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別れと、出立

ハズレ枠の【状態異常スキル】で最強になった俺がすべてを蹂躙するまで — ncode.syosetu.com · All chapters

別れと、出立

まだまだ更新間隔が安定せず申し訳ございません……。

指摘を受けたエリカは目をぱちくりさせた。

次いで、彼女は視線を逸らした。

「そうねぇ」

と、再びこっちへ視線を戻す。

「気になる?」

「性格なのか、それとも何か深い理由があるのか、少し気になってた」

気になってたのは俺だけじゃないかもしれない。

が、遠慮して聞かなかったのだろう。

「こんなところにずっと一人でいると、笑いかける相手もいないからね。笑い方なんか、忘れちゃうのよ」

視線を伏せ、肉づきのいい長い足をぷらぷらさせるエリカ。

「――てのは、表向きの理由。本当はね……」

足の揺れが、止まる。

「ある時、決めたの。妾の可能性を奪ったあの女神が笑ってのさばってるうちは決して笑うもんですか……って。次に笑うのはヴィシスが再起不能なくらいこてんぱんにされた時、ってね」

「それで笑うに値することがあった時は”笑止”で代用してるのか」

エリカが、俺の太ももを爪先で軽くつついた。

「そゆこと」

思わず出そうになった”笑み”を”止める”。

笑止。

本来の意味合いとは若干違うのかもしれないが……。

多分それは、エリカが自らに課した覚悟みたいなものなのだろう。

「ヴィシスが大手を振ってこの世を歩いてる限りは笑えねぇ、か」

足を引っ込め、組み直すエリカ。

「どう? 深いと言えば深いし、単純と言えば単純な理由でしょ?」

てことは、だ。

「使い魔で定期的に情報収集してるのは、世の情報を集めるってより――」

「いつかくると期待してる”ヴィシス退場”の情報を、聞き逃さないため」

なるほど。

「これまでもさんざん聞いてたが……あのクソ女神のこと、よほど腹に据えかねてんだな」

窓の外を眺めやると、エリカはしばらく黙り込んだ。

紫紺の瞳は外のセラスたちを映してはいない。

映しているのはおそらく、視界に映らぬ場所にあるもの――

魔群帯の外に広がる世界。

「妾は、ここを終の棲み家にするつもりだった。でもやっぱり――早すぎた気がする。きみたちと出会って、話して、思ったのよ……やっぱりまだ外の世界を楽しみたいかも、って」

