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どこまでも深い、浅薄なる邪悪

ハズレ枠の【状態異常スキル】で最強になった俺がすべてを蹂躙するまで — ncode.syosetu.com · All chapters

どこまでも深い、浅薄なる邪悪

前回更新後に前話を書き直すか否かを悩んだのですが、物語や人物には多様な受け取られ方、見方があるのを踏まえた上で、このまま当初の構想通り進めることにしました。

また、書き直しを行うかの検討に入る上で一度受付停止にした感想欄ですが、今後はレビュー受付も含め、章が完結した際に受付を行い、次章を開始する際に再び受付を停止する(その章が完結した際にまた受付を開始)という方式も考えました。ただ、「ハズレ枠」を好きでいてくださっている皆さまのご感想を章の完結時にしか拝読できなくなるというのも、それはそれでやはり寂しい気持ちもございまして、感想欄についてはひとまず受付を行う状態にしておく方針でおります(それから前話更新後、レビューもいただいておりました。ありがとうございました)。

今後ご期待にそえる物語を紡げるかはわかりませんが、ともかく自分なりに精一杯書き進めてまいりたいと思いますので、この物語の行く末を温かく見守っていただけましたら大変ありがたく存じます。

……と、なんだか硬い感じの文章になってしまいましたが……気楽にお読みいただけて、その上で少しでも楽しんでいただけたら幸いでございます、と思っております。

反射的に。

出て、しまった。

しかし今出なければ、ホークはきっと殺されていた。

セラスは軽く唇を噛む。

相手のいる位置に近づくための遮蔽物が少なすぎた。

20ラータルの距離。

元の位置から姿を現せばすぐ視界に入ってしまっただろう。

そこで、独り言を口にしている間に、そっと背後か横手へ回り込もうとしたが――

(まさか価値があると認識していた人質を、あの場で殺そうとするとは……)

回り込み、忍び寄る時間は足りなかった。

あの状況ではやはり声をかけて防ぐしかなかった。

思いつけなかった。

オヤマダの豹変ぶりに混乱していたとはいえ……。

もっと上手いやり方はなかっただろうか?

想定外の事態が起こった時――自分は”彼”のようには、やれない。

即座に別の策を思いつけない。

それを、痛感した気がした。

オヤマダが――舐め回すように、セラスを上から下まで眺めてきた。

「お……おぉ! 雨に濡れててエロいじゃーん……マジ、エッロ……はー? つか、なんでここにいるんすか? 今あんた、小バエのなんちゃら団にいんだろ?」

殺させずに。

倒すには。

「質問には、そちらの 方 ( かた ) が解放されてから回答します」

「そうっすなー? じゃあ、おれの言うこと聞いてくれたら解放してあげましょう! まず胸、出そっか? ボロンッ、て!」

「――――ッ!」

想定は、あったが。

不意に顔が熱を持つ。

羞恥か。

怒りか。

思わず空いた方の手で、セラスは胸を隠してしまった。

さらに――嘘なのがわかった。

ホークを解放する気など、ない。

「……あなた、には……恥や勇者としての矜持というものが、ないのですかっ……」

「ぎゃはは! なに赤くなってんだよ!? 純情か! はー? 恥? キョウジ? 男なんて下半身に従わなけりゃ嘘だろうがよー!? 交尾しねーと子ども増えねーし! 人間は種の保存が正義なんすよなー? それが世の中の正しさだろ? それを恥とか……恥を知りなさい、セラス・アシュレイン! ぎゃはは! つーか耳尖ってっからエルフだっけ!? エルフってみんなそんなエロ美人なん!?」

身体の芯を今わずかにかすめたのは、恐怖だろうか。

トーカから聞いてはいた。

けれど、ここまで下劣に感じた人間は初めてかもしれない。

何か、こう。

形容しがたい不気味さすら覚える。

とても軽く見えるのに――深い、深い邪悪性。

それより、

「ホーク殿? ……ホーク殿は、生きていらっしゃるのですね?」

死んでいたら人質としての意味がなくなる。

セラスがこうして、姿を現した意味も。

「あー弱ってるけど、生きてる生きてる」

――真実。

嘘、ではない。

「けど、どーすんの? ストリップしねーんなら話進まねーぞ? やるのか、やらねぇのか……決めろや、20秒以内に……ちっく、たっく……ちっく、たっく……ほら、やんねーと殺しちゃうぞぉ? ……まず胸からやれ」

ホークのこめかみに、拳を添えるオヤマダ。

「…………ッ」

「あと、15秒デース……ちっくたっく、ちっくたっく……おーい、やる気ある? へー……こいつの命より自分のプライドの方が大事かー……ま、そりゃ正しいわ。そのくせ私は立派な人間ですって顔してんのが、マジでウケるわ! あ、人間じゃなくてエルフか!? 知らねーけど、亜人って低級種族なんだろ!? やりたい放題じゃねぇの! ピー!」

