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7.夕暮れの屋台で学生服をゲットせよ!

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7.夕暮れの屋台で学生服をゲットせよ!

2章:麗貌の重騎士ゼノス

同日の夕暮れ時。俺とエステラは揃って宿を出た。

向かった先は大通りから一本はずれた路地。

ここは所謂『屋台街』で、色とりどりの幌を張った屋台が軒を連ねている。

香ばしい肉の香りに、こってりとしたスープの香り。

食欲をそそる香りのラッシュに、俺の腹の虫はぐーぐーと主張を強めていく。

作戦前に腹ごしらえといきたいところだが、それは叶わぬ願いだ。

何せ今の俺は一文無し。

宿代からメシ代に至るまで、すべてエステラ様に賄ってもらっている。

この上オネダリだなんて、そんなの絶対にダメだ。

だから、鎮まれ俺の腹よ――。

「おじさん。それ二枚頂戴」

「あいよ」

「っ!」

エステラが屋台で何か買った。

あれは……干しリンゴ?

元いた世界でも食べたことはないけど、言うてリンゴなんだ。

きっと美味いに違いない!

「わっ、悪いな」

「あ~ん」

「へ?」

「口、開けなさい」

マジかよ。思わず周囲を見回す。誰も見てない。みんな屋台に夢中だ。

けど、だからって年齢=彼女いない歴の俺には気軽に出来ることじゃない。

「普通にくれよ」

「じゃっ、あーげない」

輪切りの干しリンゴが勢いよく遠ざかっていった。

あまりのショックに俺の口からは「あっ……」と非常に情けのない声が漏れ出る。

「ん~♡ おいしい~♪」

エステラがこれ見よがしにリンゴを食べ始めた。

コイツ……! いっそ奪い取ってやりたいが、それは絶対にダメだ。

今の俺はエステラ様にご支援いただいている身。

エステラ様が『楽しませろ』と言うのなら、それに応えるのが筋だ。

「…………」

身を屈めて口を開く。エステラの目は見れなかった。

目を伏せているとリンゴが近付いてくる。

終いには目も開けていられなくなって、リンゴが口に入る直前できゅっと閉じた。

「ん゛……」

パリパリしてて、思っていたよりもずっと硬い。

ゆるゆると噛んでみると、ぐにゃっとした食感に変わり始めた。

ハイチューみたいだな~、何て思っていたら。

「うまっ!?」

口いっぱいに甘くてジューシーな味わいが広がり出す。

思わず目を見開くと、リンゴを持ったままのエステラと目が合った。

じっと俺の目を見ている。いや、ぼーっとしてる? らしくないな。……つーか。

「ひゃひゃへよ(離せよ)」

「っ!」

我に返ったらしいエステラが、ばっと背中を向けた。

今更恥ずかしくなったのか?

なら、今後はこういうことは控えてほしい。

お前はおふざけのつもりなのかもしれないけど、俺にはその……耐性がないんだからさ。

などと内心でぶつぶつと文句を垂れながら、干しリンゴをかじっていく。

何か一気に疲れたな。

今日はもう宿に帰ってのんびりしたい。

「いた! アイツらにしましょう」

エステラが指さした先――ソーセージの屋台の前には、深紅の制服を身に纏った男女のカップルの姿があった。

彼女の方は双剣を、彼氏の方はショートソードを装備している。

間違いなく騎士学校の生徒だろう。

背格好もちょうど俺達と合う。バッチリだ。けど……。

「……マジでやるのか?」

「今更何言ってんのよ! しくじったりしたら承知しないからね!!」

「……あい」

作戦実行を告げられた瞬間、あんなに美味しかったはずのリンゴが無味無臭になってしまった。

俺は一応勇者なんだよな?

