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無理解、復讐者たちと、雨のにおいと

ハズレ枠の【状態異常スキル】で最強になった俺がすべてを蹂躙するまで — ncode.syosetu.com · All chapters

無理解、復讐者たちと、雨のにおいと

3時間ほど前に一話更新しております。まだ前話をお読みになっていない方は、一つ前の話からお読みくださいませ。

しかし、聞けば安は戦える状態にないようだ。

途中で捨ててきた、とジョンドゥは言った。

もう死んでいるかもしれない、とすら言った。

なら……。

今すぐ対処する必要はなさそう、か。

そうだな。

粗方、聞きたかった情報は得られた。

苦しみもがいている第六騎兵隊の面々を、一瞥する。

こいつらはいい。

が、ジョンドゥは今なお危険な気がする。

機会のある時に始末しておかないと、大きな障害となりうるかもしれない。

「時間だ、ジョンドゥ」

死や苦しみに対する反応がここまで薄いと。

どうにも、溜飲の下がる感じがない。

言うなれば、

”ざまあみろ”

と、ならない。

まあ……ここで俺の快か不快かにこだわっても、仕方ねぇか。

その時、だった。

わずかに。

ジョンドゥの口端が、緩んだ。

「しかし――なるほど」

「?」

「シビト・ガートランドを倒しただけはある。このわたしと互角以上に攻防を繰り広げたということは……今や、セラス・アシュレインもその領域に到達したと考えていいわけだ」

「?」

「?」

俺は疑問符を浮かべた。

その反応に、ジョンドゥも疑問符を浮かべた。

「そういえばおまえ……あのシビトの兄弟、って言ってたな」

「……異父兄弟だがな。そして、あの説明がつかぬとされた強さの秘密……答えは、わたしたちの母にある。エインヘラルの姓。その”血”こそ、やつとわたしの強さの秘密。ゆえにシビトはわたしと同格――いや、あるいは認識阻害の能力を持つ分、わたしの方が優位だったかもしれない。……、――なんだ、姫騎士」

「――いえ、それは……その……違うかと、思います」

「……………………なんだと?」

一度、セラスは俺を見た。

次いで彼女は、ジョンドゥに向き直る。

「私たちは確かに、五竜士を従えたシビト・ガートランドと相対し……こちらの我が主の策によって膨大な戦闘能力の差を埋め、勝利しました。私は……その時相対し、肌で感じたのです――”人類最強”の強さを」

「……………」

「私は……自分がもっと強くなれば、シビト・ガートランドとの差を縮められると思っていました。事実……あの頃より、ずっと強くなったと思います。ですが……」

ほのかに悔しげな表情で、セラスが胸に手を添える。

「強くなればなるほど――より遠くに、感じるのです」

そう。

俺も、同じ感覚だった。

シビトが――遠い。

強くなれば差が縮まっていくと思っていた。

が、強くなるほど、ヤツの強さの”異常さ”に気づかされるばかりで。

たまに眠る時、ふと思う。

”俺は、なんであいつに勝てたんだ?”

成長すればするほど、その感覚は強くなった。

シビトに勝ったくらいの頃はそこまでじゃなかった気がする。

多分、セラスも同じだったのだ。

強くなればなるほど……

より、あいつの強さの”異常さ”がわかってしまう。

際立って、しまう。

「その、ですので……あなたとシビト・ガートランドは、強さという意味では……同格ではない、と思います」

「!」

その時。

初めて、ジョンドゥの顔が――歪んだ。

「あなたは確かに速かった……ですがご存じの通り、私が防げる範囲でした。感覚が慣れれば、逆に攻勢へ打って出れるほどには。ですが……」

セラスが、唇を噛む。

――悔しい。

言葉にせずとも、彼女の感情が伝わってきた。

「あのシビトと近接戦をしても――いまだに、防ぎ切れるか自信がないのです。防御に徹しても、やれるかどうか……」

「……まあな。正直、もしシビトがおまえと同じ認識阻害の能力を持っていたら……最初に姿を現した時の、あの一撃で――」

これは虚偽でも、なんでもなく。

確かな事実。

悔しいが、

「セラスの防御も間に合わず、おそらく俺は死んでいた」

ジョンドゥの顔が、個性的なシワを刻んだ。

表 ( ・ ) 情 ( ・ ) が ( ・ ) あ ( ・ ) る ( ・ ) 。

歯ぎしりをし、

「では、なんだと――」

その目は、血走っていた。

「シビト・ガートランドの強さの秘密はッ……では、一体ッ…… な ( ・ ) ん ( ・ ) だ ( ・ ) と ( ・ ) い ( ・ ) う ( ・ ) の ( ・ ) だ ( ・ ) ッ!?」

