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皇帝

ハズレ枠の【状態異常スキル】で最強になった俺がすべてを蹂躙するまで — ncode.syosetu.com · All chapters

皇帝

本日5/25にコミック版6巻が発売となりました。6巻はイヴ周りの出来事~アシント戦突入あたりが描かれております。この巻の見どころはやはり白足亭のエピソードとなるでしょうか。あとは、やはり登場する人面種(イメージ映像ですが)のデザインですね。とても素晴らしいデザインでございます。表紙はトーカ&イヴ&リズベットの三人が飾っており、青白い光の使い方がとても綺麗でございすね。

また、6巻でも巻末にSSを書かせていただきました。蠅王と蠅騎士のマスクを買ったあと、それについてやり取りをするトーカとセラス(+ピギ丸)が描かれております。SS内では、ピギ丸がセラスの身体のニオイを念入りに嗅いだりとかしています。あとは……少しだけ、異世界に残る蠅王の伝説とその伝説における蠅王ベルゼギアの結末についても書かれています。果たしてトーカは物語の果てにどちらの結末を迎えるのか……みたいな想像もできるかもしれません。

内々けやき様と鵜吉しょう様が手掛けてくださった構成と作画によって、この6巻も色んな魅力の詰まった巻となっております。お手に取っていただけましたら大変嬉しく存じます。

それと「ハズレ枠」ですが、シリーズ累計110万部を突破いたしました。これもひとえにご購入くださった(そして、ご購入を続けてくださった)皆さまのおかげでございます。ありがとうございました(これは同じようなことを何度も書いている気がしますが、こればかりはやはり作者一人では絶対に達成できないことで、皆さまあっての結果でございます。本当に、ありがとうございました)。

最後に次話の更新予定も先にここで記載いたします。

次話は、6/1(水)の更新を予定しております。

◇【狂美帝】◇

雨けぶる帝都。

”北東部からの避難民の増加が緩やかになっている”

そう報告があった。

同時に、北東部の白き軍勢の南下も止まっている。

剣虎団に関する報告もぱたりと入ってこなくなった。

現在、未襲撃だった砦の兵らが白き者たちを撃滅中とのこと。

どうやら蠅王がやってくれたようだ。

しかし――

「陛下、報告いたします。北西部の都市や町より押し寄せた避難民ですが、第二区画まで開放し受け入れました。しかし……白き者たちが、第一区画内に入り込み始めています」

「撃退できそうか?」

「壁の外側に取りつき始めた白き者たちは、ディアス家の者たちが指揮を執りながらどうにか兵たちと防いでいます」

「わかった。壁内に侵入した白き者の対応には、近衛兵団の者をいくらか回す」

北西部でも北東部と同じ事態が起こったのである。

白き軍勢が現れ、同じく都市が次々と襲われ出したのだ。

報告書に目を通す狂美帝。

発生前に、金眼の魔物が溢れたとの報告が必ず見られる。

関連しているのは確かだろう。

「神の力、か」

「……陛下?」

「アサギも言っていたが、こうも脈絡なく未知の戦力を投入されてはな。ヴィシスめ……つくづく、人間を舐めてくれる――カイゼ」

「はい」

カイゼ・ミラ。

ツィーネの腹違いの兄。

前皇帝の子としては次男にあたる。

つまり、元々は皇位継承権第二位だった男だ。

現在はミラの宰相を務め、弟のツィーネに仕えている。

「避難民の対処はおまえに一任する。それと、帝都襲撃の報は北のルハイトや東のウルザ攻めの軍に動揺を与えかねん。”狂美帝は健在であり、すでに対処の見通しは立っている。そなたたちの信じた皇帝を信じよ”と伝令を」

「承知いたしました――、……して、実際のところ問題はございませんか?」

「問題にならぬよう対処する。ただ、ホークらに言って禁字族を呼びにやらせよ。ヴィシス側に存在が察知されているかもしれぬ。できれば、こちらで保護したい」

「素直に従うでしょうか?」

肘掛けに肘を置き、頬杖をつくツィーネ。

「難しいだろうな」

「強制的に保護しても?」

「いや……向こうで逃げる手段を用意している気配があれば見逃してかまわん。他の木偶ならともかくあの蠅王のことだ。それなりの脱出案は考えてあるだろう。余らが保護するよりは、今はそちらの方がマシかもしれぬ」

