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どうか夢幻のままで

Fate Grand Order インドラ&女夢主 — www.pixiv.net · All chapters

どうか夢幻のままで

「…ッ!?」

目を開けた私は、そこに広がる光景に息を呑む。

「…綺麗」

思わず零れ出た言葉。

それもそのはず…先程までマイルームにいた私は、とてもきらびやかな部屋に立っていたからだ。

そこは広々とした、白を基調とした部屋。

壁や床、柱といった建物の造りは白い大理石。

壁の装飾に散りばめられているのは、おそらく瑪瑙…クォーツだ。

部屋の真ん中には、大きなベッド…一般的なキングサイズよりも遥かに大きい。

上を見上げると、吹き抜けの天井。

ここは外から見れば、縦長の塔のようにでもなっているのだろうか?

どこまでも高い天井…上の方まで行けば、窓がいくつもついている。

「気に入ったか?」

部屋の中に響き渡るのは、インドラ様の声。

だがその姿は、この中には見当たらない。

「…あんなに高いところに、窓があるんですね」

「外の景色を見ることは出来る。壁に階段がついているであろう?登ってみろ」

壁を見ると、確かに階段のような足場がある。

壁一面をぐるりと回るようについていて、大きな螺旋階段のようだ。

言われるがまま、壁の階段に近づく。

ひた…ひた…と、裸足の足が床を歩く音が響く。

そして階段に足を乗せ、上へと進んでいく。

ひたすらに長い階段。

なのに疲れを一切感じない。

そして一番近い窓に辿り着き、外を見てみる私。

「…ここは、空の上ですか?」

「当然だ。神が用意したものだからな」

窓から見えるのは、どこまでも続く青空。

手を伸ばすと、透明な何かに触れる。

でも、不思議だ…。

この窓からは、明らかに心地よい風が吹き込んでいるというのに…。

この、見えない何かは何だろう?

「外の風は入ってくる。だが、窓から体を外に出すことは叶わん。当然であろう?」

「…」

インドラ様が何を言いたいのかを察した私は、黙って体の向きを変え、階段を下りていく。

一番下まで下りた私は、かねてから疑問だったことを尋ねる。

「ここには、死ぬまで閉じ込められるんですか?」

「案ずるな。死にはせん」

「!?」

「その部屋に入った者は、老いることもなければ死ぬこともない。もちろん病に倒れることも、腹を空かせることもだ。とは言うが、神のように食を栄養摂取ではなく、嗜好のひとつとしてもよい。欲しいものがあるのなら、与えてやる」

「…」

この部屋の正体…それは、私がインドラ様からの言いつけを破った暁に閉じ込められる空間だ。

以前から口酸っぱく言われていた『自分以外の神に心を奪われたら容赦はない』という約束。

それを破ってしまった場合、私はどうなるのか…。

インドラ様に聞いてみたところ、私の夢の中に潜り込んで実際に見せてくれたのだ。

「ま、今の神は英霊の器だ。加えて、お前の夢の中にこいつを再現しただけに過ぎん。今のお前が不老不死になることはない」

「…」

「欲しいものは与えてやる…だが、ここから外に出すことは許さん。ここはいわば結界…干渉出来る者は神を除いて他にはおらん。お前に出来ることは、ただこの寛大な寵愛を甘んじて受けることだけだ」

