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傷つかないとは言ってない

Fate Grand Order インドラ&女夢主 — www.pixiv.net · All chapters

傷つかないとは言ってない

「ん…?」

「……すぅ…」

朝…いつも通りの時間に目を覚ます。

昨日はひとりで寝たはずなのだが、私の隣ではインドラ様が静かな寝息を立てていた。

昨日酒飲んでから潜り込んで来たんだな…。

わりといつものことなので気にはしない。

相変わらず、静かに寝るんだな。

おまけに顔がいい…。

その整った顔を、思わず見つめてしまう。

いかんいかん…。

あんまり見つめすぎると、インドラ様に勘づかれて起こしてしまう。

できるだけ物音を立てないように、気をつけながら体を起こす。

といっても、この神様もそのうち起きるはず。

「…ん」

あ、言ったそばから起きた。

体をインドラ様に向け、声をかけようとしたその時だった…。

「痛っ!?」

「…?」

私の腕に突然痛みが走った。

反射で腕を引っ込め、腕があった方向を見る。

「???」

そこには?をたくさん浮かべたインドラ様が、片手を軽く伸ばした状態で固まっていた。

痛みの原因は恐らく、今インドラ様に腕を触られたこと…。

「…どういった状況だ?」

すっかり目が覚めたらしいインドラ様。

体を起こし、私の肩に手を乗せようとした…。

バチバチッ

「痛ぁっ!!」

「!?」

明らかにさっきよりも強烈な音、そして痛み。

そう、この痛みの原因は静電気。

なのだが…。

「おい、何があった…」

バチバチバチッ

「痛い痛い!!ちょっ…インドラ様、すみませんがちょっと触らないでもらえますか!?」

「!?」

当のインドラ様がまったく原因に気づいていない。

私は一旦ベッドから下りてインドラ様から離れる。

「いったぁ……インドラ様は痛くないんですか?」

「…神は何も感じんが?」

「あ…そりゃそうか…」

「?」

このお方、雷神様だった。

そりゃ痛いわけないよな…。

静電気でダメージ受けてる雷神様とか見たくない…。

いやちょっとだけなら…見たいかも?

「…先程から、小さな雷が見えているようだが…神は何もしておらんぞ?」

「あ、それはもちろん存じ上げております。えっと今の現象なんですが…」

私は静電気について簡単に説明した。

雷と比べると威力は低い上にアンペアが低い(流れる量が少ない)から命に関わるほどではない。

ただ痛いから嫌なんだよねコレ…。

「というわけです。インドラ様からしたら、微弱すぎるので何も感じないんだと思います」

「………」

「インドラ様?」

「…………まあ、確かにその程度ならば神は視認できる程度であろうよ」

「インドラ様が放電したら痛いどころじゃ済みませんからね」

ただ静電気なら対策方法がある。

主に乾燥が原因なので肌や髪の保湿、そして部屋の加湿をするだけでもいくらか改善する。

天然素材の服を選ぶという対策もあるけど、礼装は仕方ないのでできる範囲でやってみよう。

ちなみに、静電気対策用のグッズを作ってもらうことも考えたけど…。

インドラ様の近くに行く度に、グッズのほうが壊れそうな気がする。

やめとこやめとこ。

まずは加湿機に水を入れ、電源をつける。

前に風邪引いたとき、スタッフさんから貰ったものがあってよかった…。

あとは体の保湿。

髪はミスト状の寝癖直しでいいかな?

保湿クリームもあるから、礼装着る前に体に塗っておけば多分大丈夫のはず。

…

…

インドラ様いるし、シャワー室で塗ろう…。

礼装と靴、保湿クリームを持っていそいそとシャワー室に入った。

〜10分後〜

うん、いいんじゃないかな?

洗顔の後の保湿もいつもよりしっかりめにして、気になるところはクリームを塗った。

支度をしてる間に加湿機が仕事してくれたから、部屋も少し潤ったように思う。

と、湿度が増した部屋を見渡していると、ずっと静かなままのインドラ様が気になった。

起きてはいるが、さっきからまったく動いていないような気がする。

「インドラ様?」

「…」

機嫌が悪い様子はない。

何やらぼんやりしているような?

まだ眠気が残っているのだろうか?

私はそばに寄り、ベッドに腰掛ける。

「インドラ様?どうしました?」

もう一度声をかけると、こちらを向いた。

すると、少し眉を顰めるインドラ様。

「…神に近づいてもよいのか」

「え?」

そう言うとまた視線を背ける。

え?何?

何か…拗ねてるような…落ち込んでるような…?

「…神が触れると痛むのであろう?」

「あ…」

ああああああっ!!

そういえばさっき静電気のあまりの痛さに…

『ちょっと触らないでもらえますか』って言っちゃった!!

