LNCrawler

戦いのあと

ハズレ枠の【状態異常スキル】で最強になった俺がすべてを蹂躙するまで — ncode.syosetu.com · All chapters

戦いのあと

今年も、もうしばらくよろしくお願いいたします。

水を差す気にはなれないとでも言いたげに――

周囲のヤツらは、話しかけてこない。

話しかけるタイミングを推し量っているようだ。

が、今は遠目に見ているだけ。

……つーかなんだ樹、その顔は。

樹の隣の鹿島は小恥ずかしそうにしている。

そんな中、最初に声をかけてきたのは――

「そなたの長い旅もこれで終わったのだな、トーカ」

蠅王ノ戦団。

セラスの次に古株の豹人、イヴ・スピード。

「そなたならばきっとやり遂げる――魔防の白城の戦いから戻った頃には、すでにそんな確信に近い予感があった。しかしこうしていざその時が来ると、まだふわふわとした現実感のなさが抜けぬ」

「直前に見たあのクソ女神の浄化回廊送りも、現実味はなかったろうしな」

あの光景。

この穏やかな雰囲気の広場で、ついさっきまで繰り広げられていたとは。

信じられない――そう感じても、不思議ではない。

「ヴィシスの末路……壮絶な、最期であったな」

噛み締めるようにイヴが言う。

「浄化回廊という処罰の中身を聞いた限り、あやつがこれまでやってきた悪行に値する罰なのかもしれぬ。ただ……悲劇や惨劇の中で死んでいった者たちの苦しみがそれで消えるわけではないし、彼らが戻ってくることもない。それでも――」

イヴは澄み広がる空の彼方を眺め、

「ヴィシスがこれ以上の悲劇や惨劇を生み出さなくなった事実は、素直に喜んでよい――我は、そう思う」

言って、イヴはしばらく黙り込んだ。

どんな思いを馳せているのか。

それは、俺にもわからない。

ただわかるのは、

「おまえはずっと、未来を見てるよな」

イヴ・スピードは、ずっと未来を見ていた気がする。

特に、ウルザを出て金棲魔群帯に入って以降は。

両親や亡きスピード族への想いはそのままに。

復讐へ駆られることは、ついぞなかった。

復讐とは過去に縛られる行為。

過去を引きずり負の情念を保持し、育てていく行為だ。

一般的には、健全とはいえまい。

…………ま、俺は復讐してスッキリできたがな。

反面――イヴみたいなヤツがいると、ホッとする自分もいて。

「ふふ、これでエリカもようやく肩の荷がおりたであろう。すべて終わったのだと早く伝えてやらねばな。そして、我もリズも……本当の意味で、願った暮らしを手に入れられるのかもしれん」

イヴが俺に微笑みかけ、

「そなたのおかげだ――改めて礼を言わせてもらうぞ、我が主よ」

「再三言うが、そいつはこっちの台詞でもあるんだぜ。おまえだけじゃない……ヴィシスとの決戦とそれに至る過程を振り返ってみれば、俺一人じゃどうにもならなかった――それは、何度も言ってる通りだ」

