取り扱い注意にて
取り扱い注意にて
※注意喚起※
若干のホラー要素が含まれますので、苦手な方はご注意ください。
かなり淡々と書いたので、夜に読んだとしても大丈夫な仕上がりになっているとは思いますが…。
おまけ話はアルジュナとカルナですので、ほぼギャグとなっております。
OKな方のみ、お進みください。
「ダメと言ったらダメだ!」
「けちー!」
「ちょっとでいいんですー!」
食堂に響き渡るのは台所の守護者、もといエミヤの声と、お子様サーヴァントたちの声。
昼食を食べていた手を止めて、言い争う方へ顔を向ける私。
「…何やら騒がしいな」
私の隣にいたインドラ様も、顔を顰めながらエミヤたちの方を向いた。
「ちょっと様子を見てきます」
椅子から立ち上がり、未だに言い争っている英霊たちに近づき、声をかけた。
「何を揉めているの?」
「む、マスターか」
「あ、おかあさん!」
「ちょうどよかったです!トナカイさんからも、この赤い弓兵さんにお願いしてくれませんか?」
その場にいたのは、ジャック、ナーサリー、ジャンヌ・リリィ、太歳星君、バニヤン。
「何をお願いしていたの?」
ジャックたちに事情を聞く。
「わたしたち、お米が欲しいんだ」
「お米?ご飯が食べたいんじゃなくて?」
「はい、お米の状態で欲しいんです」
「何に使うの?」
「これに入れるんだ」
バニヤンが取り出したのは、ウサギのぬいぐるみだった。
だがよく見ると、このぬいぐるみ…何かおかしい…。
「綿が抜かれてる…」
そう、このぬいぐるみ…綿を抜かれて、中身がくたくたになっているのだ。
そしてバニヤンは、お米をここに入れると言った…。
「米は貴重な食料だ。そのような使い方を許すわけなかろう!」
「あのさ、みんな…」
私は、ひとつ心当たりがあった。
違ったらいいのだが…意を決して質問する…。
「もしかして『ひとりかくれんぼ』?」
「『ひとりかくれんぼ』?」
「せいかーい!」
「よくわかったわね!」
「その通りなのだ!」
どうやらエミヤは知らなかったようだが、お子様サーヴァントたちからは、歓声が上がった。
「ダメだよ」
「えっ!?」
「何でですか!?」
きっぱりと『ダメ』と言い切る私。
私からの反対を受けて、お子様サーヴァントたちからは、不満の声が上がる。
「マスター。止めてもらえたのは助かったが、そもそも『ひとりかくれんぼ』とはどういうものだ?」
味方を得て安心した様子のエミヤが、私に尋ねる。
「降霊術だよ」
「降霊術?」
「ひとりで行う肝試しみたいなものだね」
「ふむ…それはつまり、何かが呼び寄せられる可能性があるということか?」
「そう。呪術的な意味合いがあるから、かなり危険なものなんだ」
ひとりかくれんぼとは、文字通りひとりで行うかくれんぼ。
それを行うために、綿を抜き米を詰めたぬいぐるみが必要になる。
明確にはそれ以外にも必要なものがあるのだが、手順やルールがわりと複雑で、必ずその通りにやり遂げないといけない。
もし手順を間違えたり、ルールを破ってしまったりしたら…何が起きるかわからない。
「なら、尚更ダメだな。取り返しのつかないことが起きた場合はどうするつもりだ?」
「わたしたちはサーヴァントだよー?もし何かが出ても、解体しちゃえるよ!」
「そうです!トナカイさんや弓兵さんに迷惑はかけませんから!」
「何かあってからじゃ遅いんだぞ?それに、そういった事態に対処するとなると、確実にマスターが駆り出されることになってしまう」
「大丈夫なのだ!ワガハイたちだけでちゃんとやっつけるぞ!」
「ルールを守れば大丈夫なはずよ!みんなで確認してやれば、きっと大丈夫!」
「みんな…ひとりかくれんぼは、ひとりでやらないといけないんだよ?みんなでやったら、ルール違反ってことになっちゃうんだよ?」
「あっ…」
今になって、根本的なことに気づいた様子の一同。
「何があっても途中でやめちゃいけないし、その他にもいろいろ決まりがある。それにもし『見つかったら』どうなるのかもわからないんだよ?」
「うーん…」
「思ったよりも危ないものなんですかね…」
「そもそも、どこでこんな遊びを知ったの?」
「蝙蝠のお姫さまが動画を観てて『姫もやってみるべきかな?でもなぁ…』って言ってたから…」
よし、子どもたちのそばでそんな動画を開いたおっきーは後でお仕置きだな。
《マーちゃん!?》
「事の確認に随分と時間をかけているようだが…一体何事だ?」
「あ、インドラ様」
私がなかなか戻らないのを見かねてか、インドラ様がやってきた。
とりあえず、子どもたちがしようとしていた事を説明すると…
「そのような儀式をして、碌なものが出てきた試しはない。遊び感覚で手を出すな」