「そいつは、俺が知りたいくらいだ」

そうか、こいつは――

直接、シビトと対峙したことがない。

一戦交えたことが、ない。

だから――ヤツの強さを、正しく知らなかったのだ。

ジョンドゥは自分たちの母親が強さの秘密だと信じていた。

そして、自分は”もう一人の最強”と思っていた。

本気を出せばシビトに勝てる。

むしろ認識阻害がある分、自分の方が有利だと。

普段はモブとして、気配を消していても……

本気を出せばやれる。

が、それは違った。

崩れたのだ――その認識が。

実際はシビトとの間には埋めがたい差があった。

それに、気づかされてしまった。

「…………」

いびつなヤツだ、と思った。

自分と”同じ”俺に殺されるのはかまわない。

しかしシビトの強さの秘密が”意味不明”なのは、受け入れられない。

――ああ、そうか。

少し、わかった気がする。

こいつは”理解できるもの”を恐れないのだ。

ジョンドゥにとって 同 ( ・ ) じ ( ・ ) 存在である俺は”理解できるもの”。

そしてこれまでは、シビトも”理解できるもの”だった。

出自の謎も知っている。

強さの秘密も、理解している。

そう思っていた。

しかしここで、

シビトが突如、理解不能な”恐怖存在”へと変異した。

「母で、なければ……父? はぁ……はぁ……し、しかしやつの父親はっ……母によれば、平凡な元貴族の男……出自も、はっきりしている。以前、調べてみたが……ぜぇ、ぜぇっ……その元貴族の、家系には……ぐっ……そ、そんな異常な強さの人間は、いなかった……では、本当になんだと――ご、ぶっ!?」

ジョンドゥが、さらに吐血した。

白目を剥いている。

死期が、近いのか。

ジョンドゥの目の端から――血が、流れはじめた。

「わたしたち、は……おれたちはッ……おれは同格、だとっ……やろうと思えば――ご、ぼっ!? ぐぶっ……いつでもやつを殺、せると……ッ! あ、あまつさえっ……もう一人の”自分”と、遭遇しっ……存在理由まで、揺さぶ、られてっ……げぼぉ! な、なんてっ……末路っ……げぼぉっ! げぶぅっ!」

ジョンドゥの口からドボドボと血が溢れる。

その一部が血泡となり、歯の隙間からはみ出ていた。

壮絶な姿と言えた。

まるで、血の涙でも流しているかのような……

「だ、だが……お、おまえ……蠅王は、いいっ……げぶっ! 受け、入れよう! じ、自分自身に……殺される”自殺”は……かま、わん……ッ! ぐぼぁ!? し、しかし……おれ、は……シ、シビトが――シビ、ト……理解、できないっ! 蠅王以上に、き、気持ちが――悪いッ!? げぼぉぉお! お、おれは……影の、ように……か、隠れて……この世、すべてを……理解し……観察、し……楽しむ、側……ッ! 本来、最強に……ふさわしい実力がある、がっ……あえて隠、してっ……ぐっぼぁ! おげぇえ! な、名もなきっ最、強っ……そ……それが、おれのっ……か、んぺき……な……生き、か――、……、――――シビ、ト……ほ、本当、に…ではッ……ぉ、お゛まぇは、ぃ、一体……な゛、ん゛……だ、った、と……、――――、――――――――」