……それと。

あっちは、どうなったのか。

ヨナト公国の王都――聖眼の防衛。

天界へ送り込まれる予定だった地下の聖体。

それらは本来の役目を果たせず消滅した。

ならば聖眼を潰しに行った聖体軍も消滅したはずだが――

「セラス、肩を貸してくれるか」

「承知しました。どうぞ、お掴まりください」

「悪いな……ん?」

「――セラス」

セラスに支えられて立ち上がった時、近寄ってきた者がいた。

声をかけてきたのは、

「姫さま」

カトレア・シュトラミウス。

彼女の背後にはネーアの聖騎士たちが控えている。

以前、魔防の白城戦のあと言葉を交わしたマキアもいる。

こほん、とカトレアが優雅に咳払いした。

「やりましたわね……そして、衆目の前でイチャイチャを思いっきり見せつけてくれましたわね」

「えっ!? いえ、姫さま! それは――」

俺は自然に、セラスから自分の身体を離す。

すると、

「あ……」

カトレアが前へ出て、セラスを抱き締めた。

昔からずっと大切にしてきた宝物を、抱き締めるみたいに。

「わたくしからも言わせてちょうだい。よく、がんばったわね――そして、お疲れさま」

「……姫さま」

抱きつかれた瞬間はまだカトレアの言葉に戸惑っていたが。

セラスの表情は変化し、深い愛情と尊敬に満たされていく。

自分の肩に顔をうずめるカトレアを優しく見おろし、抱擁を返す。

そして陽だまりのような微笑を浮かべ、セラスは睫毛を伏せた。

「はい、姫さまも……本当に、お疲れさまでございました……」

抱き締めるカトレアの腕には強い力――想いが込められていた。

そうしてカトレア・シュトラミウスは、その名を呼んだ。

心からの――親しき友の名を。

「セラスぅぅ……」

表情は確認できない。

が、これまで抱えていた様々な思いが溢れてきたのか。

涙ぐんだ、か細い声だった。

この時、あのネーアの女王が初めて年相応に見えた気もした。

正確な年齢は知らない。

が、国の代表の中では多分最も若い。

カトレアより若い可能性があるのは、まあツィーネくらいか。

今やネーアの女王となった彼女。

その小さな肩にどれほどの重荷を背負ってきたのか。

王女だった時代から、どれほどの重責に耐えてきたのか。

……ツィーネもだが。

どっちも年齢の割に、しっかりしすぎなんだよな。

ま、それが王族ってもんなのかもしれないが……。

セラスは抱擁を深くし、包み込むようにカトレアを引き寄せる。

そして、さながら聖母めいた顔で、かつての主の背を柔和に撫でた。

「あなたと心置きなく、また穏やかな時を過ごせたらと……セラス・アシュレインは、そう思っておりますよ。あの時……バクオスがネーアに侵攻してきた時、あの場から逃げるようあなたが強く私に命じていなければ……ここには辿り着けておらず、トーカ殿にも出会えていなかったと思います。あなたのおかげです―――― カ ( ・ ) ト ( ・ ) レ ( ・ ) ア ( ・ ) さ ( ・ ) ま ( ・ ) 」

「――――ッ……いいえ、この結果は貴方の……がんばりの、結果ですわ……っ」

「だとしても……故郷から追放された私をあなたが受け入れてくださらなかったら……この今は、なかったのです。この未来は、なかったのです」

「……ふふ。で、あれば……」

カトレアは抱擁を解くと、人差し指で涙を拭い、微笑んだ。

そして冗談っぽく、

「理由となった感情や妄執は決して褒められたものではありませんでしたが……セラスをあの女神に意地でも差し出さなかったお父様も、それなりの功労者なのかもしれませんわね……」

セラスは軽く首を傾け……ぎこちなく苦笑する。

「あ、あはは……」

……今。

どんな反応を返すべきか一瞬迷ったな、セラス。

「くすくす、わたくしに気を遣わなくてもいいんですのよ? まあ……お父様があのままかつての”聖王”に戻る未来をどこかで期待してしまった甘さが、わたくしの中にあったのは事実ですわね……ただ、お父様がセラス・アシュレインという”香”に勝手にあてられ、最終的には理性の座を己の欲望に明け渡してしまった色ボケじじいだったのも、紛うことなき事実ですわ」

「そ、そこまで悪しざまに言わずとも……」

くすり、とカトレアは優雅に笑う。

今の彼女はもう女王の顔に戻っていた。

「では、手向けの花くらいは……いずれ二人で、捧げにいきましょうか」

セラスは微笑みを返し、

「はい……そうしましょう、姫さま」

するとカトレアは俺を見て、駆け寄ってきた。

「貴方にも、お礼を」

駆け寄った勢いのまま――カトレアは、俺に抱きついてきた。

俺は鼻を鳴らし、

「この大陸の各国の調整役……ヴィシスの後釜は、しばらくあんたでいいんじゃないか?」

あるいは女神討伐軍のまとめ役を積極的に買って出たのも。

戦後をすでに見据え、イニシアティブを取る算段でもあったか。

この女王様なら、そのくらい考えていそうではある。

「ふふ、貴方には敵いませんわ」

「どっちの意味で?」

「……というか、貴方。こんなにも美しく若々しい一国の女王に抱きつかれているのに、平然としすぎですわね?」

俺は肩を竦める。

「悪いが、セラス・アシュレイン一筋なんでな」

「ト、トーカ殿……っ」

もじもじするセラス。

カトレアは苦笑し、

「やれやれ、お 熱 ( アツ ) すぎてやけどしそうですわ。まったく……あの子にとって貴方はまさしく、これ以上ないというお相手ですわね。ふふ、トーカ・ミモリ――」