「では、そのように」

カイゼが去る。

ツィーネは外にいた者らを再び呼び寄せた。

外にいた親衛隊や家臣団がぞろぞろと入ってくる。

そして、皇帝の間の帝座にて次の報告を待った。

ツィーネの傍らには近衛兵団から選りすぐった精鋭の親衛隊が控える。

家臣団は左右に分かれ、列を作っている。

ほどなくして、廊下の方が騒がしくなってきた。

親衛隊が身構え、家臣たちの面持ちには緊張が走る。

ついに皇帝の間の外――すぐそこで、立て続けに悲鳴が上がった。

血相を変えた騎士が、皇帝の間に飛び込んでくる。

「ほ、報告! 城に侵入してきた謎の男が陛下に会わせよと……ッ! 申し訳ありません! 男を防げません……ッ! 数で押しても無理です! 近衛兵団ですら、あっさりと――」

ドガァアアン!

「ぐあぁ!?」

騎士が扉ごと吹き飛び、柱に打ち付けられて気絶した。

双眸を細めるツィーネ。

「ふぉっふぉっふぉ! 手薄、手薄っ。おぉ、逃げずに皇帝の間でジッと構えておるとは感心感心っ。こうして出会えたことを心より感謝するぞ、ファルケンドットツィーネ・ミラディアスオルドシート……通称、狂美帝よ」

家臣団の一部がざわつく。

ツィーネもその容貌や装いにいささか覚えがあった。

トウモロコシのヒゲめいた長いヒゲを撫でる、白き老人。

「ふぉっふぉっふぉっ、なるほど……これは噂に違わぬ浮世離れした美貌よ。狂おしいほど美しい……はて、従順と聞く兄二人もこの美貌に惑わされたのかのぅ?」

「……ぶしつけな老人だ。そちの名も名乗るが、道理と思うが?」

「おぉ、これは失敬。まあ、気づいておる者もいるようじゃが……儂の名は、ファルケンドットゼーラ・ミラディアスオルドシート――かつての名じゃがな、ふぉっふぉっふぉっ」

今度はあからさまに、ざわっ、と家臣団に強い波が立つ。

「追放帝か……しかし生きておられたとなると奇妙な話だな? そちはすでに寿命が尽き死んでいるはず。なるほど――命の理すら、神族に譲り渡したか。もはやそちは、人間ではないのだな」

北西部の各都市や砦への進軍。

帝都攻め。

手慣れた感じも頷ける。

なぜならかつて自らが育ち、一時的にでも統治していた国の領土なのだから。

地理にも詳しいはずだ。

「今日は、我が子孫に説教をしにきた」

「ふむ、そちを追放したミラへの復讐か?」

「うーむ、まあそうとも言えるかもしれん。初代ファルケン帝、そして次のドット帝の”呪い”……しかし、あの女神がいる以上それは叶わぬ願いじゃて――この大陸の、統一など」

「あの女神の存在するこの世界が、そちは正しいと?」

「ふぉっふぉっふぉっ、そうじゃ。平和とはのぅ、すべての国がほんの少しの野心を捨てれば叶うことなのじゃ。女神がいることでこの大陸は均衡を保っておる。民にとっては平和が一番じゃろう。脅威など、根源なる邪悪だけで十分じゃて」

「一理ある……が、詭弁でもあるな。余は――余たちの考える真の平和とは、この大陸の統一によってなされるもの。そして女神がこの世に存在している以上、それは絶対に実現せぬ」

「長年この大陸は実質的に女神が支配しているようなものではないか。これは、統一されているも同然であろう?」

「それを行っている者が人間や亜人なら……そう、人ならば余も認めはしよう。しかしあの女神は、人を人とも思っていない。あのような埒外のあやふやな者に我らの世を任せている現状……余は、この状態が健全とは思えぬ。今の平和は、かりそめにすぎん」

「まあ、我がミラは過去の皇帝が何人か女神の不興を買って遠回しに殺されておるからのぅ。それを皇帝の一族がずっと恨んでいるのもわかる……否、そうなるようにしてきた。ふふ、つまりそちも……過去に女神から”処分”を受けた皇帝たちの復讐者でしかないわけだ。ふぉっふぉっふぉっ、こうして自分も追放に対する復讐をやっておいてなんじゃが……復讐など所詮、一時の感情に依った大儀なき低俗なシロモノじゃよ。それをあたかも世界全体を考えているかのようにその口より開陳するは、どうにも卑怯千万であるよな……狂美帝ッ! ふぉっふぉっふぉっふぉっ! 狂っておる! まっこと、狂っておるッ!」

