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誰が為の勇者

ハズレ枠の【状態異常スキル】で最強になった俺がすべてを蹂躙するまで — ncode.syosetu.com · All chapters

誰が為の勇者

思った以上に手こずりまして、21:00予定の更新が間に合いませんでした。

それから、前回更新後に新しくレビューを1件いただきました。

ありがとうございました。

そして前回更新後、たくさんの祝福のお言葉をありがとうございました。

こうして多くの祝福のお言葉をいただけて……いっぱいいっぱいながらも、ここまで書いてきてよかったと思えております。

左翼の前線も混戦に入っていた。

聖体が相手なら邪王素による弱体化はない。

それもあってか、こちらの動きはそう悪くない印象があった。

左翼軍は混成軍が主体である。

ポラリー公爵率いるアライオン軍もそこに編入されている。

中にはあの魔防の白城の戦いを経た者も多い。

聖体を馬上から斬り捨てながら、ポラリー公のそばを固める騎士が声を上げた。

「公爵! 少しお下がりください!」

ポラリー公が槍で、聖体の顔面を突き刺す。

「一体一体はそこまででもないが……敵の波が、途切れん……ッ」

絶え間なく敵が押し寄せてきている。

敷いた陣形は崩れつつあった。

崩れた”穴”へ聖体が詰めかけてくる。

そこが少しずつ突破され、陣形の内側で揉み合い気味になっていた。

ポラリー公は頭上でグルンッと槍を回し、

「それに、あの中型ッ――」

穂先の方向を変え、聖体を貫く。

「あれらが、厄介だッ! しかも――」

聖体が白い血液を地面にまき散らす。

その血は、シュワシュワと音を立てて消えていく。

蒸発しているみたいにも見える。

歯ぎしりするポラリー公。

「…………ぐ、ぅッ」

迫る、大型聖体。

巨人。

「術式部隊と弩弓部隊に迎撃の準備をさせよ! 周囲を固め、二つの部隊を守りながら――」

「公爵! あれを!」

騎士の一人が、 こ ( ・ ) ち ( ・ ) ら ( ・ ) を指差した。

「あれは――、……アヤカ殿か!」

固有銀馬にて十河綾香が前線に迫る。

目指すは、兵たちが苦戦している中型の聖体。

「アヤカ殿! あっちの大型だけでなく、あの中型聖体にも気をつけなされい! 個体によって使う武器が違うようですぞ! しかも通常個体と比べて妙に戦闘能力が高い!」

通り抜けざま、

「情報をありがとうございます、ポラリーさん」

綾香は言って、馬上で軽く槍を手元で浮かせた。

パシッ

握り直し、

ブンッ!

投擲。

唸りを上げて迫る槍に中型聖体が気づく。

戦斧で飛来する槍を打ち払った。

今の投擲は、周囲の味方への攻撃を一時的に止めさせるためのもの。

頭上の上空に出現させていた【 武装戦陣 ( シルバーワールド ) 】の銀球。

それが、膨張するように巨大化していく。

次の瞬間――銀球が弾けた。

綾香は己の周囲に浮遊武器を生成。

さらに固有騎士――銀騎士たちが空から降ってくる。

突出し先頭を行く浮遊武器を従えた十河綾香。

その数200はいるであろう剣を構えた銀騎士たちがそれに続く。

手前のアライオン兵を吹き飛ばし、中型聖体が綾香の方へ的を絞った。

構えを取りながらこちらへ駆け出してくる中型聖体。

綾香は止まらない。

その手には銀の固有剣。

他の聖体が味方の壁を抜けて押し寄せるも、綾香は寄せつけない。

もはや、通常の聖体は障害物にもならない。

蹄が力強く地を蹴り上げるたび、硬い泥が跳ね上がる。

綾香に気づき通り道をあける味方。

範囲内の浮遊武器に蹴散らされていく、聖体たち。

スゥッ、と。

軽く息を吸う。

射程距離に、入った。

固有剣の切っ先を中型聖体へ向ける。

猛然と襲いかかる浮遊武器たち。

必死に斬り払おうとする中型聖体。

が、多勢に無勢。

数の暴力。

中型聖体はなすすべなく――

ぐ ( ・ ) ち ( ・ ) ゃ ( ・ ) ぐ ( ・ ) ち ( ・ ) ゃ ( ・ ) に ( ・ ) 切り裂かれた。

綾香は浮遊武器を射程内の他の聖体へ放っていく。

やや遅れて銀騎士たちも追いついてくる。

苦戦している味方への加勢を優先し、剣で聖体たちを斬り伏せていく。

「――次」

綾香は次の目標を、大型聖体に定める。

大型聖体が迫ってきている辺りは、味方が後退していた。

「…………」

大きさは、30メートルくらいあるだろうか。

問題ない。

固有銀馬を走らせる。

じりじりと後退する味方とは逆――

一点も曇りなく、決然と大型聖体に迫る銀の勇者。

「アヤカ殿だ! アヤカ殿が来てくださったぞ!」

「勇者様!」

歓声が上がった。

「よぉし! 小型どもにアヤカ殿の邪魔をさせるな!」

「おまえたち、行くぞ!」

守る。

守るのだ。

あの人たちを。

ダァンッ!