ぎゅぅ、と。

俺を抱く腕の力が強まった。

そして、

「 あの子 ( セラス ) を見つけてくれて、ありがとう」

「……それまであんたが、セラスを守ってくれてたおかげだ」

カトレアは抱擁を解くと上品に姿勢を正し、俺と向き合った。

「二人の婚儀は是非とも、ネーアで仕切らせてほしいものですわね」

セラスが飛び上がった。

「こ、婚っ――姫さまっ!?」

「あら、催しませんの?」

「ぇ、それは……」

口の形をあわあわさせて俺を見るセラス。

審判を仰ぐ目だった。

「ま……そのへんの話は、追い追いな」

「――だ、そうですッ!」

ばっ、とセラスは顔の向きカトレアの方へ勢いよく戻す。

激しい困惑とドキドキがないまぜになった(微妙に面白い)形相だった。

……冷静になると。

クラスの連中が見てる前で何をやってんだろうな、俺は。

「ヴィシスとの決着がついたからか、セラスのこういうところが自然と出るようになったのはよかったですわ」

おほほほ、と品よく口に手を当てて笑うカトレア。

彼女なりにセラスの気を緩めてやったつもりなのだろう。

親友でもあり……同時に姉妹みたいな関係だな、と思う。

「さて、トーカ・ミモリ殿はひどくお疲れのご様子。もしこのあとお休みになるのなら、指示をくだされば――貴方の代理として、やれる範囲のことはわたくしがやっておきますけれど……いかがですか?」

さすがはカトレア・シュトラミウス。

この流れだと何人も似た感じの会話を続けることになるだろう。

それ自体はかまわないが――さすがに疲労困憊だ。

普通に、眠い。

察したカトレアは俺を休ませた方がいいと思った。

だから、真っ先に声をかけてきたのかもしれない。

「他のヤツらにはあとで個別に礼を言うが、そうだな……万が一俺が何日か目覚めなかった時のことを考えて、俺の代理と……いくつか、後始末の舵取りを頼んでもいいか?」

「お任せあれ、ですわ」

「誰かに相談したくなったら、ツィーネを頼るといい。あいつは賢いからな。あと、最果ての国関係ならリィゼロッテ……ヴィシス周りや神族関係のことはテーゼやロキエラに聞けばいいとして――クラス連中のことは樹……いや、十河の代わりにまとめ役をやってるらしい周防カヤ子の方がいいか。俺関係のことは、もし意識が戻ったら聖に相談するといい」

俺はセラスに支えられ、広場を離れることにした。

城内で休めそうな部屋があるかを――

……あぁ、城内に詳しいニャンタンが今はいないのか。

が、そこはカトレアがすでにポラリー公爵から聞き出していた。

ポラリー公爵。

そうか……魔防の白城戦の時にもいた、アライオンの貴族か。

広場を離れる時、見送る列の中にいるムニンと目が合った。

ムニンは――おそらく――声を出さずにこう言った。

”お疲れさまでした”

そして、

” ありがとう ”