「”呪いとは、言い換えれば繋ぐ想いでもある”」

「?」

「我が父……前皇帝の言葉だ」

ゼーラ帝が、踏み出す。

帝座へ向けて。

その手には、いささか刃の長すぎる片手剣が握られている。

「ふぉっふぉっふぉっ、よし……よぉし。それもまた、よし。説教とは言ったが、儂も長く生きたゆえ世の道理はわかっておるつもりじゃ。主張の食い違う者同士が完全に矛を収め合うことなど滅多にない。それが人の世じゃ。ゆえに――叩き潰すしかない。根絶やしにするしかないのじゃ……恐怖と暴力によってな。あらゆる対立を解決するには、恐怖で縛りつけるか、暴力で根絶やしにするしかない。人は、感情の動物である宿命から逃れられん――決してな。つまり狂美帝よ、その我を通したくば……そちが突きつけるのは言葉ではなく、暴の力であるべきなのだ! わかったか!? では、ゆくぞ……我が子孫、狂美帝ッ! ふぉっふぉっふぉっ! 儂は今、無性楽しい! なぜか嬉しい! この世のすべてに、感謝したい気分じゃ!」

ツィーネは立ち上がり、するりと腰の鞘から剣を抜き放つ。

抜き放たれしは――神聖剣エクスブリンガー。

「愚かな……と言いたいところだが、今度は詭弁と容易に切って捨てることもできぬな。確かに……究極、この世の違えを決するのは暴力であり――撃滅であろう」

「それでよい! 我が愛すべき子孫よ! まったき、今日はよき日じゃ! 復讐に狂うたこの追放帝を、見事、そちの力にてねじ伏せてみよ―――理想帝ツィーネよ! ふぉっふぉっふぉっふぉっ!」

皇帝の間は縦に長い。

帝座まで続く絨毯の両脇には太い柱が等間隔に建っている。

柱は入り口から帝座へ近づくにつれ、その豪華さが増す。

帝座へ近づくほど彫刻も壮大となる。

装飾も華美となる。

皇帝へ接近するほど――多くの者は、ある種の感情を抱くという。

憧憬だ。

”憧れの存在へ近づきたい”

大半の者がそんな風に思うそうだ。

"あの帝座に腰を据える存在に少しでも近づきたい"

と。

けれどゼーラ帝は、何も感じてなどいない足取りで迫ってくる。

かつてその座にいた者にとっては、無意味な仕掛けといえよう。

「へ、陛下を守れ!」

ゼーラ帝の後方で緊迫して止まっていた騎士たち。

彼らがゼーラ帝の背中目がけ、一斉に躍りかかった。

しかし、

「ぐわぁあああ!」

剣圧だろうか。

旋風に巻き上げられたかのように、騎士たちはひと薙ぎで吹き飛ばされた。

大半は身体の部位が断裂。

多くは命を落とし、よくとも戦闘不能者となった。

家臣団たちが柱の後方へ逃げ惑い始める。

けれど親衛隊はそうもいかない。

皇帝を守る――恐怖を感じながらも、彼らは戦闘態勢を取った。

が、

「よい……そちたちは、下がっておれ」

「し、しかし陛下……ッ!」

「そちたちは今後の余にとっても貴重な戦力。まだ失う時ではない。何よりあれをまともに相手にできるのは、この場において余しかおるまい……案ずるな。この戦い、余が勝つ」

「へ、陛下っ――」

ツィーネも足を踏み出した。

ゼーラ帝の到達を待たず、自ら前へ。

「ふぉっふぉふぉっ、自ら来るかツィーネ……一族に連なる者として、誇らしく思うぞ」

神聖剣の刃が 緑白 ( みどりじろ ) い光を発する。

ツィーネが剣をひと振りすると、刃の軌跡の残像が宙に残った。

羽根を少しずらしつつ重ねたような残像。

残像と思われたこの半透明な 斬影 ( ざんえい ) は、質量を持つ。

この斬影刃は、盾にもなれば、敵を討つ刃ともなる。

「呆れたものだ。 耄碌 ( もうろく ) だな。この世でただ一人、今も我が一族の身内と思い込んでいる……愚昧を通り越して、いっそ哀れですらある」

斬影刃を周囲に現出させてそれを従えたツィーネは、威厳をもって、堂々と剣を構えた。

「今の貴様は所詮、ただの追放者にすぎぬ――――分をわきまえよ、 ゼ ( ・ ) ー ( ・ ) ラ ( ・ ) 」

「ふぉっふぉっふぉっ! まったくふさわしいな、 童 ( わらし ) ! 器じゃ! 見事、そちは皇帝の名に恥じぬ器じゃて!」