その目は守護をするため
その目は守護をするため
※注意喚起※
若干のホラー要素を含みます。
ゆるーく書いたので、夜に読んだとしても平気だとは思いますが、苦手な方はご注意ください。
OKな方のみお進みください。
「よし、全部ついたよ」
「いよいよ始まるのね!」
「こ、怖くなんてないですから…」
「ふぃー…やっぱ雰囲気出るよねぇ…」
たくさんの蝋燭の火に灯された、暗い部屋。
そこに集まるのは、おっきー、ナーサリー、ジャンヌ・リリィ、そして私だ。
「じゃあ始めよっか…百物語」
「待ってましたマーちゃん!え、えーまずは…姫の動画のネタに付き合ってくれた皆様に、こ、心からの感謝をいたします…」
百物語とは。
百本の蝋燭を灯して参加者が順番に怪談を語っていき、ひとつ話し終える度に、蝋燭の火をひとつ消していく…という有名な怪談形式だ。
発案者はおっきーで、一度密かにやってみたいと思っていた私、物語の概念であるナーサリー、興味本位のジャンヌ・リリィが参加したのだ。
ジャックと太歳星君は、本人たちの方から不参加の返事をもらったので、今回はいない。
『わたしたちはやめておく』
『ワガハイたちがいると、なーんか厄介なものを呼び寄せちゃいそうだからなー』
まあ、確かに…。
こういうのに招かれちゃうのは、この二人と性質が似たようなものだろうからな…。
「じゃあ…誰から話す?」
緊張しているのか、若干声が震えているおっきー。
その様子を見た私は、近くにある蝋燭台をひとつ手に取って口を開く。
「じゃあ、まずは私から」
三人の視線を受けながら、私は用意してきた怪談の一つ目を語っていく…。
「…おしまい」
話し終えた私は、ふっと蝋燭の火を吹き消す。
たくさんの火が灯る部屋の中で、私の顔の前だけが僅かに暗くなった。
コトッ…と蝋燭台を床に置いて顔を上げると、そこにはすでに怯え切っている三人の姿が…。
「ちょ、ちょっとマーちゃん…初っ端から飛ばし過ぎでしょー…」
「ぞっとするお話だったわ…」
「な、何か後味悪くありません?理由がよくわからないまま終わっちゃいましたけど…」
「怪談ってそういうお話もあるからね。起源や元凶がよくわからないままだから、怖いお話として面白かったりするから」
よかった…最初の掴みは順調みたいだ。
「じゃ、じゃあ次は誰いく?」
「わ、私がいきます!とっておきのお話を持ってきましたから!」
ジャンヌ・リリィが蝋燭台を持ち、少々固い口調で持って来た怪談を語り始めた…。
「お、終わり…です…」
ふーっと蝋燭の火を吹き消すジャンヌ・リリィ。
震え上がる…というよりは、不思議なお話だった。
「不思議なお話だったわね」
「そだねー。正体不明のままだったね」
「うぅ…皆さん全然怖がってないですね…」
「大丈夫だよ。怪談はなにも怖いだけのお話じゃないんだからさ」
いまいち怖がる様子のなかった私たちに、少ししょんぼりとしてしまうジャンヌ・リリィ。
「もー!マーちゃんが初っ端から怖いの持って来たからだよー?」
「私のせいなの!?」
「ならジャンヌ・リリィ、次は私が話すわ。私のお話も、不思議なお話になるだろうから」
ナーサリーが蝋燭台を持ち、語り始める…。
「…おしまいよ」
ふーっと火を吹き消すナーサリー。
そして私たちはというと…。
「いや、普通に怖い話!」
「不思議じゃないよ…普通にホラーだよ…」
「うぅ…怖かったです…」
不思議な話、と聞いて気が緩んでいたところに突然のスプラッタで殴りかかってきた…。
流石はナーサリーといったところか…。
「あら、そんなに怖かったかしら?」
「怖いよ!姫この怖い話の次に話さなきゃいけないの!?プレッシャーが…」
「…ん?」
「ど、どうしました?トナカイさん?」
おっきーが騒ぎ立てた瞬間、私たちからかなり離れたところにある蝋燭の火…。
ほんの一瞬ではあるが…揺らめいた気がした。
火が消えないように、部屋は無風にしておいたはずなのに…。
とりあえず、まだ三つしか話していないし…。
気のせい…ということにしておこう…。
「…じゃ、次はおっきーね。とびっきり怖い話、お願いね?蝙蝠のお姫様?」
「マーちゃんの意地悪…」
渋々蝋燭台を手に持ったおっきー。
「コホンッ…じゃあ姫のお話、聞いてくださいな」
咳払いをひとつして、手持ちの怪談を話していく。
フワッ
「…ッ!?」
おっきーの怪談が始まった頃、突然私の耳元で生暖かい風が吹いた。
何?今の…風?
いや、これは風というより…息?
