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楽しみより大事なもの

Fate Grand Order インドラ&女夢主 — www.pixiv.net · All chapters

楽しみより大事なもの

「こんなもんかな?」

ライブラリにて。

私は何本かの映画を借り、マイルームへと向かう。

今日は完全にオフの日なので、一日映画鑑賞に時間を費やしてしまおう…と思ったのだ。

プシューッ

ウッキウキでマイルームに戻った私は、モニターの電源を入れてセットをする。

リモコンの再生ボタンを押そうとした時だった…。

プシューッ

「いるか?人間」

「インドラ様?」

ドアが開き、インドラ様が入ってきた。

「ん?映画か?」

「あ、はい…ちょうど今から観ようと…」

「…ちょうどよい。暇を持て余していたからな…この神と共に鑑賞出来ることを光栄に思うがよい」

「えっ…インドラ様も観るんですか?」

「何だ…何か不満があるのか?」

いや、不満というか…。

大丈夫なのかなって心配の方が…。

「えっと…今から観るの、ホラー映画なんですけど大丈夫ですか?」

「ホラー映画?何だそれは?」

「怪異が襲ってくるような恐怖系…って言えばいいんですかね…?」

「怪異?この神が恐れると思うか?」

「そーそー!インドラさまに怖いものなんて、あるわけないじゃーん!」

「必要のない懸念かと」

うーん…確かにホラー映画の脅かし方は、インドラ様は痛くも痒くもないと思うんだけど…。

多分…別の意味で苦手そうなんだよなぁ…。

「…そこまでおっしゃるなら」

まあ…大丈夫なら越したことはない…。

とりあえず再生するか…。

「何をしている?早く流せ」

「今再生します」

ピッ…と再生ボタンを押すと、真っ暗な画面が徐々に明るくなり、本編がスタートした…。

〜1時間後〜

『いやああぁああぁぁぁ…ッ!!!!』

「…ッ!!」

「…」

怪異に追われる登場人物たちが、叫び声を上げる。

その悲鳴で、体を震わせている…。

いや、実は私じゃないんだな…。

『いやっ…助けて…ッ!!助けてお願い…ッ!!』

「…ッ」

悲鳴が聞こえる度に抱き着いてくる、インドラ様。

凄い力で後ろから抱きしめられて、痛い。

内容が頭に入らない。

「…ッ…おい、何だこれは…!?先程から人間どもが襲われ…恐怖に怯えながら逃げ惑って…」

『ああ“あ“あ“あ“ぁぁぁ…ッ!!!!』

「…ッ!?」

再び響き渡る悲鳴に、体を震わせて腕の力を強めるインドラ様…。

やっぱりダメだったか…。

怪異が現れた時は無反応だったインドラ様が、登場人物たちが恐怖で逃げ惑う場面になった途端、私に抱き着いてきたのだ。

多分、人間たちが恐怖に怯えている場面は、インドラ様からすれば苦行そのものに見えるのだろう…。

自分の前に怪異が出たら倒せば済むが、画面の向こうで逃げ回る人間たちが恐怖や苦しみを感じている様を観ているのが、相当な精神的拷問になっている様子…。

「あの…大丈夫ですか?」

「…」

一応声をかけてみたが、返事がない。

ただ私の後頭部に顔を押し付けて、小刻みに震えながら抱き着いているだけだ。

ヴリトラが見たら、絶対に指を差しながら笑い転げているであろう光景。

「…中断しますか?」

「…」

肯定の意味なのか、顔を押し付けている私の後頭部に微かな動きがあった。

それを確認して、リモコンを操作する。

ピッ…とボタンを押すと、ディスクが外に出てきた。

「もう止めましたよ?」

「…何なのだあれは」

「…基本ホラー映画って、人間たちが怪異から逃げ回る作品ですから」

「…あれの何が楽しい?人間どもが…次々と…」

「苦手な人は苦手ですよ。ああいうのは、好きな人だけが観ればいいんですから」

この映画は、今度私ひとりで観よう…。

とりあえず今は、この魂が抜けた後みたいになってる神様のメンケアをしなければ…。

用意していたお茶菓子を出したり、映画の内容がフラッシュバックしたのを慰めたり…。

すっかり憔悴してしまったインドラ様のメンケアをするのに、結局一日を費やしてしまった…。

〜別の日〜

「で?今日は何を観るつもりだ?まさか、この前のような苦行ではあるまいな?」

「…」

今日も一緒に観るんだ…。

「おい、聞いているのか?」

「聞いてます…ただ、私が借りてきたの…全部ホラーなんですよね…」

「…またか。何故好き好んで苦行を見る?お前の趣味は邪竜めと変わらんのか?」

「私はヴリトラみたいに、苦行を課すようなことはしませんから!」

邪竜さんと同じ扱いは御免被る。

インドラ様からヴリトラと同類判定下されると、何か消し炭にされる確率が高まりそう。

でも、借りてきた映画…この前中断したやつの他にはゾンビパニックものとジャパニーズホラー。

別の映画を借りて来ようかな?