しかしあのクソがいる限り楽しめたもんじゃない、と。

トンッ

エリカが窓縁から降りる。

「それも、聖霊樹との契約期間が終わってからの話だけどね。だから、人間であるトーカと外の世界を楽しむのは無理そう」

長寿のセラスやリズとならいずれ楽しめるかもしれない。

が、俺は寿命切れだ。

「俺と外の世界を楽しむのは、使い魔状態で我慢してくれ」

「そうするわ。残念だけど」

「ま、俺が生きてるうちに拝ませてはもらうさ」

「何を?」

「あんたの笑顔」

それはつまり――ヴィシスを潰す、という宣言。

と、腕組みをしたエリカが半眼で睨んできた。

「今の台詞――キザすぎよ、トーカ」

「フン、そう思われるくらいでいいんだよ」

「まあ、なんていうか……、……」

エリカが、右の爪先に、もう片方の爪先を重ねた。

そして視線を落とし、言った。

「……、――――ありがと」

「…………」

「? どうしたのよ、きみにしては珍しい顔して」

「ん? いやその、なんだ……」

そりゃあ、まあ。

珍しいものを見たからな。

一瞬だったが、初めてだった。

正直ちょっと驚かされた。

へぇ。

そうか。

笑いこそ、しないが――

「照れたりは、するんだな」

笑みだけでなく、そっちもないもんだと思ってた。

腰に両手をやり、前かがみになるエリカ。

「し、ま、す。というか、そういえば……」

かすかな照れの残滓を消し、エリカがジト目で俺を睨む。

「きみこそ、照れたところ一度も見たことないんだけど?」

「…………」

言われてみれば、そうかもしれない。

▽

その後、エリカに改めて魔導具なんかを見せてもらったりした。

役立ちそうな物があれば好きに持ち出していいそうだ。

「ニホン酒のお礼」

とのことだ。

日本酒はもちろん例の皮袋から転送されたものである。

昨晩、使用したら転送されてきた。

蔵元は山口県にあるらしい。

飲んだことはないが、高校生の俺も名前だけは知っていた。

何かの時にネットでラベルを見て、漢字の読み方を調べたことがあった。

で、エリカはその酒が大層お気に召したらしく――

「トーカ、好き」

そう言って、 躊躇 ( ためら ) いなくひっついてきた。

「ほんと酒好きだな、あんた」

とまあ、そんなわけで。

日本酒のお礼として、またも”なんでも持ってけ”状態となったわけである。

「ちなみに、転移石はもうないんだよな?」

「あれは特に希少品だからねぇ。エリカが手に入れたのだって、ずっと昔の話よ」

「あれが使えるとかなり戦略が広がりそうなんだよな……」

退避だけじゃない。

奇襲なんかにも使える。

「入手できそうな場所や方法とか、心当たりはないか? 以前、魔術師ギルドの秘宝庫に入るレベルとか言ってたが……」

「魔術師ギルドは保有してないと思うけどね」

そうなのか。

「なら、どこかの国の宝物庫とかは?」

「そうねぇ」

こめかみに指を添え、目を閉じるエリカ。

「たとえばヨナト公国は、基本的に女王と聖女しか触れることを許されない”聖遺物”と称した貴重品をたくさん所持していると聞くわね」

宝物庫には基本、その二人以外は近づくことも許されないらしい。

「他だと……ミラ帝国の狂美帝が古代の貴重品を積極的に収集してるって話も以前から有名みたい。そのミラの”大宝物庫”と呼ばれる巨大な地下宝物庫なら、未使用の転移石がまじってるかもしれないわね」

古代の魔導具などは効果不明の品も多いという。

効果の発動が一回限定というケースもありうる。

効果を確かめるために貴重なその一回を使い切っては、文字通り無駄遣いだ。

ゆえに未使用品が山積していく、と。

「無闇には使えないわけか」

「だから、詳細の記された書物なんかが発見されるまでは放置状態の品も多いみたい」

「なるほどな」

「自国の切り札として取っておきたい、ってのもあるだろうけどね」

「他の国は?」

「他だと、アライオンには特に多くの魔導具が集まっているはずよ」

まあ、だろうな。

「ヨナトやミラは昔から独自の姿勢で回避してるみたいだけど、それ以外の国は”贈り物”としてそういう品をアライオンに譲渡してるみたいだから。つまり――」

「魔術師ギルドの所有物も貴重品はすべて女神のもん、ってわけか」

要はクソ女神がカツアゲしてると。

が、ヨナトやミラはその”献上”を適度にかわしているという。

地理的にその二国はアライオンから離れている。

それも関係あるのだろうか?

「個人では?」

「さあ」

肩を竦めるエリカ。

「さすがに個人の収集家まではエリカもよく知らないわ。あえて言うなら、このエリカ・アナオロバエルかしら」

目の前の収集品を見る。

「個人でとなると……確かに、あんた以上はいないかもな」

それから、エリカに最果ての国に関する話を少し聞いた。

さて――

話が終わると、夕食までのほとんどを俺はリズと過ごした。

うち6割くらいは、リズと二人きりの時間だった。

エリカと外へ出てセラスたちと合流した時、

『今までの感謝も含めて、リズはそなたに話したいことがたくさんあるようだ』

そうイヴに耳打ちされた。

言われてみれば最近、リズと二人きりで話す機会は少なかった。

リズは、色んなことを話した。

俺は、相槌を打ちながらなるべく聞き手に回った。

そして時々質問に答えた。

質問といっても大半は他愛ないものだった。

言い換えれば、誰も傷つかない平和的な質問だ。

穏やかな時間を過ごせたといえば、そうだったと思う。

なんというか。

俺の方も、ちょっと気持ちが和らいだ気がした。

軽くなった、というか。

おかげで俺もいい息抜きになったかもしれない。

そうして――気づくと、夕食どきが近づいていた。

俺は立ち上がり、

「ありがとな、リズ」

と礼を言った。

「い、いえ! こちらこそっ……あ――ただ、わたしの方が話し過ぎてしまったかもしれません。でも……いっぱいわたしの話を聞いてくださって、ありがとうございました…………トーカ様」

