LNCrawler

対

ハズレ枠の【状態異常スキル】で最強になった俺がすべてを蹂躙するまで — ncode.syosetu.com · All chapters

対

「――――――――」

桐原拓斗が建物の中に、入ってきた。

エリカの使い魔から得ていた桐原拓斗の動き。

使い魔は、見た目は本当にそこらの動物と遜色がない。

軍魔鳩なら違和感を抱かれるかもしれない。

が、使い魔はその辺にいてもそこまで違和感がない。

特に――鳥類などは。

桐原周辺の状況を、探ってもらっていた。

周辺に、ヴィシスの姿は見られない。

従属させてているという魔物はかなり離れた場所にいる。

伏兵らしきものも確認できず……。

しかも――そのほとんどが動く気配がない。

俺は入ってきた情報に合わせ、対応を選んで動いた。

いくつかのプランを用意していた。

一旦この建物を使うプランに決定したのが、少し前のこと。

ここへおびき寄せる方法もいくつか考えていた。

ピギ丸の分身を使った方法だったが――

入ってきた。

桐原、自ら。

強さを増した雨を気にして入ってきた、と見るべきか。

金波龍とやらは、出していないようだ。

「…………」

俺は今、天井に張り付いている。

ピギ丸の新たな能力によって。

最後の強化剤は地味だが、文字通り地味に便利な能力だった。

単純に言えばピギ丸が器用になった、といったところか。

まず、粘着力が格段に向上した。

使い方によっては垂直の建物の壁をのぼることも可能。

剣虎団とやった時は掴まるところがあったから成立した。

が、今は何もないところでも貼り付くことができる。

これによって、対象の死角に潜む選択肢は各段に増えたと言える。

他は、質量的な能力の向上。

ロープ状になった時の長さや強度がかなり上がっている。

その副産物なのか、ピギ丸の分裂も可能になった。

分裂し、ピギ丸がそれを分身のように動かせるのだ。

また、分身は武器にも形を変えられる。

この分身や武器は、破壊されてもピギ丸にダメージが入らない。

いわゆる、

”分身がやられても本体にはダメージがいかない”

というヤツか。

が、分身は本体ほどの粘着力や巨大化能力は持たない。

他には、硬度も飛躍的に増した。

つまり武器として使用可能なほどの硬度を得た。

手もとに武器がなくとも、ピギ丸自体を武器として扱える。

そして、今……

俺は室内の死角に貼り付き、息を潜めている……。

足音。

近づいてくる。

……桐原か。

あの時以来――形としては、再会。

平静は、保てている。

動揺は、ない。

深い闇の奥へと。

桐原が、やってくる。

「……………………」

きた。

足音の位置……。

いる。

桐原と、同じ空間に。

気づかれた様子は、ない。

入った。

射程――圏内。

「ピッ――」

先に分裂させて置いておいた、分身したピギ丸の鳴き声。

鳴き声は、俺のいる方角とは真逆の位置から。

桐原の意識はそちらへ―――

こ ( ・ ) こ ( ・ ) ――

「【パラライズ】」

――ピシッ――――、……バキィン!――

小さな――ガラスの割れるような音。

何かが。

脳の奥、から。

記憶から。

引き出されるような、感覚が――

「【 金色 ( ドラゴニック ) ――

確認を――

「【バーサク――」

「―― 龍鳴波 ( バスター ) 】」

――バキィン!――

あの時。

クソ女神に廃棄される直前。

がむしゃらにヴィシスに【パラライズ】を放った、あの時。

多分。

無我夢中で、その時はそこまで認識できていなかった。

けれどその意識外で……。

おそらく俺はこの音を聞き――そして”それ”を、見ている。

そう。

同じだ。

あ ( ・ ) の ( ・ ) エ ( ・ ) フ ( ・ ) ェ ( ・ ) ク ( ・ ) ト ( ・ ) 。

あの、クソ女神の【 女神の解呪 ( ディスペルバブル ) 】と。

……ドシュゥゥゥ……

渦巻く金龍を纏う桐原拓斗。

うねるエネルギー体の金龍。

金龍の放つ光が、一気に闇に包まれた室内を照らし出し――

「残念……と言わざるをえねーな。誘い込まれたのはてめぇだ――下級、本質」

さっきの桐原の固有スキル。

エネルギーの放出による攻撃、ではなかった。

俺はその時、すでにピギ丸に合図を送っていた。

ロープ状になったピギ丸はここから対角線上にある壁に、張り付き――

凄まじい勢いで、俺を引っ張る。

俺はそのままピギ丸に引っ張られる形で、壁目がけて飛んでいる。

先には古い鎧戸。

材木が腐って脆くなっている。

経年劣化によってできた隙間は、先んじて塞いでおいた。

塞いだのも、分裂したピギ丸を用いてできたことの一つ。

今のピギ丸は透明度をなくし、遮光もできる。

なぜ塞いだのか?

