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かぐわしく香る執念

Fate Grand Order インドラ&女夢主 — www.pixiv.net · All chapters

かぐわしく香る執念

「い、今…何と言いました…?」

「何って…」

震える声が、私に問いかける。

「何だかとても…聞き捨てならない言葉が聞こえたような気がしました…」

「………」

「もう一度…聞きますね?」

「はい…どうぞ」

「薔薇のお酒があるなんて…それは本当ですか!?」

「うん…本当だよ?」

シミュレーター内の、フローラの花畑にて。

フローラと雑談をしていた私だったが、華やかに咲き誇る薔薇を見て何気なく話題に出したものに、フローラが過剰反応した。

薔薇のお酒…正確にはローズリキュールのことだ。

薔薇の花びらから作られるもので、薔薇の華やかな香りと酸味が特徴のお酒だ。

私は飲んだことはないが、ローズリキュールをアイスクリームに垂らしたものなら食べたことがある。

アイスの甘みと、リキュールの酸味が相性抜群だ。

「薔薇を…お酒に…」

しかし、フローラからすればかなり衝撃的な内容だったらしい。

薔薇がお酒にされるまでの工程は、花の女神としてはいたたまれないものなのかもしれない。

話題にしていいものでは、なかったかも…。

「何て…何て素敵なお酒なのでしょう!?」

「えっ?」

「マスター、そのお酒…このカルデアでいただくことは出来ますか!?」

「えっ…あー…モリアーティのバーに行けばあるかもしれないけど…」

「なら行きましょう!ぜひこの目で見て、味わってみたいです!」

「あ、うん…」

私の予想とは裏腹に、フローラはローズリキュールに興味津々らしい。

顔と手についた土を拭き、私の腕を掴む。

「さあ、参りましょう!」

やる気に満ち溢れたフローラに、引き摺られながらバーに向かう私。

そういえばこの女神様、酒好きなんだっけ…。

酒好きの神様がすぐ近くにいるせいで、すっかり忘れてたよ…。

「こちらが、ご注文のローズリキュールだ」

「まあ…鮮やかな色…」

モリアーティが、カウンターに座ったフローラの目の前にグラスを置く。

「それに…薔薇のいい香りがしますね…」

「ダマスクローズを使ったものサ。君に合わせてイタリア産のものを使ってみたのだが…いかがかな?」

「そうなんですね!とても美味しそうです!」

「…」

「マイガールも、1杯いかがかネ?」

「あ、私は大丈夫…」

グラスを手に持ち、見た目と香りを楽しんでいるフローラ。

その目はキラキラと輝いている。

機嫌を害さなかったのは、よかった…。

けど、何だろうなぁ…。

さっきの私の杞憂を返して欲しい気分にもなる…。

「では…いただきます」

グラスに口をつけ、リキュールを一口飲む。

「はわわぁ……程よい酸味、それに濃厚な薔薇の香りがします…」

恍惚とした表情のフローラ。

「気に入ってもらえて、何よりだ」

満足そうに頷くモリアーティ。

「私から言い出しておいてなんだけど…花を食品や嗜好品に使ってるから、もしかしたら気分を悪くするかもしれないって思ってたんだ」

「そうだったんですね…。ですが、今ではお花は食べ物や飲み物、薬にまで使われていますから、今更私が気にすることではないんです。お花を加工している現場は…ちょっと見るのはつらいんですけど…」

「もう完成されたものなら、大丈夫なんだね?」

「はい!何より、こんなに美味しいお酒があるとは思いませんでしたから!」

「ちなみに、ソーダ割りやミルク割りもお出しできるが、どうするかネ?」

「いただきます!」

「…」

フローラって、かなりの酒好きなんだな…。

花のバーサーカーの一面しか見てなかったから、ちょっと新鮮かも…。

「マイガールは本当にいらないのかネ?」

モリアーティが勧めてくれるが、今この場で飲むわけにはいかない。

「うん。でも、もしよかったら…」

私のお願いを聞いたモリアーティは、そういうことかと納得した表情をする。

そして、棚から一本の瓶を取り出した…。

コンコンッ

「インドラ様…いらっしゃいますか?」

フローラをバーに残し、私はインドラ様の部屋を訪れていた。

フローラを残してきて大丈夫かって?