言って、リズは気恥ずかしそうに頬と目もとを綻ばせた。

「――わたし、今日はトーカ様といっぱい話せて嬉しかったです。本当に」

さっきと比べてその表情は少しすっきりした風に見えた。

違う。

出会った頃とは、まるで。

よかった。

この子が、こういう顔をできるようになって。

心から、そう思う。

口もとが自然と緩むのを感じながら、

「ああ」

俺は、軽く頷いた。

「嬉しいのは、俺もだ」

▽

夕食後は、眠くなるまでみんなで食堂で過ごした。

眠気がきた者から、就寝前の風呂やら、自分の部屋へ戻るなりしていく。

ちなみにエリカは酒に”飲まれた”ので、けっこう早く退場した。

最終的にそこには、俺とセラスが残った。

ピギ丸とスレイは今夜リズと同じ部屋で寝ることになっている。

ちょっと前にリズと一緒に部屋を出て行った。

なので今、この部屋にはいない。

エリカが引き連れていったので、ゴーレムの姿もない。

卓上には、まだ食器などが残っていた。

「……片づけでもするか」

「ええ、そうしましょうか」

どちらからともなく椅子から腰を浮かせ、片づけに取り掛かる。

食器の触れ合う控えめな音……。

手は止めぬまま、セラスが口を開いた。

「そういえば、私たちの使っている部屋ですが」

「ああ」

「ここに来た時と比べると、かなり片づきましたね」

「せっかく片づけたわりに、明日にはもう出立だけどな。ところで、今日はちゃんと休めたか?」

「はい、気力体力共に」

「そうか」

そうして片づけの終わりが見えた頃、

「風呂、先に入っていいぞ。残りは俺がやっておくから」

「――トーカ殿」

窘 ( たしな ) める調子だった。

卓上の俺の手の上に、セラスが自分の手を添える。

「宴の後片づけを王に任せ自分だけ先に湯をいただく騎士が、どこにいるのですか」

「じゃあ、初めての前例になればいい」

「前例がないのは、その時点で騎士として失格だからです。ですのでトーカ殿がお先に」

セラスの顔をジッと見つめる。

「言うようになったな」

「ふふ、あなたから学びました」

「でもやっぱり、遠慮するよ。俺はセラスの後で――」

「でなければ」

一つ、咳払いするセラス。

「私と一緒に、入っていただきます」

セラスはちょっと不敵な微笑を浮かべた。

「これでしたら、後も先もありませんから」

後先を考えた発言とは、とても思えなかった。

視線を伏せたまま、俺は息をついた。

「じゃあ、それで」

「?」

「?」

「……?」

「?」

「…………、――えっ!? よいのですかっ!?」

出立前の最後の夜は、こうして更けていった。

…………

▽

翌日の昼過ぎ。

出立の準備を終えた俺たちは、地上に出ていた。

今いるのは、例の湖畔にある小屋の外である。

見送りにはエリカ、イヴ、リズが顔を揃えていた。

「やっぱり、西の魔群帯を突っ切って行くのね?」

エリカが確認する。

「ああ。極力ひと目は避けたいからな」

「地図を渡したから大丈夫だとは思うけど……」

ここからはイヴがいなくなる。

イヴとエリカの距離で現在地を測るやり方はもう使えない。

あのホログラフィック的な地図もなくなる。

「多分このまま西を目指すのが、最適解だ」

他ルートだとウルザ領内を通る必要が出てくる。

そして結局、そっちルートでも南の魔群帯を再び通過しなくてはならない。

距離も時間も余計にかかる。

こうなると、やはり西の魔群帯を行くのが最短となる。

大魔帝が死ぬまでが比較的俺の自由に動ける期間……。

そう考えると、時間短縮は積極的に図っていくべきだろう。

エリカ手製の地図もあるのでそれほど迷う心配もあるまい。

そうね、とエリカがあごに手をやった。

「魔戦車があったとはいえ、きみはあの北方魔群帯の半分を走破したわけだし……西方魔群帯くらいなら、普通に突破できるでしょ。ていうかきみ、側近級まで倒しちゃってるし」