外の光が入って、一筋でも室内の闇へ光が注がぬように。

この空間に、闇をつくるために。

ただ。

その鎧戸が存在する最大の意味は”最悪の事態”が起きた時のための、

脱 ( ・ ) 出 ( ・ ) 口 ( ・ ) の ( ・ ) 確 ( ・ ) 保 ( ・ ) 。

■

この前の追放帝の話を、俺は狂美帝から詳しく聞いていた。

”女神から力を分け与えられた”

追放帝はそう話していたそうだ。

力 ( ・ ) を ( ・ ) 分 ( ・ ) け ( ・ ) 与 ( ・ ) え ( ・ ) る ( ・ ) ?

あのクソ女神は、そんなことができるのか……?

……ならば、と思った。

万が一にも……ありうるのか?

あの【 女神の解呪 ( ディスペルバブル ) 】を、分け与えることも?

今までは必要なかった。

が、もし蠅王が”俺”だとヴィシスが気づいたなら。

そしてヴィシスが桐原に、俺の正体を教えたなら。

何か画策する中で、俺に桐原を殺させたいと意図しているのなら。

当然、対策を練る――与えるはずなのだ。

もし、できるのなら。

桐原に俺を始末させたい。

ヴィシスがここに来ていないのなら。

何か別のことをしている。

やることがある。

つまり。

ヴィシスがここに来ないのなら、桐原の状態異常スキル対策は 必 ( ・ ) 須 ( ・ ) 。

俺が。

シビトも。

アイングランツも。

ルインも。

ジョンドゥも倒している、と思っているのなら――必要な措置。

状態異常スキル対策。

こうくる確率は低いかもしれない、とは思った。

さすがに考えすぎかもしれない、とも思った。

が、備えはしておくべきと考えた。

…………。

やはりしておくべきものだ。

最悪の事態の――想定というものは。

▼

「くたばれ、三も――」

桐原が何か言い終える前に、鎧戸が、粉々に砕け散る。

破裂し、建物の外側へと弾け飛ぶ木片。

「ピッギィィィイイイイイイイイイイイイッ!!!」

ピギ丸の鳴き声と共に。

鎧戸を粉砕し、俺はもう外へ飛び出している。

細かな木片が雨の中、宙を舞い――――

「小賢しさの局地と……言わざるを、えない。悪あがきと言わざるをえない。下級本質の足掻きは……見ていて、目に余りすぎる! どう、足掻いてもだ……ッ!」

何匹もの金龍を従えた桐原が建物の残った壁を粉砕し、飛び出してきた。

桐原自身も金のエネルギーに包まれ、加速しているように見える。

ドシュゥゥゥゥッ!

刀を抜き放ち、桐原はその刃にも金色の波を纏わせた。

追い、ついてくる。

巨大な竜の集合体が、牙を剥く。

ロープ状のピギ丸の先――ピギ丸は、外にあった遺跡跡の柱に巻き付いている。

俺はまだ宙に浮いている状態。

再び、ピギ丸は俺をその柱の方へもの凄い力で引っ張った。

柱の手前。

そこで、着地。

柱を背に――俺は、構える。

「 セ ( ・ ) ラ ( ・ ) ス ( ・ ) 」

柱の裏にあった瓦礫の山が、激しい風圧で、弾け散る。

迸る光。

柱の陰から飛び出してきたのは、剣を手にした――

セラス・アシュレイン。

桐原が、目を見開く。

「――セラス、アシュレインかッ――」

セラスは、起源涙によって進化した精式霊装を身に纏っている。

名を―― ” 起源霊装 ( きげんれいそう ) ”

元の精式霊装に比べると各装甲やパーツが増えている。

元々あった形状が変化している装甲もあった。

そして、光の精霊による高出力の光の精霊剣。

剣の刃から放出されているかのように渦巻く光の束。

俺めがけ襲いくる複数の金龍――その中心に、跳びかかる姿勢の桐原がいる。

まるで、荒れた海の大波同士がぶつかるような衝突音。

セラスの精霊剣が桐原の金龍と衝突し、打ち払ったのだ。

桐原の目が、セラスを射貫く。

「ようやくか……ようやくオレたちが、出会った。ついにオレは、あるべき正しさに近づいてきたらしい。だが、しかし……ッ」

桐原が、俺を睨み据える。

「…………」

さっき部屋から飛び出す直前、わずかに、金龍の端が俺にかすっていた。

蠅王のマスクの前部がそれによって裂け、俺の顔が覗いている。

少し額の皮も裂けたらしく、俺の鼻筋を一筋の血が伝っていた。

桐原拓斗は――爛々と憎悪を宿し、言った。

「セラス……おまえは、まさかそこの下級本質を守っているのか? ちっ……つくづくこのオレに、正しくない異常な光景を見せやがる……まだ、 そ ( ・ ) い ( ・ ) つ ( ・ ) の洗脳が解けていないらしいな……ッ、まったく……”オレのもの”によくもやってくれたな――」

俺は、黙ったまま蠅王のマスクを脱ぎ捨て――桐原を見据える。

「 三 ( ・ ) 森 ( ・ ) …………ッ」

「―――――― 桐 ( ・ ) 原 ( ・ ) 」