4 手のぬくもり
4 手のぬくもり
かすみと東風の婚約が決まり、その年の夏は静かに終わった。
新学期に入り久しぶりの学校はどこか新鮮で、それでいてまた日常に戻ってきたんだという安心感がある。
あかねは教室に入るなり、クラスメイトのゆかとさゆりに囲まれた。
「どうしたの?その髪」
「ずいぶん思い切ったわねー」
あかねはへへっと愛想笑いを浮かべる。
切った当時より少しは髪が馴染んできて、そんなに違和感もなくなっていた。
あかねは耳にかかった髪の先を撫でると、なぜか胸の奥がじわっと温度を上げていくのを感じた。
髪や首筋にふと触れた、指のぬくもり。
男の子にあんなに髪に触られるのも初めてだし、ましてやあの乱馬に。
ほのかに上気していく自分の頬。
あかねは少し悔しい気持ちになって、そんな気持ちを追い出すかのようにぶるぶると頭を振った。
それでも気づけば、乱馬のことを目で追っている。
なんだかんだ言っても、乱馬はあたしの許嫁っていう立場上、変なことされたら困るから気にしてるだけよ。
あかねはその考えに妙に納得して、窓際の後ろの席の乱馬に視線を向ける。
乱馬は机の上に腰掛けて、ヒロシやダイスケと談笑している。
んもー、机の上に座るなんて。
あかねはふっとため息をつくと、また女子たちとの会話に戻っていった。
下校時、あかねの隣には約束してるわけではないのに、当たり前のように乱馬がいる。
乱馬はひょいといつものようにフェンスの上に飛び乗って、あかねの一歩先を歩いていた。
川の水が午後の日差しに照らされて、キラキラと光って見える。
二人は特に会話するわけでもなかったが、乱馬はチラチラとあかねの顔を伺っていた。
あかねはそれに気がついて、乱馬に声をかける。
「なによ、さっきからチラチラこっち見て」
「い、いや別に。学校で、その髪…変だとか言われなかったか?」
乱馬が前を向いて空を見つめたままあかねに尋ねる。
「えっ?別に…。まさかそんなこと気にしてたの?」
あかねはびっくりして乱馬の後ろ姿を見つめる。
「だって、なびきに言われてただろ。学校でもなんか言われてたら、オレだって責任感じるし」
あかねはなぜか可笑しくなってきてしまって、くすっと笑った。
乱馬は立ち止まって、ムッとした顔で振り返った。
その顔は、耳まで真っ赤になっていた。
「人がせっかく心配してやってるのに」
あかねは足を止めず、乱馬より少し先まで歩いていくと、振り返ってフェンスの上の乱馬を見上げた。
「あたし、結構気に入ってるんだ。この髪」
あかねは自身の髪に触れながら笑顔で答えると、また歩き始めた。
乱馬はフェンスの上を小走りであかねの隣に追いつくと、お互い何も言わずそのまま歩き続けた。