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二、諦められない夢

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二、諦められない夢

 

 

「お願いします、私をセラフにして下さい」

 よく晴れた火曜日のランチタイム。

 予告通り、きららちゃんはまたしても神楽様の前で頭を下げていた。

 胃がきりきりと締め付けられる。

 周りからの視線は全てきららちゃんに注がれ、わたしは無関係なはずなのに、気まずいことこの上ない。

 きららちゃんは、わたしに普段通りにしていてくれればいいって言っていたけど――。

 無理っ!

 きららちゃんの方はまともに見ることができないし、変な汗は出てくるし、一刻も早くこの場を逃げ出したいのに姫子さんのセラフということで、この場に留まっていなければならない。

 神楽様も天空サロンの面々も、他の社交科の生徒もまったくきららちゃんを相手にしないのがまた堪える。

 それどころか、先生方まで何も言わないのだ。

 家政科の生徒がこんなことをしているのは、大問題ではないのだろうか。

「みさき、今日の放課後はまた一緒にお買い物に行きましょうか」

 姫子さんも、まるできららちゃんがそこにいないかのように、優雅に食事を取りながら午後の予定に思いを馳せていた。

 そんな当てつけの様なことを言っちゃだめです!

 わたしは心の中で「ひーっ」と悲鳴をあげた。

 姫子さんは知らなくて当然なんだけど、仲の良い主従関係を見せつけたら、またきららちゃんの機嫌が悪くなってしまう。

 しかし、姫子さんの誘いをむげに断ることもできない。

「そ、そ、そうですね」

 冷や汗を流しながら、食事を喉に詰め込む。

 うう、美味しいはずの昼食の味がまったくしない。

 きっとこの場にいる生徒の中で、一番わたしが緊張しているに違いない。

 はやく、なんとかならないものだろうか。

 残念ながらわたしの願いは、次の日も、その次の日も叶うことはなかった。

 

***

 

「お願いしますっ」

 水曜日も、木曜日も、きららちゃんは同じように神楽様の前で頭を下げていた。

 神楽様は相変わらずきららちゃんに声をかけることも、視線を向けることもない。

 それでもきららちゃんはめげずに、ひたすらお願いし続けている。

 その根性は素直に賞賛されてもいいと思う。

 わたしならここまで完璧に無視されていたら、心が折れてしまう。

 その前に、こんな大それたことはとてもできないだろうけど......。

 しかし、少し慣れてきたとはいえ、胃にかかるストレスは半端じゃない。

 今日にいたっては、食事がなかなか喉を通らなくなっている。このままだと、そのうち胃に穴が空きそうだ......。

 きららちゃんの為にも、わたしの為にも、一刻も早い状況の進展が必要だと思う。

 きららちゃんは何もしなくていいって言っていたけど、そろそろ限界。

 後からきららちゃんに怒られたって、胃に穴が開くよりも数倍マシだ。

 だから、わたしはその日の放課後、天空サロンに現れた神楽様の真意を確認すべく、行動を起こすことにしたのだった。

 

「あの、神楽様」

「何かしら」

 わたしのお出しした紅茶を飲んでいた神楽様は、金色の巻き毛をかき上げながら、こちらに視線を向けた。

 よかった、きららちゃんのように無視されるのでは? という心配は杞憂だったようだ。

 直接神楽様とお話しするのは、これがほぼ初めて。

 三年生ということのみならず、社交科のお嬢様にして天空サロンの支配者ということで、直接話しかけるのはかなり勇気がいる。

 美しく澄んだ緑眼の瞳に射抜かれると、より一層緊張してしまう。左目が長い前髪で覆い隠されていて、神秘的な雰囲気を漂わせているのも原因の一つだ。

 しかし、気後れするわけにはいかない。現状を打破するためには見守っているだけではダメなのだから。

 都合よく、今は九絵姉妹の姿がない。他のメンバーもそれぞれ好きな場所でお茶をしていたりするので、神楽様と二人でお話するのにちょうどよかった。

 よしっ!

 自分に気合を入れて、ありったけの勇気を振り絞って続けた。

「きららちゃんのことなんですけど、一体どうされるおつもりなのでしょうか」

「きらら?」

 な、名前すら認識されていない? いやいや、負けるなわたし。

「ほら、食堂で神楽様にセラフにして欲しいってお願いしている子です」

 身振り手振りで一生懸命に思い出して貰う。

「ああ」

 神楽様は「あの子ね」と頷いた。

 よかった、さすがに存在を忘れられているということはなかったようだ。

「その子がどうかしたのかしら」

「どうって......それをわたしが聞きたいところなのですが。このままずっと放っておくなんてこしませんよね? きららちゃんは神楽様がなんとかしてくれない限り、ずっと続けるつもりなんですよ」

「そう、それは見上げた根性ね。いつまで続くか試してみるのも面白そうだわ」

「そんなっ」

 そんなことをされたら確実に胃に穴が空いてしまう。

「冗談よ」

 神楽様は「ふふっ」と楽しげに微笑んだ。

「みさきはその子の知り合いなのかしら」

「は、はい。同じクラスで、寮でもルームメイトです。......だからきららちゃんのことはよく知っているんですけど、きららちゃんはとても優秀な子なんです! 成績もいいし、この学院のこともたくさん知っていて、わたしなんかよりずっと仕事もできるんです」

 神楽様が興味を示してくれたので、ここぞとばかりにきららちゃんを売り込む。

「わたしにセラフのこととか、ここでのしきたりのこととか色々教えてくれて......」

「それだけ優秀な子が、どうしてあんなことをしているのかしらね」

「うぐっ」

 的確な突っ込みに、言葉が詰まる。正直に本当のことを言った方がいいだろうか。下手な事を言ってきららちゃんの不利益になってしまったら......。でも、嘘を言うわけにもいかないし。

「え、えーと。きららちゃんは――」

 少しでも神楽様の心証を良くしようと、必死に頭をフル回転させていると――。

「星野きらら、家政科一年生」

「成績は上の中。実技は高いレベルにある」

 背後からステレオボイスが聞こえてきた。

 この声は――。

 わたしは咄嗟に身構えた。

「調べ終わったのかしら」

 神楽様がわたしの背後にいる人物に声をかける。すると、

『ええ』

 と、まったく同じ声が左右の耳元で聞こえた。

 いやーな予感。

 振り向かなくたって、声の主たちが九絵姉妹だということがわかる。

『あんな大それたことをする割には普通の娘ですわね』

 一字一句違えることのない正確に調和された声。

 それが頬に息がかかるくらい近い場所で聞こえるのだ。

「あ、あのー。あやかさん」

 九絵姉妹は二人とも同じ名前で文歌と彩華――。

 双子の姉妹だから、外見はとてもよく似ている。着けているリボンでかろうじて見分けがつくくらいだ。

 二人に呼び掛ける時に「あやかさん」だけで済むのは便利なのか、紛らわしいのか......。

『なにかしら』

 わたしの肩にずっしりと重みが加わった。

 九絵姉妹がわたしの両肩を抱いて体重を預けてくるものだから、今にも潰れそうになってしまう。

 しっかりと踏ん張りながら、わたしは二人に先ほど神楽様に報告していた内容について問いかけた。

「き、きららちゃんのことを調べていたんですか?」

『上級生に会ったら、まず何だったかしら?』

 九絵姉妹は、わたしの問いに答えずに、フッと耳に息を吹きかけてきた。

「ひゃんっ」

 背筋を悪寒が駆け抜ける。

 ひーっ!

