第8話
第8話
一体誰だろう…もしかしたら、河野なのだろうか。「誰だ?」明は気だるげに声をかけた。「河野です」何故か、屋敷では河野と名乗っている佐々島が風呂にまで現れ、明は驚いた。 「な、なんだよ、何か用か!?」「明様のお背中をお流ししようかと思ったもので」 ドア越しに河野が言う。「え?いらねぇよ、そんなの。一人でゆっくり入りたいからほっとけよ」ぶっきらぼうに答えたが、それは河野には効き目がなかったようだ。「そうおっしゃらないでください。主にご奉仕することが、執事の務めなのですから、おまかせください」「いいって言ってんのに…」「届かない背中などもお流ししますから…」そう言われると、確かに背中などは普段良く洗えているかわからないなと思えてきた。「…そうか?それなら…」男同士だし、通常であれば別に変わったことではないだろう。けれど、彼に裸を見られるのは何となく恥ずかしいような気がする。明が認めるような発言をしたことから、河野はドアを開けて風呂場に入ってきた。上は白いシャツを着ていて、長そでを肘辺りまで捲っている。そして、ズボンはいつもの執事用のものをくるぶし上までたくし上げていた。「まだ、頼むとは言ってないけどな、俺」「あぁ、すみません、フライングでしたか?」明は今、頭を洗っている最中だった。「い、いや…いいけど、さ」「ここからは、私におまかせください」「あ、あぁ」明はやはり恥ずかしさが何となく拭えず、膝の上にタオルを置いた。明が恥じらいを見せたことを見逃さなかった河野が、ふっと少し笑ったことに明は気付かなかった。「では、続けますね」そう言うと、河野はお湯で手を濡らすと明に代わって頭を洗い始めた。それが思いの外気持ち良くて、思わず明は感心してしまう。「お前、頭洗うの上手いんだな」「さようですか?それは光栄です。あなたに満足していただけることが、執事としての喜びなので…」「そ、そんなもんか…」明は照れ臭くなった。「少し、申し上げてもよろしいでしょうか」シャンプーの泡を流しながら、河野が切りだした。「何だよ」「あなたは、いつも私の前ではかなり言葉遣いがよろしくないように思うのですが…」「あ?悪かったな、これが本来の俺だよ。あ、イテ、目に入った」明はシャンプーが目に入った痛さに、目を擦った。「あ、すみません…ですが、あなたはこれから東野家を背負って立つ身になるのですよ?言葉遣いには気を付けられた方が良いのでは?」「わあってるよ、それくらい…親父の前や仕事関係、親戚関係を話す時はきちんとしてるさ。俺だってわきまえてんだよ、曲がりなりにも東野家の人間だしな」「そうですか?ならいいのですが…ボロは出さないようにお願いいたしますね」河野は、さほど親しくはなかったとは言え、同じクラスだったという気安さからか、主に対して意見をした。「出すかよ…っていうか、何でお前にそんなことを言われなきゃならねんだ?」「明様には、立派な主になっていただきたいからです」そう言いながら、河野は明の髪にトリートメントを施した。「お、大きなお世話だ…」同い年の彼に言われたことに、明は別の意味で恥ずかしくなった。