余計なお世話にご機嫌な神
余計なお世話にご機嫌な神
「ちょっ…いたたたたた!!」
「何だ…この程度で音を上げるのか」
「痛いから!これ以上無理だから!」
トレーニングルームにて。
ピオ先生立ち会い&補助のもと、ストレッチをしていた私だったが…。
「話にならんな。何だその柔軟性のなさは」
ピオ先生から早々にため息をつかれる始末…。
「これでも、お風呂上がりに軽くストレッチはしてるんだけど…」
「効果が出ていないということは、正しい方法で出来ていないということだ」
「…そもそもだけどさ、何で体の柔らかさって人によって差が出てくるの?」
「主な原因は、幼少期の過ごし方にある。常に体を動かしていた者は、室内で静かに過ごしていた者よりも下半身…特に股関節の可動域が広くなるからな。可動域が狭いと、動かせる範囲が限られる分、他の部位に負担がかかる。特に腰を痛める者程、股関節の柔軟性がないことが多い」
「えぇ…小さい頃どう過ごすかなんて、意識して過ごせないでしょ…。しかも取り戻せないわけだから、私はもう体が固くなりやすいままってこと?」
「普段からストレッチを継続していれば、柔らかくはなる。だが、ここまで体が固いのならば怪我をしやすい傾向にあるというのに…もっと怪我をしてくれてもよかったんだぞ?その方が僕も暇をしなかったろうに…」
「医者が言うセリフじゃなさすぎる…」
「何を言う。僕は医者だぞ」
「知ってます。嫌って程知ってます」
思考がマッドサイエンティスト寄りなことに目を瞑れば、世界一のお医者様なのになぁ…。
「そもそも、それならピオ先生だって幼少期は本読んだりして静かに過ごすタイプでしょ?先生が英霊じゃなければ、体固い方だったんじゃない?」
「僕に愚かな神の血が流れていなければ、そうなっていたかもしれないな」
「あ…」
そうだ…先生って半神だった…。
「だが、柔軟性がなく碌に体を動かせないままの門下生を、あの先生が許すとは思えん。結局は地獄のトレーニングが待っていたはずだ」
「ケイローン塾怖すぎない?」
「僕の指導は、まだマシな方だぞ。力技で解そうものなら、それこそ怪我に繋がる。僕としては負傷してくれても一向に構わないが、医者としてアドバイスを求められれば仕方がない。医学の観点に基づいたメニューにはなっているから、安心しろ」
「先生…」
「不満があるのなら、ケイローン先生監修の…」
「アスクレピオス先生監修のメニューがいいですどうかご指導お願いします」
ケイローン塾のストレッチ?
想像すらしたくない…。
「なら結構だ…お前の端末にデータを送ってやる。暇があるときでいいが、継続はしろ」
そう言うと、ピオ先生は自分の端末を操作する。
すると、ピコンッと私の端末の通知音が鳴った。
データが送られてきたのだろう。
「医務室を空けてはおけんからな。僕は戻るぞ」
「うん、ありがとう先生」
トレーニングルームから出ていくピオ先生を見送った私は、端末を開いて送られたデータを見る。
「うわ…メニュー多っ…」
「えっと?ここで体起こして…あ、何かに掴まっててもいいんだ」
ピオ先生から送られたストレッチメニューを、とりあえずやってみることにした私。
今まで使っていなかった部位が刺激されて、伸ばされるような感覚がする。
程々にやる分には、痛くないストレッチ。
ちょっとした意識さえすれば、継続できそうなものばかりだった。
「ふぅ…」
ある程度のメニューを試しにやってみた私は、マットの上に座り込む。
