LNCrawler

美食騎兵隊

ハズレ枠の【状態異常スキル】で最強になった俺がすべてを蹂躙するまで — ncode.syosetu.com · All chapters

美食騎兵隊

前回更新後に、さらに2件レビューををいただきました。ありがとうございます。

そして本日6/25、コミック版4巻が発売となりました。4巻は主に黒竜騎士団戦……シビト戦ですね。シビト戦の緊張感、トーカのダークなカッコよさ、さらにはセラスの凛々しさや美しさもさることながら、トーカ&ピギ丸の合体技などは特に迫力満点に描いていただけました。さらに今回4巻では、描き下ろし漫画も収録されております。この描き下ろし漫画では、小説版本編では詳細に描かれていなかった「バクオス帝国のガートランド家に引き取られたシビトは、どんな経緯で黒竜騎士団の団長にまで上り詰めたのか?」が描かれています。以前この描き下ろし漫画用のシナリオを書き上げてお渡ししたのですが、内々けやき様と鵜吉しょう様がそのシナリオを実に鮮やかに漫画に落とし込んでくださいました。素晴らしいクオリティでシビトが”人類最強”の名を得るまでの経緯が描かれております。是非、読んでみてくださいませ。

といった具合で、今回はまえがきでのお礼と宣伝でございました。

それでは、本編をお楽しみいただけましたら幸いでございます。

「報告です!」

続々と、報告が入ってくる。

「右翼方面、敵が接近しているとのことです! 敵兵の数、100〜150ほどと見られます! こちらはセラ――く、クーデルカ様にも報告されており、すでに指示が飛んでいるとのこと!」

報告を終えた豹人の伝令が引き返していく。

前線の伝令役は豹人。

ここはもう――前線。

この先には局所的な樹林帯がある。

一帯に広がる岩場――その中央近くに広がる緑。

砂漠のオアシスみたいなもんか。

ジオたちは一旦そこで敵を待ち構える。

と、さらに別の豹人の伝令がやって来た。

「こ、交戦に入った竜煌兵団の続報ですがっ――」

声に、緊迫感がみなぎっている。

「し、勝利とのことです! 第四騎兵隊を名乗っていた敵は一時退却した模様! 一方、こちらの被害は軽微だと……ッ!」

俺は素早く地図を出し、広げた。

交戦地点を確認。

「ここか?」

「は、はいっ」

興奮冷めやらぬ様子で頷く伝令。

戦場の空気を肌で感じ、昂ぶっているのだろう。

説明によると……例の”抜け道”を使ったようだ。

地形を調査した時に見つけた抜け穴……。

囮で敵を上手く引き込めれば――

その抜け穴を使って回り込み、その敵の背後をつける。

別動隊が穴を通り抜ければ挟み撃ちの形を取れるわけだ。

「ちゃんと、指示通り動いたな」

気が逸って無闇に突撃、なんてことはしなかった。

ただ、

「大いに活躍したのは、ニコか」

身の丈以上もある大剣を振るい、大量の敵を斬り伏せたらしい。

「四戦煌の戦闘能力が、思った以上にでかいな……」

引き返す伝令から視線を外し、前方を見やる。

左翼の主な戦力はニコを中心とした竜煌兵団。

中央の主な戦力はジオを中心とした豹煌兵団。

そして右翼の主な戦力は、リーダー不在の馬煌兵団と魔物の混合部隊。

右翼の軍を率いているのはケルベロスのロア。

キィルは本陣で総指揮官をしている。

唯一、右翼だけ四戦煌がいない。

ケルベロスも、戦闘能力は高いと聞いてはいるが……

「…………」

◇【第十騎兵隊】◇

第十騎兵隊長アイギス・ワイン。

「さぁて」

アイギスは長い黒髪を三つ編みにし、後ろへ垂らしている。

彼女は片眼鏡の位置を直しつつ、馬上でハルバードを持ち直した。

「そろそろ私たちも、動こうかしらねー」

ハルバードの刃は肉切り包丁に似た形をしている。

この第十騎兵隊は”美食騎兵隊”の別称を持っていた。

「見たことのない亜人や魔物がいるといいわねぇ、トーレス」

「そうでございますねぇ」

アイギスの脇で馬首を並べているのは副長のトーレス。

細目の壮年の男で、口ひげを蓄えている。

太い腕にはたくさんの軽い火傷の跡。

料理によってできた火傷である。

その二人の背後には――100をこえる騎兵が控えている。

「食糧が現地調達できるのっては、やっぱり嬉しいわよねぇ」

「そうでございますねぇ」

「香辛料とか諸々は、当然――」

「はい、抜かりなく」

「調理器具も――」

「準備万端に、ございます」

ブチィ!

