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小間使いとの一日 〜少女体ヴァジュラ〜

Fate Grand Order インドラ&女夢主 — www.pixiv.net · All chapters

小間使いとの一日 〜少女体ヴァジュラ〜

「ほーら朝だぞー!起きろー!」

バフッ

「…ッ!?」

朝、突然元気な声とともに体の上に何かがのしかかる衝撃で目を覚ました私。

軽いような重いような…何だ?

目を開けて確認してみると…。

「やーっと起きた」

私の体の上に、少女体のヴァジュラが座り込んでこちらを見下ろしていた。

「ん……ヴァジュラ?」

「まだ寝ぼけてやんのー。キシシッ」

私の寝起きの掠れた声を聞き、空中に浮かび上がるヴァジュラ。

「…あれ?」

体を起こして気づいたが、インドラ様の姿がない。

そして、少年体のヴァジュラの姿もない。

ヴァジュラ単体インドラ様不在…ということは…。

「…昨日の続き?」

「そー。今日はぼくがマスターにつく日!」

「やっぱり!?」

すっかり眠気が吹き飛んだ私。

昨日は一日、少年体のヴァジュラが、私の小間使いとして身の回りの補佐をしてくれた。

そして今日は少女体のヴァジュラが、補佐についてくれる…というわけか。

「言っとくけど、インドラさまの命令だから仕方なくやってるだけだからなー?いくらインドラさまが許してくれるからって、ぼくにあれこれ命令できるとは思うなよー?キシシッ」