ジョンドゥは、そこで――こと切れた。

膝を、ついたまま。

セラスが息をのむ。

「我が、主……この男は、一体……?」

セラスには理解が及ばなかったらしい。

なぜジョンドゥが、ここまで取り乱したのかが。

俺には、わかっていた。

が、

「死んじまった時点で、これ以上こいつを理解しても時間の無駄だ。ま、俺たちにとっては……シビトと同格じゃなかったことは、幸運だったと言っていい」

ジョンドゥが本当にシビト級の強さだったら。

認識阻害と、あの異常な強さが合わさっていたなら。

俺たちは多分、負けていた。

「……さてと」

ジョンドゥから得た情報によると……。

神獣はもう、第九と合流すべく移動している可能性が高い。

第六の連中を見る。

意識がある者は少ない。

毒の苦しみで白目を剥き、気を失っている者が半数以上……。

ただ、意識がまだあるヤツは怯え切っていた。

ジョンドゥが倒されたことが信じられないのか。

あるいは、あっさり切り捨てられたことがショックだったか。

「ま、俺は戻るが……テメェらのやったことには、ケジメをつけてもらわねぇとな……」

ニコの――竜煌兵団の件。

リズの――シャナティリス族の件。

あっさり死んで終わりと思ってもらっちゃあ、困る。

……俺の気が済まねぇからな。

今度こそ俺は音玉に魔素を込め、合図を送った。

しばらくすると、竜兵と魔物の集団がやってきた。

一緒に待機させていた連絡役のスレイもまじっている。

魔物たちは、ニコたちがアレをされる前に別行動させていた左翼戦力。

残りは散り散りになってアレの被害を免れた竜兵である。

あのあと、散った竜兵たちはバラバラに中央を目指していた。

そして途中、俺たちは彼らと合流していったのである。

まあ、どこかで遭遇するだろうとは思っていた。

「こ、これは……」

竜兵の一人がここの光景を見て、絶句した。

魔物たちもやや不気味がっている感じがあった。

俺はサッと記した走り書きを一匹の巨狼に渡す。

得た情報と、今後の動きを記したメモ書きである。

スレイを除くと、この中ではあの巨狼が一番速い。

次いで、巨狼に辿るルートを教える。

「ピピピピ! ピギッー! ピッピッピ!」

意思疎通はピギ丸がやってくれる。

巨狼が走り去った後、俺は竜兵に尋ねた。

「おまえたちを襲撃した例の第六騎兵隊……こいつらだな?」

「は、はい……お言葉通り……ほ、本当にあなたたち二人で倒したのですか?」

「半信半疑だったか?」

「正直に言えば……は、はい。しかし……た、たった二人で……」

「三名だがな」

「ピギッ! ……ピッ!? ピ、ピニュィ〜……」

一瞬、

”そうだよ、自分もいるよ!”

みたいな反応をしたピギ丸だったが。

直後、

”……あれ!? で、でも自分はほとんど勝利に貢献してないかも〜……”

みたいな感じに、なっていた。

「アホか」

撫でるように、手を添えてやる。

「おまえも、十分貢献しただろ」

「ピッ!? ピ……ピニュイ〜♪」

「で、例のモノは――、……ちゃんと、持ってきたらしいな」

「は、はい……」

竜兵の一人が担いでいる背負い袋。

俺は振り向き、

ガッ!

フェルエノクの顔を、踏みつける。

「こいつらに持ってこさせたのは……テメェらがニコたちに使った、例の紐だ。もちろん縫い付けるための道具も、一緒に持ってきてる……」

「!」

「理解したらしいな? ああ、そうだ――」

俺は、嗤ってやる。

「テメェらにも、同じことをしてやろうと思ってな」

苦悶しているが、もがいて逃げようとした風にも見えた。

「あぁ? なんだ……? 自分がするのはよくて、される側になるのは嫌だってか? ハッ……テメェらみてぇのは、自分がされる側に回るとは、夢にも思っちゃいねぇからな……」

セラスは、黙って見ている。

竜兵や魔物も、口を挟む様子はない。

「俺の生まれた場所じゃあ、罪人が、自分が犯した行為と同等の行為――あるいはそれ以上のことをやり返されることは、滅多にない。どんな悪逆非道を行おうと……被害者以上の苦痛を味わうことは、ほぼないと言っていい。私的な復讐……私刑も、認められてねぇからな。復讐をすれば、その復讐をしたヤツが罰せられるって場所だ……が、ここじゃあ違う。テメェにここで同じことをやり返しても、罰せられることはない。知ったこっちゃねぇんだよ」