「…」

「見たであろう?お前の一挙手一動は、すべて神には筒抜けだ」

確かに、見た。

壁と天井…そこについている『無数の目』を…。

あれで私の行動を、常に見張っているのだろう。

「案ずるな。ひとりで過ごせとは言わん。神が定期的に顔を出してやる。…このようにな」

言い終わった瞬間、私のそばに現れるインドラ様。

「さて…事前に教えることは、これで以上か?」

「…あとひとつ」

「何だ?」

目の前のインドラ様を見上げて、尋ねる。

「もし、私がここに入れられたら…人界にいる私の家族や友人たちは…」

「ああ、それなら心配するな。お前の存在は、人間たちの記憶から徐々に薄れ…やがてはなくなる」

「…」

「残された者が自分を捜し回る…それは当然の杞憂であるからな。望むのなら、お前の記憶からも消してやることは出来る」

「…」

「こんなところか?そろそろ戻るぞ」

「…はい」

…

…

「…ッ!」

「ん?目が覚めたか」

目を開けると、私を見下ろすインドラ様の姿…。

私は寝ていた体を、ゆっくりと起こす。

「しかし…お前から『人界から連れ去られたらどうなるのか』と切り出したのには驚いた。だが、言いつけを破った暁に待ち構えている己の罰を、事前に知っておくことには意味はある」

「…」

「当然、お前が望んで『あの部屋』に入ることも出来はするが…今後は、よく考えることだな」

酒のグラスを傾けながら、私を見つめて話を続けるインドラ様。

「この神々の王に嫁ぐ道を選ぶか、神に見守られながら人としての生を生きるか…先程の部屋に閉じ込められながら、神の寵愛を受けるか…それは好きに選ぶがよい。神はどれでも構わん…神が許さんのは、神と結んだ縁を捨て去ることと、その縁がありながら他の神にうつつを抜かすことだからな」

「…よく考えておきます」

「…ならばよい」

今回、インドラ様に実際に見せてもらって思ったことがある。

それは…

やはり、神様は怒らせるべきではないということ…。

『あの部屋』は入った者を不老不死にする、そして唯一の脱出口になりそうな窓は、内側からは干渉が出来ないようになっていた。

それは、物理的に逃げ出すことが不可能…死んで逃げ出すことも不可能だということ。

仮に死んで逃げられたところで、天界の主であるインドラ様から逃げられるわけがない。

怪しい行動が出来ないよう、たくさんの『目』も見張っている。

それに…つい先程気づいたが、インドラ様は『私の夢の中に再現した』と言った。

『創り上げた』のではなく『再現した』と…。

つまり、すでにどこかに存在するのだろう。

たとえ神様だろうと干渉出来ない『あの部屋』が…。

インドラ様の判断ひとつで、私を簡単に放り込めてしまえるというわけだ。

あとは何よりも、インドラ様が最後に教えてくれたことだ。

『あの部屋』に閉じ込められば、家族や友人の記憶から私の存在がなくなる…と言った。

恐ろしいのは、インドラ様からすれば『慈悲』だということ。

残された家族たちは、いなくなった私を心配して捜し回るだろうし、一生戻らない私への懸念を抱いたまま生を終えていくはず…。

ならば、忘れてしまえばよい…と。

つまり、神様の視点では善意でしかないのだ。

閉じ込められた私が不老不死になるのは、不老不死の自分の相手をさせるのなら当然だということか…。

もしくは、言いつけを守らなかった私への『罰』のつもりなのか…。

「………」

まあ…どのみち不老不死になろうが、私は死んだも同然だろうな。

だってそうなれば私は、私を知る人たちの記憶から存在が消されてしまうのだから。

人は、死んだら誰かの記憶の中でしか生きられない…という言葉を聞いたことがある。

私の存在が記憶から消えた人たちからすれば、私は死んだも同然だ。

あのきらびやかな牢獄の中には、自由以外のすべてが存在する。

でも、どうかそれは夢幻のままでありますように…。

隣にいる神様の存在を感じながら、密かにそう思う私なのであった…。

〜おまけ〜

「で?調子はどうだ?」

「大分よくはなりました…」

「お前の処方薬のおかげだ」

医務室にて…アスクレピオスの診察を受けるアルジュナとカルナ。

「よくはなったのですが…あの…」

「何だ?何か気になることでもあるか?」

「いえ、その…何故カルナとまとめて診察なのでしょうか?」

「オレも疑問ではあった」

「決まっている。お前たちは、超特大かき氷の早食いなどというふざけた原因で、胃薬を処方することになった愚患者同士だからだ。僕の手間を無駄にかけさせないで欲しいところだ」