大丈夫、まだ楽しそうに飲んでるから。

「………」

部屋の中から返事は聞こえない。

留守か…もしくは気分が乗らないか…。

仕方ない、日を改めよう…。

そう思ってドアに背を向けた瞬間…。

プシューッ

「!」

突然、自動ドアが開く音が聞こえた。

後ろを振り向こうとした私だったが…。

「…ッ!?」

いきなり後ろから羽交い締めにされ、部屋の中に引き摺り込まれた。

廊下の景色が遠ざかり、プシューッ…とドアが閉まる…。

「………」

目の前には、閉ざされたドア。

私の体には、後ろから長い腕が回っている。

私は腕の主に、そっと声をかけてみる。

「…インドラ様?」

返事はない。

だが、雰囲気で何となくわかる。

あまり機嫌がよろしくないらしい…。

「…先程」

「!」

暫しの沈黙の後、後ろから声が聞こえてきた。

「花の女神といたな?」

「…はい」

ヴァジュラの巡回によって知らされたのか、インドラ様自身が居合わせたのか…。

「…酒場へ行ったようだな」

「…はい」

「…ッ」

「…ッ!?」

一瞬息を呑むような音が聞こえたかと思うと、急に腕の力が強くなった。

少し苦しいし、痛い…。

「…以前お前に言ったはずだが、忘れたのか?」

「ぅ…ッ!!」

さらに強まる力に、腕が回っている肩や胸元がより苦しくなってくる…。

「他の神と酒を酌み交わすことは、決して許さんと言ったはずだが?」

淡々と…静かに話していたインドラ様の声に、徐々に怒りが混じってきた。

「…何か、言い分はあるか?」

「…ッ!!」

インドラ様の声に、冷たい汗がじわりと滲む。

一見、ただ申し開きを許可してくれただけの言葉のように思える。

だが、先程怒りが混じったばかりの声に、一気に抑揚がなくなったのを感じた私は、直感でわかった。

これは…

最終通告ってやつだ…。

本気でヤバいと思った私は、何とか口を開く。

「…飲んで、いません」

「…何?」

「フローラと…モリアーティのバーに行ったのは間違いありません…。でも私は、ただフローラに付き添っていただけで、お酒は一滴も飲んでいません」

「…」

私の弁明を、ただ黙って聞いているインドラ様。

「インドラ様がおっしゃったように…他の神様とお酒を飲むなと言われていましたから、あの場でお酒は飲んでいません」

そう。

私が何も飲まなかったのは、神様であるフローラが一緒にいたからだ。

それにはちゃんと理由がある。

以前、私はインドラ様に神道における御神酒の話をしたことがあった。

『神様にお供えしたお酒(御神酒)をいただくことで、神様と絆を深める意味合いがある』と。

それを聞いたインドラ様は、私が用意した酒を簡易的な御神酒として、私に飲ませた。

『絆を深める神は神だけでよい』と言いながら。

私はそれを忘れてなんかない。

いや、忘れられるわけがない。

すると、体に回っていた腕の力が弱くなってきた。

「…おい、ヴァジュラ」

「はい」

「なにー?」

姿を現すヴァジュラたち。

「こいつが女神と酒を酌み交わしていた、という報告は何だったのだ」

「バーに入ったところまで見ましたので」

「これはもうアウトだなーって」

「…こいつから酒の匂いはない。ただ付き添っていただけ…という言い分に偽りはない。つまり、お前たちの報告は早とちりだったということだ」

「大変失礼致しました…」

「ごめんなさーい…」

「はぁ…脅かすでない」

謝罪するヴァジュラたち。

呆れてため息をつくインドラ様。

じゃあ…何?

私、ヴァジュラたちの早とちりで人界とさよならするところだったってことですか?

