黒数
黒数
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――ペキッ――
肩に当たった木の枝が、折れる。
俺は重い足取りで、森から出た。
木々は途切れその先には平原が広がっている。
ここを少し西方面へ行くと、パヌバ砦に辿り着くだろう。
セラスとスレイの姿が見えた。
二人は戦いの途中で、予定通り魔群帯の外へ退避させた。
二人には先に休んでもらう必要があった。
このあとのことを考えて。
ただ、セラスは起源霊装を使える余力を残させた。
いざという時は、スレイを守ってもらう必要がある。
どちらかと言えば――
何より重要なのは、スレイが休むこと。
そのスレイはちゃんと眠って休んでいるみたいだった。
セラスも休んではいるだろう。
が、眠れてはいまい。
精霊との契約があるからな……。
セラスが俺たちに気づく。
俺は時おり膝を折りそうになりながら、足を進める。
セラスが近づいて来ようとしたので手を上げ、
”問題ない”
そう伝える。
しかし俺は――
がくっ、と。
膝を折った。
身体がそのまま、前へ倒れ込もうとする。
その時。
木の葉が激しく破裂するような音がした。
何かが砲弾のように俺目がけ、飛来してくるのがわかった。
「! トーカ殿―――」
咆哮もなく飛んでくるそいつは、ふらつく俺に迫っている。
俺は肩越しに振り向いた。
全長6メートルくらいの――中型人面種。
素 ( ・ ) 早 ( ・ ) く ( ・ ) 、右手をそちらへ向ける。
「【パラライズ】」
人面種が俺へ到達する前に状態異常スキルを決める。
セラスは起源霊装を身に着けて駆けつけようとしていた。
俺は、勢いそのままに飛んでくる麻痺した人面種を――躱す。
受け身すら取れず地面に転がったそいつに【バーサク】で、とどめを刺す。
そいつを見下ろし、
「演技に決まってるだろうが……間抜けが。つくづくテメェらも、学ばねぇな」
実際は足がそこまでふらつくわけではない。
弱ったフリをすれば出てくると踏み、演技をしていただけだ。
イヴたちと魔群帯でエリカの家を目指していた時。
最後まで俺が弱るのを待っていたヤツがいた。
今回も、一匹だけどこかに潜んでいる気配があった。
用心深いのか。
まるで出てくる様子がない。
なのでひと芝居うってみた、というわけだ。
仲間のところへ俺が辿り着き安堵に満ちる。
人面種はその瞬間を絶好の隙とみて、攻撃に踏み切ってきたのだ。
俺もそれは理解できる。
安堵した瞬間こそ、確かに隙が生じやすい。
セラスが消耗しているのも、観察で把握済みだったのではないか。
「が、俺がそこまで弱ってなかったとこまでは見抜けなかったらしい」
セラスの起源霊装の展開も、注意を一瞬逸らすのに一役買った。
……ま、結果的に起源霊装を使わせたのは悪かったな。
今、セラスは策のための演技だったと気づきホッとした顔をしている。
「あとな……俺には後ろに”目”がある。背後から襲っても奇襲効果はそんなに高くねぇよ――な、ピギ丸」
「ピギッ」
「それと、相棒……最後にひと声、頼んでいいか」
最初の時と同じく、拡声石でピギ丸の鳴き声を拡大してみる。
しばらく待ってみる……。
金眼が追加で襲ってくる気配はない。
今回の経験値稼ぎは時間的にも、このくらいが限度だろう。
まあ仮にまだ残ってたとしても……。
警戒し、恐れてもう出て来る気がなくなったのならそれでいい。
「トーカ殿」
ゆっくりと歩み寄ってきていたセラスが、近くまで来た。
「悪いな。何も言ってなかったせいで、霊装を無駄に使わせちまった」
「いえ……ご無事なのが何よりです。一瞬、こちらに人面種の注意を引けた気もいたしましたし――あ、いえ……それがなくとも勝てたのは承知しておりますが……、――あ」
俺は通り過ぎざま、セラスの肩に手を置いた。
「ありがとな」
「ぁ――はいっ」
さっき騒ぎのせいか、スレイも目を覚ましていた。
「パンピィ♪」
おかえり、と言ってるようだ。
「ちょっとは休めたか?」
「パキュ♪」
背中をこっちに向け、水晶球をアピールしてくる。
これから移動するのはわかってるから早く魔素を注げ、だそうだ。
「目覚めたばかりで悪いが……頼む」
「パキュリ」
俺たちはそのあと、あの魔帝器が使用された砦に立ち寄った。
残ってる人面種がいないかを確認するためにだ。
あとは一応、生存者がいるかどうかを。
砦の中は、外と同じくらいひどい有様だった。
死臭もひどい。
死体には蠅だけでなく、蛆も湧いていた。
