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ピギ丸

ハズレ枠の【状態異常スキル】で最強になった俺がすべてを蹂躙するまで — ncode.syosetu.com · All chapters

ピギ丸

この話だけでもまったく問題ないようになってはいますが、この話に出てくる”ひとりぼっち”については、コミックス2巻の巻末に収録されているSSをお読みいただけるとより意味がわかるかもしれません。

女神討伐軍は、王都エノーを目指す。

俺は、馬車の中で仰向けになって休んでいた。

セラスから休むよう言われたからだった。

『疲労などまるで溜まっていないように振る舞っていますが、お疲れのようです。どうかしばらく、お休みください』

溜まった疲労。

今回は、セラスに言われて気づいた。

決戦に向けてあらゆる策を思考の籠へと放り込み、

時にはその策を崩し、組み立て直し……

時に指示を求められ、意見を述べ――駆けずり回った。

セラスは苦笑し、こうも言った。

『あなたは……演技が上手すぎますから。他のかたが気づかなくとも無理はないのかもしれません。同じ場所に常にいるわけでもありませんからね。ちゃんと万全の休みを取っていると……そう思われているのでしょう。ですが……私は常にお傍にいなくとも、わかります。いいえ――』

彼女は儚げな――しかし、温かな微笑みを湛えて微笑んだ。

『お傍にいたからこそ、わかるのだと思います』

最後にセラスは、こう言った。

『もしかしたら他のかたも気づいていて、あえて言っていないのかもしれません。ですが……私は言わせていただきます。わがままを言ってしまうなら、私だからこそ言わせていただきたいと思います。どうか――しばらくお休みください、トーカ殿』

「…………」

こうして休んでいると、想像以上に疲れていたのがわかる。

セラスは。

俺以上に、俺のことを見ているのかもしれない。

いや――

「見てくれている、か」

蠅王のマスクと物々しい外套は、今は外してある。

腕を枕にし、俺は馬車の幌の裏側を眺めた。

「 あいつ ( セラス ) がいなかったら、俺はどうなってたんだろうな」

顔を横へ向ける。

同じことは、

「いなかったらどうなってたかと言えば――おまえもだな」

こいつにも、言える。

「ピニュー?」

ピギ丸。

この世界で最初にできた相棒。

再び腕に後頭部をのせ、幌の裏側を見つめる。

「ピギ丸」

「ピ」

「何度も言ってることだが、おまえが相棒でよかったよ」

「ピニ♪」

「……なあ、覚えてるか?」

「ピ?」

「初めて俺たちが出会った時のこと……仲間に、なった時のこと……」

「ピッ♪」

「あの時、おまえがついて来てくれてなかったら……この旅は、どうなってたんだろうな」

この復讐の旅を振り返ると。

あの局面――あの状況。

ピギ丸がいなかったら。

俺は、どうやって乗り切っていたのだろう?

そう思える場面が、どれほど多いことか。

一匹の小さなスライム。

廃棄遺跡を出て、初めて出来た相棒。

「おまえはずっと俺のために力を貸してくれた。献身的すぎるほどに」

「ピギッ」

「……たまに考えるんだよ。俺はおまえに何を返せるんだろう、ってな……」

「ピギ!」

ピギ丸が赤くなり、否定の鳴き方をした。

”返してもらうものなんて、なんにもないよ!”

なんとなくだが。

意思は、伝わる。

「……つってもな。最初に助けてやったアレがあったとはいえ……どうしておまえはここまで、俺に――」

「ピニ!」

ピギ丸がひと鳴きし、ぷよぷよと近づいてきた。

頬の隣で止まる。

そして――身を寄せるようにして、ピトッ、と俺の頬にくっついてきた。

「ピギ丸……?」

「……ピ、ニー」

――……仲間、だからだよ――

「――――――――」

今……

「ピニィ……ピニュィー……ピニー……ピギギー……ピギー……ピニュニュー……」

――ずっとひとりぼっちだったけど、初めて、仲間ができたんだ……――

――助けてくれたから……助けたい……仲間、だから…――

――大切な仲間を助けるのは……当然の、ことだから……――

――本当に、嬉しかったんだ……素敵な仲間ができて……――

――こんなちっぽけなスライムを……相棒って、言ってくれて……――

「ピーニィ……ピーユ……ピユユー……ピィー……、……」

――ハラハラすることも、あったけど……――

――いつもみんなと一緒だったから、ぜんぜん怖くなかった……――

――楽しいことも、それ以上にたくさんあった……一緒に、旅をしてて……――”

――幸せだったよ……だからね……――

――…………――

「ピユー……………、――ピギィー」

――大好きだよ……――

――――トーカ――――

――…………――

「――――――――」

気のせいだとは、思うが。

ピギ丸の声が聞こえた、ような。

そんな、気がした。

いや――そもそも。

なんとなく、俺は魔物の意思がわかるようになっている。

おそらくは廃棄遺跡の金眼の魔物と極限状態で” 対話 ( 殺し合い ) ”をしたおかげで。

だから魔物の意思を汲み取れるのにも一応、理由づけはできる。

あるいは【賢さ】が奇妙な化学反応を起こしたのかもしれない。

意思を理解できているかどうかはピギ丸に確認を取っている。

肯定と否定の回答によって。

ゆえに――俺がピギ丸の意思を理解できるのは”できる”ことだ。

そう、今までも”できたこと”なのである。

しかし……今の鳴き声は。

いやにはっきり、聞こえた気がした。

幻聴と断ずるには……あまりにも――

…………いや。

そんなことは、どうでもいいか……。

目を閉じ、微笑む。

「そうか」

そう俺は短く言って、

「俺もだ、ピギ丸」

そっと、ピギ丸を撫でた。

「ピー……ピギィー……」

「おまえは――」

俺の、

「最高の、相棒だ」

「ピギー……ピユー……」

俺が眠るまでピギ丸は、まどろむように――とても静かに、寄り添ってくれていた。