新たな動き
新たな動き
前回更新後に新しく1件レビューをいただきました。ありがとうございます。
今回は更新まで2週間空いてしまいましたが、「ハズレ枠」の更新はどうにか2週間以上は空かないように続けていきたい……と考えております。
「よい」
慌てて何か窺おうとした調理番を、狂美帝が手で制した。
「アサギも同席していたか」
「んじゃアタシはお邪魔そうなんで、席外しマース」
「いや……この際だ。アサギもそのままで聞いてもらいたい」
席を立ちかけた浅葱も、狂美帝に制された。
近くの椅子を引き、優雅に腰掛ける狂美帝。
「順を追って話そう。北に、動きがあった」
「おや、また大魔帝ちんが動き出しましたかい」
いいや、と狂美帝は首を横に振った。
「先日ヨナトが出兵し、我がミラの国境近くに布陣した」
浅葱が首を捻る。
「あり? ヨナトはこの前の戦いでズタボロで、そんな余裕ないはずでは?」
「そうだ。ゆえに余もこの時点でのヨナトの出兵は考えていなかった。実際、偵察の者によれば、国境近くに陣取ったヨナトの戦力は貧弱なかき集めにすぎぬらしい。恐るるには足らぬ」
「んじゃ、何が問題なんです?」
「その布陣に、白狼騎士団が加わっている」
「おっと、そいつはマグナルさんの主力じゃないっすか。けど、白狼さんたちが守ってたマグナル東部の砦とやらはいいんすかね? あそこはアライオンにとって、対大魔帝における守りの要なのでは?」
俺は、
「潮目が変わる 何 ( ・ ) か ( ・ ) が、起こった」
そう口を挟んだ。
うむ、と首肯する狂美帝。
「つまり”しばらく大魔帝は出てきまい”と想定できる 何 ( ・ ) か ( ・ ) が、神聖連合側で起こった。ちなみに……先日、アライオンの王城で何やら騒ぎがあったそうだ」
「あー、その騒ぎがあれかい……つまり、大魔帝関連だった?」
「情報がまだ錯綜中で確証は取れていないが……急襲してきた大魔帝とその戦力をアライオン側が撃退したらしいとの報告が、いくつか入っている」
「……綾香たちS級勢がいよいよそこまで育ったってわけっすか。こりはアタシも……ちぃっと、S級諸君への認識をアップデートせねばならんかなー」
十河たちが大魔帝を撃退した?
クソ女神は……今の神聖連合の動きを聞く限り、死んじゃいねぇか。
俺は聞く。
「大魔帝は倒されたのでしょうか? それとも……たとえば、深手を負っただけとか」
「マグナル北部の 大誓壁 ( ナイトウォール ) に集結している金眼たちはまだ統率を保っている。根源なる邪悪が消滅した場合、金眼は目に見えて統制を失うそうだ。消滅後は個々が勝手に動き出すらしい」
「それが確認されていないなら大魔帝はまだ生きている、と」
「おそらくはな。しかし先のアライオンでの騒ぎで”しばらく動けまい”と判断されるほどの打撃を大魔帝が受けた可能性は、高いと言えよう」
「にゃるほどねぇ。まあ撃退できるほどまで勇者たちも成長したし、そんなら白狼騎士団をこっちへ回しちまえ!と女神ちゃんは考えたわけだ。あり? もしかしてツィーネちん、蠅王ちんたちに白狼騎士団をやっつけてほしいとお願いに?」
「いや、国境付近の対処にはルハイトが向かった。あれには精鋭のグリーズ騎士団と、帝都に残していた輝煌戦団の一部を預けた。白狼騎士団は強敵だが、数がそれほどではない。ヨナトの兵が質の悪いかき集めな以上、数の差でこちらに分がある。こちらの出した戦力も白狼騎士団にこそ劣るが、質は低くない。数の差を考えれば、互角以上に戦えるはずだ」