こっちに来てから犯罪しかしてないんだが。

溜息と一緒にリンゴの欠片を呑み込んで、エステラから少し離れた位置にスタンバイする。

エステラはカップルのうち、男子生徒の方に近付いていった。

そして、足元の水たまりを蹴りながら、さりげなく男の方に倒れ込む。

「ごっ、ごめんなさい! ああ!! 制服のおズボンがびしょびしょに~」

おズボン……。

吹き出しそうになっている俺とは対照的に、黒髪短髪男の鼻の下はみるみるうちに伸びていく。

言うまでもなく、恋人の茶髪のカワイ子ちゃんはご立腹だ。

「よろしければ私の宿に――」

「結構です!!」

彼女の方が間髪入れずに断りを入れてきた。

なのに……おい、糸目の彼氏よ。何期待してたんだ。しょんぼりしてんじゃねえぞ。

「ご安心ください。私にもちゃんとツレがいますから」

エステラはそう言うなり俺の傍まで来て、ぐっと腕に抱き付いてきた。

昨日から何回もやられていることだけど未だに慣れない。

むにゅむにゅとした柔肌に包まれて、俺の顔は否応なしに熱くなっていく。

「お詫びに私達の部屋をお貸しします。おズボンを乾かしている間……その……ご自由にお使いください」

「ご自由に……?」

「ばっ、バカ! はしたないわよ!」

何て言いながらも、彼女はあっさりと宿に向かうことを了承した。

やはり騎士学校は規律が厳しいらしく、学校内では思うようにイチャつけないらしい。

彼女から言わせればエステラのことは心底気に入らないが、このチャンスは逃したくない……といったところなのだろう。

「さぁさぁ、こちらでございます~」

エステラは軽快な足取りでターゲットを案内していく。

石造りの二階建ての宿で、部屋はツインタイプ。

ベッドの間隔は二メートルほどあって、部屋の奥には腰高窓が設置されている。

「結構いい部屋じゃな……い……」

「ん? なん……だ……?」

カップルが内装に気を取られているうちに、エステラが背後から昏睡魔法をかけた。

それと同時に二人の体がぐらりと崩れる。

「うぐっ!」

俺は間一髪のところで二人を抱き留めた。

二人の脇に腕を差し込むような格好だ。腰が、腰が逝く……!!

「何してんのよ。さっさと男をハルのベッドに。女をアタシのベッドに運んで」

「~~っ、はいよ」

俺は糸目君を一旦床に寝かせて、女の子をエステラのベッドに運んだ。

全然起きない。爆睡だ。すげえな。

「夜盗との戦いでこの魔法を使わなかったのは、俺を鍛えるためか?」

「バカ言わないで。あんな目がギンギンな奴らに効く訳ないでしょ」

原作でも似たような感じだ。

ある程度相手を弱らせるか、格下の相手でないと通用しなかった。

この二人は少なくともフィジカル面ではエステラよりも格上だろう。

……ということは。

「油断しきってる相手になら、無傷の格上でも眠らせることが出来るってことか」

「まぁね。本来は治療を円滑に行うためのものだから」

これは耳寄りな情報だな。

もしもの時には、今回みたく宛にさせてもらうとしよう。

「……こっち見ないでよ」

「分かってるって」

「フリじゃないから! 見たらボッコボコにしてやるからね!!」

「~~っ、分かってるって」

俺は彼氏から、エステラは彼女から制服を剥ぎ取って着替えていく。

手を伸ばせば触れられそうな距離で。

おまけに衝立さえもない。

誓って振り返りはしなかった。

ただ、耳を少しだけそばだててしまった。

俺も男なんだ。せめてこれぐらいは許してほしい。

「あとで返しますんで。ほんとすみません……」

「何してんのよ。早く行くわよ」

「あっ! ちょっ、待てって」

下着姿にさせてしまった糸目君にそっと布団をかけて、宿屋を後にする。

少し歩いたところで、エステラがちらちらと俺の方を見始めた。

「ぶっ……ぷぷっ……」

「? 何だよ」

「服に着られてるわよ! 全然似合ってない!」

「~~っ、悪かったな!!」

こんなの一般の日本男児に着こなせるはずがない。

深紅の立ち襟タイプのジャケットってだけでもヤバイのに、縁には金のライン装飾が走り、左胸には伝統をぎゅっと凝縮したようなご立派なエンブレムが刺繍されている。

異世界人の俺からすればコスプレ、舞台衣装の類だ。

許されるのなら、今すぐにでもジャケットを脱いでYシャツ+パンツ姿になりたい。

いや。ガチで誇張抜きに。何かもうエステラだけじゃなくて街中の人達から嗤われているような気がする。

「ねえ、アタシは?」

悶絶する俺のことなど気にも留めずに、エステラがくるっと右に一回転した。

金縁のチョコレート色のスカートがひらりと舞い、俺は思わず息を呑む。

トップスは俺と同じ深紅の詰襟タイプのジャケットで、首元には黒いリボンを巻いている。

スカートの下には黒いストッキングをはいて、足元は茶色のショートブーツで固めていた。

「ねえ、ハルってば!」

「…………」

可愛い。メッチャ似合ってる。率直にそう思った。

言いたい。だけど、言いたくない。

言えば間違いなく図に乗る。

おふざけが加速することになるだろうから。

「ちょっと、ハル――」

「まっ……マント!」

「……は?」

「置いてきて良かったのか? その髪、目立つんじゃないか?」

「ああ……。平気よ。青髪なんて別に珍しくもないし」

「マジ?」

この色はエステラにしか設定していなかったんだけどな。

あ、でも……そっか。そうだよな。

こっちのエステラには家族も親戚もいる。

血が世代を経るごとに横に広がっていっているんだ。

青髪がオンリーワンでなくなるのは必然だ。

いかんな。俺はどうにも発想が原作に寄りがちだ。

もっと柔軟に物事を考えるようにしないと。

「何より騎士学校は思いっっっきり国の施設だからね。中に入っちゃえば、アイツ等はもうアタシに手を出せないのよ」

「何で?」

「『反王室』と取られかねないからよ。学校内で騒ぎを起こす=国を守る騎士の育成を妨げるってことになるからね」

なら、学校関係者がエステラがいると通報しても捕まることはないのか。

まぁ、信頼を寄せてる知人もいるみたいだし、万一の時にはその人を頼ればいいのかな……?

「見えてきた! あれが王立の騎士学校よ」

「うぉ!?」

俺は目の前に聳え立つ石造りの門を前に、思わず絶句した。