「命令する気はないけどさ…」

「ならいいけどねー。でも必要最低限の仕事は仕方ないからしてやるよ。ほらほら、礼装はここに出しといたよー」

「あ、ありがとう」

「あと、デスクにあった大量のレポートは、完成したやつだって聞いてたから提出してきたー」

「えっ!?出しに行ってくれたの!?」

「昨日もそうしてたでしょー?」

「そうだけど…ありがとう」

「普通小間使いなら、このくらいするだろー?いちいちお礼言うなんて変わってるよねー」

「小間使いにだってお礼は言うでしょ?それに君は本来、私の小間使いじゃないんだから」

「ま、それはそうだけどさ。ただ今日一日は、ぼくはマスターの小間使いなんだけど…」

「ん?何か不満?」

「別にー?仕事がなくて暇しそうだなーって」

「今日は、マスターとしての仕事はないからね」

「えー?仕事なしー?」

「予定はあるけどね」

着替えをして、顔を洗う。

その間もヴァジュラとの会話は途切れない。

少年体のヴァジュラとは、主に事務的な会話しかしなかったけど、少女体のヴァジュラは感情表現が豊かな上に、わりとおしゃべりらしい。

「あ、オフなら化粧はしろよー?」

「ああ…インドラ様が何か言ってたって?」

「そーそー。また化粧しない日が増えてきたって言ってたから、今日はちゃんとするんだぞー?」

「昨日もちゃんとしたんだけどなぁ…」

「いつもしてなきゃ意味ないだろー」

「手厳しいことで…」

鏡の前に座り、話しながら化粧をする。

変に気を遣う必要がないからなのか、私自身も砕けた話し方になってきていた。

ヴァジュラは何も思わないらしく、指摘のひとつも入らない。

口うるさいのは、インドラ様に対してだけらしい。

「支度できたー?」

「うん。お待たせ」

「んじゃ、まずは朝食からだね。ちなみに予定って何するの?」

「ちょっとお菓子作りをね」

「お菓子?インドラさまに捧げる用にー?」

「成功したらね」

「変なもの作るなよー?キシシッ」

「いやいや、私が変なもの作ったことなんて、今までなかったでしょ!?」

「そりゃそうだけどー。間違ってもインドラさまに失敗作なんか渡すなよー?」

「そんな命知らずなことしないって…」

「わかってんならいいけどさー」

部屋を出て、ヴァジュラと喋りながら食堂に向かっていると…。

「ん?マスターではないか」

「あ、ヴリトラ」

「…」

向かいの曲がり角から、ヴリトラが歩いてきた。

その瞬間、警戒モードに入るヴァジュラ。

「ほう?何とも珍しい…。お前のそばにヴァジュラがおるのか」

「お前に関係ないだろー?」

私のそばにいるヴァジュラを、物珍しそうに見つめているヴリトラ。

対するヴァジュラは、ヴリトラの言葉をバッサリと切り捨てる。

「何じゃ?ついに小間使いが欲しくなったか?自分のヴァジュラをひとつくれてやるとは、インドラの奴もなかなか太っ腹ではないか。き、ひ、ひ」

「は?」

「もらったわけじゃないよ」

インドラ様に従順なヴァジュラに対して、煽るような物言いをするヴリトラ。

案の定、反応して声が低くなるヴァジュラ。

大して効果はないだろうけど、ヴァジュラのメンツのためにヴリトラに言い返す私。

「ん?では…」

「何?」

ふと思い出したように、何かを呟くヴリトラ。

「…いいや、独り言というやつよ。ではな」

何やら悪い笑みを浮かべ、去っていった。

「んー?」

「何だったんだろ…」

ヴリトラが去っていった跡を、しばらく立ち尽くして見つめていた私とヴァジュラだったが…

「「…あ!」」

あることに気づき、同時に声を上げた。

「まさか…インドラ様のとこに行ったんじゃ…」

ここにヴァジュラが一体いるのなら、当然インドラ様のそばにいるヴァジュラは一体しかいない。

それはつまり、インドラ様の戦力がいつもより手薄になっているということ。

今なら、真っ向から仕掛けたとしても苦戦する…。

そう思ったのかもしれない。

「ヴァジュラ!インドラ様のとこに戻って!」

私はすぐさま、ヴァジュラに指示を出す。

しかしヴァジュラは、何か言いたげな表情で落ち着きなく浮遊している。

「…でもさ、マスター」

「どうしたの?」

「それがブラフだったらどうすんの?ぼくが離れた隙に、マスターがあいつに何か仕掛けられるかも…」

「ブラフ…」

確かに、ヴリトラがやりそうな手ではある。

インドラ様のもとへ向かう匂わせをして、ヴァジュラが離れた瞬間に私を盾にとり、インドラ様に本気を出すよう強いるつもりでいる可能性もある。

でも…。

「行って、ヴァジュラ」

「でも…」

「インドラ様の方が大事でしょ?」

「…マスターはどうすんの?」

「食堂に走る。誰かしらいるはずだから」

「、…」

「行って!」

珍しく煮え切らない態度のヴァジュラに、口調を強めて促す。

「…わかった!」

少し何かを考えていたヴァジュラだったが、返事とともに一瞬で飛び去って行った。

私も食堂に向かって、全力で走った…。

〜数十分後〜

「あ、いた」

「ヴァジュラ!」

厨房の奥にいた私のもとに、少女体のヴァジュラがやってきた。

食堂に逃げ込んだ私は、厨房組に事情を話して奥に隠してもらっていた。

「ヴリトラ…やっぱりインドラ様のとこに来た?」

「うん、いた」

ヴァジュラによると、インドラ様のもとへ駆けつけた時、すでにヴリトラが奇襲をかけていたらしい。

少年体のヴァジュラだけで、何とか攻撃を凌いでいたそうだ。

しかしヴリトラは、どうやらヴァジュラが揃ったことで気が削がれたらしく、しばらく膠着した後その場から去っていったとのこと。

そして、食堂にいる私のもとへ戻るように命令されたため、ここに来たらしい。

「何であれがブラフじゃないってわかったのー?」

「いや、正直確証は持てなかったよ。だけど、ヴァジュラが私のそばにいることは、あの場で初めて知った様子だったからさ。あの一瞬であそこまで思いつけたとしても、いくらヴリトラでも何の準備もなしに行動には移せないかなって」

「そっかー…」

「まあ、もしインドラ様が本気を出すなら、ヴァジュラを強制的に呼び寄せるとは思うんだけどね。ヴリトラの気が変わってくれてよかった」

「うん…」

「…もしかして、持ち場を離れたことをインドラ様に何か言われたりした?」

「ううん。それは言われてない」

そのわりには、どこか声に元気がない。

いや、落ち込んでいるというよりは、何か言いたそうにしている…といった様子。

「…あのさ、マスター」

「ん?」

少し間を置いて、ヴァジュラが口を開く。

「…ありがと」

「え?」

私に対して、急にお礼を言い出したヴァジュラ。

ありがと?いや、何が?