「「………」」

そう…この二人が医務室を訪れた原因は、数日前に開催された超特大かき氷の早食い対決に挑み、二人仲良く胃を悪くして医務室に運び込まれたこと。

それなのに、まさかの同着フィニッシュという、結局勝負がつかない結果となった。

そして、その日は丸一日医務室で安静…その後薬を処方されて経過観察に至るというわけだ。

「いや、それは確かに…ぐうの音も出ない正論ではありますが…」

「その通りではあるが、お前も随分やる気を出して観戦していた気がするが」

「珍しい症状が出ればよかったんだがな。だが、生憎お前たちはただの胃炎だった…実に残念だ」

そして救護係を申し出たアスクレピオスからしてみれば、大体想像がつく有様になったので、大した収穫がなく残念無念…というわけだ。

それはそうと、診察はきちんと受けさせる。

だが手間なので、二人をまとめて医務室に呼んだ。

それはまるで、医師が兄弟を同時に診察室に呼んで順番に見ていく、小児科の光景のようだ。

兄弟ではあるのだが。

「さて…兄の方は大分よさそうだな。量は減らしておくが、まだ服薬は続けろ。いいな?」

「承知した」

「あの、その呼び方はどこか気恥ずかしいというか気まずいのですが…」

「何故だ?お前たちは兄弟だろう?」

「違いない。何かおかしかったか?」

「貴様はいい年をして、子どもの診察のような扱いを受けて恥ずかしくないのか!?」

「いや、気にしないが」

「くっ…何故私ばかり損した気分になるのだ…」

「まあいい。兄の診察は以上だ…お大事にな」

「ああ。世話になった」

「ですからその呼び方……はぁ」

まったく気にしないカルナとアスクレピオスと、何か気になって仕方ないアルジュナ。

診察を終え、カルナは医務室から出ていった…。

「さて、次は弟か」

「ですから、その呼び方…もうカルナは出ていったのですから、普通に呼んでいただけませんか?」

「お前も食べ過ぎによる炎症自体は、快方に向かっているようだな」

「聞いてますか…?」

「聞いてはいる。返事をする気にはならんが」

「………」

バッサリと切り捨てられ、唖然とするアルジュナ。

「いつもの胃痛はどうだ?」

「…相変わらず、といったところでしょうか」

「だろうな。原因を切り離せるものならば、当の昔にやっている」

「その…以前父がまた、マスターを傷つける発言をしたらしく…」

「…この前はいらんことをして、マスターを怒らせたと言っていたな」

「はい…それとは別件です。どうやら、もう解決はしたようですが」

「はぁ…どうもあいつは、神が対話でどうにかなるものだと思い込んでいるようだ。仮に話を理解してもらえたとしても、視座や根本の思考が違う。相互理解が出来るものではないというのに」

「…それは、私も同感ですが…ただ、インドラ神には人間を理解しようとする姿勢が、見てとれなくはないともいいますか…」

「なくはないだろう。息子のお前に対してもな」

「私にですか?」

「…相変わらず、そこはすれ違うのか」

互いを理解しているのかいないのか…。

まあ、理解しようと努めるだけマシではあるか…。

何ならアルジュナが医務室で安静にしている間、インドラから『息子の顔を見せろ』としつこく面会を求められていた。

もちろん、絶対何か余計なことをしでかすだろうと思ったので、上手いこと説明をしつつナイチンゲールに追い払ってもらった。

「で?残薬は?」

「…3日分は」

「なら追加の処方をしておく」

「助かります…」

この男の心の安寧を思えば、さっさと手を切って欲しいところではあるが、マスターが手を切ろうとしたところで、あの神はそう容易く諦めはしないだろう…。

目の前の患者に同情はしつつ、淡々とカルテに記載をしていくアスクレピオスなのであった…。

END