ホラー以外のジャンルだと、コメディ…人間と神様の笑いのツボって同じなのかな?

私だけ笑っててインドラ様は無反応…とかだと気まず過ぎる。

じゃあ恋愛…は、すれ違いや悲恋の要素がちょっとでも入ってたら苦行判定下されそうだな。

ほのぼの系…いや、幅広すぎて作品が思いつかない。

「…はぁ」

あれもダメこれもダメ…と頭を悩ませる私の耳に聞こえてきたのは、インドラ様のため息だった。

「もうよい。お前が借りたものであろう?」

「えっ?でも…」

「よいと言っている。結局は創作に過ぎん…その程度の苦行ならば、この神が乗り越えられんはずがないからな」

「…」

この前あんなに私にしがみついてきたのに、本当に大丈夫なの?この神様…。

「…なら、ありがたく観させていただきますね」

「好きにしろ」

ちょっと迷ったが、結局私は借りてきた映画を観ることにした。

どう対策するものか、気にはなるが…。

私はディスクをセットし、この前の続きからスタートさせた。

のだが…

「…何です?これ」

「…気にするな」

再生した途端に、自分の膝の上に私を抱えて座らせるインドラ様。

…

…

でっかいぬいぐるみ抱えてる子ども?

「…ッ」

こんなでっかい神様が、ホラー映画の悲鳴に怯えて人間にしがみついてるなんてギャップがあり過ぎるでしょ…。

『あ“あ“あ“あ“あ“ぁ…ッ!!!!』

「…ッ」

お腹の辺りに回された腕に、ぎゅっと力が入る。

その手の上に、私はそっと自分の手を重ねた。

「!」

付き合ってくださり、ありがとうございます…。

とりあえずこれを観終わったら、映画は全部返してきますね…。

インドラ様に無理させてまで、楽しみたいとは思いませんから…。

それはそれとして、映画を観終わった頃にすっかり憔悴しているインドラ様のメンケアに、丸一日時間を潰すことにはなるのである…。

「苦行は…好かん…」

「結局ダメじゃないですか…」

〜おまけ〜

「おーい!マスターよ!」

「!?」

廊下でマスターを見つけたヴリトラ。

先日聞いたあることを確かめるべく、マスターに詰め寄る。

「何か用?」

「まあまあ、そう構えるでない」

警戒したようにヴリトラを見つめるマスター。

構えるな…とは言うが、大体碌なことをしないこの邪竜相手に、警戒しない方がおかしいのだが…。

それは特に気にしないとして、本題に入る。

「インドラと映画を観たそうじゃな?」

「何で知ってんの!?」

「きひひ…わえの情報収集力を舐めるでないわ」

「…で、それがどうかした?」

「インドラの奴が音を上げた映画があると聞いたのじゃが、それは本当か?」

それはそれは嬉しそうに尋ねるヴリトラ。

はぁ…とため息をついて答えるマスター。

「あぁ…ホラー映画ね」

「ほう…奴め、ホラーが苦手なのか」

「…興味あるなら教えるけど?」

「本当か!?いやー話が早くて助かるわい!インドラの奴が音を上げたということは、さぞ人間どもが苦しみ抜く内容だったのじゃろうなー!」

「…まあ、間違ってはないね。はい、これ品番」

「わーい!楽しみじゃ!」

マスターから、品番を端末のチャットで教えてもらったヴリトラ。

ウッキウキでライブラリに向かっていく…。

「…ま、いっか」

ヴリトラを見送ったマスターは独り言を呟き、小さく笑みを浮かべた。

思えば、ヴリトラも違和感を覚えるべきだった。

マスターがヴリトラに、インドラが音を上げた映画をあっさり教えたことに…。

「さてさて?インドラを苦しめたホラー映画…お手並み拝見といこうかの」

早速件の映画を借りてきたヴリトラ。

ディスクをセットし、再生させる…。

「ほうほう…伝染する呪いか」

すでにわくわくが止まらない様子。

『いやああぁあぁぁあぁ…ッ!!』