ひと際、力強い硬音。

固有銀馬が後ろ足で地を蹴り――跳んだ。

大型聖体、目がけて。

握りしめた大型のフレイルを大型聖体が振るう。

迫る敵を、打ち墜とさんと。

――ブンッ!――

固有剣が巨大化。

襲い来るフレイルごと、大型聖体を斜めに――

――ズバァンッ!――

一刀、両断。

さらに綾香は馬の身体を蹴って宙へ飛び上がった。

そして――唐竹割りの要領で、聖体の頭上から縦に一閃。

振り抜いたのち、股下まで裂かれた聖体の目から翼が飛び出す。

四つのパーツに分かたれた大型聖体が、盛大な音を上げて倒れ伏す。

ズズゥンッ……!

やがて、大型聖体は煙を上げて溶解を始めた。

数秒の間があったあと、わぁぁああああ、と大歓声が上がる。

「さすがアヤカ殿!」

「そりゃあ当然だ! あの人は、人面種すら余裕で倒せるお人なんだからな!」

「勝てる……あの人がいれば勝てるぞ! どんな敵が来たって勝てるさ!」

「しかも可愛いしな!」

称賛の声がそこかしこで上がる。

綾香はそれらを背に聞きながら、移動を始めた。

若干の後ろめたさと――面映ゆさ。

三森灯河と桐原拓斗の戦いを止めに行って以降……。

あれからここまで立ち直るまでの自分を思い返せば。

あんな風に、褒められるような人間ではない。

(でも――)

その時、思考は中断された。

疾走する中、目的の”それ”と思われるものを目にとめたからだ。

「――見つけた」

聖体が厚く密集している一帯。

守りを固めるように、円を成している。

中心部にはおそらく――聖体に指示を出す”人間”がいるはず。

円の中心の方から声が上がった。

「や、やはりアヤカ・ソゴウかッ! ぐぅぅ……ええい、聖体ども! 妾たちを守れ! 時間を稼ぐのです! 皆の者、撤退です!」

集まってくる聖体を難なく蹴散らす綾香。

貴族風の鎧を着た者たちが半馬聖体に乗っているのが見えた。

おそらく。

聖体に指示を出している、女神についたアライオンの貴族たち。

綾香は馬のスピードを上げ、接近する。

振り向いた最も位の高そうな女貴族が、

「ぎゃぁああああ来たぁあああ! バケモノぉおお――――ッツ!」

「…………」

鈍器化させた浮遊武器をぶつける。

「ぐごっ!?」

周りにいた他の護衛騎士たちにも、浮遊武器をぶつけていく。

半馬聖体はすべて殺した。

人間は全員、落馬して気絶していた――ると思う。

(確か……女神さ――ヴィシスは聖体にエネルギーのようなものを送り込んで強化しているだけ……細かな指示はこの距離だと出せない……だから、女神についた指揮官役の貴族や何やらを送り込んできている――だった、かしら)