 じょ、上級生に会ったら?

「ええと、ごきげんよう」

「はい、ごきげんよう」

「よくできました~」

 挨拶は基本。それはわかるのだけど――。

「子供じゃないので、挨拶くらいで頭を撫でなくていいですよ」

「あら、それではお尻でも撫でてあげましょうか」

「それとも、その薄い胸の方がよかったかしら」

「どっちも撫でなくていいですっ」

 九絵姉妹に言わせれば薄いのかもしれないけど、それなりに普通くらいはあるんだから。

 言葉通りに九絵姉妹の手が伸びてきたので、慌てて振りほどいて魔の手から逃れる。

 これがあるから、九絵姉妹が傍にいると身の危険を感じるのだ。

『あら、残念』

「もうっ、いい加減にしていただかないと、姫子さんにいいつけますよ」

『いいつけたところで、姫子様ならきっと許して頂けるわ』

「うう......」

 多分その通りだから困る。

「それよりもさっきの続きです。きららちゃんの事を調べたって言っていましたよね」

『ええ、そうよ』

 九絵姉妹は同時に頷いた。

「わたくしが調べるように命じていたのよ」

 神楽様が飲み終えたティーカップを置いて、ソーサーを横へずらした。

 それって、きららちゃんに興味を持ってくれていたってこと?

 空いた空間に九絵姉妹が手にしていた書類を差し出す。

 それに目を通しながら、神楽様はひとり頷いていた。

「星野きらら、家政科一年生。両親は二人とも介護職に就き、幼い頃から両親の仕事を見てきたきららも、誰かの助けになる仕事がしたいと思うようになる。手伝いで炊事・洗濯・掃除などをこなし、中学性の時に職業体験でメイドの仕事を知り、メイドに憧れるようになる。......介護職に比べて、レディースメイドは華やかに見えるでしょうから、そこに惹かれたのかしらね。それ以降は、天使女学院へ入学することを夢見て、勉学に励む、と。性格は真面目で、自分に厳しく他人にも厳しい。誰よりも早くセラフになることを夢見ていたが、蛍みさきに先を越されて激しく嫉妬する。......ふふふ、なるほどね」

 神楽様がわたしを見て、くすくすと笑った。

 そんなことまでいつの間に調べたのやら。

「能力を買われたのではなく、姫子の気まぐれでセラフに選ばれたみさきを見て理不尽だと思ったのでしょうね」

「悪かったですね、能力不足で」

 わたしは、ぷーっと頬を膨らませた。

 メイドになるつもりなんてなかったのだから、メイドとしての能力なんて無いに決まっている。

「それは姫子の決めたことだから、いいとも悪いとも言えないわ。姫子がみさきを必要としたのだからセラフにしたのでしょうし。事情を知っている人間からすれば、不思議な主従関係の二人だけど――ああ、星野きららは姫子とみさきが金の契約を結んだ時のことを知っているのね。一般の生徒には、入学する前からセラフにする約束をしていたことにしていたものね」

「はい、寮で問い詰められて言っちゃいました。その時はまだ姫子さんと口裏合わせもしていませんでしたし」

「なるほど、それで焦りと羨望から今回の様な暴走をしてしまったと」

「そう......です」

「みさきに負けたくないと、わたくしのところへ来るのは見所があるわね」

 神楽様は報告書をペラペラとめくって、全ページ確認すると、テーブルの上に置いた。

「それじゃあ、きららちゃんのことをセラフにして頂けるんですか?」

 予想外に神楽様の感触は悪くなさそうだ。

 しかし――。

「ダメね。今のままではセラフにすることはできないわ」

 神楽様は厳しい口調で言った。

 やっぱりそこまで甘くなかったか......。

「自分の能力に自信があるのでしょうけど」

「あれはさすがにやりすぎですわね」

 九絵姉妹がきららちゃんを非難する。

「違うんです。きららちゃんだってあんなことをしてはいけないことくらいわかっています。能力の過信なんかしていません。でも、神楽様のセラフになる為には、ああするしかなかったんです」

 わたしは必死に擁護した。

 神楽様が少なくとも興味を持ってくれたのは事実なのだから、ここで神楽様の気持ちをなんとかしてきららちゃんに向けさせることが出来れば、もしかしたらセラフとして迎え入れてくれるかもしれない。

「まあ、優秀な人間であれば新しくセラフを作るのも悪くないとは思うわ。まったく相手にされていなくても諦めない根性は褒めてあげるし、わたくしもそういう者は好きよ」

「本当ですか?」

「でも、あの子を迎え入れることはできないわ」

「どうしてですか?」

 確実に神楽様はきららちゃんに好意を持ってくれているというのに、どうしてセラフにはして頂けないのだろうか。

「簡単なことよ」

「それはあの子が暗黙のルールを破ったからよ」

 神楽様の代わりに答えたのは九絵姉妹だった。

「暗黙のルールって、セラフにして欲しいと自分から申し出てはならないってやつですか?」

「そうよ。自分からセラフにして欲しいだなんて、厚顔無恥もいいところ」

「ましてやあんな大衆の面前で醜態を晒したのだから、セラフになんてできるはずがないでしょう」

「そんな......どうにかならないでしょうか」

「現状ではどうにもならないわね」

 神楽様は冷たく言い放った。

「ルール自体は誰が決めたわけでもないから、わたくしは守らなくても咎めるつもりはないわ。やる気があるのは大いに結構。でもね、あの子をセラフにするのは無理なのよ。どうしてだかわかるかしら?」

「どうしてって......」

 ルール破りが問題ではないと神楽様は言った。ということは、他に問題があるということで......。

「わたくしがあの程度の嘆願を聞いてしまったらどうなると思う? 衆目をはばからず、頭を下げるだけでセラフになることができたら――」

「ああ」

 わたしはポンと手を叩いた。

 ようやくわかった。

「真似をする人が出てきます」

「そうよ」

 神楽様は頷いた。

「わたくしがよくても、一度前例を作ってしまったら後に続く者が出てきてしまう。そうなったときに迷惑をするのは他の誰か。そんなことになったら、わたくしは責任を取らなくてはならなくなるわ」