…

…

せっかくさっきのローズリキュール、インドラ様へのお土産にって持って来たのに…。

「…」

もう知らない…かーえろっと…。

インドラ様の腕から抜け出して、目の前のドアを開けようとする私だったが…

「おい、どこへ行く」

またしてもインドラ様に捕まってしまう。

が、不貞腐れた私の心は無敵だった。

「だって…せーっかく美味しそうなお酒もらって来たからインドラ様に差し上げようと思ったのに拘束されて変な疑いまでかけられたものですからいくら神様相手でもそこまでされたらそんな気が失せてしまったといいますかそもそも私のこともっと信用…」

「あー、わかった…神が早計だった。拗ねるでない」

「断じて飲んでませんけどフローラと飲んだかもしれないこのお酒だって見たくもないでしょうから私がさっさと引き取りますので」

「何故そうなる!?お前は飲んでいない…それはたった今理解した。神に捧げる酒ならば、神が受け取らん道理はどこにもなかろう。寄越せ」

「じゃあヴァジュラに預けますね…はい、では私は部屋に戻りますので」

「だから待てと言っている。わざわざ神の部屋を訪ねて来た…ならば、そう容易く帰すわけがなかろう」

「………」

「はぁ……何が望みだ?」

「…このお酒、アイスにかけて食べると美味しいんですよね」

「…ヴァジュラ」

「「了解!」」

部屋から飛び出していくヴァジュラたち。

「…神をここまで使うとは、いい度胸だ」

「たったひとつの誤解で、私は人界にいられなくなるところだったんですよね?」

「…もうその話はしてくれるな」

つまり誤解が解けなかった場合、本当に私は…。

先程感じた嫌な予感が、勘違いでもなんでもないと証明されてしまったな…。

「…ところで、この酒は何だ?」

「薔薇から作られたリキュールです」

数分後、ヴァジュラたちが持って来てくれたバニラアイスにリキュールを垂らし、美味しそうに食べる私。

そしてリキュールを味わいながら、どこか安心した様子で私を見つめているインドラ様なのであった…。

〜おまけ〜

「おや?これは?」

食堂に来たアルジュナは、デザートメニューに見慣れないものを見つけた。

「ああ、つい最近要望があってな。アイスのトッピングに薔薇のリキュールをつけることが出来る」

「ほう…」

エミヤからの説明を聞いて、物珍しそうにメニューを見つめるアルジュナ。

「ん?リキュール…というと、お酒ですか?」

「ああ。酒が苦手な者や子どもたちは、薔薇のジュレに変更できるぞ」

「そうでしたか。私はお酒を嗜まないので…ではジュレに変更して、ひとついただけますか?」

「了解した」

注文を受けたエミヤは、厨房の奥に引っ込んだ。

それにしても…。

再びメニューを見返すアルジュナ。

薔薇の花を酒にするとは、何とも洒落たものを思いつくものだな…。

要望があったと言っていたが…まさかインドラ神だったりするのだろうか?

(A:フローラです)

「待たせたな」

と、アイスの器を持ってエミヤが戻ってきた。

「ありがとうございます」

受け取ったアルジュナは、近くの席に着く。

鮮やかな赤いジュレがかかったバニラアイスを、スプーンで掬い…口に入れる。

「!」

口に入れた途端、薔薇のかぐわしい香りが鼻を通り抜けていく。

ジュレ自体は僅かに強めの酸味だが、バニラアイスの甘さと非常によく合う。

確かに、これは癖になるな…。

インドラ神が要望を出したのにも、納得がいく。

(※フローラです)

「薔薇のリキュール?」

「ああ、最近要望があってな」

と、エミヤの声とともに聞き覚えのある声が耳に入ってきた。

思わず厨房の方向に、顔を向けるアルジュナ。

「酒が苦手なら、ジュレに変更も出来るぞ」

「…いや、リキュールの方をいただこう」

「承知した」

自身の宿敵、カルナ。

わざわざ確認しなくとも声でわかるのだが、アルジュナとしては反応せずにはいられない。

「待たせたな」

「…既に薔薇の香りがするな。いただこう」

薔薇のリキュールがかかったアイスを持ち、席に着こうとしたカルナと、目が合った。

「…アルジュナか」

「…何故こうもタイミングが重なる」

よく鉢合わせるこの男には、ため息しか出ない。

「ん…お前は酒にしなかったのか」

「…そうだが」

アルジュナの器を見たカルナは、すぐそばにあった椅子に腰掛ける。

隣でこそないが、アルジュナの近くではある。

それ以上は何も言わず、自分のアイスに手をつけていくカルナ。

すると、近くの席だからなのか…薔薇のリキュールの香りがアルジュナの方にも漂ってきた。

「ふむ…美味いな」

感心するカルナ。

(…いい香りだな)