「くっ……」

指示に従ってもホークを解放する気がない。

嘘だとわかってしまっている。

ここで――自分が人質になってしまうような真似は、避けるべきだ。

その時、だった。

「あーめんどくせ……じゃあ返すわ、ほれ――」

「!」

放り、投げた。

オヤマダがホークを宙に。

セラスの方に、向かって。

同時、オヤマダがこちらへ向かって駆け出した。

彼のこぶしが狙っている方向は――

ホーク。

セラスも、駆け出していた。

彼女はホークを抱くようにして、そのまま回避を試みる。

少しばかり攻撃を受けても精式霊装の部位で受ける。

氷と風の精霊でさらに部位を強化すれば、防御力は上がる。

何より、人質さえ確保してしまえば――

「【 重撃の ( ヘビー ) 、 拳弾 ( バレット ) 】」

ドゥッ!

来た。

赤い攻撃弾が――

「!?」

かたまりが、散弾と化した。

足さばきが成功すれば回避は可能に思える。

が、ホークを守りながらでは無理だ。

何発かは受けざるをえない。

隅々まで神経を研ぎ澄まし、セラスは把握する。

このままいけばどの部位に散弾が当たるか。

重傷になりかねない部位へ迫る 赤弾 ( せきだん ) は、精式霊装の部位で受け――

「チェック、メイト」

「――え?」

すり、抜けた。

赤弾が精霊霊装の部位を。

そう。

赤弾は幻影のようにすり抜け、その何発かが、セラスの体内に吸い込まれた。

「何、が……、――――ッ!?」

(身体が、重……い?)

「くっ……」

これは支えているホークの体重からくる重みではない。

明らかに、違和のある重みだ。

(今の赤弾を、受けたせい……ですかッ)

しまった。

相手が勇者である以上――トーカの例がある以上。

単純な攻撃以外の効果も、想定しておくべきだった。

逸ってしまった。

ホークを救う方へ意識をやりすぎて。

セラスはホークを片腕で抱きしめる形になったまま、膝をついた。

片方の手で握る剣の氷刃をさらに強化し、気丈にオヤマダへ強い視線を飛ばす。

「あー……言ってみたかったンだわ、今の”チェックメイト”ってやつ。ちょー気持ちいいわー……つーか、だと思った♪」

ニヤニヤとセラスを見るオヤマダ。

「おまえさぁ? そういう善人っぽいやつ見捨てらんねークチだろ? バカなんだよなぁ……おれのいた世界でも、偽善者どもがまーうるさくてよー。うしゃしゃ……まあそいつらも、偽善者のふりした詐欺師どもに搾取されてんだけどな? まー……しっかし偽善者はマジうるせーわ。なぁにがやらない善よりやる偽善だよ気持ち悪ぃ! ぎゃはは! 拓斗によると、偽善者の話ばっか聞いてると国がマジに弱って衰退してくんだとよ! でも、おれの育った国はアホ偽善者の意見ばっか通るから、もう未来がねーらしーんだわ! じゃあもう異世界でよくね!? なぁ!? こんなこっちにしかいねぇ美人も、好きにできるしよぉ!?」

ザァァァァ……

オヤマダの能力のせい、だろうか。

雨に濡れた布地が、ひどく、重く感じる。

セラスは――

「――――――――」

停止、していた。

脈、が。

「ホーク、殿……?」

脈が、ない。

心臓の鼓動もおそらく……ない。

「あ?」

「そん、な……死んで、いる……?」

「え? マジで?」

「あ――」

オヤマダは”まだ生きている”と言った。

ま ( ・ ) だ ( ・ ) 生 ( ・ ) き ( ・ ) て ( ・ ) い ( ・ ) る ( ・ ) と ( ・ ) 、 思 ( ・ ) い ( ・ ) 込 ( ・ ) ん ( ・ ) で ( ・ ) い ( ・ ) た ( ・ ) の ( ・ ) だ ( ・ ) 。

ならば、嘘とは見抜けない。

当人が嘘をついているという自覚が、なかったのだから。

「なんだ死んじまってたのかぁ! ぎゃはは! ちょっ!? なに勝手に息ひきとってんすかホークさぁああん!? ウケるわーっ! じゃあ……セラスさん、バカみたいじゃん! 決死の覚悟で守ってくれたのに……もう死んでたとか! ひーっ面白いよー最高っ! ほんっといい人すぎね!? マジ行動かわいいじゃん! 優しいじゃん! うぉぉおおおお、燃えてきたーっ! おらぁ!」