と、ぴしゃりと切り捨てた。
神様であるインドラ様にまで言われると、流石の子どもたちも、自分たちが危ない橋を渡ろうとしていたことに気づいたらしい。
「諦めましょう、みんな」
「うん…そうだね」
「ワガハイの祟りみたいなことになったら、大変なことになっちゃうしなー」
「怖いこと言わないでくださいよ!」
「ごめんね。お米を使いたいなんて言っちゃって…」
「わかってもらえたなら結構だ。マスターもインドラ神も、子どもたちを止めてくれて感謝する」
「私はダメって言っただけだよ」
「神の忠告を、無下にするでないぞ」
「「「「「はーい!」」」」」
インドラ様の念押しに大きな返事をして、お子様サーヴァントたちは食堂から出ていった。
「先程の儀式…」
「え?」
食事を終え、インドラ様の部屋に招かれた私。
部屋のソファに腰を下ろした途端に、インドラ様から話を切り出された。
「ひとりかくれんぼ…と言ったな」
「あ、はい。ぬいぐるみに霊を憑依させて行う肝試しですね」
私は自分の端末を取り出し、とある動画を探す。
「それは?」
「前におっきーが見つけて、送ってきた動画のリンクです。ひとりかくれんぼを実際にやってみた、とある配信者さんの動画ですね」
「…ここへ繋げ」
「え?」
「再生しろ」
ここ、とインドラ様が差したものは部屋についているプロジェクターだった。
スクリーンで観るから繋げろ、ということか。
私は端末の動画とプロジェクターを接続し、動画を再生する。
すると、巨大なスクリーンに動画が映し出された…。
まず、ひとりかくれんぼを執り行うにあたり、以下のものが必要となる。
・手足のあるぬいぐるみ(人形)
・赤い糸と針
・刃物(カッターでも包丁でもナイフでも可)
・コップ1杯の塩水
・水を張った浴槽(水を張った洗面台でも可)
ぬいぐるみの綿を取り出し、中に自分の爪(髪の毛でも可)と米を詰め込み、赤い糸で縫って閉じる。
そしてぬいぐるみには名前をつけるが、自分の名前以外なら何でも構わない。
隠れ場所を決めておき、そこに塩水の入ったコップを置く。
そして、必ず以下のことを守らなければならない。
・深夜2〜5時の時間帯に行う
・ひとりで行う
・家から出ない
・2時間以内に終わらせる
・使い終わったぬいぐるみは必ず燃やす
手順としては、以下のように行う。
・最初の鬼は自分。深夜2時『最初の鬼は◯◯(自分の名前)』とぬいぐるみに対して3回言い、ぬいぐるみを浴槽に沈める。
・家中の照明をすべて消してテレビだけつけ、砂嵐が出ている状態にし、目を瞑って10秒数える。
・刃物を持って風呂場へ行き『△△(ぬいぐるみの名前)見つけた』と言いながら、刃物でぬいぐるみを刺す。
・『次は△△が鬼』と3回言い、塩水を置いた隠れ場所に隠れる。
・塩水を少し口に含み、隠れ場所から出てぬいぐるみを探す。
・コップに残った塩水、口に含んだ塩水の順でぬいぐるみに塩水をかけ『私の勝ち』と3回宣言して終了となる。
何が起こったとしても、絶対に家から出てはいけない上に2時間以内に終わらせる必要がある。
これは、2時間以上経つと霊が悪霊化しやすく、塩だけでは対処できなくなるから。
終わった後ぬいぐるみを必ず燃やす必要があり、燃やさないと呪われると言われている。
仮に手順通り進行し、無事に終わらせたとしても霊障が起こる場合がある。
パニックを起こしながらも、ひとりかくれんぼを進行する配信者の動画を、何も言わずに観賞しているインドラ様。
巨大スクリーンに映されてるから、ちょっとしたホラー映画を観ている気分にもなるのだが、隣にインドラ様がいるだけで怖さが薄れる不思議…。
いやぁ…神様って心強いなぁ…。
そうこうしているうちに、動画が終了した。
「そういえば、手順に『ぬいぐるみを探して塩水をかける』って書いてありましたけど、ぬいぐるみ…普通に風呂場にいましたよね?移動してる場合がある…ってことなんでしょうか?」
「…さてな」
え?何ですかその含みのある返事…。
安心感が半端ない存在が言葉を濁すのって、冗談抜きで怖いからやめてほしいんですけど…。
「物音…確かにしてましたね。何かが降りてきてたんですかね?」
「ああ、確かにいたな」
「えっ…やっぱり何か来たんですね…」
「いや、既にいたが?」
「はい?」
「儀式を始める前から、既にいたが?」
「………え?」
〜おまけ〜
「ん?」
廊下を歩いていたカルナは、床に何かが落ちていることに気づいた。
拾い上げてみると、それは…。
「…ぬいぐるみか?」
見たところウサギのぬいぐるみのようだが、中身が空っぽでくたくたのウサギだ。
誰かが作っている途中だったのだろうか?
