん?ああ、人間の女たちの生理現象か」

「はい…今日は…痛みが強くて…」

誰かと話す余裕もあまりないのだが、ちょっとでも気を紛らわすために返事を返す。

お腹が痛いし、腰はだるいし、今日は少しだけ吐き気もするような気がする。

レイシフト…やっぱりやめとけばよかったかな…。

「…よく素材を集めに行こうなどと考えたものだな」

インドラ様が、説経の雰囲気を醸し出してきた。

確かに私が悪いけど、今は勘弁してほしい…。

さっきアルトリアから言われたばかりなんだから…。

そう思っていると、ケトルのお湯が沸く音がした。

ナイスタイミングだ、ケトル…。

棚から湯たんぽを取り出し、沸いたばかりのお湯を湯たんぽにゆっくりと注いでいく。

「ん?何だそれは」

「…お湯を入れて暖をとるものです」

「それで痛みが治まるのか?」

「温めて血の巡りを良くすれば…和らぎます」

「…和らぐ、か」

礼装の上着と靴を脱いで、湯たんぽを抱えながらベッドに横になった。

体を丸めて、お腹に湯たんぽを当てる。

まだ痛いけど…そのうち効いてくると信じたい。

「随分と痛みが強いようだが…」

「…まあ…はい…」

「ならば初めから休め!苦行をするな!気を紛らわせた程度で治まるものではないのなら、無理をして動く必要がどこにある!?」

「そーそー。そんな状態で動いたって、効率悪いだけじゃない?」

「回復してから動くのが、一番では?」

ぐうの音も出ない正論ではある…。

ただ、これを我慢しちゃうのは、もはや癖みたいになりつつあるんだよな…。

「…生理痛がもっと重い人だと、まず起き上がることすらできませんから…」

「それがどうした」

「…私は、そういう人たちと比べると、まだ動ける方ですから」

「他者を引き合いに出す必要がどこにある?お前は今、痛みで苦しんでいる…それを声に出すことの何が悪だという?」

「…つらいのは、私だけじゃないですから」

「今、言ったではないか。『つらい』と」

「…!」

「つらいのなら、そう言え。お前のその言葉を切り捨てる者がいるのならば、即縁を切れ。他者を思いやれん者は、この先も変わることはない。いつか変わる…そう思い続けるだけ、お前たち人間には時間の無駄というものだ。中には己の考えを改める者もいるが、そんなものに期待をかけるくらいならば、お前が今一番耳を傾けるべき、己の声に素直に従え」