 そうか。神楽様は先のことまで考えていたんだ。

 でも、それだったら、一喝してその行為をやめさせればいいだけだ。

 それをせずに、きららちゃんのことを調べさせていたということは、もしかして望みがあるってことになるんじゃ......。

「あのっ、もし、真似をする人が出ないようにできればいいってことですか?」

「ふふ、そうね。それが出来るようなら、わたくしのセラフに相応しいかテストくらいはしてもいいわね」

 やっぱり。

「みさきは何かいい案があるかしら、わたくしがその子をセラフにしても、周りが納得して、誰も真似をしようと思わない、そんな案が」

「そう......言われると難しいですね」

 きららちゃんのしたことは、もう全校生徒が知っているくらいに広まってしまっている。

 下手なことをすれば、確実に同じようなことをする生徒が出てくるはずだ。

「あやかたちはどうかしら」

 神楽様はお茶の片付けをしていた九絵姉妹にも話しを振った。

『そうですわね』

 まったく同じ動作で頬に手を当てて、九絵姉妹は振り返った。

「よほど酷い課題や条件を与えるとか」

「それこそ、自身の進退をかけるくらいのものがよろしいかと」

「そうね、それくらいしなければ周りは納得しないでしょう」

 ごくりと喉が鳴った。

 きららちゃん、チャンスはチャンスだけど、物凄いハードル上げられているよぉ。

「一つ、それに使えそうな案件がありますわ」

「アレ、ですわね......」

 九絵姉妹が、顔を見合わせてニヤリと微笑んだ。

 うわー、悪い顔してる。絶対にまともじゃないことを考えている顔だ。

「その案件とやらを聞きましょうか」

 神楽様は九絵姉妹のそういった仕草に慣れているのか、顔色一つ変えずに続けさせる。

「情報では今日あたりに来る予定なのですが」

「また、おチビが例のアレを仕掛けてくるはずですわ」

 アレ? おチビ?

「ああ、そういえば、そろそろ解禁日なのね」

 どうやら神楽様たちは、きららちゃんのテストに使えそうな何かを思いついたらしい。

「なるほど、確かにアレを利用するのはいいかもしれないわね」

 神楽様は一人で会得いったと頷いた。

「課題の内容や条件についても、いい考えが浮かびましたわ」

「星野きららを見極めることが出来て、周りに対しても説得力を持たせることが出来るかと」

 九絵姉妹は、合わせ鏡の様に手の平を合わせて、「楽しみですわ」と呟いた。

「な、なんですか、その『アレ』って」

 もったいぶらずに、わたしにも早く教えて欲しい。

「まあ少しお待ちなさいな」

「ちょうどそのおチビが来たようですわ」

 窓の外を見下ろした九絵姉妹は、誰かを見つけたようだ。

 わたしも窓にへばりついて眼下に目を向けると、旧校舎へと入ってくる一団が確認出来た。

「あ、姫子さんと......あれは生徒会長?」

 見知った人物二人と、その後ろにさらに二人続いている。後ろの二人は知らない人だ。

「あの人たちが何かを仕掛けてくるんですね?」

「ええ、そうよ。ここへ上がってくるまで少し待ちましょう」

 神楽様は瞳を閉じて静かに息を吐いた。

 

***

 

 天空サロンへと上がる為のエレベータが、チンっという音を立てて止まった。

 扉がゆっくりと開いて誰かが降りてくる。

 二人は知っている人物だけど、その後ろにいる二人は残念ながらやっぱり知らない人だった。

 一人は社交科のお嬢様だ。九絵姉妹がおチビと言っていた通り、背はかなり低い。小学校高学年と言われても違和感がないくらいだ。しかし、姫子さんと同じ二年生らしく、胸元のリボンは赤色だ。かなり大き目のリボンを使っているみたいで、胸元をほとんど覆い隠してしまっている。茶虎猫のような色の髪は先の方でくるくるとカールしていて、頭の両側で結んだフリルのリボンからはツインテールが伸びていた。

 そして、一番注目を引くのはその頭に乗っているティアラだった。

 きららちゃんは言っていた。ティアラはサロンの支配者のみに許されたアクセサリーだと。斜め四十五度の角度に、ハートを連ねたような可愛らしいティアラが燦然と輝いていた。

 もう一人の人は家政科の生徒だった。背の小さなお嬢様とは対照的に、モデルの様に背が高く、スタイルがいい。控えめにそのお嬢様の後ろに立ち、伏し目がちにしている様は気品すら感じられる。前髪をヘアピンで留め、長い後ろ髪を三つ編みにして、綺麗にまとめている。

 身につけているエプロンとホワイトブリムが、わたしのとはデザインが違う。サロン独自のデザインになっているやつなのだろう。襟に輝く金色の校章がセラフであることを表していた。確かめるまでもなく、このお嬢様のセラフなのだろう。胸元のリボンが紫だから三年生だ。

 初めて他のサロンの支配者を見たけど、神楽様と同じくどことなくオーラが漂っている気がする。

 ......緊張してきた。

 この人たちが一体何を仕掛けてくるというのだろうか。

「みさき、遅れてごめんなさいね」

 姫子さんが一団から外れて歩いてくると、そっとわたしの左右から垂れさがっている髪に触れながら微笑んだ。

「姫子さんと一緒に来た人たちって、誰なんですか?」

「それは私から説明しましょう」

 答えたのは生徒会長の安樹璃花――アンジェリカ様だった。

 小声で尋ねたつもりだったのに、どうやら聞こえてしまっていたみたいだ。

「神楽さん、皆さんを集めて頂けますか」

「わかりましたわ。あやか、お願いしますわ」

 神楽様の指示に従って、九絵姉妹が天空サロンにいる他のメンバーの元へと向かう。

「わたしも行った方が良いでしょうか」

「みさきはいいわ。私の傍にいなさい」

「はい」

 こういう時、まだどうしていいかわからなくて迷ってしまう。仮にも姫子さんのセラフで、天空サロンの新入りなのだから、上級生よりも働かなければならないことはわかっているのだけど......。

 ただ、今回はわたしが行く必要はあまりなかったみたいだ。

 九絵姉妹が全員の元へ行くまでもなく、こちらの様子に気がついたメンバーがすぐに集まってきたからだ。

 

「全員集まったみたいですね」

 アンジェリカ様がわたしたちを見回しながら言った。

「それでは言わずともお分かりでしょうけど、慣例ですので私の方から説明をさせて頂きます」

 コホンとアンジェリカ様は一度咳払いをした。

「本日、四月二十四日――ここ天空サロンにサロンストラッグルを申し込む旨がありました」

 サロンストラッグル?