程よい疲労…いや、逆に体がいい具合に解れて疲労が和らいだのかもしれない。
「あ、見つけたー!」
「…ん?」
少しマットの上でぼんやりしていた私の耳に、聞き覚えのある声が響き渡る。
「ああ…ヴァジュラ…」
「トレーニング中でしたか」
「うん、少し休憩してたところだよ」
「ほう…ここがトレーニングルームか」
「インドラ様!?」
「あれ?どうしたのインドラさまー?」
「お部屋でマスターをお待ちになるのでは?」
「なに、ただの気まぐれだ」
ヴァジュラたちの疑問を、軽く流すインドラ様。
どうやら、いつもは自分か私の部屋で待っていたところを珍しく移動してきたらしい。
トレーニングルームの中を見渡している。
「神には必要のないものではあるが…なるほど、人間たちがあくせく体を鍛えるにはふさわしいか」
そりゃあインドラ様は、生まれた時から完全体だったはずだし、神様からすればここの設備じゃトレーニングの内にも入らないだろうな…。
「それで?お前は何をやっていた?」
「体を解すストレッチをしていました」
「体を解す?そう重要なものか?」
「人間は体の柔軟性がないと、怪我をしやすくなりますから」
「そういえば、マスターの柔軟の補助をしたことがありますが、確かに少し押しただけで悲鳴を上げていました」
「へー。そんなに体固いんだー。キシシッ」
「確かに体固いけど、君の力もなかなかだったよ…」
子どもの姿に見えて、神性持ちの神具だからね。
あの時はそれなりに痛かったよ…。
「じゃ、ぼくも押してみよーっと!」
「は!?ちょっと待っ…いたたたた!!」
私の後ろに回った少女体のヴァジュラが、私の背中を凄い力で前に倒し始めた。
足を伸ばして座り込んでいた私は、必然的に長座体前屈の姿勢になる。
ちょっと待って…本気で待って…。
痛いってヴァジュラ!!
「えー?これ以上倒れないのー?」
「い、痛いって…そろそろやめ…痛い痛い痛い!!」
「おいヴァジュラ!そこまでにしておけ!」
「はーい」
見かねたインドラ様からストップがかかり、ようやく私から離れたヴァジュラ。
「何をそこまで痛がるかわからんが、そうまでして改善する必要があるのか?」
顔を顰めるインドラ様。
めちゃくちゃ痛がってた私を見たせいか、ストレッチに苦行判定を下そうとしているらしい。
「あ…あります!ちなみに、今のはかなり力ずくな解し方だったから痛かったんですけど、これをやり過ぎると却って怪我のもとになりますので、ピオ先生から課されたメニューは、無理なく出来るやつになってます」
「あの医神か。ならばそのメニューとやら、一度神に見せるがよい」
「あ、はい。これです」
私は端末をインドラ様に差し出した。
さっき私がやっていたストレッチメニューに、無言で目を通している。
「!」
すると、何かに気づいたらしく一瞬だけ目を見開いたインドラ様。
「どうしました?」
「…」
私の声にも反応しない。
そして、しばらくして端末を私に差し出してきた。
「…見たところ、人間が苦痛を覚える程の鍛錬ではなさそうだな。ならば無理なく続けるがよい。下手に怪我をされてはかなわんからな」
「はい…」
「夜は神の部屋に来い。よいな?」
「あ、わかりました…」
そう言うと、インドラ様はトレーニングルームから出ていった。
ヴァジュラたちも続いて出ていく。
さっきのインドラ様の反応が気になる…。
何か思うところがあったのかな?
