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番外編 雨音の教室 後編

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番外編 雨音の教室 後編

「おい、優等生」

先生が出ていくと、乱馬はあかねに向かって呟いた。

「断りゃいいのに。そういうの疲れねえ?」

「え?」

あかねが不思議そうに乱馬を見る。

「別に、お前がやらなくたっていいだろ」

「困ってるんだから、手伝ってあげるのは当たり前でしょ」

あかねはなんの躊躇もなく答えた。

そんなあかねに、乱馬は何も言い返さなかった。

(...そういうとこ、なんだよな)

お人好しで、お節介で、頑張り屋で。

損得なく誰かのために動ける、そういうやつ。

まだ出会ってそんなに経ってないのに、毎日あかねの隣にいるだけで、嫌と言うほど分かってしまう。

乱馬は、言葉にしないまま視線を落とした。

「ねえ、どのくらい進んだの?」

不意に、あかねが乱馬のドリルを覗き込んできた。

「うおっ!」

かがみ込んできたあかねの顔が乱馬のすぐ近くにある。

あかねの髪からシャンプーの香りがふわりと漂ってきた。

乱馬はすかさずあかねから距離を取ろうとし、危うく椅子から転げ落ちそうになる。

「...なにやってんのよ?それよりドリル全然進んでないじゃない」

あかねは乱馬の戸惑いなどまるで気にする様子もなく、呆れたように言った。

「う、うるせぇ!」

乱馬は慌ててドリルを守るように引き寄せた。

「んもー、そんなにムキにならなくたって」

あかねは、むっとした顔をして席へと戻っていく。

(///は?な、なんなんだよ。顔がやけに熱くて、心臓の音がうるせえし)

乱馬はそれがなぜなのかわからないまま、まるで誤魔化すようにドリルへと視線を戻した。

それから時間は流れ、ようやく最後のひと文字を書き終えた乱馬は、ペンを机に投げ捨てると大きく伸びをした。

「よし、終了っと!」

両手を上へ伸ばしたまま、窓の外を見ると、雨はまだ変わらず降り続いていた。

「じゃ、乱馬は職員室にこのドリル持っていって。あたし、玄関で待ってるから」

あかねはいそいそと鞄の中にノートや筆記用具を詰め込んでいた。

「結局、最後まで付き合わせて悪かったな」

乱馬が言うと、あかねは驚いたように目を丸くした。

そして、ほんのりと頬を赤らめて続ける。

「べ、別に乱馬を待ってたわけじゃないんだから」

そう言って、鞄を胸に抱きかかえたまま足早に歩き出した。

職員室に寄ったあと玄関へ行くと、あかねが

傘を差して待っていた。

「お前、傘持ってたのか」

「...うん。持ってるわよ。乱馬は、持ってきてないんでしょ?」

「なんで知ってんだよ」

すると、あかねは少しだけ乱馬から視線を逸らして言う。

「知ってるわけじゃないけど、どうせそんなことだろうと思って」

そして、乱馬のほうに傘を差し向けながら、ぶっきらぼうに言った。

「ほら、入れてあげるわよ?」

「...は?」

「早く入って!濡れるわよ?」

「やっぱりおめー」

……お節介。

心の中でそう呟く。

「なによ?」

「なんでもねーよ」

そう言って、あかねの手から傘を奪ってそっとあかねに差し掛ける。

「ほら、帰るぞ」

「なによ、なんか偉そうじゃない?」

あかねはぶつぶつ言いながらも、『いつもの乱馬の隣』に立つと、どちらともなく歩き出す。

いつの間にか、こうして並んで歩くことに馴染んでいた。

やがて街灯が優しく灯りだす中、しとしとと降り続く雨音が、静かにふたりの間に響いている。

道の脇では、雨に濡れた紫陽花が色を深めていた。

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