第4話
第4話
それから、明は河野が屋敷にいることを何だかやり辛く感じていて、辞めてもらおうと父に相談しようかとも考えた。「ここにいろ」とは言ってみたものの、何となく居心地が悪いのだ。しかし、無下にもできず一カ月が経ってしまった。 そして、五月に入り世間がゴールデンウィークで浮足立っている頃、河野は何故か明専属になることとなった。「は!?俺の専属だぁ?何でだよ」あまり突然のことで、明はうろたえた。何しろ自身専属の執事など、もう必要ないと思っていたし、河野が専属では息が詰まってしまいそうな気がしたからだ。河野自身が嫌なわけではないのだが、何となく彼が傍にいるとやりにくい面があるからという理由もある。「…それは…旦那様がお決めになったことですので、換えることは不可能かと…」東野家では、旦那様、つまり明の父の権力が絶大であり、逆らうことはできないのだ。それは、東野家代々の伝統でもある。 何だか古臭いしきたりだとは思うが、家長である父には明も従うしかない。これまでもそうやって生きてきたのだから。「…そうかよ…わかった。じゃあ、これから俺の世話とやらをしてくれよ。頼んだぜ、佐々島。いや、河野」「二人でいる際には佐々島と呼んでいただいてかまいませんよ」「へーへー。わかったよ。そうだ、言っておくが、俺自身本当は、特段執事なんていらないんだからな。それだけは覚えておけよ」「…かしこまりました」そう言うと、河野は恭しく腰を折った。 河野が、明と話す時に一々逡巡するようにしてから話し出すことに、明は気付いていなかった。 明が聞いたところでは、河野は高校を卒業した後にエスカレーター式の大学には行かず、ホテルなどのサービス業を学べる学校に進学したと言っていた。そして、昨年にはバイトをして自分で金を貯め、8週間イギリスの執事を要請するバトラー学校に訓練を受けに行ったともいう。名家生まれの河野が、なぜイギリスにまで自費で行き、ここに辿りついたのだろうか。明にとっては、不可解で仕方がなかった。けれど、河野に聞こうとしても彼は多くを語ろうとしなかった。 それから、河野の明への世話が始まった。前にも専用の執事がいたから、その事自体は別に気にならない。しかし、相手が”佐々島”であれば話は別だ。一週間経っても、彼に起こされることに慣れることができない。「明様、起きてください。もう3度ほどお呼びしているのですが」「うるっさいな…わかってるよ…起きりゃいいんだろ、起きりゃ」明は渋々体を起こしたが、まだとてつもなく眠くて仕方ない。「おはようございます、明様。新しいタオルなどを用意しておりますので、ご利用ください」「あぁ…ありがとよ」これは、毎日繰り返される情景。明は内心既にうんざりしていた。なぜ元同級生に世話をされなければいけないのだ。雇った方も雇った方だと思う。