それでもやはりあの白狼騎士団となると、こちらもルハイトを出さねばさすがに安心はできぬ――狂美帝は、そう最後に補足した。
現在、ミラの主力は東部でウルザと戦争をやっている。
主力の大半を構成する輝煌戦団のほとんどはそちらへ投入中。
そして……温存していた有力な残存戦力を今、北部の白狼騎士団の方へ送った。
「ん? ちょい待ち? ルハイトさん一味で北の白狼さんたちは対処できるんにゃら、特に問題ないのでは?」
浅葱が問うた。
それは、また別の問題が起きているのを察した上での質問に思えた。
「ルハイトたちの布陣したそのミラ北部……そこと、ここ帝都のほぼ中間にあたる地域で――金眼の魔物が溢れ出てきたとの情報が、入った」
浅葱が頬杖をつく。
支える手で頬の肉が歪み、笑みのようになっている。
「へぇ……このタイミングでねぇ……」
「その情報と同時に入ってきたのが――謎の”白き軍勢”の出現だ」
浅葱が若干、ぽかんとなる。
「は……? 白き軍勢? 急になんですかそりは? そいつら、脈絡なく一体どっから出てきたの? 白狼騎士団とはまた別ってこと? てか……いきなり新しい情報量、多すぎません?」
「白狼騎士団ではない……いや、そもそも人間ではないかもしれないとの報告も入っている」
「んじゃ魔物?」
「金眼、との報告もある」
「…………」
白に――金眼。
まるで、あのクソ女神を連想させる組み合わせだが……。
「その白き軍勢は要塞都市や砦、町を次々と襲いながら――ここをルヴァを目指すかのように、徐々に南下してきているそうだ」
俺は、
「北へ向かったルハイト殿たちの軍は、その白き軍勢と鉢合わせしなかったのですね」
「うむ。まるで、姿を現す機を図ったかのようにな」
金眼も。
白き軍勢も。
出現のタイミングが、絶妙すぎる。
そう。
狂美帝が今、言ったように。
ルハイトたちが北部へ通り過ぎるのを、待っていたかのような。
……今回のヨナトと白狼騎士団の布陣。
ミラの温存戦力は、そいつらのいる北部へおびき出された形にも思える。
おそらく――すべての動きは、連動している。
「最初に白き軍勢から襲撃を受けた砦の兵たちは撤退したそうだ。また、都市や町の者たちも比較的余裕をもって避難できている。奇妙なほど、死傷者は少ない」
「謎の軍勢は倫理観を持つ思ったより善良なやつらじゃった!? ぬふふー……んなわけないっすよねー? デスヨネー?」
「ところが……そちの認識は、まったくの見当違いとも言い切れぬかもしれぬ」
「ほう?」
「白き軍勢を統率しているのは、剣虎団とのことだ」
剣虎団。
ここでそいつらの名が出てくるか。
剣虎団は女神側。
狂美帝は、そう言っていた。
へぇ、と浅葱が目を細める。
「アタシらに集団戦をお教えくださったリリさんたちが、ここで敵として立ちはだかりやすか。あの人のいいお歴々がねぇ……なるほど、そりゃあ無闇な虐殺なんてしねーか。あの人たちは、そーゆーお人らだ」
そういや剣虎団は、先の大侵攻ではヨナトで戦ったんだったか。
魔防の白城での戦いのあとにも、ちらっとだがその話は聞いていた。
「あの人らはねぇ……敵に回すと、意外と厄介っすよ」
浅葱の今の言葉。
響きに冗談っぽさはない。
つまり、戦場浅葱が過小評価しない実力はあるわけだ。
であろうな、と狂美帝が引き継ぐ。
「捕虜を取らず、兵の撤退は許し……都市や町の者も含めて刃向かわない者は見逃している。あの剣虎団らしい振る舞いと言える」
「…………」
しかし、である。
どうなる?
住む場所を追われた者たち。
いわば溢れかえった難民と化した者たち……。
安住の地を次々と奪われ――最後に残るのは?
