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第6話

好きなのは俺の執事 — fujossy.jp · All chapters

第6話

「お願いです、明様。たまには私の願いも聞いていただけませんか」河野は何とも言えない切羽詰まった表情で明の腕を取り顔を近づけてきた。『ちっ、近い!』若干の恐怖を感じた明は、河野の手を振りほどき、彼と間を取った。「お前近すぎんだよ!わかった、わかったよ!お前に着替えさせてやるから!今晩からだぞ、わかったか」何故か顔を赤らめ明は部屋を後にした。背後からは、河野の「はい!」と嬉しそうな返事が聞こえてきた。 ある日の夜、明はいつも通りゆったりと風呂に入っていた。彼が入っているバスルームは自身の部屋に繋がっていて、すぐに入りに行くことができる。サイズも広めに取られていて、解放感もある。明は風呂に入っている時が一番心が安らいだ。いずれ東野家の当主となる身。今でも日中はぴりぴりとして、周りの目も気にしつつ当主となるべく勉強を兼ねながら、仕事に励んでいる。だから、普段は心に余裕などないのだ。 経営のことや、当主としての資質について、色々覚えなくてはいけないことが今でも山ほどある。明には恋などする暇もなかったが、学生時代にはそれなりにモテていた。涼やかな切れ長の目元に薄い唇…そして艶やかな黒髪が印象的な明は、中学時代から女子に度々告白をされていた。けれど、好きな女子がいたわけでもないし、告白をしてくれた子にも心が動かされることがなかったのだ。それを自分でもおかしく感じた明は、ある1つの事に思い至ってしまった。自分が女の子を好きになれないわけ…それは自分が男性しか好きになることができない性質であることがわかってしまったのだ。しかし、それに気付いたとしてもあまり驚きもしなかった。『あぁ、そうだったのか』とは思ったが、ただひたすら自分の性質は隠していこうと心に誓ったから…。それからは、好きな人ができたとしても、気持ちを告げることはなかった。高校時代は、普通の学園生活だった。友達がいないわけではなかったが、あまり皆でワイワイと騒ぐ方ではなかった。思春期だし恋をしたいなと思ったりもしたが、自分が好きなのはどうやら男のようだし、好きになっても不毛だと思えたので、本気で好きになった人はいなかった。好きな人ができたとしても、どのみち良い反応は見られないと予想できたから…。