LNCrawler

四十三話

Is レイヴンズ・レゾナンス — www.pixiv.net · All chapters

四十三話

シャルロットとの買い物から二日後の午後、一夏はIS学園の訓練場でラウラと模擬戦を繰り広げていた。訓練場の上空、一夏の白鴉・熾天とラウラのシュヴァルツェア・レーゲンが激しくぶつかり合う。金属の衝突音が、ドーム状の空間に響き渡っていた。

「遅いぞ、一夏!」

ラウラの鋭い声が通信越しに届く。シュヴァルツェア・レーゲンが繰り出す斬撃を、一夏は紙一重でかわした。だが、それだけでは終わらない。ラウラの攻撃は連続する。一撃、また一撃。容赦のない斬撃の嵐。

(きついな……!)

一夏は歯を食いしばった。ラウラの攻撃は、以前よりさらに鋭さを増している。だが——

(右だ)

頭の中に、声が響く。一夏はその声に従い、体を右へと流した。ラウラの斬撃が、左肩のギリギリをかすめる。

「なっ……!」

ラウラが小さく驚きの声を上げた。一夏はその隙を見逃さなかった。リニアライフルを構え、至近距離からショートバレルモードで連射する。ラウラは即座にAICで防いだが、その体勢は崩れていた。

「そこまで!」

訓練場に、教官の声が響いた。二人は同時に機体を停止させる。ラウラが、少しだけ悔しそうな顔をした。

「……やるじゃないか、一夏」

「ラウラこそ。前より強くなってる」

「ふん。当然だ」

ラウラはそう言って髪をかき上げた。その表情には、しかし満足げな色も混じっている。二人は機体を着陸させ、訓練場の端にあるベンチへと向かった。タオルで汗を拭いながら、水分補給をする。

「今日の訓練、どうだった?」

「悪くない。お前の動き、前より洗練されてきた。特に私の攻撃をかわす時の判断速度。あれは何だ? 勘か?」

「うーん、勘っていうか……なんていうか、頭に声が響くんだよ。『右』とか『そこだ』とか」

一夏は正直にそう答えた。ラウラは、少しだけ眉をひそめた。

「声?」

「ああ。白鴉・熾天に乗ってると、聞こえるんだ」

「……聞いてはいたが、不思議な話だ」

ラウラは、考え込むように顎に手を当てた。そして、ふと思い出したように顔を上げた。

「そういえば、聞いたぞ。お前の機体に新しい兵装が追加されたと」

「ああ、UNACのことか」

「ユーナック?」

「UNAC。無人兵器だよ。白鴉・熾天をサポートする」

一夏は、そう説明しながら端末を取り出した。ラウラは興味深そうに身を乗り出した。

「見せてくれ」

「いいぞ。じゃあ、展開するな」

一夏は頷くと白鴉・熾天の拡張領域から四つのユニットを射出した。空中で展開する四機のUNAC。それぞれが異なるシルエットを持ち、ホバーしながら一夏の周囲に配置される。

「これが、U1、U2、U3、U4。それぞれ役割が違うんだ」

一夏がそう説明するそばからラウラはじっと四機を観察していた。その目は、戦士のそれだった。

「U1が近接型。サブマシンガンにレーザーランス、四連装ミサイルポットにパルスシールド。U2が中距離型で、ガトリングガンと十二連装垂直ミサイル。U3が遠距離型で、スナイパーライフルとスタンニードルランチャー。U4が特殊兵装型で、包囲型ハンドミサイルにプラズマ機雷投射器、レーザードローンにレーザータレット」

「ほう……」

ラウラは、四機の武装を一つ一つ確認するように見つめた。そして、ゆっくりと口を開いた。

「この編成……集団戦を想定しているな」

「ああ。一対一より、複数対複数。あるいは一対多の戦闘を想定してる」

「なるほど。近接・中距離・遠距離・特殊。それぞれが異なる間合いをカバーし、連携することで穴を埋める。そういう設計か」

「さすがだな、ラウラ。よく分かるな」

「当然だ。私も戦術を学んでいる」

ラウラは、ふと口元に笑みを浮かべた。それは、戦士としての獰猛な笑みだった。

「一夏」

「ん?」

「戦ってみてもいいか?」

一夏は、その言葉に少しだけ驚いた。だが、すぐに笑みを返した。

「いいぞ。じゃあ、本気で来いよ」

「言われるまでもない」

ラウラは、そう言ってISを展開した。シュヴァルツェア・レーゲンが、再びその姿を現す。一夏も白鴉・熾天を展開し、訓練場の中央へと向かった。位置に着くと、一夏は四機のUNACに声をかけた。