「申請者は西天離宮の支配者である猫屋敷飛鳥さん」

 アンジェリカ様が後ろに控えている背の小さなお嬢様――猫屋敷飛鳥様を紹介すると、「うむ」

 飛鳥様が大きく胸を反らしながら前へ出てきた。

「御影神楽っ、今度こそはあたしが天空サロンを貰いうけるのだから覚悟しなさいっ」

 神楽様に人差し指を突きつけ、宣戦布告のようなことをする。

 それを受けて、神楽様は不敵に微笑んだ。

「ふふ、貴女もまったく懲りない人ですこと。何度挑もうとも天空サロンを明け渡すつもりはありませんわ。また手ひどく返り討ちにしてさしあげましょう」

「そうですわ、また半ベソをかく前に謝ったらいかが?」

「これで三回目ですわよね。負けるとわかっているのに挑むなんて、どれだけマゾなのかしら」

「なんですってー!!」

 うわー、神楽様だけじゃなく、九絵姉妹まで挑発的なことを言い出している。

「あれ、いいんですか?」

 思わず姫子さんに聞いてみた。

 普段から態度が大きいとはいっても、それは天空サロンの中だけでのことだと思っていた。

 身内だから許される、みたいな。

 だけど、他のサロンの、しかも社交科のお嬢様に対してあの態度はマズイのではないだろうか。きららちゃんのことをどうこう言えないと思う。

 しかし――。

「あやかさんたちは特別だから」

 姫子さんはこともなげに言った。

 どうやら問題ないらしい。

 特別? 何が? 確かに九絵姉妹の立ち振る舞いなんかは家政科の生徒とはまったく違うけど、あれが許されてしまうなんてどんな理由があるのだろうか。

「双方ともあまり挑発的なことは言わないようにしてください」

 やんわりとアンジェリカ様がたしなめると、ようやく散っていた火花が治まった。

「そういうわけですので、天空サロン側は申請書を確認してサインをして下さい。そして、すみやかに開催日時と、勝負方法の策定をお願いします」

「わかりましたわ」

 神楽様がさらりと書類に目を通してサインを記した。

「勝負方法等については明日にでもお知らせしますわ」

「わかりました」

 サインを確認して、アンジェリカ様は書類を仕舞いこむ。

 これで、サロンストラッグルとやらの契約が交わされたらしい。

「いいことっ、絶対にぜーったいに、今度こそは天空サロンをあたしのものにしてやるんだから。行くわよっ、めい」

 飛鳥様は再び悪態をついて、自分のセラフに声をかけてエレベータの方へ歩いていく。

 そうか、あの人はめいさんっていうのか。

「それでは皆さま失礼いたします」

 荒々しく去っていく飛鳥様とは反対に、めいさんは非常に物腰穏やかで、熟練のメイドといった感じだ。むしろ、初めに飛鳥様に感じていたオーラはどこへやら、めいさんのほうがお嬢様っぽいかも、なんて思ったりして。

 

 飛鳥様たちが去った後、天空サロンのメンバーは皆で中央のテーブルに集まっていた。

「さて、予想通りの展開になったわけだけど、あやかたちにはサロンストラッグルで星野きららをテストするいい案があったのだったかしら?」

『ええ、とってもとーってもいい案がありますわ』

 また、九絵姉妹が悪い笑顔をしている。あの笑顔を見ていると不安になって仕方ない。

 変なことを考えていなければいいのだけど......。

 そもそも、サロンストラッグルってなんだろう。

「あの、一つお聞きしてもよろしいでしょうか」

 わたしは我慢できなくなり、つい手を挙げて発言権を求めた。

「何かしら」

 神楽様が教師の様にわたしのことを指してくれたので、安心して口を開いた。

「サロンストラッグルってなんでしょうか」

「そういえばみさきは知らなかったのだったわね。ストラッグルは直訳すれば闘争という意味ですけれど、わたくしたちはサロン争奪戦のような意味で使っています」

「争奪戦ですか」

「そう、基本的にサロンを使うためには使用料を払うのだけど、その額は決まっていません。多く出したものが使用権を得ることができる。単純でしょう? でも、それだと一部の者によるサロンの独占が起こってしまう。そこで、誰でも希望のサロンが使えるように、サロンストラッグルという形でチャンスを与えることにしたのです」

「へえ、そうなんですか」

「もちろん正規の方法で利用しようとしているわけではないから、様々な制約があります。まず、サロンストラッグルを仕掛けることができるのは、三か月に一度だけ。負ければ六カ月の間、同じ場所への挑戦はできなくなる。そして、日時や場所、勝負方法は現サロンの所有者が決められるというもの」

「え? それだと、自分たちに有利な勝負方法が選べるのでは?」

「当然です。あくまでも正規の方法では利用できない者への救済策なのだから、そこまで譲歩する必要はないでしょう。だから、サロンストラッグルを仕掛ける者はあまりいません」

 細かい決めごとは他にもいくつかあるみたいだけど、仕掛ける方にしてみればかなり勝算の低い戦いになるようだ。

 社交科のお嬢様たちにしてみれば、有名なサロンを使用できるということは、それだけでステータスになるらしい。負け戦とわかっていても、やってみる価値のあることなのだろう。

「サロンストラッグルについては理解できたかしら?」

「はい、ありがとうございます」

「それでは本題に移りましょう。今回の勝負について、わたくしは件の星野きららをテストする場にしたいと考えています。それに対して異議はあるかしら」

 神楽様の問いかけに、全員がありませんと答えた。

 それを確認して続ける。

「勝負方法については、あやかたちがいい案を考えついたというので、それを聞きたいと思います。あやか」

『はい』

 呼ばれて九絵姉妹が立ち上がる

「それでは僭越ながら、私たちの方から提案させて頂きますわ」

「勝負方法はテーブルマナー対決」

「各個人に決められた点数を与えておき、そこからミスがあるごとに減点するという形にしたいと思っていますわ」

「テーブルマナーを見れば、その人物がどの程度の器量を持っているか簡単に計ることが出来ます」

「それを以てすれば、神楽様のセラフに相応しいか見極めることができるかと」

 毎度のことながら、阿吽の呼吸でかわるがわる言葉をつむぐ様は、見ていて感心してしまう。

「そうね、同じ席で食事をすれば相手のことがよくわかるというもの」

 神楽様も、その案に賛成だと頷いた。

「そして、星野きららには、まずはチャンスを与える代わりに、天空サロンの命運を背負ってもらいます」

「なお且つ、セラフに相応しくないと判断された場合には、自らの首をかけ――すなわち退学してもらいます」

「そんなっ!」

 わたしは思わず立ち上がった。

 それはあまりにも重すぎる代償ではないだろうか。自分からセラフにして欲しいと言っただけで、そこまで追い込まれなければならないなんて......。

『座りなさい、みさき』

 九絵姉妹が冷たく睨んだ。

「これくらいは当然のこと」

「それくらいのことをしなければ、後追いを防ぐことなどできませんわ」

「それはそうかもしれませんが......」

 反論も出来ず、力なく腰を下ろした。

「次に、実際に勝負に参加して頂く方ですが、西天離宮からは飛鳥様とめいさん」

「天空サロンからは神楽様と星野きらら、そして――」

 九絵姉妹が、なぜかわたしの方を見てくる。

 あれ? もしかして......。

『みさきにも参加してもらいます』

「やっぱりーって、どうしてわたしまでっ!?」

「今回の星野きららの処遇に関して、みさきがなんとかして欲しいと言いだしたのでしょう?」

「だったらきちんと責任は取らないといけないわね」

「そ、それはそうなんですが......」

 もしかしてわたし、とんでもないことをしちゃった?