「…」

「今日は下手に動き回るでないぞ?」

「……はい」

インドラ様の言葉の途中から、ずっと目頭が熱かったのだが、返事を返した瞬間に、一滴の涙が頬を滑り落ちてしまった。

あぁ…もう…。

あんまり泣かないようにしたいのに…。

「…まったく」

ひとつため息をつき、私の頬の涙を指で拭うインドラ様。

「人間の女であれば避けて通れん苦痛であろう?それを、何故限界まで耐える必要がある?」

「…中には、全然痛みを感じない人も…いるんです」

「それはそういう体の人間というだけだ。己が痛みを感じんからといって、他者に強要する理由にはならん」

優しく、諭すような声…。

私はこの声を聞くと、何故か涙が出そうになってしまう…。

今日はもう、出てしまったけど…。

「マスターって泣き虫だよねー。キシシッ」

「………別に…ッ…」

「ま、それでいいんじゃない?人間って泣く生き物なんでしょー?」

「…!」

「天から降り注ぐ雨は、大地への恵みです。それと同じように、涙は傷ついた心への恵みなのでは?」

「じゃあさ、枯れちゃう方がまずいんじゃない?大地が枯れちゃうと生きていけないんなら、心が枯れちゃったら、何も感じなくなっちゃうよー?」

「『泣くのは子ども』という理解し難い風潮があるようですが、本当に子どもしか泣かないのなら、大人から涙は出ないはずでは?」

「ただそうなりたかったってだけじゃない?そんなの、水のない世界で生きようとしてるのと同じなのにさー」

「人間が強がる理由は、ぼくたちにはよくわかりませんね」

「だよねー」

ヴァジュラたちの声がすぐ後ろから聞こえる。

どうやら、横向きで寝ている私の背中に、背中をぴったりくっつけて座っているようだ。

人間ってよくわからない…といった内容だが、それは明らかに、涙を堪えようと強がる私へ向けた言葉だった。

「神ですら泣く者はいる。涙を恥じる理由がどこにある?」

私の頭に、大きな手がそっと添えられる。

その温かさにまたひとつ…涙が頬を伝う。

「耐えるな。つらければ吐き出せ。神の前では、己の本心を誤魔化すだけ無駄だ」

「……はい…ッ」

頭と心に、心地良く響く声…。

髪を優しく撫でる手…。

湯たんぽを抱きしめながら、私は痛みと苦しみを涙に変えて流し続けた…。

〜おまけ〜

「そら、今回の処方だ」

「ありがとうございます…」

医務室にて…アスクレピオスから薬の処方を受けるアルジュナ。

いつもの胃薬が少なくなってきたからだ。

「…そういえば」

「はい?」

診察は終わったのだが、ふとあることを思い出すアスクレピオス。

「この前、お前の父親が医務室を尋ねてきた」

「父が?」

まず病気などするはずのない神が、何の用で医務室に来たのか…。

アルジュナからすれば、疑問でしかない。

「…何かされていませんか?」

「心配は不要だ。確かに山のような質問を受けはしたが、医者としては答えんわけにもいかない内容ではあったからな」

「山のような質問…一体何を聞かれたのですか?」

アスクレピオスは、本棚にある『婦人科』項目の本をチラリと一瞥して答える。

「月経だ」

「月経…?」

「お前も生前に妻がいたのならば『月のもの』という言葉を聞いたことがあるはずだが」

「ああ…それならわかります」

わかる…が。

何故インドラ神がわざわざそのようなことを?

「月経は、男からすれば名前は知っていてもメカニズムは知らないという者は多いからな」

「女性として生を受けなければ、経験できるものではありませんからね」

経験できるものではない…。

その言葉に一瞬何かを考えたアスクレピオスは、少しだけ話を逸らしてみることにした。

「…最近では、電気による痛覚の刺激により、擬似的に月経痛を再現できる装置があるそうだ」

「月経痛を再現?何の為にですか?」

「僕も最初に聞いたときは驚いた。だが、確かに場合によっては必要性はあるだろう。月経痛に理解のない愚患者どもに知らしめるためにな」

「それはつまり、男でも月経痛を…」

「ああ、体験できる。強さは調整できるが、実際に試した女たちからは『月経痛の重い日はまさにこんな感覚だ』といった意見が相次いだらしい。ちなみに、試した男どものことごとくは、膝をついて起き上がれなくなっていたらしいぞ。おかげで、妻や恋人の月経痛に対する認識が変わったらしいがな」

「…女性は強いのですね」

「当然だ。出産に耐えるために、痛覚への耐性は男よりも遥かに高いからな」

「…あの、まさかとは思いますが」

「何だ?」

「その装置…カルデアにありませんよね?」

「ないが、作ろうと思えば作れるだろう」

「そうですか…」

少しだけ安堵した様子のアルジュナ。

それが、自分が実験台にならずに済んだことへの安堵ではないと、アスクレピオスは即座に見抜いた。

そして、核心を突いた質問をする。

「まさか、お前の父親がその装置を試したとでも思ったのか?」

「……すみません、今の話の流れで、何となく…」

気まずそうに話すアルジュナ。

はぁ…とため息をつくアスクレピオス。

「雷霆神にも効く『電気装置』があるのなら、ぜひとも試してもらいたいものではあるな」

「あっ…」

自分の父親が雷霆神であることを、うっかり失念していたアルジュナ。

心の中で、インドラにそっと謝罪する…。

「あの雷霆神に説明したのは、月経のメカニズムや月経痛の原因、対処法といったことだ。説明してからも質問の嵐だったがな」

「…ちなみに、父はどんな質問を?」

「『月経痛がなくなる薬はあるのか?』『月経を止めることはできないのか?』『月経痛を和らげる方法は他には何がある?』といったことだな。ほんの一部に過ぎんが…」

「…内容からして、何やら必死ですね」

「安易に想像できる。月経痛に苦しむマスターを見て居ても立ってもいられなかったのだろう」

「マスターを…」

「まあ、言うことを聞かずに勝手なことをしでかす愚患者よりは遥かにマシだからな。もちろん医者として真摯に答えたつもりだ」

「…付き合ってくださり、ありがとうございます」

質問攻めにしてしまったことは申し訳ないが、神だからと邪険にせずに、医者として対応してくれたことに、感謝して頭を下げるアルジュナ。

「…お前なら心配いらんとは思うが」

「はい?」

「確かに月経は病気ではない。だが、患者たちへの負担となり得る一番の原因は、身近な者たちからの理解を得られないことだ」

「理解…」

「無知や誤解以外にも『みんな我慢しているから』だの『自分は平気だから』だの、そのような愚かな理由から生まれる価値観の押しつけ…それはPMSや月経痛に悩む患者が、声を上げにくくなっている原因のひとつと言っても過言ではない」

「…」

「お前の父親は、自分に知識がないことを言い訳にせず、わざわざ医務室を訪れて『理解』を深めようとしていた」

「!」

「僕は神は嫌いだが、お前の父親のその行動については…称賛するに値すると思っている」

「…はい、ありがとうございます」

「お前が、あのお騒がせな神を尊敬すると言っていたのは、父親のそういうところを見ていたからだろうな」

「…ええ。その通りです」

まったく…この男は…。

胃を痛めながらも、その原因でもある父親をここまで純粋に尊敬できるとは…。

神を父親に持つ者同士ではあるが、僕には一生できる気がしないな…。

「…僕とは違うようで何よりだ」

ため息混じりに、それでもどこか安堵した様子で呟くアスクレピオスであった…。

END