後ろを振り向くが、蝋燭の火にぼんやりと照らされた壁があるだけだった。
おっきーに向き直り、怪談に集中する私。
すでに何かがいるみたいだけど、ここでパニックになったら相手の思う壺だ…。
思えばこの時の私は、何かの気味悪さを感じていたはずなのに、妙に冷静過ぎた気がする…。
時間をかけながらも全員が怪談を語り続け、ついに残る蝋燭が一本となった。
「さあ、終わろう」
「え?マーちゃん何言ってるの?」
「あと一本残ってるわよ?マスター」
「ま、まあ…もう終わりなら、私はそれでも…」
終わろう…と言い出した私に、目を丸くするおっきーとナーサリー。
すでに恐怖で限界なのか、少しほっとした様子になるジャンヌ・リリィ。
「何って…まさかおっきー、知らないの?」
「え?知らないって、何を?」
ぽかんとした表情のおっきーに、唖然とする私。
マジかこのお姫様…。
よく調べもせずにやろうって言い出したのか…。
「百物語ってね、百の怪談を話すのは最大のタブーなんだよ?」
「…はい?」
「ど、どういうことですか?」
「『百物語』なのに?」
「百個目の怪談を話し終えると、本当に『出る』って言われてるんだよ。だから『百物語』とはいうものの、実際は九十九個で終わらせるんだ」
よく『怪談を話していると、霊的なものが寄って来やすい』って言うけど、まさにそれが百物語。
百個話すと本当に出てきてしまうから、昔から九十九で終わらせていたらしい。
「確かにそうね。数というのは、馬鹿にしてはいけないわ。お化けと呼ばれる存在の、呼び水になりかねないものだから」
「そうなんですね…じゃあ、この蝋燭は普通に消しちゃいましょう」
ジャンヌ・リリィが火を消そうと、残りひとつの蝋燭台に手を伸ばした…。
パシッ
「あっ…!」
と、ジャンヌ・リリィが手に取る前に、誰かが蝋燭台を奪い取った。
「じゃあ…じゃあ、さ?百個目の怪談を話せば、何かが必ず起こるってこと…だよね?」
「おっきー!?」
怯えたような、でもどこかわくわくしたような…。
眼鏡の奥の瞳を、爛々と光らせるおっきー。
その表情は蝋燭の火に照らされて、不気味さを醸し出している。
「何言ってんのおっきー!何が呼ばれちゃうのかもわからないんだよ!?」
「マーちゃんこそ…今、姫が動画撮ってるの忘れてない?」
「…そんなに、動画が大事?」
「大事でしょぉ!?何かが『必ず』出てくるんだったら、カメラに収めないとぉ!」
「…ッ!?」
おっきー…何か様子がおかしい…。
あれだけ怪談にビビってたなら、さっさと終わらせたがるはずなのに…。
「!…さっきの…」
さっき私の耳元で感じた、吐息のようなもの…。
確か、おっきーの怪談の最中に感じたっけ…。
今の私は何ともないけど、もしかして私のもとからおっきーのもとへ行ってたりして…。
「こ、これまずいのでは…?」
「お姫様、もう終わらせましょう!ね?」
『終わらせないってばぁ…ッ!!』
「ひっ…!?」
「あ、あなた…だあれ…?」
説得に入った二人の声を、普段のおっきーとは全然違う、耳をつんざくような声が一蹴する。
まずい…完全に何かが入った…。
『あとひとつ…あとひとつ…』
耳障りな声が、ぶつぶつと呟く。
あとひとつとは…怪談のことだろうか?
「あ…あの蝋燭の火を、怪談が終わる前に消せばどうでしょうか!?」
「でもっ…あんな手元にあったら狙いにくいわ…」
ナーサリー、ジャンヌ・リリィとともに、おっきーの様子を窺いながら必死に対処法を考える私。
《……ガッツをつけろ》
「え?」
突然、聞き覚えのある声が聞こえてきた。
《急げ!奴にガッツをつけろ!》
「…ッ!!」
私はその声に従い、礼装のスキルでおっきーにガッツを付与する。
その途端…
ドォォォン…ッ!!