 でも、きららちゃんのことはなんとかして欲しかったし、できれば同じセラフの仲間として天空サロンで働けたらわたしも楽になるかも、なんて思ったりしていたけど。

 まさか、わたしまで天空サロンの命運を背負うことになるなんて――。

「やっぱり、なかったことに――」

『なるわけないでしょう』

「ですよね......」

 綺麗に声をハモらせる九絵姉妹を前に、がっくりとうなだれた。

「みさき、頑張りなさい。私も協力してあげるから」

「うう、姫子さーん」

 わたしは姫子さんに泣きついた。

「よしよし」

 ま、まあ神楽様だって、九絵姉妹だって、天空サロンを失いたくはないだろうし、勝算があって言っているに決まっている。そうじゃなかったら困る。

「それでは明日、アンジェリカ様と飛鳥さんへ勝負方法についてお知らせしましょう。星野きららへは、わたくしが直接言います」

 

***

 

 そして、金曜日のランチタイム。

 きららちゃんはやはり今日も神楽様にお願いをするつもりのようだ。

 神楽様が席に座るとすぐにこちらに向かってきた。

 慣れてきた光景とはいえ、やはり人目を引いてしまう。

 家政科の生徒たちは固唾を飲んできららちゃんの様子を伺っている。

 見ている方まで緊張してしまうけれど、今日は昨日までとは違い、胃が締め付けられるような痛みはない。別の心配はあるけれど、この光景も今日で見納めだ。

 わたしは姫子さんの隣で、直立不動のまま、きららちゃんがやってくるのを待っていた。

 わたしにとっても、きららちゃんにとっても、大きな変化の訪れるこの瞬間に座っていることなんてできない。

 きららちゃんが神楽様の前に立つと一瞬目が合った。いつもとは違う様子に、きららちゃんはほんの少し首をかしげていたけど、すぐに神楽様に視線を落とす。

 昨日までと同じように、ひたすらに頭を下げ続けるつもりだろうけど、今日は神楽様が先に動いた。

「星野きらら」

「!」

 名前を呼ばれたきららちゃんが弾かれた様に背筋を伸ばした。声を掛けられると思っていなかったのだろう。

 神楽様は構わずに続ける。

「あなたにチャンスをあげましょう」

 その場にいた生徒たちがざわめいた。

 ――神楽様がお慈悲をお掛けになる。

 ――いいえ、神楽様に限ってあのような無法を許すはずがないわ。

 ――無理難題を言って厄介払いをするつもりなのでは?

 さまざまな憶測がひそやかに交わされ、生徒たちは興味津々の様子で成り行きを見守っていた。

「ほ、本当ですか」

 きららちゃんは目を輝かせた。

 初めて神楽様から話しかけられて、しかもそれが良い話――に聞こえるのだから当然だ。

「昨日、天空サロンに対して、西天離宮からサロンストラッグルが申し込まれたことは知っているかしら」

「は、はい」

 ――サロンストラッグル申し込まれる。その情報はあっという間に生徒たちの間に広まっていた。全寮制の学院で過ごす生徒たちは刺激に餓えているのだ。

 社交科のお嬢様も、家政科の生徒もそれは変わらない。

 それが天空サロンという、全生徒たち憧れの場所を舞台にしているならなおさらだ。

「その勝負にあなたも出なさい」

「わ、私がですか?」

「ええ。その勝負の席にて、あなたがセラフとして迎え入れる価値があるのかどうか判断しましょう」

 食堂のざわめきは一層大きくなる。

「わたくしのセラフになりたいというのだから、わたくしの憩いの場を共に守れるくらいでなくてはならないわ。天空サロンの命運を背負う気概はあるかしら」

「ありますっ」

 きららちゃんは真っ直ぐ前を見つめながら、迷いなく答えた。その声からは強い決意がうかがえた。

「結構。そしてもう一つ――」

 ごくりと喉が鳴った。今から神楽様が告げること、これが一番重要だ。生半可な覚悟では受け入れることはできないだろう。

「――わたくしのセラフたる価値がないと判断された場合は、学院を去りなさい」

「っ......」

 これにはさすがにきららちゃんも即答できなかった。

 天空サロンの命運を背負わされ、さらには自分の進退をかけなければならないのだ。

 あまりにも代償が大きすぎる。普通はそう考えるはずだ。

 しかし、きららちゃんはすぐに迷いを振り切った。

「わかりました。その条件お受けします」

 ハッキリときららちゃんは告げた。

 その答えを聞いて、神楽様は満足げに頷いた。

「良い答えだわ。それでは今日の放課後、天空サロンにいらっしゃい。その時に詳しい内容を教えます。みさき、彼女を案内してあげなさい」

「わかりました」

 きららちゃんがやると言った以上、わたしも覚悟を決めないといけない。

 胃に穴が空きそうになる緊張感からは解放されたけど、別の意味で胃の痛くなることが続くのだった。

 

***

 

 放課後、約束通りきららちゃんを連れて天空サロンへやってくると、すでに姫子さんと神楽様が中央テーブルの席についていた。

 九絵姉妹はいつものように神楽様の後ろに陣取っている。

 そして、アンジェリカ様、飛鳥様、めいさんも来ていた。

「いらっしゃい」

「よくきました。サロンストラッグルを共に闘う仲間として歓迎しましょう」

 姫子さんと神楽様に挨拶をされて、きららちゃんは目に見えてわかるくらいに緊張していた。

 わたしはもう慣れてしまったし、この学院のことを知らずに来てしまったからわからないけど、きららちゃんの反応が本来のものなのだろう。

 何しろ、姫子さんは天使女学院の理事長代理で、神楽様は数あるサロンの中で頂点に位置する天空サロンの支配者なのだから。

 家政科の生徒にとっては神にも等しい存在の二人だ。

「こ、この度は多大なる温情を頂きありがとうございます。か、かならずやご期待に応えられるよう、粉骨砕身の思いで勝利の為に尽力したいと思っています」

 きららちゃんは油の切れたロボットのように、ギギギという効果音がしそうなぎこちなさで深々と頭を下げる。

「そんなに堅苦しくなる必要はないわ。まあ座りなさいな」

 神楽様はきららちゃんの様子に苦笑していた。

「は、はい。失礼いたします」

 もう普段の勝気なきららちゃんはどこへやら、すっかり借りてきた猫状態だ。

「みさきも座りなさい」

「はい」

 まあ、わたしも人のことは言えない。

 サロンストラッグルに出ることを思うと、嫌でも緊張してしまう。

 きららちゃんの隣に座ると、小さく息を吐いた。

『それでは役者も揃ったようですので、説明をさせて頂きます』

 全員が席に着いたのを見て、九絵姉妹がどこにあったのか、ホワイトボードを持ち出してきた。

 司会進行をするのが姉の文歌さん、板書を妹の彩華さんがやるらしい。

「まずは、今回の勝負方法ですが、テーブルマナー対決といたします」

「テーブルマナー?」

 すぐに口を挟んだのは飛鳥様だ。

「はい、淑女たるものテーブルマナーは身につけていて然るべきものですわ。ましてや天空サロンを支配しようとする者ならばなおのこと。これは、天空サロンを支配するのにふさわしいかどうかを見るテストでもあると考えてください」