「ぁ、ぐ……っ!?」

オヤマダがひと足で接近し、前蹴りでセラスを蹴り飛ばした。

「お、きみはセラスちんを弱々にするのの役に立ってくれたが……邪魔だどけ♪ ぎゃはは、おらぁ!」

ゲラゲラ笑いながら、オヤマダがホークの死体をどかすように蹴り飛ばす。

「く、ぅ……」

セラスは地面に片手をつき、立ち上がろうとした。

トーカのパラライズほどではない。

身体は動く。

けれど、重い。

ひどく。

「おーけっこう動けねーみたいじゃん。やべ……もがこうとしてる顔、マジそそるわ。あー……どうすっかなー……そこの家に連れ込むかー?」

その時、セラスの中にある種の危惧が走った。

自分の身の危険よりも、それは彼女が恐れること。

ムニンが、助けに来てしまうこと。

ないとは思いたい。

が、それはないと思いつつも。

絶対、とはいえない。

その最悪の事態だけは。

どうにか、避けねばならない。

「やる、のなら……ここで、済ませなさい……ッ」

「……え? 何? おれとヤりてぇの? マジで!? うわー意外と淫乱エルフなのかよ!? 姫騎士だっけ? 淫乱姫騎士エルフなの!? なに誘ってんだよ、ウケるわ!」

「くっ……」

「ぎゃはは”くっ”じゃねぇんだよ! 何自分から言っといて照れてんだよ!? 面白れぇわこいつ! おれの周りにはいなかったタイプだ! まーわかったわ! そんなにおれが欲しいなら――」

オヤマダへ飛びかかる、赤い眼。

黒い身体。

どこからかひと足に、跳躍してきた。

威圧感に満ちた巨体。

二本ヅノ――

八本の脚。

絶対に相手を許さぬとでも言わんばかりの、落雷がごときいななき。

「スレイ、殿ッ!」

「【赤の 拳弾 《 バレット 》 】」

「やめっ――」

悲鳴。

スレイが吹き飛び、激しく身体を塀に打ちつける。

「スレイ殿!」

「……小バエ軍団の馬かー? 何? 大好きなエロエルフちゃんを守りにきたんでちゅかー? ぎゃはは! 弱ぇーっ! まーそこでおとなしく見てろや! 今からいいもん見してやっからよ!」

「ブル、ル……ッ」

「お?」

ガクガクと脚を震わせながら。

スレイが、立ち上がる。

戦闘態勢を――取った。

「まだやんの……? 面白ぇ……ほら、来いや……おい動いたらあいつにもとどめさすからな、セラス」

「――ッ、スレイ殿! 逃げてください!」

「ブルル……ブルルルルッ」

拒否している。

戦意を、奮い立たせている。

逃げるわけにはいかないと。

意思を、発している。

スレイが駆け出した。

「だめです、スレイ殿! どうか――」

オヤマダが赤弾を放つ。

足さばきで回避動作を取るスレイ。

しかし先ほどの負傷のせいか、避けきれない。

「やめてくださいオヤマダさん! スレイ殿も、もうやめてください! 私は、大丈夫ですから!」

ムニンの存在は示唆できない。

彼女の存在をオヤマダに悟られるような言葉は、選べない。

再び赤弾で吹き飛ばされ、地面に転がるスレイ。

口から、血を吐いている。

数回、同じ光景が続いた。

セラスがどんなに止めても、スレイはやめなかった。

スレイとオヤマダの戦闘力の差は明らかだった。

なのに。

なの、に。

「ブル、ル……ブルルル……ッ!」

ガクガクと脚を、震わせながら。

雨に濡れ、爛々と、赤眼を光らせながら――

立ち、上がって。

その蠅王の馬は、戦闘態勢を、取る。

「おーまだ立つか! 思ったより根性あんじゃん! ぎゃはは、つーかなんか必死すぎてちょいキモいわーっ! 何? 種族の壁を乗り越えて、この清楚系エロエルフに惚れてんの!? スレイ大先生ぇええ!?」

意地。

使命感。

灼眼黒馬から放たれているのは、絶対に引かないという意思。

セラスの目に浮かんでいるそれは、今や雨水の水滴ではなかった。

「どう、して――そこまで」

ハッとする。

『それより……セラスたちのことは、頼んだぞ』

『パキュ!』

出発する前、トーカとスレイが交わした言葉。

約束。

任されたから。

誰よりも信頼している彼から信頼され――任されたから。

意地でも。

命に代えてでも。

守ろうと、してくれているのだ。

彼のように上手くやれない――やれなかった。

こんな、自分を。

「スレイ、殿……もう、いいですから……もう、立たなくて……お願い、ですから――」

「ブル、ル……ッ、――ブルルル……ッ!」

「あーうっざ。そうだ……脚、全部……ぐちゃぐちゃに潰してみっか」

「!」

オヤマダのひと言に、背筋がゾッとなった。

「あ、面白そうじゃね? 粉砕しまくって、タコ足みたいにふにゃふにゃにしたらどの段階で心折れるか――やっべ! 魔物だよなあれ!? 動物虐待にもならねーから、心も痛まねーわ! おれなー、こう見えて動物は好きなんよー」