砦の中の惨状は……言葉にするのも、おぞましい。
金眼の魔物も、人面種もいなかった。
生存者も。
砦を出ると、俺たちはロウムたちのところを目指した。
馬上で蠅王のマスクの状態を確認しながら、
「もうだめそうだな、これは……」
今回の戦いでは、けっこうな数の人面種や金眼の魔物を殺した。
何もかも容易く勝てた……ってほどでもない。
苦戦まではいかなかった――と思う。
しかしそこは、さすがに最強と言われる北方魔群帯深部の人面種たち。
セラスが抜けたあとは、そこそこ手ごわさを感じる局面があった。
合体技も使い切ってしまい、ピギ丸を休ませていた時間帯もあった。
俺一人でとなったその時間が、最も神経を使ったかもしれない。
ただ、それに至るまでのレベルアップが確実に効いていた。
危なかったとまでは言わないが。
楽勝、ともいかなかった。
それもあって。
蠅王のマスクとローブも大分、ボロボロになってしまった。
振り返ったセラスが苦笑し、
「ローブの方も修繕を重ねてきましたが、さすがにそろそろ厳しいでしょうかね……」
「だな……」
そろそろ新しい蠅王のマスクとローブが必要、か。
▽
俺たちは、ロウムたちのいる野営地へ戻った。
ロウムとミラ兵が俺たちを見つけるなり駆け集まってくる。
俺は砦のことや戦いの成果を伝えた。
皆、驚いていた。
同時に、かなり元気が出たようだ。
もはや英雄がごとき扱いである。
ただまあ、
“勝てそうもなかった敵に勝てた味方がいる”
これが希望を与える要素になるのも、よくわかる。
一方で、連れ帰ることのできた生存者はいなかった。
これも、受け入れねばならない一つの現実だろう。
俺は彼らの仲間にお悔やみを言った。
だがそこはさすがに軍人とでもいうべきか。
俺が戻ってくる間に、彼らもそれなりの心の整理をつけていたようだ。
目を逸らすでもなく。
過剰に引きずるでもなく。
悲しみつつも、先へ進むため受け入れる。
……こういうとこはやっぱ兵士、って感じなのかもな。
それから、軍魔鳩でリィゼたちに進軍の停止解除を伝えてもらうよう頼んだ。
「一応、人面種や金眼の魔物が魔群帯から出てきそうな様子がないか、ハーピー兵に偵察してもらいながら進むよう、お伝えください」
「承知いたしました」
「では、最果ての国の方々のことをよろしくお願いいたします」
「お任せください。あの、蠅王殿……急ごしらえの野営地ではありますが、ここで少しお休みになられてはいかがですか? お休みになっている間に、最果ての国の方々と合流できるかもしれませんし……」
「いえ、ワタシはこのままこの黒馬で戻ります」
「そう、ですか……かしこまりました。陛下も蠅王殿がいち早くお戻りになれば心強いでしょう。東の戦場でまたご一緒できることを、祈っております。それでは、どうかお気をつけて」
俺は礼を言って、そのまま東へスレイを走らせた。
今はセラスが前で、俺が後ろに乗っている。
そう。
スレイを先に魔群帯から離脱させておいたのは、このためだった。
休ませておき、あまり時間を置かず聖たちのもとへ戻れるように。
「セラス、しばらく寝ようと思うが……いいか? 睡眠でMPの回復をしたいってのもあるが……さすがに……少し、疲れた……」
「はい、遠慮せずどうかお休みください。どうぞ……私の背に、身を預けてくださいませ。スレイもトーカ殿が落ちないよう、協力をお願いできますか?」
「ブルルルッ」
「……悪いな、二人とも」
背から抱き着くような形でセラスの腰に手を回し、寄りかかる。
セラスの背中に、顔をつける。
……なんというか。
ホッとする感覚がある。
モンロイを出たくらいの頃はセラスも照れ照れだったが。
今となっては、慣れたものだろう。
…………ん?
セラス?
「…………」
さすがにもう慣れてる、よな……?
しかし――そこを確認する間もなく。
すぐに眠気が、襲ってきた。
さらに……眠りを誘う、断続的な振動。
それは。
深い心地よさに包まれ、まさに、意識が途切れかける寸前だった。
「大好きです、トーカ殿」
ふと耳に届いたそのひと言。
俺はそれに、
「ああ……今さら言わなくてもわかってる――同じだ、俺も」
多分そんな言葉を、返したと思う。
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【トーカ・ミモリ】
LV5999
HP:+17997
MP:+197967
攻撃:+17997
防御:+17997
体力:+17997
速さ:+17997
賢さ:+17997
【称号:E級勇者】