 昨日とは違って、九絵姉妹の飛鳥様に対する態度はずいぶんと大人しくなっていた。アンジェリカ様にたしなめられたのが効いたのか、公私の使い分けというやつなのか。

「ふんっ、まあなんでもいいわ」

 飛鳥様は荒く鼻息を吐いた。

 この場合、なんでもいいというよりは、拒否権がないというのが正しい。なにしろ勝負方法は全てこちらで決められるのだから、相手は基本的に従うしかないのだ。

「ふふ、威勢がよくてなによりですわ」

 文歌さんが少し馬鹿にしたような笑みを漏らした。ああ、これは相当我慢して大人しくしているんだな、というのが伝わってくる。

「具体的な内容ですが......、その前に一つ、飛鳥様に了解して頂きたいことがあります」

「何よ」

「今回の勝負ですが、西天離宮からは飛鳥様とめいさんの二人に参加して頂くつもりですが、天空サロンからは三人出させていただきます」

「はあ? どういうことよ。二対三じゃこっちが不利になるんじゃないの!?」

 飛鳥様の疑問は当然だ。いくら勝負方法はこちらが決められるとはいっても、明らかに平等ではない条件は問題になると思う。

「ご心配なく。これは、むしろそちらに有利に働く可能性を秘めていることです」

「?」

「天空サロンから出るのは、神楽様と、みさき、そしてここ数日学院内を騒がせていた、星野きららになります」

 文歌さんに紹介されて、きららちゃんがぎこちなく頭を下げる。まだ緊張が解けていないようだ。

「へえ、結局セラフにしたんだ」

「いいえ、それはまだですわ」

 答えたのは神楽様だ。

「今回の勝負に出てもらい、それで判断したいと考えています。ですので、天空サロンのメンバーではないものが出るということを承諾してもらわなくてはなりません」

「......それは、まあいいわ。重要なのはこちらが圧倒的に不利な条件を飲まなくてはならないのかどうか、ということよ」

 飛鳥様が語気を荒くする。少しでも有利な条件にしようと飛鳥様も必死だ。

「それについては後で説明しますので、しばらくお待ちを。悪い条件ではないとだけ言っておきますわ」

 飛鳥様を制して文歌さんが説明を続ける。

「それでは肝心の料理ですが、フランス料理のコースを元にアレンジを加えていきます。オードブル・スープ・ポワソン・ソルべ・アントレ・サラードゥ・アントルメ・カフェ。この八品目をお出しします」

 彩華さんが文歌さんの言ったことを、ホワイトボードに書き込む。

 それを見ながら、わたしは頭を抱えたくなった。

 オードブルやスープはいい。それくらいならなんとかわかる。でも、ポワソンって何? ソルべ? アントレ? あっそーれ、ともう何がなにやらだ。フランス料理なんて、わたしにとって未知の食べ物でしかない。だんだんと気が重くなってきてしまう。

「各料理を出す前には神楽様と飛鳥様にクジを引いてもらい、数種類の中からお出しする料理を決めます。それによって食べ方も難易度も変わってきます。中には和食もあるでしょうし、イタリア料理なんかがあるかもしれません。運がよければ簡単な物ばかり、ということになるでしょう。もちろん何が出るかは事前までわかりませんし、誰かに教えるということもありません。こちらも、星野きららのテストを兼ねていますので、それは信頼して頂きたいと思います。ここまではよろしいでしょうか」

「うむ、まあよかろう。異論はない」

 飛鳥様は尊大に頷いた。

「それでは次に採点方法ですが、各個人に一定の点数を与えておき、ミスがあるごとにそこから減点していくという形にしたいと思います」

「ふむふむ」

「神楽様と、飛鳥様、それにめいさんには十五点、みさきときららには十点ずつ与えたいと考えています」

「んん? ちょっと待ちなさいよ、それだとこっちが三十点で、そっちは三十五点じゃないの。どうして初めから五点も差をつけられなければならないのよ」

 飛鳥様の言う通り、計算すると確かにそうなる。

「あら、これだけフェアな条件を提示しているのに、お分かりになりませんか?」

「はあ? わかるわけないでしょ」

 飛鳥様はテーブルに手を叩きつけながら立ちあがった。それを見て、文歌さんはやれやれと首を横に振る。

「いいですか、よく考えてごらんなさい。点数が加算方式であれば、こちらは三人分の点数を獲得できるので、確かに有利になります。しかし、減点方式だとその逆。こちはら三人分の点数を失うようになるのです。たとえば、同じミスを全員がしたとすれば、飛鳥様たちは二点のマイナスで済むのに対して、こちらは三点のマイナスになるのです。そして、あまりにも酷いミスであれば、点数を大きくします。そうなれば、最初の点数の差などすぐに埋まってしまいますわ。それに、そちらはめいさんという優秀なセラフがお出になるのに対して、こちらは入学して間もない一年生二人がいるのですもの。この二人はテーブルマナーなど当然知らず、これから教え込まなくてはなりません。逆にこちらの方が不利というものですわ」

「うぬぬ」

 なるほど、聞いてみればそれほど有利不利があるようには感じられない。実際わたしはテーブルマナーなんて知らない。

 しかし、飛鳥様はすぐには納得できないようだった。これはもう文歌さんからの説明だからということで、心理的に受け入れにくくなっているのだろう。あれだけ馬鹿にされたようなことを言われていれば当然だ。

「めい、あなたはどう思う?」

「そうですね......」

 話を振られて、めいさんは頬に手を当てて考え込んだ。

「最初から点数に差があるのは気になりますが、文歌さんの説明を信じるならば悪くない条件かと。九絵姉妹が出てくるようであれば逆転は期待できませんが、一年生の子が出るならば十分チャンスはあるように思えます」

 めいさんが探るような視線を送ってくる。送ってくるといっても、めいさんはいつも瞳をほとんど閉じているので、顔がこちらに向いたからきっとそうなんだろうという推測だ。

「たとえば先ほど言っていた酷いミスをした場合、どれくらいのマイナスになるのでしょうか」

 めいさんが文歌さんに質問を投げかける。

「そうですわね、完全なタブーを犯した場合は三点くらいを考えていますわ」

「そうすると、二人が同じようなミスを一度して、こちらがノーミスであれば、それだけで逆転というわけですね」

「そうなりますわ」

「なかなか悪くないじゃない」

 先ほどまでと打って変わって、飛鳥様がはしゃいだ声をあげた。

「あたしとめいはテーブルマナーなんて完璧だもの、一度だって間違えるはずがないわ。そうでしょ、めい」

「はい、飛鳥お嬢様」

 めいさんが恭しく頭を垂れた。どうやらめいさんはかなり飛鳥様に信頼されているようだ。

「では、この条件でよろしいでしょうか」

「いいわ、その勝負受けてあげる」

 飛鳥様は自信満々に頷いた。

「ありがとうございます。最後に勝負の日時ですが、週明けの月曜日――放課後にエコールキッチン・エリスで行いたいと思います。シェフはこちらで用意しますので、場所だけお借りする形になると思います」

「何処よ、そこ」

「何処って、それは飛鳥様のほうが御存じなのでは?」

 文歌さんが不思議そうに首をかしげた。

 エコールキッチン・エリスは、社交科の寮であるフランソワ館の裏手に広がる森の中に建っている、こぢんまりとした欧風レストランだ。プロヴァンス風の外観で、フランスの片田舎に来たような錯覚を起こさせるような素敵な建物なのだけど、なぜか人気がない。

 いつ行っても、お客さんが二、三組みしかいないのだ。

 宣伝をしていないのか、まさに知る人ぞ知る秘密のお店になってしまっている。

 どうしてわたしがそんなことを知っているかというと、そのお店が姫子さんのお気に入りだからだ。以前からよく通っていたらしく、わたしも何度か連れて行ってもらったことがある。