と。

言って、ムニンは俺に向かって深々と一礼した。

ムニンが”ありがとう”と言った時の表情。

あんなにも――晴れやかで。

清々しくて。

安堵に細められたその目は、熱っぽい達成感で潤んでいた。

ようやく彼女は”呪い”から解放されたのだと――

強くそれが伝わる、そして、初めて見る表情だった。

ムニンにまだ見たことのないあんな表情があったんだな、と。

俺もつい、ちょっと目を丸くしてしまった。

……ま、そりゃそうか。

禁字族――クロサガ。

彼らの旅は。

俺なんかよりずっと……ずっと、長い旅だったのから。

上半身を起こしたムニンに俺は微笑みかけ、一つ頷いて応える。

ムニンは――細い首を可愛らしく傾け、微笑みを返してくる。

可憐な少女がするような、そんな仕草。

族長という立場が彼女にずっと”大人”を強いていただけで。

元々は、よくああいう表情や仕草をする”女の子”だったのかもしれない。

俺は前方に向き直り、

「にしても……なんていうか、葬列みたいだな」

そんな感想を述べた。

セラスが苦笑いし、

「縁起でもないことをおっしゃらないでください……」

「けどこれなら……少なくとも、憎まれて死んだヤツの葬列には見えない」

自分みたいな人間には過ぎた”見送り”な気もする。

俺はツィーネにも目配せした。

ツィーネも、表情で俺を労ってくれていた。

俺からも表情と頷きで労いと感謝を短く伝える。

この一連の戦いはミラ帝国の――ツィーネの協力も大きかった。

ヴィシスとの戦いが終わったら皇帝の座は退くと言ってたが……。

そうなった今、言葉通り皇帝の座から降りるつもりなのだろうか?

あと……

「…………」

リィゼ。

おまえはさすがに、顔と態度に出過ぎだ。

……わかったから。

休んだらちゃんと、二人で話す時間と場は設けるから。

いや……好いてくれてるらしいのは、素直に嬉しいんだがな。

変なものだ、と思う。

出会った頃は、あいつの調子を俺が狂わせてた気がするのに。

最近は俺の方が微妙に、調子を狂わされてきてる気もする。

つと、樹と鹿島が視界に入る。

鹿島小鳩。

……あいつは今、ただの臆病で気の弱い女の子じゃない。

この世界に召喚されたのがきっかけで変わった部分もあるだろう。

十河綾香や高雄姉妹……中でも、戦場浅葱の影響が大きい気はする。

が、元々……あいつは変に芯の通ったところがあったのではないか?