「U1、U2、U3、U4。模擬戦開始」

その瞬間、四機のUNACが一斉に起動した。機械的な、しかしどこか凛とした声が響く。

「戦闘システム起動。オペレーティングを開始します」

四機が、それぞれの位置からラウラへと向かっていく。U1が先行し、U2がそれを追う。U3は後方から射線を確保し、U4は上空へと回り込んだ。

「来るか!」

ラウラが、シュヴァルツェア・レーゲンを構えた。U1がサブマシンガンを乱射しながら接近する。ラウラはそれをAICで防ぎつつ、レーザーランスの突きをかわす。

「速いな。だが……!」

ラウラは、U1の動きを見切りカウンターの斬撃を叩き込もうとした。だがその瞬間、U2のガトリングガンが横合いから火を噴いた。ラウラは即座に進路を変え、その弾幕を回避する。

「連携している……!」

U3が遠距離からアサルトライフルを撃ち込む。U4が上空からプラズマ機雷をばら撒く。ラウラは、そのすべてを紙一重でかわしながら、しかし確実に包囲されつつあることを感じていた。

(個々の強さは一般のパイロット以上。だが、代表候補生以下。しかし……)

ラウラは、U1のレーザーランスをかわしながら、分析を続ける。

(この連携が厄介だ。一機を相手にしていると、別の機体が穴を埋める。まるで、一つの生き物のように動いている)

U2のガトリングガンが再び火を噴いた。ラウラはそれを回避しつつ、U1へと斬りかかる。U1はパルスシールドで防御し、その間にU3が射線を確保する。完璧な連携だった。

「くっ……!」

ラウラは、思わず声を漏らした。だがその目はまだ輝いている。この包囲を、どう突破するか。戦士としての本能が、歓喜している。

激戦は、長く続いた。ラウラは四機のUNACを相手に、一歩も引かずに戦い続けた。U1のレーザーランスをかわし、U2のガトリングをAICで受け止め、U3のスナイパーライフルを読み切って回避し、U4のプラズマ機雷を薙ぎ払う。その動きは、まさに百戦錬磨の戦士のそれだった。だがUNACも負けてはいない。四機が連携し、絶え間なくラウラを追い詰めていく。

「しつこい……!」

ラウラが歯を食いしばった。U1が正面から斬りかかり、U2が横合いから弾幕を張る。その隙にU3が狙撃位置につき、U4が上空から機雷を撒く。完璧な包囲網。だが——

「この程度で……!」

ラウラの目が鋭く光った。彼女はまずU1の斬撃をAICで強引に止め、そのまま踏み込んで胴を払う。U1がバランスを崩したその瞬間、U2のガトリングが火を噴いた。ラウラはU1を盾にするようにしてその弾幕を防ぎ、崩れたU1を蹴り飛ばしてU2へと肉薄する。

「もらった!」

U2の機体を斬り上げ機能停止に追い込む。だがその瞬間、U3の狙撃がラウラの肩をかすめた。

「ちっ……!」

ラウラは体勢を立て直しU3へと向き直る。遠距離型のU3は距離を取ろうとするが、ラウラはそれを許さない。一気に間合いを詰め、その機体を両断した。残るはU4。上空から機雷を撒き散らしていたU4だが、仲間がやられたことで動きが変わった。レーザードローンを展開し、ラウラへと集中砲火を浴びせる。

「空中か。ならば……!」

ラウラはシュヴァルツェア・レーゲンのスラスターを全開にした。一気に高度を上げ、U4へと迫る。U4が機雷を撒くが、ラウラはそれを避けながらさらに加速した。そして——