 そんなお店だから、飛鳥様が知らなくても当然だと思う。

「めいは知っているの?」

「ええと、はい......」

 めいさんは少し気まずそうに頷いた。

 そして、飛鳥様の耳元でごにょごにょと何かを耳打ちをし始める。

 すると、飛鳥様が「ええっ?」と驚いた声をあげた。

「絵理栖がオーナーのお店? あの子そんなことやっていたの?」

「はい......」

 どうやら飛鳥様のお知り合いがやっているらしい。それを知らないなんて、どれだけ知名度がないんだろうあのお店。

「場所はわかっていただけたかしら」

「ああ、うんうん、わかったわ」

 飛鳥様は勢いよく首を縦に振っていた。

 全ての話がまとまったところで、アンジェリカ様が立ち上がる。

「それでは月曜日の放課後、エコールキッチン・エリスにてサロンストラッグルを執り行いたいと思います。双方とも良い勝負をしていただけることを期待しています」

 

***

 

 アンジェリカ様と飛鳥様が去った後、わたしたちは今後の話し合いをしていた。

 兎にも角にも、わたしときららちゃんはテーブルマナーの練習をしなければ、勝負にすらならないのだ。

「時間が土日の二日間しかないのだから、誰かに教えてもらうのが一番でしょうね。まあそれだけあればじゅうぶんでしょう」

 神楽様は気軽に言ってくれるけれど、わたしにとっては『たった』二日間だ......。それだけの時間でテーブルマナーが身につくとはとてもじゃないけど思えない。テスト勉強よりも、はるかに難しいのではないだろうか。

「私たちが教えてもいいのだけれど」

「つい勝負内容のことを漏らしてしまうかもしれないから、別の方にお願いした方がよろしいですわね」

 九絵姉妹は意外なことに真っ向勝負をするつもりのようだ。勝つためにヒントくらいはくれるかも、なんて考えは持たない方がいいらしい。

 もっと楽な勝負になると思ったんだけどなぁ......。

 勝負内容をこちらで決められる以上、負けることはありえないはずなのに、なんだか追い詰められている気がする。

「やはり姫子様にお願いするのがよろしいかと」

「そうですわね、きららのテストを兼ねているのだから神楽様が教えては意味がありませんものね」

「そうね、姫子、お願いできるかしら」

 神楽様と九絵姉妹が頷き合って、姫子様を見た。

「はい、お任せ下さい」

 姫子さんは嬉しそうに頷いた。

「二人とも、厳しくいくから覚悟してちょうだいね」

「は、はい」

「よ、よろしくお願いします」

 こうなった以上、もう逃げも隠れもできない。

 わたしときららちゃんは、さまざまな『覚悟』をして頷いたのだった。

 

***

 

 特訓はその日のうちから始まった。

 といっても、今日いきなりレストランで練習とはいかないので、座学からのスタートだ。

 フランソワ館の自習室に招かれて、わたしときららちゃんは一冊の本を前に座っている。

 『食事作法のいろは』、と書かれた本。これが教科書になるようだ。

 姫子さんはやる気に溢れていて、白のブラウスと短い紺のタイトスカートをはいて、さらには伊達メガネをかけて、色っぽい女教師のようになっていた。

 軽くメガネの淵を持ち上げたりなんかしてノリノリである。

「今日はまずテーブルマナーの基本を教えていくわね。実践は明日から。エリスに席を用意してもらうように手配しておくから、実戦形式でやりましょう」

『はい』

 わたしときららちゃんの声が重なった。

「二人ともナイフとフォークの持ち方はわかるかしら」

 持ち方、持ち方......。

 エアナイフと、エアフォークを目の前に思い浮かべてみるが、ギュッと握りこむ以外の方法が思いつかない。これから誰と戦うつもりなのかと自問してしまう。

「左手でフォークを、右手でナイフを、それぞれ人差し指を背に添えるようにして持ちます」

「正解」

 お、なるほど。

「さすがきららちゃん」

「これはさすがに常識でしょう」

 素直に感動したのに、冷たく言い返されてしまった。

 ナイフとフォークを使うような席に着いた試しがないのだから仕方ないと思う。

 箸があればなんでも食べられる。それがわたしの持論だ。......今考えたのだけど。

「いいわ、誰でも初めは知らなくて当然だもの」

 うう、姫子さんは優しいなぁ。これが九絵姉妹だったらひたすらなじってきたに違いない。

「正しい持ち方は明日しっかり教えてあげるから、今日のところは持っているイメージをしてちょうだい」

 姫子さんは両手を胸の下あたりまで持ち上げて、見えないナイフとフォークを手に取った。それがあまりに様になっているものだから、まるで本当にナイフとフォークがあるように見えてしまう。もう自然にその形ができるくらいに身に付いているってことだ。

 さすがお嬢様。思わずため息が出てしまう。

「はい、二人とも同じようにして」

 わたしときららちゃんも、姫子さんをお手本に、優雅に決めようとするがやっぱりどこかぎこちない。

「まずは構えね。こうやって、漢字の八の字を書くようにするのが基本よ。そして刃先は上げないように。フォークで料理を刺したら、ナイフで静かに切っていくの。その時、八の字を崩さないようにすれば綺麗に見えるわ」

 うーん、イメージならまあなんとかなりそう。

「とにかく、美しく優雅に。これを心がけていればいいわ。そして、ナイフとフォークを使っている時のルールとタブーをしっかり覚えてね」

 

 曰く、音を立てない。

 曰く、料理は左端から切ること。

 曰く、ジグザグ持ちをしない。

 ......エトセトラエトセトラ。

「うう、めんどくさいです」

 いっぺんに詰め込まれると、頭がこんがらがってしまう。

「そう感じるのは初めだけよ。すぐに慣れるわ。それに、社会人になってから困らないように、今覚えておくのはいいことだと思うわ」

「確かにそうですね」

 メイドとして生活するならともかく、社会人になるならテーブルマナーは覚えておいた方がいいだろう。

「それでは今言ったことを踏襲しつつ、実戦的なことを教えていくわよ。まずはオードブル。基本的には一口サイズに切り分けていけばいいのだけど、ナイフとフォークは一番外側のを使うこと。注意したいのはカナエッペやキャビアが出てきた時ね。カナッペは手で食べてもいいわ。キャビアはスプーンで食べなさい。クラッカーが添えられていれば、乗せて一緒に食べればいいわ」

 カナッペってなんでしょうか――。そういえばポワソンとかアントレも意味分かんないし、そこから解説してもらわないとついていけそうにない。

 わたしのテーブルマナー習得の道は、かなり大変な物になりそうだ。

 

***

 

「うあー、疲れたぁ」

 姫子さんのテーブルマナー講座が終わり、寮の自室へと帰ってきたわたしは、すぐにベッドに倒れこんだ。

 おおよそ三時間。ひたすら姫子さんの講義は続き、わたしの頭の中はテーブルマナーのことで埋め尽くされていた。

 慣れないことはするものじゃない。肉体的な疲労よりも、精神的な疲労がどっと押し寄せてくる。

「スープは音をたてず食べるつもりで......サラダはお皿を手に取らずナイフとフォークで、薄い物は重ねて......」

 わたしの横では、きららちゃんがぶつぶつ言いながら今日の復習をしている。

 現実に用意されていない料理を切り分ける練習をして、すっかりパントマイムが上達してしまった。

「きららちゃん全部頭に入った?」

「魚のムニエルはひれをはがすところから......、まだ入っていないけど教えて頂いたことは、全部今日中に覚えるつもりよ」

 一度手を止めて返事をしてくれたけど、すぐにまたエアナイフを動かし始める。

 きららちゃんは逞しいなぁ。

 ......いや、自らの進退がかかっているのだから当然だ。

 わたしも頑張らないと。もしわたしの所為で天空サロンを受け渡すことになって、さらにはきららちゃんが学院を去ることにでもなろうものなら、一生後悔することになりそうだ。