実はこのぬいぐるみ、お子様サーヴァントたちがひとりかくれんぼを執り行うにあたって、米を詰め込むために綿を抜き取ったものなのだが、持ち歩いていたバニヤンが落としてしまったのだ。
しかし、それを知らないカルナは…。
「せめて完成させてやるとしよう」
そう思い、手芸に長けた英霊のもとへ向かった。
…
…
「ふむ…これで完成か」
食堂の片隅に腰掛け、針を動かしていたカルナ。
バーサーカーのヴラド三世から、材料を少し分けてもらい、ついにウサギのぬいぐるみが完成した。
綿とペレットを詰め、丁寧に糸で縫い合わせていったところ、くたくたの皮のような姿から、膨らみを持った立派なウサギのぬいぐるみへと変貌した。
普段手芸は嗜まないカルナだが、自分で完成させたぬいぐるみを眺めていると、達成感と優越感が湧き上がってくる。
それにしても…。
掌にぬいぐるみを乗せ、シャンシャン…とペレットの音を鳴らしながら考える。
このぬいぐるみ…作成途中というより、もともとぬいぐるみだったものの背中を裂き、中身を無理やり取り出したような痕跡があった。
人形やぬいぐるみを雑に扱うだけでなく、少々猟奇的ともいえる扱いをする者もいるだろう。
人間や動物にするよりは、マシかもしれないが…。
「…作りものにも心は宿るというのに」
何故そんな行いをするのか、カルナには見当もつかなかった。
「カルナ…ッ!!」
「!?」
突然聞き覚えのある怒声とともに、自分のもとに誰かが物凄い勢いで近づいて来た。
誰か…とは言ったが、ひとりしかいない…。
「何の用だ…」
「それを貸せ!」
「!?」
そう言うと、カルナの手からウサギのぬいぐるみを奪い取るアルジュナ。
「何だ…お前のものだったのか」
「そんなわけあるか!子どもたちが呪術に使おうとしていたぬいぐるみが、基地のどこかに落ちているかもしれないと知らせを聞いた。黒い毛皮に赤い目のウサギ…まずこれに違いないはずだ」
「子どもたちのぬいぐるみだったか。それにしても呪術とは一体…」
「私も詳しくは知らないが、どうやら降霊術の一種らしい」
ぬいぐるみを見つめたアルジュナが、あることに気づいた。
「ん?」
シャン…
カルナが入れた、ペレットが音を立てる。
ぬいぐるみをくまなく触ってみると、ペレットの粒のでこぼことした感触がしている。
「どうかしたか?」
「このぬいぐるみ…既に呪術に使われている!?」
「何?本当か?」
「間違いない!ぬいぐるみの綿を取り出し、自分の爪と米を詰め込むらしい。この感触は、間違いなく米だ!」
「いや、それは…」
それはさっきカルナが詰めたペレットなのだが…。
「呪術に使ったぬいぐるみは、燃やす必要がある」
「!?」
「速やかに燃やさなければ…」
「待て」
「何だ?」
先程完成…いや、大体元通りに修繕したばかりのぬいぐるみを燃やされるのは、たまったものじゃない。
そう思ったカルナは…。
「それを詰めたのはオレだ」
「!?」
しかし『中身のないぬいぐるみを拾い、綿とペレットを詰めて修繕した』と言わなかったせいか…
「…貴様が…詰めた…?」
中身が米だと勘違いしたままのアルジュナから、あらぬ誤解を受けることとなってしまった。
「いいだろう…貴様が一体どういう目的でこのようなことをしでかしたのか…じっくり聞かせてもらうとする…ッ!!」
「オレが中身を詰めた…それだけだ。そのような理由でそのぬいぐるみを燃やしてくれるな」
弓を構えるアルジュナ。
槍を構えるカルナ。
いざ仕掛けようと両者が動いた瞬間…。
「「食堂で何を喧嘩してる/の…!?」」
カッ
「「…ッ!?」」
両者の動きが、魔力の強制力によって止まり…
ガツンッ
「痛っ…!?」
「ぐっ…!?」
両者の頭に、重い衝撃…もとい打撃が走る…。
そして二人が顔を上げると…
「大英雄ともあろう者たちが、食堂で暴れるんじゃない!!」
「アルジュナもカルナさんも、こんなところで何を喧嘩してるの!?」
令呪を一画使って動きを止めたマスターと、強化魔術でコーティングされた二本のおたまを持ったエミヤがいた。
「マ、マスター…」
「…すまない」
マスターとエミヤ、二人がかりで説経されているアルジュナとカルナの姿を、無事難を逃れたウサギのぬいぐるみが、静かに見守っているのだった…。
END