漂う香りを、こっそり楽しんでいるアルジュナ。

すると、カルナがそれに気づいたらしい。

「お前は、酒が飲めないのか?」

(訳:このリキュールは、とても香りがいい。酒が飲めるなら頼んでみるといい)

「は?」

カルナの言葉に、何かがプツリと切れたアルジュナ。

「酒くらい飲めるが?普段は嗜まないだけだ」

「そうか。ならば仕方ない」

(訳:酒を嗜まないようにしているのなら、無理に勧められないから仕方ない)

「…ッ!?」

アルジュナの反論に返ってきた、涼しげな言葉。

それにさらに苛立ちが募るアルジュナ。

「…馬鹿にしているのか?」

「馬鹿にする理由がない」

(訳:馬鹿にする理由がない)

「どこまでも煽る気か貴様…」

アイスを頬張りながら返すカルナに、ますますアルジュナの怒りのボルテージが上がっていく…。

「急いだ方がいいと思うが?」

(訳:食べかけのアイスが溶けてしまうので、早く食べた方がいい)

「急ぐ?そうか…ならお望み通り…」

アルジュナは立ち上がり、先程から握りしめていた拳を振り下ろそうとした…。

それに気づいたカルナは、拳を受け止めようとした…

はずだった…。

ドンッ!!

「「!?」」

突然、二人の間のテーブルに何かが置かれた。

「待たせたな…二人とも」

エミヤが勢いよく置いた、それは…

「「…かき氷?」」

特大サイズのかき氷だった。

フルーツやアイスが盛りに盛られた、少なくとも全長1mはあるだろう巨大なかき氷が…二人分。

「最近暑くなってきたからな…君たちのように、熱が入りやすい者たちにはぴったりだろう。そんなに争いたいのならば、これをどちらが先に完食出来るか…競ってみてはどうだろうか?少なくとも、下手に暴れられて食堂が壊されてしまうよりは遥かに!!マシだからな」

「「………」」

「なに、心配するな。体が冷えないように温かい飲み物は運んでやる」

にこやかに見えるエミヤの背後から溢れ出ている膨大な怒りに、思わずたじろぐ二人。

「ちなみに、アルジュナとカルナ…この二人が超特大かき氷の早食いで対決すると、たった今英霊たちの端末に一斉通知をした」

「「!?」」

「君たちの関係者にも伝わっているはずだ。マスターやインドラ神にもな」

「なっ…!?」

「ドゥリーヨダナに至っては、真っ先に返信してきたぞ?シミュレーターで鍛錬中だったようだが、放り出してでも観戦しに来るらしい。アシュヴァッターマンも一緒にな」

「!?」

「あ、アスクレピオスも来るって。救護係は必要不可欠だ…って返信来たよ」

「俺のとこにも返信が来たが、ラーマやパールヴァティ様やガネーシャ神まで来るらしいぞ?当然、俺はお前を応援してるからな、アルジュナ!…何かヴリトラも来るらしいが、インドラ様がいるから、まあ大丈夫だな!」

「「………ッ!!」」

にこにこ顔で出てきたブーディカとビーマ。

そして、何やらざわざわと騒がしい声が、食堂に近づいてきている。

逃げ場はない…。

そう悟った二人の顔は…

思いの外暗くなかった…。

「やるしかないようだな」

「ならば潔く挑むまで。勝たせてもらうぞ」

「それは…こちらのセリフだ」

そこは戦士たち…勝負の場を設けられれば、戦う以外の選択肢はないというもの。

食堂に集まってくる英霊たち。

親しい者たちに見守られながら、何かよくわからない経緯で始まった二人の戦いの火蓋が今…切られようとしていた…。

「よい子は決して真似してはいかんぞ?英霊であるアルジュナとカルナだからこそ、出来る芸当だからな?」

END