「や、やめ――そんなこと……許されるわけがありません!」

「じゃあさ、やめるようにがんばれや?」

「あ――」

「スレイきゅんの心と身体をバッキバキに折ってほしくねぇなら、おれに言うこと聞いてほしいんなら……今の自分に何ができるかを心から考えろや? な? つーかおまえさ……さっきから自分じゃ何もしねぇでピーピー吠えてばっかだな、セラスおねーさん? 頼みを聞いてほしいならさ、行動で示せっての。あとよー……相手に頼みを聞いてもらう態度じゃねーんだわ、それ。ナメてんの?」

「わ、たし……は……」

「はぁぁ? はっきり言ってくださーい? あ、な、た、は、な、に、が、で、き、る、ん、で、す、か?」

「……脱げば……いいの、ですか?」

「マジで!? 露出狂じゃん! そうなんだろ!?」

「……っ」

「は? 認めねーの? おれに見てほしいんだろ? 誘ってんだろ? あ、ホークみてーに馬殺そっか! 魔物殺しじゃー!」

「! ま、待ちなさ――待って、ください。は……はい……」

セラスは重い手を胸の布地にかけ、恥じらいに視線を伏せた。

口もとは――恥辱に、引き結ばれている。

「誘っ、て……いるの、です……」

「はーい、じゃあまずは謝罪ー」

「え? あ……申し訳、ありませんでした……」

「謝罪しながら、脱ごっか♪ ほら、表情も誘ってる風で! まーイヤイヤってのも悪くねーけど! ほら、さっさと脱げや!」

「――――ッ」

せめて、稼がなくては。

ムニンが逃げおおせるまでの時間を。

彼女さえ無事に逃げてくれれば。

生きて、トーカと合流できれば。

女神への復讐は、遂げられる。

スレイも、殺させない。

絶対に。

この状況を招いたのは自分が上手くやれなかったせいだ。

責任は――取らなくては、ならない。

大丈夫だ。

生きてさえいれば。

ここで何が、あっても。

きっと。

あの人なら。

…………。

生きるのだ。

何を、しても。

どんな恥辱を味わおうと。

生きる。

絶対に。

スレイも、死なせない。

絶対に。

逆転の目だって――作ってみせる。

考えろ。

最後の、最後まで。

だから。

今は、

「…………」

セラスは――胸の留め具に、指をかけた。

「ぎゃはは! なんか私お安くない女ですって感じに焦らしまくんじゃんセラスさーん!? あー……邪魔が入ると困るし、雨うぜーから一発ヤったらやっぱ屋内入るか? ぎゃはは! つーかマジ異世界、最高! 最高すぎるわ! お! スレイくん、ついに立ってるのも辛くなって倒れちゃったかー! ほーら、セラスちゃんはこれからとっても可愛くなってくれまちゅよー? いやーもうなんか大魔帝討伐とかどうでもいいわ! クラスの連中もなんかもう無茶苦茶だしよ! よっしゃ! この調子で綾香とか高雄ズもやっちまうか! 鹿島と室田あたりも候補だな! まーでも心配だわー! こんな上澄み中の上澄みとヤっちまったら、今後おれは他で満足できんのかーっ!? いやまーもういいだろ! 異世界でいけるとこまでいって、好き放題やってやっか! ぎゃはは! つーか早く脱げよ! ちょっとズラしただけじゃねーか! サービス悪すぎだろ! わかったわかった! もうおれが脱がしてやっから! あーもうこのずぶ濡れ姿の時点でエロすぎて……我慢できねぇええ! あれ? あららぁ? もしかして……泣いてる? 泣いてます? ぎゃはは! 泣いちゃったよ、セラス・アシュレイン! 面白れーけど、泣く女ってぶっちゃけマジでウザいんだわ。知らねーし! あーもう我慢できねぇ! スキルでもっと身体重くして、ガチで動けなくして好きにやろうそうしよう! ぎゃーたまんねぇええ! もう自発的ストリップとかいらんわ! おれのペースでやらせてもらいますヨーっ!  ぎゃははは! もっと泣かしてやっからよ! もちろん、気持ちいい意味でな! よっしゃ! やりたい放題コース、とっつにゅうぅぅううううぅぅぅぅうううう――――――――――――ッ!」

「よお、小山田」

「あ?」

――――――――――ピシッ、ビキィッ――――――――――