「私、何もしてないけど…」

「インドラさまのとこに、行かせてくれたから」

「いや…だってヴァジュラからしたら、インドラ様が最優先でしょ?」

「そうだけどさ、もしかしたら本当にマスターが狙われたかもしれないのに、迷わず『インドラさまのとこに戻って』って言ったじゃん」

確かに、確証は持てなかったから本当にそうなった可能性もある。

でも、ヴァジュラをインドラ様から離したままなのはリスクでしかない。

何よりこのヴァジュラは、インドラ様から命令された通りに、私のそばにいようともしていたけど…。

「インドラ様のこと、心配だったでしょ?」

「そりゃあ…もちろん」

一番に考えるべきインドラ様のことが、心配にならないはずがない。

だったら、ヴァジュラが一番したいことをさせるべきだって思っただけだ。

それに、あんまりヴリトラに好き勝手されたらカルデアが壊れるし…。

「…ま、でもインドラさまはとーっても強い神様だから、負けるわけないんだけどねー?」

おや、いつもの調子を取り戻した…。

「インドラさまから『持ち場に戻って仕事しろ』って言われたからさー。また戻ってきてやったんだから感謝しろよー?キシシッ」

「そっか。じゃ、気を取り直して…」

私は厨房の棚から、お菓子作りの材料を取り出す。

「今日はお菓子作りをする予定だったからね。早速手伝ってもらおうかな」

「しょうがないなー。変なもの作るなよー?キシシッ」

軽口を叩きながら、器具を並べるヴァジュラ。

その様子を見て、思わず笑みが溢れる…。

〜数時間後〜

「さて…明日には綺麗に固まってるかな?」

「成功したら、ちゃんとインドラさまに捧げないとダメだからなー?」

「成功したら、ね」

本命のお菓子は、多分明日になる。

なので…

「ヴァジュラ」

「なにー?」

「はい、これヴァジュラに」

「え?何これー?」

ヴァジュラに、あるものを差し出す。

「これ、ソーダってやつだっけ?シュワシュワの泡が入った飲み物で…あとこの中の丸いのはー?」

「ゼリーポンチっていってね。中のは丸い形をしたゼリーだよ」

それは、大きめのグラスに入ったゼリーポンチ。

丸い製氷器で真球の形に作ったゼリーが、ソーダの中に沈んでいる。

カラフルに彩られた丸いゼリーが、透明なソーダの中で艶を放ちながら光っている。

「手伝ってくれたお礼でもあるし、本命のお菓子の余りから作った試食だから、君にあげる」

「えー?インドラさまより先に、ぼくが食べても大丈夫なのー?」

「大丈夫だよ。だって『試食』だし」

「!」

「試食の段階でインドラ様にあげるのは、ね?」

「んー…わかった。ならぼくが味見してあげる」

そう言って、グラスにつけたストローでソーダを飲むヴァジュラ。

そしてスプーンで中のゼリーを掬って、口に運ぶ。

「むぐむぐ…」

「どう?」

「んー…インドラさまがこれを好んで飲むかはわからないけど…まあいいんじゃない?」

「そっか」

と言いつつ、中のゼリーを掬って食べ続けるヴァジュラに、達成感で胸がいっぱいになる私。

及第点…ではあるみたいだな…。

〜その日の夜〜

「えーっと?夕食は食べた、シャワーも浴びた…あとはやることはあったっけ?」

「もうないよ。あとは寝るだけ」

マイルーム。

今日やることのすべてを終わらせた私は、髪に櫛を入れてベッドに入った。

「そっか。じゃあぼくはここまでだねー」

「うん。今日はありがとね、ヴァジュラ」

「こんな機会、なかなかないんだからなー?インドラさまへの感謝を噛み締めろよー?キシシッ」

「もちろん」

「…まあ、たまにはこんなのもいいかもね」

「ん?今何か言った?」

「何でもなーい。おやすみー」

「おやすみなさい」

灯りを消して、部屋を出ていくヴァジュラ。