ここならばと、助けを求めるのは。
彼らはどこへ――行き着く?
しかし、と俺は口を開いた。
「このままでは……逃れた者たちがすべて、このルヴァへなだれ込んでくるのでは?」
「うむ、そうだ。剣虎団は単に良心だけで見逃しているわけではないだろう。おそらく敵は――」
「 ど ( ・ ) ち ( ・ ) ら ( ・ ) へ ( ・ ) 転 ( ・ ) ん ( ・ ) で ( ・ ) も ( ・ ) 勝 ( ・ ) て ( ・ ) る ( ・ ) よ ( ・ ) う ( ・ ) に ( ・ ) 、 仕 ( ・ ) 掛 ( ・ ) け ( ・ ) て ( ・ ) き ( ・ ) て ( ・ ) い ( ・ ) る ( ・ ) 」
俺は先んじて、そう答えを口にした。
狂美帝が、かすかに感心したような反応を示す。
「蠅王、そちは……そこまですぐに、考えが至ったか」
首を傾げる浅葱。
「え? どゆことっすか? 今のは、アタシにはちっと……」
二人が俺へ促す空気を出す。
俺は言った。
「避難民を帝都に受け入れねば、陛下に対する民の忠誠心が著しく低下するでしょう」
ああそゆこと、と浅葱が思い至る。
俺は続ける。
「こたびの反アライオンの戦い……陛下は民の支持を狂信的に集めているからこそ、戦争に踏み出せた」
「そこは”これは女神を救うための戦いだ”と喧伝しているゆえの、民の安心感もあるがな」
ああ――なるほど。
”神聖連合の国々が女神を利用している”
反女神ではなく、
”女神を利用している国々を成敗する”
そんなロジックを、作ったわけだ。
ここには俺がいた世界のような喧伝技術――情報技術がない。
テレビとか。
ネットとか。
たとえば本人が今いる場所から動かず、
”世界同時配信で弁明、あるいは真実を伝える”
みたいなこともできないわけだ。
虚偽を正す重大な真実を広く伝えるには、
本 ( ・ ) 人 ( ・ ) が ( ・ ) 姿 ( ・ ) を ( ・ ) 現 ( ・ ) し ( ・ ) 、 自 ( ・ ) ら ( ・ ) 伝 ( ・ ) え ( ・ ) る ( ・ ) し ( ・ ) か ( ・ ) な ( ・ ) い ( ・ ) 。
つまりである。
場合によっては女神をホームのアライオンから引っ張り出せる。
女神討伐が、やりやすくなる。
そこまで考えてそんな”大義”を流布したのだとすれば、大したものだ。
ともあれ、
「民の支持を失えばミラは内部から崩壊しかねない……陛下への絶対的な信頼があるからこそ、この反アライオン戦争は成り立っている」
「……あーそっかそっか。ここで帝都へどどっと雪崩れ込んでくる難民を助けなけりゃ、ツィーネちんはこの戦争を続けられなくなるかもしれない……そりゃそうだ。いざ窮地に陥ったら民を見捨てる皇帝と思われちまったら、民の多くが反ミラに回るパティーンだってありうる」
「しかし避難民で帝都が溢れ返れば敵の手の者がそこに紛れ、帝都内へ忍び込みやすくなる」
狙うは狂美帝の命か。
はたまた、ムニンか。
そうだ。
禁字族をミラが得た前提で向こうが動いていることも、想定せねばならない。
「避難民を受け入れても受け入れなくても、我がミラは窮地に陥るわけだな」
「さらに危惧されるのは――」
俺が言い出すと、二人は俺の次の言葉を待った。
俺は続ける。
「ここで、こちらが剣虎団と白き軍勢の放置を選んだ場合です。たとえばそこで彼らが南下をやめ、北上を始めたら……」
すぐにピンときた狂美帝は、
「今度は……ルハイトたちが北の白狼騎士団と南の剣虎団から挟み撃ちを受けてしまう、か。なるほど――考えたな、向こうも」