「終わりだ!」

振り下ろされた一撃がU4の機体を捉えた。四機のUNACが、静かに地面へと落下していく。訓練場に、静寂が訪れた。ラウラは着地し、荒い息をついていた。

「はぁ……はぁ……」

その額には汗が滲み、肩が上下している。だがその目は、満足げに輝いていた。一夏は、そんなラウラを見てゆっくりと近づいた。

「すごいなラウラ。全部倒しちまった」

「ふん。当然だ」

ラウラは、そう言って髪をかき上げた。その表情には、しかし疲労の色も濃い。

「どうだった? UNACの感想は」

「そうだな……」

ラウラは、地面に転がる四機のUNACを見つめた。その目は、戦士としての分析の色を帯びている。

「個々の戦闘力は、低い。一般のパイロット以上ではあるが、代表候補生には届かない。一対一なら、私の敵ではない」

「だろうな」

「だが……」

ラウラは、そこで言葉を切った。そして少しだけ悔しそうな顔をした。

「集団戦だと、厄介だ。あの連携は、一機一機が穴を埋め合っている。一機を相手にしていると、別の機体が背後を取る。まるで、一つの生き物のように動いていた」

一夏は、その言葉に頷いた。

「俺もそう思う。UNACの強みは、個じゃなくて連携だから」

「ああ。あの連携を崩さない限り、数で押される。実際私はかなり追い詰められた」

ラウラは、そう言って小さく笑った。その笑みは、敗北を認めるものではなくむしろ好敵手を得た喜びのようなものだった。

「一夏。お前の機体、面白いな」

「そうか?」

「ああ。このUNAC、使いようによってはかなり強力な戦力になる。特に、集団戦ではな」

「そう言ってもらえると嬉しいよ」

一夏は、そう言って笑った。ラウラはそんな一夏を見て、ふと真剣な表情になった。

「だが、注意しろ。UNACはあくまで無人兵器だ。判断は、お前が下す。UNACの連携に頼りすぎれば、お前自身の判断が鈍る」

「分かってる。UNACはあくまでサポート。最後に判断するのは、俺だ」

「ならいい」

ラウラは、そう言って頷いた。そしてタオルで汗を拭いながら、訓練場の端へと歩き出した。

「休憩にしよう。少し、疲れた」

「そうだな。俺も少し休むよ」

二人は並んでベンチへと向かった。訓練場の空には、まだ昼の光が満ちている。

ベンチに並んで座り一夏はスポーツドリンクを一口含んだ。ラウラも隣で、同じように水分を補給している。しばらくの間、二人は無言で訓練場の空を眺めていた。風が、汗ばんだ肌を心地よく撫でていく。

「なあ、一夏」

ラウラが、ふと口を開いた。

「そのUNAC、お前の機体を調べていた研究員たちは、当然調べたんだろうな?」

「ああ。もちろん。あれだけの装備だからな。データ取りもしたし、構造解析もされたよ」

「ふむ。で、研究員の反応は?」

一夏は、その質問に少しだけ苦笑いを浮かべた。あの時の光景が、ありありと頭に浮かぶ。

「それがさ……」

一夏は、スポーツドリンクのボトルを膝の上に置いた。

「まず、UNACの存在自体にみんな首をかしげてた。『ISに無人兵器を随伴させる?』って。で、実際に動かしてみせたらみんな黙り込んじゃって」

「ふむ」

「しばらくして、一人の研究員がさ。『この発想は無かったなぁ』って、遠い目をして呟いたんだよ」

ラウラは、その言葉に少しだけ目を細めた。

「遠い目、か」

「ああ。なんか、こう……悔しさと感心が混ざったような、複雑な顔でさ。『ISは操縦者が操るもの』っていう固定観念があったんだろうな。そこに無人兵器を随伴させるっていう発想がなかったんだろう」

一夏は、そう言って少しだけ笑った。あの時の研究員の表情は、今思い出してもちょっとおかしい。

「で、他の研究員も次々に『確かにこれは無かった』『なんで今まで誰も思いつかなかったんだ』って言い出して。最終的には、みんなでUNACの解析に夢中になってたよ」

「なるほどな。それは、研究者としての矜持が刺激されたんだろう」

「だろうな。『既存の枠組みを超えた発想』ってことで、逆に燃えたみたいだ」

「いい研究者たちだな」

「ああ。俺もそう思う」

一夏は、そう言って頷いた。あの研究者たちは、白鴉・熾天の異常性に最初は戸惑いながらも最終的にはその可能性を真剣に受け止めてくれた。それが、一夏には嬉しかった。

「しかし……」

ラウラが、少しだけ考え込むように顎に手を当てた。

「そのUNAC、誰が設計したんだ? お前の機体は白式の一次移行体だと聞いているが、UNACも同じなのか?」

「どうだろう。俺が意識して設計したわけじゃない。白鴉・熾天が、勝手に……っていうと変だけど」

一夏は、少しだけ言葉を選びながらそう説明した。この感覚を言葉にするのは、いつも難しい。

「だから、俺自身もUNACの全部を理解してるわけじゃない。使いながら、覚えていく感じでさ」

「なるほど」

ラウラは、少しだけ沈黙した。そしてふと口元に笑みを浮かべた。

「面白いな、お前の機体は。乗れば乗るほど、新しい発見がある」

「そうか? 俺はいつも、振り回されてる感じだけどな」

「それでいいんだ。そういう機体は、乗り手を育てる。お前も知らず知らずのうちに成長しているはずだ」

ラウラの言葉はどこか励ますような響きがあった。一夏は、その言葉に少しだけ救われた気がした。

「ありがとな、ラウラ」

「礼には及ばない。事実を言ったまでだ」

ラウラは、そう言って再びスポーツドリンクに口をつけた。その横顔は、どこか満足げだった。