北方魔群帯突破時よりもステータス補正は上がっている。

スレイも、さらに成長している。

それに、

「経験値を稼いでおきたいってのもあるしな」

一応、コツコツとでも積み重ねておきたい。

……まあ、他にも魔群帯を通りたい理由はあるのだが。

エリカが近づき、正面に立って軽く俺のローブを正す。

「とにかく無事を祈るわ――、……これでよし、と」

リズがスレイを撫でるのをやめ、一歩離れた。

そして姿勢を正し、俺たちに向き直る。

「皆さまどうか――どうか、ご無事で」

セラスが目もとに優しさを湛える。

「ありがとうございます。あなたたちも、どうかお元気で」

「ピギッ」

ローブから顔(?)を出したピギ丸が、セラスに続いた。

やはり一日延期したのは正解だったようだ。

ピギ丸もスレイも昨日の朝と比べて明らかに疲労が抜けているのがわかる。

腕を組んで仁王立ちするイヴが、口を開く。

「再会できるものと信じて、我は待っているぞ」

「ま……すべてが終わったら顔くらいは出すつもりだ」

うむ、と頷くイヴ。

「期待しているぞ、”我が主”」

「……ああ、期待しててくれ」

さて、

「それじゃあ」

俺は、スレイの媒介水晶に触れた。

「そろそろ、出発の時間だ」

▽

湖畔の小屋を離れた俺たちは、第二形態のスレイに乗って移動していた。

セラスは俺の後ろに騎乗している。

腰に軽く手を回し、俺の背に上体を少し預けるようにしていた。

出発前にどっちが前に乗るかを話し合ったのだが、

『トーカ殿が、前がよろしいかと』

そう言われたので、俺が前になった。

今だと人数の関係で二人乗りが可能だ。

二人乗りの移動速度なら、南の魔群帯を抜けた時より速く進めるはず。

にしても、

「最果ての国、か」

周囲の気配に注意しながら、俺は目的地の名を呟いた。

後ろのセラスが、上半身の位置を少しずらす。

「亜人種や魔物たちが身を隠す国が実在したとは、私も驚きです」

イヴも”伝説上の国だと思っていた”と言っていた。

「俺がエリカから貰った”鍵”を使うか、神獣族とやらがいないと入国すらできないって話だしな。その神獣族とやらもこの大陸に二人いるそうだが……今現在生きてるかどうかは、わからねぇって話だし」

それに、だ。

仮に入国できても生きて出られるかはまた別だろう。

世から隠れ住む者たちの国。

国の実在を知ってしまった者を、素直に外へ帰してくれるだろうか?

だからおそらく、なんらかの方法で向こうの信頼を得る必要も出てくる。

「エリカの名前がどのくらい効果あるか、だな」

「エリカ殿は”王が変わっていなければ、自分の名を出せば協力は得られるはず”とおっしゃっていましたが……」

「――変わってなければ、な」

現状、今の最果て国に住む者たちのスタンスは不明である。

女神に敵対的なのか。

根源なる邪悪をどう思っているのか。

人間に対する認識は、どうなのか。

視線を、下げる。

意外とピギ丸やスレイの存在が役に立ったりするだろうか。

こうして魔物と友好な関係を築けている。

悪くないアピール材料になるかもしれない。

「いずれにせよ、どうあっても禁字族に会って禁呪を使えるようにする必要がある」

スレイの鞍に括りつけてある背負い袋を眺める。

中には、三つの禁呪の呪文書が入っている。

女神が禁じた呪文。

まず、その性質を確かめなくてはならない。

それ次第でのちの戦略も変わってくる。

ただ――

考えようによっては、ゴールは近い。

最果ての国で禁字族に会い、禁呪を使用可能にする。

習得した禁呪で――クソ女神を潰す。

大まかに考えれば、やることはそれだけ。

だからあとはもう障害を排除しつつ――突き進むのみ。

ヴィシスは自分のてのひらの上で他の連中を踊らせているつもりなのだろう。

が、こっちからすればあの女神がどのくらい”こっちの仕掛け”の上で踊ってくれるか。

特に”蠅王ノ戦団”の存在は、上手くすればヴィシスの悩みの種となる。

「……………………」

そういった意味では、クソ女神との戦いはすでに始まっているとも言える。

◇【女神ヴィシス】◇

「呪術を用いて大魔帝の側近級をかろうじて撃破……魔防の白城における大規模戦闘においては、戦況を覆すほどの多大なる貢献を果たす――また、古代の魔導具と思われる希少品をいくつか所持している可能性あり……さらには、巨大な馬型の魔物を使役……かつての名はアシント……あの理外なる”人類最強”を死へと至らしめた謎の呪術師集団……しかも……ふふ……まさかまさか、なんと生きていましたか……セラス――――アシュレイン」

ヴィシスは、

「なるほど」

報告書を机の上に放った。

「”蠅王ノ戦団”――実に興味深い」

先日コミック版の1巻に3度目の重版がかかったとのことです。コミック版の方もご好評いただいておりまして、嬉しく思っております。ご購入くださった皆さま、ありがとうございました。

また、前回更新後にまたレビューを1件いただきました。こちらもありがとうございました。たくさんの方に「ハズレ枠」を楽しんでいただけるのが、何よりの喜びでございます。

次話は女神サイド(十河綾香視点)となります。