トーレスが、手もとの干し肉を威勢よく噛み千切った。

「先日新しく作らせた大鍋も、もちろん、持ってきてあります」

「よろしい」

んふ、とあごに手をやるアイギス。

「魔物は調理次第でけっこう食べられるのが多いのよねー。亜人は種族とか部位によって、それなりに食べられるのもあるけどぉ……やっぱり亜人は料理人の腕次第よねっ、よねっ」

「わたくしも、亜人は腕の振るいがいがあります」

食用の家畜。

魔物。

この二つを分類する基準は何か?

一つには、食用に向くかどうかがある。

”魔物は食用にしてもまずい”

ゆえに地下遺跡などでも食糧を現地調達とはならない。

魔物を食するのは、緊急時くらいなのである。

「あぁ、ケンタウロスとかもいるのかしらー!? 馬肉! 馬肉!」

「人間に至ってはなかなか食えたものじゃありませんからなぁ……最も調理の難しい食材です。まあその分――やりがいは、ありますが」

「私、人間相手の戦いは嫌いよー! やっぱりおいしくないんだもの! 人間が敵になるのはいやぁよ! 嫌ーい!」

「その点、今回の敵は亜人と魔物だけでございますからね」

「最高! 今回の戦いをくださったヴィシス様、大好き! ねぇちょっと!」

後方の配下へ呼びかけるアイギス。

「あんたたたち、捕獲用の投網もちゃんと数を用意してきてるんでしょうね!? ねぇ!?」

「ハッ! あるだけ持ってきました!」

「よくやった! 無闇に敵を殺すなんて、いけないことよ!」

殺すと鮮度が一気に落ちる。

死後硬直にも困ったものである。

なので、調理する時はできるだけ生かしたまま”解体”する。

「でも、解体はとっても楽しい! だけど、生かしたまま解体すると……ほんっとうるさいのよねぇ! それだけが難点! 鬱陶しいわー」

「はふぅ……料理人のサガか、早速うずうずしてまいりました……アイギス様」

「偉いわ! それでこそ料理人ね! そうそう、皮や角とか余った部位は加工品作りの大好きな第八に売っ払っちまいましょー!」

「さて、アイギス様」

ギザギザ刃の解体武器を持ち直し、トーレスが聞く。

「こたびの戦……敵は、何割残しましょう?」

「んー、3割は食材用に残したいわねー。家族とか親子がいれば、やっぱり一緒のお皿に盛りつけたいわよねー♪ あと、種族別に必ず一氏族は残すこと! いーわね?」

「ご注文、承りました」

次いで、大仰な動作で背後を振り返るアイギス。

「あんたたちも、いーわね!?」

背後の兵から威勢のいい応答。

士気は、高い。

”敵対した時、あそこの隊の捕虜にだけはなりたくない”

アライオン内において第六と第十二以外でそう名が挙がるのが、

この、第十騎兵隊である。

強さも折り紙つき。

原動力は食欲。

人間の三大欲求の一つが力の源なのだ。

弱いはずがない。

と、伝令が戻ってきた。

「右翼方面にて、第四が敵と交戦を開始した模様っ」

「て、敵の種族っ……種族は!?」

「竜人が主な戦力のようですっ」

「あー竜肉ぅ!? おいしそう! こっち来ればいいのにぃ!」

また一人、伝令。

「報告! まだ距離はありますが、前方にケンタウロスの群れを確認! こちらへ向かっているものと思われます!」

「あー……それを迎え撃つのが、まずは最初かしらー?」

「はい。ケンタウロスなら、食材として悪くありません」

さらに一人、別の伝令が飛び込んでくる。

「はぁ……はぁ……ッ! 報告、いたします……ッ!」

「ん? あんた……他の隊の人よね? まあ、これはまた……ひどくやられてしまって。ひどい姿! 驚くほどひどいわ! 本当に、汚らしい!」

装備は汚れ、さらに血に塗れていた。

二か所に矢が刺さっている。

呼吸が浅く、ひどく弱々しい。

前へ進む足もふらついていた。

この様子では意外と長くないかもしれない。

何があったのだろうか?

「敵の攻撃を受け、我が隊は壊滅寸前……散り散りとなり……」

「相手に手練れがいるのね」

「中央近くの雑木林に、ふ、伏兵の豹人がいて……待ち伏せを受けました」

「そんなに強いの?」

「強いですが……中に一人、冗談みたいに強いバケモノがいて……向こうの大将格のように見えました。赤い目で黒毛の……ひと際、大柄な……名は確かジオ?と呼ばれていて……黒刃の二刀流……大きなカタナを、使っていて……ぐ、ぅっ……あ、あんなバケモノ……あんなの――勝てる、わけが……ッ! 勝てるわけがない!」

襲撃された時のことを思い出してか、

「ひぃぃ……!」

伝令は、アイギスの前でへなへなと崩れ落ちてしまった。

ガタガタ肩を震わせている……。

が、この伝令もアライオン十三騎兵隊の一人。

兵士としては決して弱くないはずである。

「んふっ」

(大柄の黒い豹人……)