何だかんだ…楽しかったなぁ…。

珍しくも楽しい時を過ごせたと思う。

この二日間を思い出しながら、私は目を閉じてゆっくりと意識を手放した…。

〜おまけ〜

「ただいまー!インドラさまー!」

「…あいつは寝たか?」

「うん!」

部屋でくつろぐインドラのもとに、役目を終えた少女体のヴァジュラが戻ってきた。

昨日と今日の二日間、ヴァジュラたちに『一日交代でマスターの小間使いになるように』と命令を下していたインドラ。

そしてその二日間が終わり、二体のヴァジュラはインドラのもとへ戻ってきた。

「ところでインドラさま」

「何だ?」

少年体のヴァジュラが、インドラに尋ねる。

「ぼくたちを、交代でマスターのそばにつけたことには、何か理由があるのでしょうか?」

「…昨日あいつに理由を聞かれた際に、気まぐれだと答えたはずだが?」

「とてもそうとは思えません」

「ほう?ならば問うが…ヴァジュラたちよ」

一度酒を煽り、目の前のヴァジュラたちに問いかけるインドラ。

「その理由とやら…お前たちは一体何と考える?」

「んー何となくだけどー」

今度は少女体のヴァジュラが口を開く。

「マスターの負担を減らすために、限定的に身の回りのお世話をさせようとしたのかなーって」

「同感です。マスターの仕事量は、日によることはあれど、多忙を極めていますので」

「…なるほどな」

二体の意見を聞き、目を伏せるインドラ。

「もしかして違うとか?」

「いや、違いはせん。だがそれはあくまで、もののついでというやつだ」

「では、本来の目的とは?」

「…それに答える前に、もうひとつ問うとする」

手に持った酒を、またひと煽りするインドラ。

「お前たち…あの人間をどう感じた?」

「…ぼくたちの所感でよろしいでしょうか?」

「構わん。答えるがよい」

「ぼくは…」

まずは少年体のヴァジュラが答える。

「インドラさまのような、上に立つ存在ではないと感じました。小間使いとして接していても、命令のひとつも下しませんでした」

「…それについて、何か不満はあるか?」

「ぼくは与えられた命令を遂行するだけではありますが…不満があるかないかで言えば、特別ありません。ぼくに害を成すような言動は一切ありませんでしたから」

「ま、そういう人間だもんねー」

「ほう…お前もそう思うか?」

「うん!だってぼくたちがインドラさまが第一だって考えてるってことを、忘れない人間だったし」

今朝の招かれざる客…いや、客とも呼びたくない宿敵の襲来を思い出し、顔を顰めるインドラ。

「…疾く神のもとへ戻るよう、言われたそうだな」

「そー。ぼくが何をしたいのか、ちゃんとわかってくれてたから」

「あのときはギリギリでした。ぼくだけでは押し切られていたかもしれません」

「…ならば、お前たちは」

また一口酒を煽り、言葉を続けるインドラ。

「あいつは『仕えやすい』人間と考えるか?」

「「仕えやすい?」」

一瞬顔を見合わせるヴァジュラたち。

だが、すぐに各々の答えを出す。

「はい」

「うん」

「…そうか。ならばこの二日間、お前たちをあいつの小間使いにさせた甲斐はあったようだな」

「それは…」

「もしかして…」

インドラが何を言いたいのか、何となくわかってきた様子のヴァジュラたち。

「『何か』があった未来…お前たちの主が神とあいつになった暁の話ではあるがな。先程の答えを聞く限りでは、お前たちに不満はないと見た」

「…」

「…」

「何か…異論はあるか?」

反応を試すようなインドラの問いかけにも、ヴァジュラたちは躊躇いなく答える。

「ありません」

「あるわけないよねー。キシシッ」

「フッ…ならばよい」

二体の従神の予想通りの答えに、満足そうに笑みを浮かべるインドラであった…。

END