あの猫の時だって、そうだ。

多くの者は関わろうとすらしまい。

見て見ぬ振りをし、通り過ぎる者が大半だろう。

かわいそうだなと、そう思いながらも。

思うだけで――大抵は行動にまで至らない。

あんな風に見捨てられない時点で、鹿島小鳩は強い。

葛藤を乗り越え、一度覚悟さえ決まれば強いタイプなのだろう。

なぜなら。

臆病なだけの女の子は普通、自ら志願したりしない。

神創迷宮の突入メンバーに。

しかも聞けば突入には、それをするための合理性まで用いている。

最初から志願したら十河綾香が反対するだろう、と。

だから十河が転送されたあとで志願したそうだ。

ただ、リスクは大きかった。

転送は一人ずつ。

もし転送先に神徒や聖体がいたら死んでいたかもしれない。

浅葱がいたのだ。

あいつらの関係性から察するに、指摘しなかったわけがない。

鹿島小鳩はそれでも、突入メンバーに志願した。

これを、肝が据わっていると言わずしてなんと言うのか。

そして――そんな鹿島小鳩に、この戦いでは救われる形になった。

感謝を込め、鹿島に微笑みかける。

鹿島はちょっと照れた反応をしたあと、笑顔で手を振ってきた。

……ああしてると、普通の引っ込み思案な女の子って感じなんだがな。

俺とセラスは広場から屋内に入り、廊下を進む。

カトレアは広場に残った。

広場から離れる前にいくつか指示を簡潔に出してきたが……。

まあ、カトレアなら上手くやってくれるだろう。

「――ここか」

ポラリー公爵が勧めた部屋は落ち着いた雰囲気の部屋だった。

それなりに地位のある客人用の部屋だという。

が、用途が長期滞在のため休むのには適しているとのこと。

確かに豪奢というよりは、戻ってきて気持ちが休まるって感じだ。

セラスから離れ、ベッドへ仰向けに倒れ込む。

天井を、ぼんやり眺める。

……静かだ。

この部屋の外であんな戦いがあったなんて、嘘みたいだ。

そのくらいこの部屋は”関係なかった”雰囲気がある。

あと……ベッドってのは、こんなにも心地良いものだっただろうか。

これは多分、腹が減ってる時に食う飯が一番美味い理論に近い。

視線を移す。

セラスは、所在なさそうに待機していた。

微苦笑する。

ヴィシスと戦っていた時はあんなにも自分を隠せていたのに。

――今はこんなにも、わかりやすい。

「セラス」

「あ――は、はい」

「寝るか」

「――あの」

「一緒に」

「…………よろしいのでしょうか?」

「もう合格点かと思ったが……俺にバレたくないなら、感情を隠すのをもっと学ぶべきだな」

セラスが面を伏せる。

ややあって、彼女はかすかに唇を尖らせると、上目遣いに俺を見た。

「――”顔に出すぎだ”でしょうか」

俺は目を閉じて微笑み、

「出すぎだ」

セラスはなぜか「……すみません」と謝罪したあと、

失礼します、とベッドに膝をのせた。

息でも潜めるみたいに、ベッドがこっそり軋む。

「悪いが、それなりの時間まともな湯浴みはしてないぞ」

くすり、と緩く握ったこぶしを口もとに添えて笑うセラス。

「長い旅で野営を何度も共に過ごした私たちですが……何か、問題でも?」

俺は返す言葉を失い「む」と唸る

「……なかなか、言うようになったな」

「ふふ……お褒めの言葉と、受け取っておきます」

言って、セラスは横になった。

視線を右横へやる。

セラスは身体ごとこちらを向いている。

自分の両こぶしを枕みたいにしていた。

俺は右手を軽く上げ、

「代価の関係で、眠るにはまだ【スリープ】が必要だろう」

セラスは目を細め、幸せを噛みしめるみたいに微笑みを湛える。

そして、囁くように言った。

「眠くなるまで――あなたの寝顔を眺めていては、だめでしょうか?」

俺は視線を天井に戻し、微笑みを口もとに溜めたまま息をつく。

「……好きにしろ」

嬉しそうなセラスの声が、すぐ横からした。

「ふふ……ありがとうございます」

▽

約五日、眠っていたらしい。

こんなに長く眠ったのは生まれて初めてかもしれない。

病院のような設備もなくこんなに眠れるものなのか――

いや、それもステータス補正のおかげなのかもしれない。

また、眠っている間の諸々の世話はセラスがしてくれたらしい。

意識が戻った時に身体が清潔気味だったのも、そういうことだろう。

俺はベッドの上で水を飲み、胃腸の状態を考えてスープと粥を食べた。

そして、この五日間の報告を受けた。

いくつかのことがあり、いくつかのことが進められていた。

まず、高雄聖が意識を取り戻した。

三日前には取り戻したそうだ。

俺の代わりにあれやこれやの相談役をしてくれているとか。

加え、まだ意識の戻っていない十河の世話もしているようである。

あとは――ヨナトのアッジズから届いた、軍魔鳩。

軍魔鳩は丸めた手紙を運んできた。

俺も、その手紙を読んだ。

中には聖眼防衛が成功した旨と、その戦いの影響が書いてあった。

俺は手紙を読み進める中で――俯き、額に指の背をあてる。

しばらく、手紙を読むのが中断された。

沈黙が流れる。

セラスから控えめに声をかけられ、俺は、ようやく手紙を読み進める。

書き添えられている日付と時間。

聖眼防衛戦は、ヴィシスとの決戦前には終わっていた。

マグナルの白狼王らが現在こちらに向かっているとのこと。

魔導馬という移動時間を短くできる特殊な馬を使っているという。

彼らはもう何日も前にアッジズを経っている。

ちなみに魔導馬の数は限られているそうだ。

なので、その白狼王たちだけが先んじてここへ来るらしい。

また――軍魔鳩はその名に”特級”という冠がつけられたものだった。

特級軍魔鳩が運べるものは手紙だけではない。

こちら陣営がかつてそうしたように、向こうもスマートフォンを運ばせてきた。

トモヒロ・ヤスから頼まれたものだ、とのことだった。