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不確かな想いは手元に宿る

Fate Grand Order インドラ&女夢主 — www.pixiv.net · All chapters

不確かな想いは手元に宿る

プシューッ

「やあ、マスター」

「あれ?ダンテ」

マイルームの自動ドアが開き、ダンテが部屋に入ってきた。

「おや、インドラ神もいらっしゃったのか」

「ん?お前か、物書き」

部屋の奥でくつろいでいたインドラ様は、顔だけをこちらに向ける。

「どうかしたの?」

「ああ、そうそう…これなんだけど」

用件を尋ねる私に、ダンテは手に持っていた包みを私に差し出した。

綺麗な包装紙で、丁寧にラッピングされている。

「これは?」

「フフ…遅くなっちゃったけど、この前のお礼に」

「お礼って…何かしたっけ?」

「したとも!私がインドラ神と会談する準備を手伝ってくれたじゃないか!」

「え?あー…あれか」

そういえば以前、インドラ様とダンテが話す場を設けた時に、インドラ様をもてなすための準備を手伝ったことがあった。

そのお礼を、わざわざ用意してくれたらしい。

「何がふさわしいのか、まったく思いつかなくてここまで日が延びてしまったけど、あの時は本当に助かったよ。ありがとう、マスター」

「こちらこそ、ありがとう」

気の利く男だな…。

ただ、それをインドラ様の目の前で受け取るのは大丈夫なんだろうか?

ちょっと心配になって様子を伺ったが、こちらに見向きもせずにくつろいでいたため、どうやら特別気には留めないらしい。

「女性陣の意見を聞きながら選んだけど、気に入らなかったら処分してくれても構わないからね」

「え、いや処分って…とにかく、ありがとね」

「フフ…じゃあ、私はこれで」

そう言うと、私とインドラ様に軽く会釈して部屋から出ていった。

見送った私は、渡された包みを見つめる。

とりあえず、開けてみるか…。

デスクに包みを置き、包装を剥がして中身を確認してみる。

中に入っていたのは…

「…ネイル?」

たくさんの色が詰められた、ネイルセットだった。

下地や除光液、保湿クリームやトップコート、爪磨きまで一緒に入っている。

「何だそれは?」

「わっ…!?」

急に真後ろから聞こえてきた声。

振り向くと、インドラ様が見下ろしていた。

「化粧品の類でしょうか」

「なんかヤスリみたいなのも入ってるねー」

とりあえず、爪の手入れとお洒落のための道具だと説明する私。

「なるほど。爪紅というやつか」

「あ、そうです」

「ふーん。確かにマスターって、爪に何もつけてないもんねー」

「身嗜みを整えるには、欠かせないものですね」

ヴァジュラたちの言葉に、私は自分の爪を見る。

怪我をしないように、短く切り揃えてはある。

でも、恐らく保湿が足りていないのだろう…表面に皺が出来ていて、お世辞にも綺麗とは言えない。

でもなぁ…爪の手入れってしたことないんだよな。

それに何より…。

「…手に怪我を負いやすいからという理由で、使わずにしまい込むつもりではあるまいな?」

「…ッ!?」

心の中で考えていたことを、見事にインドラ様に見透かされてしまう。

「お前…あの物書きの気遣いを無下にする気か?」

「…ッ」

インドラ様にジトッ…と睨まれる。

「何度も言わせるでない。身嗜みもお前の責務のひとつだ。ましてや手元というものは、その者の品性が表れる箇所だ。手入れの行き届いていない粗末な品性を、道行く者に見せびらかしていることと同義であるぞ」

「そーそー。インドラさまのそばにいるのを許された、ありがたーい立場にいるんだぞー?」

「インドラさまが連れ従える者であれば、身嗜みの手抜きなど、もってのほかです」

「…はい」

インドラ様とヴァジュラたちから説経される。

おまけに、私が行動に移すまで見張っているつもりらしく、もうこうなったらやるしかない。

私は諦めてパッケージを開け、道具をひとつずつ取り出していく。

手入れの方法が書かれた説明書を見ながら、順番に進めていく。

手を洗って水気を綺麗に拭き取ったら、ヤスリと爪磨きで爪を整える。

保湿クリームを塗って、その上から下地を塗る。

爪の手入れだけなら、ここまででも十分らしい。

皺が目立っていた爪は、健康的な薄いピンク色のままでも艶を放っている。

だが、せっかくなら色を乗せてみたい。

何色にしようかな…?