ああああ!!馬鹿馬鹿馬鹿!!

仮にも神様だっていうのになんてことを…!!

「ご、ごめんなさいインドラ様!!たった今身支度してっ、対策してきたので、多分もう大丈夫だと思います!!先程のあれは確実に配慮のない言い方でした!!本当にすみませんでした!!」

インドラ様に体を向け、ベッドの上で土下座をするような形で頭を下げる。

冗談抜きで私はなんてことをしてしまったんだ…。

これは…神雷落とされてもおかしくない…。

そのうちヴァジュラたちも出てきて…

…

…

出て…来ない…?

どうしよう…頭下げたままだからインドラ様の様子がまったくわからない…。

インドラ様から「面を上げよ」と言われない限り頭上げられない…。

と…とりあえずインドラ様のアクションを待とう。

スッ

ん?

何かが動く音がした。

私は動いてないからインドラ様かな?

固唾を飲んで次の反応を待つ。

サラッ

「ッ…!」

あれ…?

髪を撫でられる感触…。

頭を下げたままの…私の髪を撫でている…。

んん?

どうしたんだ?この神様?

ただ、まだ頭は上げられない…。

「…その様子では」

「!」

インドラ様が口を開く。

「もう痛みはしないようだな」

「…え」

「いつまで頭を垂れている」

「え?」

「神の許しを欲するか?よかろう…面を上げよ」

「!!」

その言葉を聞き、ゆっくりと顔を上げる。

と、同時に腕を引っ張られる。

「ッ…!?」

トスッ…と何かに顔がぶつかった。

黒い服…インドラ様の胸元だった。

そのまま体に腕を回される。

「ん…いつも通りだな」

「…インドラ様?あの…私さっき…」

「触るなと言ったことか?あれは神を拒絶したわけではなく、単に身を守るために咄嗟に出た言葉であろう?」

「そ…れはそうなのですが…すみません、言葉を選ぶべきでした」

「痛みは防御反応だ。通常、人間の思考がそれを上回ることなぞ、そうあるはずもない」

「…でも」

「それに、だ…神が考え込んでいたのは先程の雷…いや、静電気と言ったか…そのことについてだ」

「?」

「我が雷は近年人間の生活に欠かせぬものとして重宝されていると聞く。それはよい、神への信仰が未だ続いているということだからな。だが先程の静電気…話を聞けば随分と人間どもに忌み嫌われている。お前の反応を見れば想像に容易い。が、人体の構造上避けられぬものでもある故…致し方ないようではあるがな」

あ、これもしや…

私がさっき静電気の説明をしたとき、乾燥する時期に悩まされる人が多いこととか、静電気の対策方法とかも一緒に話したから…

静電気(雷?)=人間に嫌われる

って認識して落ち込んでたってこと!?

確かにこの神様、電気(雷?)を生活に使われることは自分への敬意を忘れてないって認識だから、せっかく人間たちが生きるために使ってるのに、一方で忌み嫌われてるってわかったら、自分への信仰が減るんじゃないかって思ってもおかしくないよなぁ…。

静電気対策用のグッズ…

作ってもらわなくて本当によかった…。

そんなのつけてたらさらにこの神様落ち込ませるところだったわ…。

インドラ様…強いし頑丈だし静電気の痛みも効かないけど、言葉で傷つかないとは限らないんだなぁ…。

でも、確かに静電気は嫌がられても仕方ない。

だって、痛いもん。

ただ、静電気は悪いことだけじゃない。

「…静電気は、確かに痛いので…嫌がられているのは否定できません」

「…」

「でも静電気も…私たちの生活に役立っています」

「!」

静電気を使ったものは、私たちの身の回りに溢れている。

だからなくなると、かなり困る。

「だって、例えばこれ…」

私は、あまり動けない状態だが腕を伸ばし、ベッドの脇に置いてあるタブレットを手に取る。

英霊たちの霊基情報をまとめてあるものだ。

「このタブレット…指で触っただけで画面を動かせるのは静電気のおかげなんです」

「…これが、か?」

「はい。指先の静電気に画面が反応してるんです」

「…ふむ」

「あと、あそこにある印刷された書類もです」

デスクの上の書類を指す。

「印刷機から文字や図が印刷できるのは、インクを静電気で紙に写しているからなんです」

「…」

「もともと自然の力…自然神の力ですから、人間が使いこなすことができても簡単じゃないんです。本来力が大きすぎますから。未だに使い方を誤って事故が起きることもあります。でも、それで私たちの生活が豊かになっているのも確かです」

「…」

インドラ様は私の話を聞きながら、何かを考えているようだった。

静電気を使ったものはもっとたくさんあるけど、知識に乏しい私ではこの程度が限界だ。

でも、これだけは言える。

インドラ様が思っているよりもずっと…

雷のことカッコいいって思ってる人間、多いと思いますよ?