アイギスはハルバードを握る手に力を込め、中央方面へ視線を向けた。

「豹人かー……あれもけっこうイケるのよねー。中央の方に、行っちゃおうかしら? 食べがい、ありそう……あー解体したい。特に亜人や魔物は、人間と違って解体するのに心がまったく痛まないのも、いいところよねー」

「――――【パラ、ライズ】――――」

「?」

――――ピシッ、ビキッ――――

中央方面を向いたまま、アイギスは停止した。

否、

動 ( ・ ) け ( ・ ) な ( ・ ) い ( ・ ) 。

視界の端に、どうにか”それ”を捉える。

震えの止まっている――その伝令を。

伝令が、

ピィッ!

一つ、指笛を鳴らした。

何かの合図だろうか?

と、アイギスは気づく。

違う。

あの血……。

おそらく、本人の血ではない。

待て。

装備の汚れ。

隊を判別する番号部分が汚れて、確認できなかった。

偶然、だろうか?

と、前列の異変に後列が気づき始めた。

そして伝令はそのまま――後列めがけ、駆けていく。

「――【バーサク】――」

「な、何が……? アイギス、様? というかおまえ、どこの隊の――」

「がぁぁああああ――ッ!」

「うわ、おい!? 何をする!? ぎゃ!? こいつ、噛みやがった……ッ!」

「貴っ様ぁああ! 怪しいやつ! 解体してやる!」

「【ダーク】」

「!? 見失、った……!? いやこれは、吾輩の目が……っ!?」

身体が動かないのは全員ではないらしい。

が、後列には混乱が広がっている。

(何が……起きている?)

とはいえ敵なのは間違いない。

残った者で、どうにかあの伝令に化けた男を始末――

「グルルルルルゥゥ……」

再び、前方。

岩場の向こう――曲がり角から。

姿を現したのは、魔物の群れ。

先頭の魔獣を目にし、アイギスはどきりとする。

(三つ首の……犬種の、魔物……まさかあれは……け、ケルベロスっ!? 本物っ!?)

喉奥で低い唸りを上げながら、群れがのそりのそりと近づいてくる。

図鑑でしか見たことのない魔物たちもいる。

金眼ではないものの、凶悪で――獰猛。

が、いやに統制が取れている。

その時だった。

あの伝令が、前列の方へ引き返してきた。

後列は浮き足立っているようで、いまだに騒がしい。

どころか、

「あ、アイギス様! どうなされたのですか!?」

指示を仰ぐためか、前列のこちらへ向かって来ようとしている。

が、アイギスは喋れず指示が出せない。

伝令が、アイギスの手から素早くハルバードを奪い取る。

奪い取るのと地続きの動作で、伝令が、ハルバードを振るった。

――スパッ――

磨き抜かれた刃が、馬上のアイギスの喉もとを斬り裂いた。

「あ、が……っ、――」

ベリッ! バリッ!

伝令が、肩に刺さっていた矢を 剥 ( ・ ) が ( ・ ) し ( ・ ) た ( ・ ) 。

そう、実際には刺さっていなかったのだ。

矢を受け、重傷を負っているように見せかけただけ。

つまりあの怯えきった姿も――演技。

伝令が、鼻を鳴らした。

「物騒な雰囲気の武器ばっかだが……おまえらそれで何を 解 ( ・ ) 体 ( ・ ) するつもりだった? そこの大仰な調理道具は 何 ( ・ ) 用 ( ・ ) だ? 亜人や魔物の解体が……なんだって?」

恐怖に染まった顔はもはやそこになかった。

むしろ男は、戦場にあって異常なほど落ち着いている。

死の間際だというのにアイギスはその男に恐怖を覚えた。

酷薄な瞳がアイギスらを無感動に映している。

慈悲も、同情もなく。

「ま、想像はつくが……もはや、どうでもいい」

その時だった。

ケルベロスが人の言葉を発し、男に尋ねた。

「捕縛は?」

「現状は必要ない。それから、人数制限で麻痺させられなかった後列が逃亡せずこっちへ向かってきてる……可能なら、一人も逃すな」

「私の速さとこの地形なら、逃亡者も十分追えるはずである」

「よし」

と、ケルベロスがひと吠え。

魔物たちの唸り声が、ひと際、凶悪さを増した。

攻撃態勢に、入ったのだ。

魔なる眼球にはみなぎる 猛意 ( もうい ) 。

人間が……。

魔物の統制を、している?

男はあごを少し上げ、睥睨するようにこちらを見ていた。

あるいは、侮蔑でもするみたいに。

「殺せ」

伝令の男が、ハルバードの先を――第十騎兵隊の方へ向ける。

「突、撃」

□

13:45――――第十騎兵隊、全滅。