「ぐ……ご、が……ぎ、ぎ……」

「ジョンドゥに血を飛ばすために踏み潰されたヤツと……それから、ジョンドゥの死体か。加えて、何人か慈悲で殺してやって――同じようにテメェらに、縫い付けてやるよ。腕やら足やらを」

【ポイズン】の【非致死設定】。

毒では死なない。

死ねない。

が、他の要因が加われば死ぬ。

「運悪く死に損ない続ければ……そのうち 蛆 ( うじ ) が湧いて……蝿が、たかりはじめる。蛆と蠅……つまりだ?」

俺は前のめりになり、フェルエノクの顔を、上から覗き込む。

「俺の”子どもたち”がテメェらの面倒を見てやる、って言ってんだよ」

「が、ごっ……や、め……殺……し、て……」

「いいや、楽には――殺してやらない」

俺は上体を起こし、後ろを振り返る。

「ただ……残念ながら今の俺には、そんなことを悠長にやってる余裕がなくてな。で、そこの復讐者たちに来てもらった。おまえらがアレをした竜兵たちの仲間だ」

「…………」

竜兵や魔物には伝えてある。

仇を取らせてやる、と。

やり返す機会を作ってやる、と。

が、今の竜兵たちに……。

当初の激しい復讐心や憎悪は、感じられなかった。

この光景を見て、気持ちに変化が起こったのだろう。

それと……ニコたちがされた、あのおぞましい行為。

自分たちがそれをやる側に回るという”現実”を、今、目の前にして。

多分、覚悟が鈍った。

「…………」

ま、だと思ったがな。

スレイに乗るよう、セラスを促す。

セラスが騎乗した。

俺は、竜兵たちに問う。

「どうする?」

「……!」

「同じやり方で復讐を果たすか……それとも、ひと思いにここでとどめを刺してやるか。選ぶのは俺じゃない。あんたらだ」

竜兵たちが、顔を見合わせる。

魔物たちもおどおどしはじめた。

ほどなく、彼らは互いの意思を確認し合った。

「も、申し訳ありません……あなたがせっかくお膳立てしてくだったのには、感謝しているのですが……さすがにあのような行為をするのは、あまりに……」

「そうか」

だろうな。

こいつらは”正常”だ。

優しくて、正常。

だから、こうなるんじゃないかと思っていた。

「ただ、俺はすぐにここを離れる。第六の連中はここから弱り続けるはずだし、弱り切るまで俺の呪術が解けることはないだろう。が……一応、おまえたちだけを残していくのは避ける。殺すのも気が引けるってなら、まとめて俺がとどめをさしてもいい」

「…………いえ」

ギュッ!

竜兵が、剣を強く握りしめた。

「この者たちがやったことと同じことは、できませんが……許すことができないと思った自分の気持ちは本物です。それに……そこまであなたに、甘えるわけにはいきません――みんな!」

竜兵や魔物たちが、呼びかけに頷きを返す。

そして、彼らは――

第六騎兵隊にとどめを刺した。

自らの手で。

セラスも目を逸らさず、その光景を見ていた。

その時、重々しく雷鳴が轟いた。

厚ぼったい雲が垂れ込めてきている……。

ひと雨、くるかもしれない。

「…………」

間違った考え方なのは、重々承知している。

しかし世の中……

綺麗ごとだけで済ませちゃいけないことも――あるような、気がする。

……とか、まあ。

てのひらで、自分のこめかみを叩く。

こういうところが、

「……ガキなんだろうな、俺は」

「?」

「悪い。どうでもいい独り言だ」

これからアレと同じことをされるという 示唆 ( しさ ) 。

第六のヤツらを心情的に絶望へ叩き落とす効果は、あったはず……。

そんなところで、今回は、譲歩しておくとするか。

17:59――――第六騎兵隊、壊滅。