「おーおー怯えておる…そそるのぉ…」

響き渡る悲鳴に舌なめずりをするヴリトラ。

しばらく楽しんで観ていたのだが…。

「…ん?」

そろそろ終盤にさしかかる。

だが、その頃からある違和感を覚え始める。

「…ま、そろそろじゃろう」

一瞬考えたが特に気にせず、そのまま映画を観続けたヴリトラ。

そして…すべてのストーリーが終了した…。

「………は?」

〜マスターの部屋〜

プシューッ

「おい、マスター!どういうことじゃ!?」

「…何?」

映画を観終わったヴリトラは、マスターの部屋に押しかけていた。

そして…部屋に凸されたというのに、涼しい顔でヴリトラを迎え入れるマスター。

「さっきの映画じゃ!」

「…映画がどうかした?」

「映画の最後!何か最後まで逃げ延びた人間まで捕まって、呪いに呑まれて終わったんじゃが!?」

「うん、そういうストーリーだよ」

ヴリトラの抗議にあっさり返すマスター。

「はぁ!?おかしいじゃろ!?普通あそこまで逃げ続けたのなら、何とか命からがら逃げ延びて何かいい感じに呪いを断ち切る方法見つけて解呪してハッピー…って感じになるオチじゃろうが!」

そう、ヴリトラは所謂ハピエン厨。

どれだけ人間たちが苦しみ抜いても、最後には必ず形勢逆転し、ハッピーエンドを迎える…。

そう信じて、映画を観ていた…。

しかし結末は、最後のひとりまで迫りくる呪いに呑まれてバッドエンド…という、ヴリトラからすればあまりにも解釈不一致過ぎるものだった。

「そんな作品もあるかもしれないけど…実際ホラー映画って、バッドエンドが無条件に許されてるジャンルみたいなものだからね。バッドエンドの方が多いんじゃない?」

「何じゃそのつまらんお約束は!?さては、知ってて黙っておったなマスター!?」

「んー?ネタバレしないようにしてただけだよ?」

「あ、その顔…やはりわざとか貴様!」

どこかマスターの顔が、生暖かい笑みを浮かべているように見えたヴリトラ。

まあ、間違ってはいないのだが…。

「私一度観たんだよ?内容知ってて当然でしょ?」

「この…趣味の悪い人間め…」

「ヴリトラが言わないでよ」

マスターの返しに、さらに抗議しようとしたヴリトラだったが…

「…何やら、騒がしい」

「ん?」

部屋の外から、声が聞こえてきた。

「何じゃこの忙しい時に!?」

ヴリトラが声に反応した瞬間…。

プシューッ

「騒がしい…魔が、騒いでいる…ッ!!」

「あ…」

「げぇっ!?よ、よりによって貴様か…」

扉が開いた先に立っていたのは、戦鬼カーリー。

「ぎは…ぎははは…ッ!!干魃の邪竜…喰らう…ッ!!」

かっ開いた瞳孔で、ヴリトラに襲いかかる。

「ちぃっ…!ここは逃げるが勝ちじゃ!」

「待て…逃がすか…喰らい、殺す…ッ!!」

流石にカーリーが相手は分が悪いと思ったのか、隙を見て部屋から飛び出していったヴリトラ。

そしてカーリーも、後を追って去っていった…。

「…ん?おい、何やら邪竜めとカーリーの匂いが充満しているが、何があった?」

しばらくして、開いたままのドアからインドラが顔を出してきた。

「…さっきヴリトラが来たんですけど、通りすがりのカーリーさんに追いかけられていきました」

「はははっ!よりによってカーリーにか!いっそ神の代わりにあの邪竜を退治するよう、本格的に命令を下してみるとするか」

「命令を入力しても、ヴリトラの狙いは変わらないと思いますから、結局インドラ様が出張ることにはなるんじゃないですかね?」

「チッ…極下が過ぎる…」

蛇は執念深いとよく聞くが、あの邪竜も自らの欲を満たすためならば、何度でも甦りインドラに攻撃を仕掛けるのだろう。

そんな厄介な魔性に目をつけられたインドラに、密かに同情するマスターなのであった…。

END