『がああ“あ“あ“あ“…ッ!?』
「わぁ…ッ!?」
「きゃぁ…ッ!?」
轟音とともに、白と黒の雷がおっきーに直撃する。
雷に撃たれたおっきー…いや、おっきーに入っていた何かは断末魔の叫びを上げ、その場に倒れ込んだ。
倒れたおっきーに付与したガッツが発動すると…
「いったぁ…」
聞こえてきたのは、元のおっきーの声。
雷に撃たれたせいで黒焦げではあるが、ゆっくりと体を起こしてこちらを見る。
「あれ…マーちゃんたち?どうかした?」
目をぱちくりさせ、離れた場所で様子を窺っていた私たちを見つめる。
「よ、よかったですー!元に戻りましたー!」
「よかった…本当によかったわ!」
「えっ…ちょっ!?よ、よかったって…何が?」
喜びのあまり、おっきーに勢いよく抱き着くナーサリーとジャンヌ・リリィ。
「マーちゃん?姫…何かしてた?」
困惑しながら私を見るおっきー。
私はふと、あることを思い出す。
「動画…撮れてるんじゃない?」
「あ、そうだ…」
全員でカメラを確認してみると、確かに録画中となっていた。
さて、じゃあさっきの状況の説明はこのカメラがしてくれるとして…。
「ごめん。ちょっと用事が出来た」
「あっ、マーちゃん!?」
私は部屋を飛び出し、とある人物の部屋へ走った…。
コンコンッ
「インドラ様、いらっしゃいますか?」
「…入れ」
プシューッ
「失礼します」
「…」
「先程は、ありがとうございました」
部屋の奥でアイラーヴァタに腰掛けているインドラ様に、頭を下げる私。
もうわかりきっていることだが、先程のピンチを助けてくれたのはインドラ様だった。
ガッツをつけるよう指示を出し、自身の雷で取り憑いた何かをおっきーごと撃ち抜いた。
そして取り憑いた何かは、完全に消え去った。
おっきーはボロボロになったが、ガッツのおかげで霊基が消滅せずに済んだ。
「…見張っておいて正解だったな。奇妙なことをしでかした挙句、神に余計な手間をかけさせおって」
「インドラさまが様子を見ていなければ、どうなっていたことやら」
「命救われたんだから、ちゃんとインドラさまに感謝しないとダメだぞー?キシシッ」
「…はい。ご心配をおかけしました」
酒のグラスを傾けていたインドラ様が、私に目配せをしてきた。
気づいた私はソファに座る。
それを確認したインドラ様は、アイラーヴァタから下りて私に近づいて来た。
「…どうやら、効果はあったようだな」
「効果?」
「…こいつだ」
スッ…と私の首元に手を近づけ、着ているブラウスの中に指を挟み込んできた。
「ちょっ…」
「動くな」
くすぐったくて思わず身動ぎをすると、インドラ様の指が何かをひっかけて出てきた。
「あ…」
それは、以前インドラ様からもらったもの…。
キキョウの花をモチーフにしたネックレスだった。
「あれは手始めに、生身の人間であるお前に取り憑こうとしていたらしい」
「…誰かの息が、耳元にかかった気がしました」
「語りかけていたのであろう。その声を認識していたら、確実に憑かれていた。だがお前は、こいつを身に着けていたために難を逃れた。それ故に、あの蝙蝠の娘に鞍替えしたのだろうよ」
「…これって確か、魔性からの精神汚染を弾くって言ってましたよね?」
「そうだ。汚染されて弱った人間の隙を狙い、入り込むのが奴らの唯一の手段だからな」
憑かれないためには気を確かに持て…とよく言われるのは、そういうことなんだろうな…。
あと、あの時の私…今思うと冷静過ぎる…。
耳元にかかった息やおっきーの豹変ぶりにも、一切パニックにならなかった。
有事の時でさえ、緊張を何とか誤魔化そうと必死になっている私が…だ。
このネックレスのおかげなのかな?
「しかし、お前たち人間は夏の風物詩として怪談を取り上げているようだが、何故好き好んで魔を引き寄せようとするのか、神には理解が及ばん。下手な好奇心は身を滅ぼしかねんぞ」
「…ちなみに、私たちの様子はヴァジュラたちの巡回で知ったのでしょうか?」
「ヴァジュラの報告からだが、どうも妙な降霊術にも似た行為であったからな。神が直々に見張ることにした」
「直々…ってことは、まさか部屋の前にいらっしゃってたんですか!?」
「こいつを部屋に送り込めば、事足りるであろう」
そう言うとインドラ様は自分の上の空間を見る。
つられて視線を移すと…。
「ひっ…」
大きな『目』が浮かんでいた。
多分インドラ様の『千眼』のひとつだ。
インドラ様は、文字通り千個の目を持つ神様。
自分の目を遠隔操作するのも、そう難しいことではないのだろう。
…
…
いや、目を遠隔操作って何?
神様の体って自由過ぎない?
壁に耳あり障子に目ありって、そういう物理的なものじゃない気がするんだけど…。
「ま、いつどこで神に見られているのかは、人間であるお前にわかるわけがあるまい。せいぜい、身勝手な行動は控えることだ」
「………」
いつどこで神様に見られているか…
それは確かにわからない。
でも今回はどう考えても、私に何かあった時に守るつもりだったから…だよね?
インドラ様、意外と自分からは言わないけど…
『見ている』じゃなくて『見守っている』のが、この神様の本質なんだって思う…。
〜その頃のおっきー達〜
「な、何これぇ…」
「ちゃんと撮れてるじゃないですかぁ!」
「お姫様が豹変したところまで、バッチリね」
「こ、怖すぎて使えない…お蔵入り決定…」
END