 よしっ。

「きららちゃん、わたしも一緒にやるよ」

 ベッドから身を起して、きららちゃんと向かい合った。

「あら、急にやる気が出てきたのかしら」

「うんっ、絶対に負けるわけにはいかないんだから、休んでる場合じゃないよね」

 エアナイフとエアフォークを手に取り、八の字に構える。

「ええと、ムニエルは中骨に沿ってナイフを入れて、身の手前半分をお皿の手前に移すんだっけ?」

「そうね、それを切り分けて食べたら、今度は奥側。そしてナイフとフォークを使って骨を外す」

「魚は引っくり返しちゃダメなんだよね」

「骨付き肉もそうだと言っていたわね。フィンガーボールがあれば手で持って食べてもいいみたいだけど、できるだけナイフとフォークを使って食べるのが好ましいようね」

 テーブルマナーは大変だけど、一人じゃないから頑張れる。これを機会に、きららちゃんともっと仲良くなれたら嬉しい。

 わたしたちは、今日習ったことを一つ一つ確認しながら、就寝時間まで繰り返して練習したのだった。

 

***

 

「それでは今日は実際の料理を使って練習していきます」

『はい』

 翌日、姫子さんと共に訪れたのは、勝負の舞台となるエコールキッチン・エリスだった。

 柔らかな印象を受けるベージュの塗り壁に、オレンジ色の屋根瓦。アンティークな木製扉を開けて店内に足を踏み入れると、中世のサロンに迷い込んでしまったかのような錯覚をしてしまう。そんな素敵なレストランなのに、今日のお客さんはわたしたちだけみたいだ。貸切にした、ということはないと思うのだけど、どうして人気がないのかさっぱりわからない。食事時ではないにしても、ちょっとお茶とお喋りをしに誰かがいてもいいと思う。姫子さんがお気に入りにしているくらいだから、悪い店ではないと思うのだけど......。

 その姫子さんといえば、今日も女教師スタイルで教えてくれるようだ。タイトスカートからスラリと伸びた脚が目に眩しい。

 あの格好、気に入ったのかな。スタイルがいいものだから、大人びた雰囲気と相まって、同性ながらちょっとドキドキしてしまう。

「あやかさんたちの性格を考えて、勝負に出てきそうなものを用意してもらったから、確実に一つずつマスターして行きましょう」

『はいっ』

 今日のわたしはやる気に満ちている。

 天空サロンのため、きららちゃんのため、頑張ると決めたのだ。

「それではお願いね」

「かしこまりました」

 返事をしたのはこのお店のシェフだ。実はここのスタッフは全員家政科の生徒がやっていたりする。これは別に珍しいことではなくて、学院内にあるお店で働いている人たちは大抵が家政科の生徒だ。フランソワ館にある雑貨屋もランジェリーショップも、そしてフードショップも、家政科の生徒たちがアルバイトで働いている。

 学院外でのアルバイトは禁止されているけど、学院内で働ける場所があるからいいお小遣い稼ぎになっているようだ。

 ちなみにこれはお嬢様たちとの出会いの場にもなっていて、実際に働いている姿を見染められてセラフやエクスシアになるケースも多いらしい。

「お待たせいたしました」

「ううっ......」

 早速運ばれてきた一品目。

 それを見て唸り声をあげた。

 名前を知っているけれど、食べたことのない人も多いであろうその品は――。

「エスカルゴのブルターニュ風でございます」

 いきなり想定外のものだった。

 かたつむりの貝そのものに、緑色の液体がかけられていて、ちょっと食欲をそそるとは言い難い。

 いや、もちろん個人差はあるだろうけど、この緑色の液体を見るとどうしても青汁を思い出してしまうのだ。

 しかし、食べないわけにもいかない。いつの間にわたしは未知の物への挑戦を強いられるようになったのかと、誰にでも無く愚痴を言いたくなってしまった。

「これ、どうやって食べるのでしょうか」

 見ればきららちゃんも困り果てていた。

 わたしたちの練習では、一度もやっていなかったものだ。

「これはトングという専用の器具を使うわ。左手でトングを持ち、右手のフォークで中身を引っかけて取りだすの」

「なるほど」

 教えてもらえばそこまで難しいものではない。

「殻の中に残った汁だけど、パンが添えられていればそれにかけて食べてもいいし、直接飲んでもいいわ。でも......みさきはあまり好きそうではないわね」

「あはは......」

 完全に見抜かれていました。

「パセリとニンニクのみじん切りにバターを絡めたものなのだけどね。まあ中身さえ綺麗に食べられれば問題ないわ。下手なことをして汁をこぼしてしまっては元も子もないものね」

 

 予想外の品から始まった特訓は、まさに熾烈を極めた。

 打ち鳴らされる金属音、逃げ回るプチトマト、跳ねるスープ――。

 そこはまさに戦場であった。

「ふーっ、ふーっ」

 なぜ食事をするだけで息が上がっているのだろうか。

「星野さんはだいぶ上達したけれど、みさきはいまいちねぇ」

 姫子さんがあきれたようにため息をついた。

「えー、えー、わたしは不器用ですとも」

 まさか実践がここまで難しい物だとは思っていなかった。

 きららちゃんと練習していた時は、もう少しうまくできると思っていたのだけど......。

「力加減がわかっていないのかしらね。......いいわ、直接教えてあげる」

「はい?」

 そう言うと姫子さんはわたしの後ろに回って、両手を重ねてきた。

「プチトマトはこうやってナイフで支えながら斜めからフォークで刺しなさい。固い物は力任せに切ろうはせず、ナイフを引きながら少しずつ切っていけばいいわ」

「は、はい」

 今まで気にしたことがなかったけど、姫子さんの指は白くて細くてすべすべだった。

 その手がわたしの両手を操り人形のように動かし始める。

 姫子さんに手ほどきをされると、それまで苦戦していたのが嘘のようにすんなりと切り分けることが出来た。

「口の中に運ぶまで決して油断はしないこと。途中で落としてしまったら減点は免れないわ」

 姫子さんによって操られた左手が、プチトマトを口に運んでくる。

 それを食べさせてもらいながら、やっぱり姫子さんくらいのお嬢様になると、これくらいは当たり前にこなせるんだなぁと心底感心したのだった。

「さあ、休んでいる暇はないわ。練習をすればするだけ上達するし、自信にも繋がるのだから、時間の許す限り続けましょう」

『はい』

 その後、わたしたちは土日の二日間、ひたすらに練習を重ねた。

 そのかいもあって、もう何が来ても大丈夫、というくらいに自信をつけることができた......と思う。