この指揮官役を潰していけば、聖体の統率は乱れる。

弱体化できる。

しかし当然、指揮官役は分厚い聖体の壁に守られている。

これを優先的に潰していくのが――自分の役目。

綾香は”ボス”に見えた女を担ぎ、他を銀騎士に担がせた。

そうして一度、後方へ戻る。

「情報を引き出すのに使えるかもしれません。お願いします」

そう言って後方の味方に女らを預け、再び前線へ戻る。

「…………」

浮遊武器と銀騎士を引き連れ、戦場を駆ける。

やっぱり。

人間相手の方が、大変だ。

巨大聖体が見えた。

どうやって用意したのだろうか。

フルプレートの鎧を着ている。

あの鎧のせいか。

味方の攻撃術式や矢が、ほとんど効いていない。

さらに、人の頭部くらいの鉄球を散弾のように投擲している。

浮遊武器を盾に変化させ――可能な限り、味方を守る。

同時に綾香は、手もとの武器をモーニングスターに変形させた。

固有銀馬の速度を、上げる。

そして、鎖の先のトゲのついた球体を振り回す。

ブンッ……ブンッ、ブンッ、ブンッ――

遠心力で、勢いをつけていく。

全身鎧の巨人が綾香に気づき、鉄球を雨のように投擲してきた。

すべて――浮遊武器で弾く。

「!」

全身鎧の巨人が驚いたような反応を示した。

――ヒュッ――

風切り音の直後、モーニングスターの鎖から先が巨大化する。

全身鎧の巨人に近いサイズになった鉄球部分が、破裂的な金属音と共に――

巨大聖体を鎧ごと、爆散させる。

聖体の死を告げる翼と白い雨が降り注ぐ。

綾香はその下を、駆け抜ける。

自分は指揮官役の人間と大型聖体を狙う。

さらに、中型を倒す。

銀騎士は劣勢な味方に加勢。

これが――今、この戦場における自分の役目。

先ほどあとにしてきた後方から、味方の歓声が上がった。

「我々も負けてはいられないぞ! 勇者アヤカに、続けぇええ!」

「おぉぉおおおおおおおお――――ッ!」

…………。

私の力が、誰かの役に立つ。

誰かを救える。

誰かを、元気づけることができる。

あんな風に。

「…………」

まだ、勇者としてこの世界に来たばかりの頃だったと思う。

勇者とは、なんだろう?

そんな疑問を抱いた。

なんだか。

勇者という響きが、嫌だった。

”今では苦手な響きの言葉だ”

”まるで勇気を持つのを、強制されているようで”

”大勢から押しつけられる勇気への期待と欲望”

”勇者”

”今は呪いの言葉にすら思えてならない”

確か……そんな風に、思っていた。

でも。

今は、違う。

カトレアは、

『自分を責める勇気がある。それこそ”勇者”の素質』

こう、言っていたけれど。

いや――自分の本質は多分、そっちなのだと思う。

だけど今は。

せめて、みんなの望む”勇者”でありたい。

ありたいと、思う。

この戦いが、終わるまでは。

□

――勇者とは、なんだろう?――

案外、単純で。

とてもシンプルな答えなのではないか。

そう。

本来の勇者とは――

”誰かに勇気を、与える者”

本日1/25(木)『ハズレ枠の【状態異常スキル】で最強になった俺がすべてを蹂躙するまで』11.5巻&コミック9巻が発売となりました。

11.5巻は完全書き下ろしで、位置づけは外伝色の強い内容となります。

時期的にアニメ化もあって「ここで外伝なんて、引き伸ばしじゃねーか」的な見方も出てきそうな気はしますが……否定しきれない面もあるのは、事実でございます……(汗)。

ただ、書籍版の方を「トーカとセラスの物語」と謳っている以上、このセラスのエピソードはどこかで書くべきではないか……と、以前からそう考えていました。とはいえ本編として差し挟むにはさすがに長すぎるのと、本編の通常のナンバリング巻にそのまま入れるのは個人的に気が進みませんでした。そこで「外伝という形ならやれるかもしれないし、そして、差し挟むならこの局面しかないのではないか」という話が出まして、こうして11.5巻として刊行される運びとなったという次第でございます。そういう意味では、この外伝を書くきっかけと機会を与えていただけたのはありがたかったです。

この外伝では、セラスがハイエルフの国を追放され、その後ネーア聖国で聖騎士団長となり活躍を見せるまでのエピソードを描いています。また、終盤とエピローグでは時間軸が現在に戻っており、ここがあるおかげで11巻と12巻の間の巻である意味を出せたのではないかと思います(序盤~中盤でもたまに現在軸に戻っているので、トーカも一応ちょこちょこ出てきています)。まあ、終盤のアレについては書籍版としてどう処理するか……という感じではございますが、そちらも今後をお楽しみにしていただけましたらと存じます。

大筋としては、セラス・アシュレインの人物像を掘り込みつつ、セラスの父や母、大幻術の中にあるセラスの故郷がどんなところか、どうしてその故郷から追放されたのか、そして、ネーア聖国時代のセラスとカトレア、さらには聖騎士団員たちとの関係性などが描かれています(懐かしの聖王オルトラやモンク・ドロゲッティも出てきます)。セラス以外の聖騎士団員たちについても「へー、こんな人たちだったんだ」といった感じで楽しんでいただけたら幸いでございます。

イラストは、恒例の表紙以外も今回はまさにほぼ「セラスづくし(幼少時含む)」といった感じで、KWKM様が描き下ろしてくださいました。セラスの他には、セラスがいなくなったあとの聖騎士団長(元副団長)のマキア・ルノーフィアも今巻でイラスト化されております。また、彼女の詠唱呪文も作中で披露されています。他にはカトレアの水着姿など……あと、実は(ちょろっとだけですが)セラスの母親も映っているシーンがあったりします。

また、コミック版9巻の方は第四章にあたる部分のラストまでが収録されております。四章終盤は、セラスのトーカに対する気持ちが一歩進んだところでもございますね。コミック版は次巻から五章に突入していくので、こちらも今から楽しみです。

……といった具合に、恒例の長々とした告知(宣伝)でございました。

次話は、トーカ視点となります。