疑問に思いながらも、ストレッチを続けていく私。
この後は夕食だし、シャワーを浴びたらお邪魔しようかな…。
〜数時間後〜
コンコンッ
「入れ」
扉をノックすると、中から返事が返ってきた。
プシューッ
「失礼します」
「…来たか」
アイラーヴァタに腰掛けているインドラ様。
その姿を確認し、部屋に足を踏み入れた…。
「やれ」
「「了解!」」
「えっ…!?」
その途端、インドラ様の合図でヴァジュラたちが私のもとへ飛んできた。
そして、私の体を二体がかりで抱え上げる。
「ちょっ…何!?」
「せーのっ…」
「うわっ!?」
ドサッ…とヴァジュラたちに放り投げられる。
落とされたのは、インドラ様のベッドの上。
履いていた靴も、ヴァジュラたちに脱がされた。
「インドラ様!?急になn…」
何するんですか、と言おうとした私だったが、仰向けに体勢を整えた瞬間、いつの間にかインドラ様がすぐ上で私を見下ろしていることに気づき、思わず口を噤む。
「先に聞いておく」
「?」
「医神から課された柔軟…いつまでやっていた?」
「え?」
ピオ先生の、あのメニューのこと?
えっと…ご飯食べてシャワー浴びた時間から逆算するから、確か…。
「…1時間前くらいまでは」
すると、それを聞いたインドラ様は不敵な笑みを浮かべ、私を見下ろす。
「ならばよい」
「…ッ!」
そう呟いた瞬間、私の唇を塞ぐ。
「ん…ッ…」
ぬるりと舌が侵入し、私の舌に絡みつく。
口内を犯されながらも、ふと先程の質問の意味を考える私。
ストレッチのメニューをいつまでやってたか?
何でそんなことを気にするんだろう?
と、考え事をしていると、唇が離れた。
「物思いに耽るとは…どうやら今宵は、随分と余裕があるようだな」
「えっ…いや、そうじゃなくて…」
「でなければ、何だという」
「…さっき、ストレッチのことを聞いてきたのが気になって」
「…ん?」
「?」
考え事の内容を正直に伝えたところ、どこか不思議そうに私を見つめるインドラ様。
「…まさかとは思うが」
「はい?」
「お前…あの医神から送られたものを、最後まで見ておらんのか?」
「え?」
ピオ先生からの、データ?
ストレッチメニューがずらっと並んでたけど、他に何かあったっけ?
「…ちょっと失礼します」
服のポケットに入れた端末を取り出し、メニューに目を通す。
やっぱり膨大な数のストレッチメニューだ…。
「ん?」
ストレッチメニューの一番下…よく見ると小さめの文字で何かが書いてある。
それを目で追っていくと…。
「…ッ!?」
思わず端末を落としそうになる私。
そこにはこんなことが書かれていた…。
『効果:股関節の可動域の広がり、血流促進、冷えの改善、それによる性感帯への感度上昇…etc』
「…ッ!!あ、の医神…ッ!!」
「何だ…やはり今気づいたのか」
インドラ様が何か言っているが、私は澄ました顔してさらっととんでもないことを書きやがったピオ先生への怒りに燃えていた。
いや、普段から神選ぶとかどうかしてるだの毒されてて手遅れだの好き勝手言ってくるくせして、何余計なこと書いてんだよ!!
次顔合わせたら、パリスからもらったアポロンぬいぐるみでも投げつけてやろうか!?
「おい、聞いておるのか」
「!?」
手に持った端末を、インドラ様に取り上げられる。
「神はてっきり、それを読んだ上で取り組んでおったものだと思っていたのだがな。神との褥の時間を充実させようとするとは、なかなかに健気な心意気ではないか」
「いや…その…気づいていなかったんです…」
「それは今理解した。理解はした、が…」
「…ッ!!」
私の服の中に、そっと手を滑り込ませてくるインドラ様。
「あの医神のことだ…書いてある『効果』は真実であろう?」
「!?」
「先程まで励んでおったのなら尚更だ。ならばその『効果』とやら…神がこの身を以てしかと確かめさせてもらうとするか」
「あ…ッ…ちょっ、インドラ様…ッ!」
こうして、いつもより調子のいい体のせいで、それはそれは上機嫌なインドラ様に、一晩中付き合わされることになる私なのである…。
〜翌日〜
「よくも余計なこと書いてくれたな!アポロンボールをくらえ!!」
「汚物を投げるな、愚患者が!!」
END