下地が乾くのを待ちながら、色とりどりのネイルを見つめる私。

「もう終わったのか?」

私がぼんやりとしていたのを見て、もう終わったものだと思ったインドラ様が近づいて来たのだが…

「何だ…まだではないか」

私が色を塗っていないのを見て、顔を顰める。

「いや…今、下地が乾くのを待ってるんです。爪の手入れだけなら、これで終わりではあるんですが…」

「…まさかとは思うが、それで終わらせるつもりではあるまいな?」

「違います!ただ、何の色を塗るか迷ってて…」

「ふむ…色か…」

デスクに並んだネイルを見つめるインドラ様。

私はふと、インドラ様とヴァジュラの爪のことを思い出す。

確かインドラ様って、普段は手袋をしてて見えないけど、黒い爪してたよな…。

素なのかネイルなのか、わからないけど…。

あとヴァジュラたちは、実は爪の色は着ている服の色とは違う。

少年体ヴァジュラの爪は緑で、少女体ヴァジュラの爪はピンク。

お互いの色を、入れ替えたようなカラーリングだ。

「………」

と、インドラ様がひとつのネイルを手に取った。

青いネイルだ。

それを手に持ちながら、またじっと見つめる。

そして…

「…これを塗れ」

「あ、はい…」

私に差し出してきた。

それを受け取り、ネイルをよく見ると『ロイヤルブルー』と書かれていた。

ロイヤルブルー…高貴な身分の象徴だ。

神々の王であるインドラ様には…まあ、確かにふさわしい色ではある。

ただ、もらったネイルの中には『スカイブルー』も入っていたので、独断と偏見でインドラ様はこれを選ぶんじゃないかと思っていた。

見事に予想が外れた…。

まあ、でも綺麗な色だし…いいか…。

私はキャップを開け、ロイヤルブルーのネイルを丁寧に爪に乗せていった…。

「よし…」

まずは片方の手を塗り終えた。

もう片方の手は、乾かしてから塗ることにした。

随分昔…マニキュアを塗った直後の手で、もう片方の手を塗ろうとして、乾いていなかったマニキュアが指に移り、おまけに塗った箇所にムラが出来るという失敗をしたことがある。

同じ轍は、踏まない。

「見せてみろ」

インドラ様が近づいて来て、ネイルを塗った私の手見つめる。

「…」

「どう…でしょう?」

「…ま、悪くはなかろう。もう片方はどうした?」

「こちらの手が乾いてからにしようかと」

「…」

パチンッ

「?」

突然、指を鳴らすインドラ様。

「乾いたぞ」

「え…あ、本当だ…」

こんなところで神様パワー使わなくても…。

まあ、せっかく乾かしてもらったし…。

ありがたく、もう片方の手も塗らせてもらうことにした私。

「…そういえば」

「何だ」

ネイルを手に取ったところで、素朴な疑問をぶつけてみる。

「どうして、このロイヤルブルーをお選びになったんですか?」

「…気になるか?」

「それは、まあ…」

「…お前は、何故だと考える?」

「え?えっと…」

逆に聞き返されてしまったが、私は素直に考えていたことを口にする。

「ロイヤルブルーは、高貴さの象徴なので…インドラ様もそれを好んでいるのかな…と」

「ほう…高貴さの象徴か…なるほど」

「…え?もしかして、初耳でした?」

「今初めて聞いた。まあ…ならば悪くはないか」

どうやら、高貴な身分の象徴だから…という理由ではなかったらしい。

じゃあ、どうしてだろう?

「…厳密には、その色ではないのかもしれん。そこにある爪紅から、一番近い色を選んだだけだからな」

「一番…近い色?」

何に近い色なんだろう?

「…お前は幾度か目にしている」

「えっ…」

何度か…目にしている?

ダメだ…確かにいろんなところで目にしてはいるかもしれないけど、わからない…。

「はぁ…ま、神は知らずとも一向に構わんが」

「えー!それはダメだよー!」

「教えないのは、非常にもったいない」

「マスターも気づかないとか、鈍すぎー!」

「インドラさまの、威光に関わることですよ?」

「えぇ…」

何故か抗議するヴァジュラたち。

そして、ついでに責められる私。

抗議を受けたからか、渋々口を開くインドラ様。

「………記憶に残すことは、許した」

「…ッ!?」

そのひと言を聞いて、私は思い出した。

『記憶に留める程度なら、許してやろう』

かつてインドラ様から言われた言葉…。

それはインドラ様が、本来ならば他者に見せたくないと常日頃から言っていたもの…。

「……あの姿…」

「………そうだ」

インドラ様の、第三再臨の姿。

その衣装に使われている青は、今まさに私が塗ったネイルの色だった。

インドラ様が言った通り、厳密には少し違うのかもしれないが。

「………」

真相を知った私は、暫し呆然としていた。

インドラ様が嫌がっている、あの姿を彷彿とさせる色を、どうして私の爪に塗らせたんだろう?

だってそんなの、私の手を見る度に思い出しちゃうんじゃないの?

それとも、もしかしたら…。

「…ッ」

まさかとは思うけど…。

自惚れって言われても仕方ないけどさ…。

たとえあの姿を彷彿とさせる色でも、私がつけているなら、それでもいいって思ってくれた…とか?

それか…インドラ様の中で、あの姿を他者に見せるハードルが、少し下がったから…とか?

…

…

いや、わからない…。

わからないんだけどさ!!

「………」

インドラ様が何も言わないから、そう思っちゃっていいんだよね!?なんて考えちゃうんだよ!!

例えばだけど、ヴァジュラたちのカラーリングのネイルを選ぶとかなら、まだわかりやすいチョイスだなって思えたのに…。

もし、私のこの考察…いや妄想が本当なら…

人間ひとりにぶつける感情、明らかに重すぎませんかインドラ様!?

「…何をしている。さっさと塗らんか」

「あ…はい…」

インドラ様に催促された私は、すっかり忘れていたもう片方の手にネイルを塗っていく。

塗り終わったと同時に、インドラ様がまた指を鳴らして乾かしてくれたので、仕上げのトップコートを上に重ねていく。

そして両手を見た私は、ふと考える。

常に『この色』が目に入ると、さっき考えたことがずっと頭から離れないじゃん…。

他人の目につく以前に、自分の視界に入ってくることを塗り終わった後に気づいた私は、しばらく自分の手元に不確かな想いを宿したまま過ごすことになるのであった…。

END