「けど、その白き軍勢とかいうのはさすがのツィーネちんも想定できなかったっしょ? 前置きなくいきなり現れる敵側の新戦力ってのは、いつの時代もマジに卑怯千万っすなー。備えられねぇっつーの。想定外で済ませらんねー」
そうだ。
たとえば白狼騎士団だけなら。
溢れた金眼の群れの討伐くらいなら。
狂美帝も、余裕をもって対処できたのかもしれない。
想定もしていたはずだ。
が、白き軍勢とやらは想定外でも仕方ない。
前情報がなさすぎた。
しかしこの敵の動き……刻一刻と、状況は悪化していく。
こちらが動くのが遅れれば遅れるほど、避難民は増えていく。
後方からの支援も薄くなり、ルハイトたちの背後の危険度も増す。
そう。
悪くなる一方だ。
と、
「朗報もある」
狂美帝が言った。
「その白き軍勢だが……どうも、数だけでそこまで強くはないとの報告が多数入っている。練度の高い兵なら十分対処できるようだ。しかし――剣虎団がとにかく、手に負えぬらしい」
「……まーね。あのヨナトの激戦であの人らかなり活躍しましたけど、一人も死者出してないっすもん。集団戦を仕掛けてきた時の実力はホンモンやと、浅葱さんは思いますよ?」
「交戦した者の話によると、彼らもどこか死に物狂いなところがあったそうだ。剣虎団もおそらく、全力で今回の戦いに挑んでいる」
「んで……白き軍勢を動かしてるのが、どうやらその剣虎団ってわけなんすね?」
要するに、と俺は割り込む。
「剣虎団さえどうにかできれば、白き軍勢の方はミラ兵だけで対処できるかもしれないと?」
現状、と状況を整理し出す狂美帝。
「ルハイトとその軍はミラ北部で白狼騎士団と睨み合っていて動けない。輝煌戦団の主力や選帝三家の戦上手たちは東のウルザへ出払っている。宰相のカイゼは戦が不得手……つまり今、あの剣虎団に対抗できそうな戦力は――」
にゃるほど、と浅葱が引き継ぐ。
「ツィーネちんとその私兵的な近衛兵団に、うちらのグループ……で、蠅王ノ戦団の三つってわけっすか」
「余が近衛兵団を率いて出張ってもよいのだが……ただ、近衛兵団はこの帝都の防備において最後の要ゆえな……」
「何よりツィーネちんを失ったら今この国は総崩れっしょ。んじゃ、浅葱さんたちがやってあげましょか?」
「いや……相手が剣虎団となると、そちたちは相性が悪いだろう」
「まあ――確かに。あのリリさんたちと本気で集団戦をやるとなると……さすがにこっちの死傷者は覚悟しなくちゃならねぇ。つーかぶっちゃけ、あの人ら相手だと今のアタシらで勝てるかわかんねぇ。うちらのグループもね、得意不得意ってのがあるんすわ……アタシの奥の手とも、ちと相性が悪い」
総大将の狂美帝が剣虎団討伐に出るのはリスクが高すぎる。
非現実的。
が、狂美帝は浅葱も出したくないだろう。
なぜなら狂美帝にとって戦場浅葱は対女神の切り札である。
また、浅葱自身も剣虎団とは相性が悪いと認識しているようだ。
かつて師事し、さらには共に激戦を潜り抜けた仲だ。
剣虎団の実力は把握しているだろう。
それに、浅葱は出たくないというより、純粋に……
”勝機は薄いし、自分が死んだり捕まったりするかもしれない”
現実的に、そう分析している感じだ。
そうして――
ここでようやく、話が一番最初へ戻ってくるわけだ。
ホークが……狂美帝が、俺を捜していた理由。
今回の剣虎団の件。
つまり比較的身軽であり、かつ、対抗可能な戦力として白羽の矢が立ったのが――
「我が蠅王ノ戦団に剣虎団をどうにかしてほしいと――そういうわけで、ございますか」