(※あくまで個人の見解です)

「…なるほどな」

と、ずっと黙っていたインドラ様が呟いた。

「つまるところ…人間たちが豊かな生活を求め続ける限り、この神への信仰は決して廃れぬ…というわけだな!ははははは!!」

上機嫌に笑うインドラ様。

なんか…間違ってるとは言えないなぁ…。

「豊かな生活…要は苦行とは無縁の生活ってこととも言えますしね」

「!…ああ確かにそう言えるな。ならば現代というものは神の力あっての人間たちの生活、ということになるわけだな!」

ふと呟いた私のひと言で、さらにご機嫌になるインドラ様。

厳密には、電気って雷とは似て非なるものなんだけどね。

だって雷って、威力が大きすぎて未だに人間の手に負えないから。

でも…まあ…いっか。

〜おまけ〜

「おや、マスター」

「あ、アルジュナ」

廊下を歩いていたアルジュナは、自身と契約した今を生きる人間…マスターと遭遇した。

ちょうどよかった…。

マスターに確認したいことがあったのだ。

「本日は体調に変わりはありませんか?」

「え?どうして?」

アルジュナは続ける。

「どうやら昨晩から艦内の空調に不備があったらしく…湿度が通常より下がっていたようなのです」

先程ネモから告げられた、ストームボーダー内の設備の異常。

すでに改善はされたそうだが、乾燥しやすい室内…マスターのような生身の人間では、風邪を引くリスクが上がってしまう。

「風邪を引きやすくなりますし、マスターの場合肌の乾燥も気になるかと」

「あー…だからか」

「何かありましたか?」

「いや、実は今朝…やけに静電気が起きやすいなって思ってたんだ…。部屋が乾燥してるのかと思って加湿機を使ったんだけどね」

「そうでしたか…」

やはり何かしら影響は出てしまう…か。

「あ…」

「どうしたの?」

ふとアルジュナは、以前貰ったあるものの存在を思い出した。

私はまったく使わないが、もしかしたらマスターのお役に立てるかもしれない…。

「申し訳ありませんマスター…しばらくここでお待ちいただくことはできますか?すぐに戻ります」

「え?うん」

自室にしまったままだったはず。

そう思ったアルジュナは、風のような速さで自室に戻って行く。

〜数分後〜

「お待たせして申し訳ありませんマスター」

「全然待ってないよ…大丈夫」

「恐縮です。それではこちらをマスターに」

「…これは?」

アルジュナが差し出したもの…それは赤みがかったピンク色の石だった。

チャームのようにチェーンがついている。

「何かの御守り?」

「はい、以前玉藻の前からいただいたものなのですが、まったく使う機会がなく…せっかくでしたらマスターにと思いまして」

「綺麗な石だね…どんな効果があるの?」

「はい、こちらは…」

「電気除けの呪術がかかっています」

「…え“」

「自身の毛皮が静電気で逆立つのを気にしていた玉藻の前が編み出したものだとか」

説明をしていて思う。

確かに彼女、坂田金時がそばに近寄るのを嫌がっていたな…と。

「玉藻の前の呪術ですから、効果は絶大かと」

「………」

「マスター?」

何故か引きつった、どこか気まずそうな表情で御守りを見つめているマスター。

はて…どうされたのだろうか…?

実はこの男…わざとではなく、完全に失念しているだけなのである。

マスターがよく関わる相手は電気…それ以前に雷と縁のある神…そして自身の父である雷神インドラだ。

この御守りはそんなインドラを完全に避ける、何なら軽く喧嘩を売ってしまってもおかしくない代物である。

そんなものをマスターに渡そうとしている事実…この男は何も気づいていない。

悪意があって渡すほうがまだマシだ。

幸か不幸か…差し出されたマスターはそれに気づき受け取るのを躊躇っている。

のだが…。

「まあ…もし必要なければ、捨てていただいても構いません。悪いようにはならないと思いますので、どうぞ」

「えっ…あっ…」

何故こういう時に限って父親譲りの強引さが出てしまうのか…。

受け取ろうとしないマスターの手を取り、御守りを握らせるアルジュナ。

悪いようにしかならないというのに…。

「では、私はこれで」

そう言うとマスターを放置…いや、マスターの横を通り過ぎて去っていくアルジュナ。

恐らくいい事をした気分なのだろう。

その足取りはかなり軽い。

この後インドラに見つかり、案の定御守りについて追及されるマスターと、贈り主が自身の息子であることを知り狼狽するインドラの姿など、欠片も知るはずもない。

END