LNCrawler

五十話

Is レイヴンズ・レゾナンス — www.pixiv.net · All chapters

五十話

翌日の放課後。一夏たち六人は第三アリーナに集まっていた。昨日楯無から受けた指摘を参考に訓練の内容を見直すことにしたのだ。箒が腕を組みながら言う。

「昨日の楯無先輩の指摘。確かにあれは的を射ていた。俺たちの連携は一夏一人を相手にする前提で組まれている。だが、実際の戦場では相手が複数だったり、一夏以外の相手だったりする」

「ええ。だから今日はランダムで三対三のチーム分けをして模擬戦を行いましょう」

「異議なし」

「僕も賛成」

「同じく」

「ああ」

セシリアの提案に全員が頷いた。一夏も頭の中の声に問いかける。

(——どう思う?)

(いい訓練になるだろうな。だが、ランダムでチームが変わるなら、それぞれが柔軟に対応する必要がある。昨日の楯無の指摘を活かすいい機会だ)

(だな)

一夏がそう答えようとしたその時。

「お待たせー」

軽やかな声がアリーナに響いた。全員がそちらへ視線を向ける。そこに立っていたのは、楯無だった。だがいつもの制服姿ではない。全身を覆う水色の装甲。流れるようなライン。そして、機体を覆う水のヴェール。楯無は専用機——ミステリアス・レイディを纏って現れたのだ。

「先輩!? 何でISを?」

「決まってるでしょ。私も混ざりたいからよ」

楯無はそう言ってにっこりと笑った。一夏は思わず頭の中の声に問いかける。

(——どういうことだ?)

(分からん。だが、本気でやるつもりなのは間違いない)

楯無は六人の前まで歩み寄ると、まず自分の実力を知ってもらうためにと一夏と一対一の模擬戦を提案してきた。一夏たちは顔を見合わせたが、すぐに同意した。楯無の実力を知るいい機会だ。だが、模擬戦が始まる直前楯無が思いがけないことを言い出した。

「一夏君。UNACも使っていいわよ」

「え?」

「だから、UNACも使ってちょうだい。あなたの全力を見せて」

一夏は一瞬戸惑った。UNACを使えば、確かに一夏の戦闘力は大幅に上がる。だが、それを楯無が許すとは。頭の中の声が静かに言った。

(——楯無は何か策があるのだろうな)

(だろうな。だが、断る理由もない)

(ああ。全力で行け)

一夏は頷いた。

「分かりました。じゃあ、行きます」

一夏は白鴉・熾天を展開し同時にUNACを全て展開した。U1、U2、U3、U4がそれぞれの位置に散開する。楯無はそんな一夏の様子を見て、満足そうに微笑んだ。

「それじゃあ——始めましょうか」

模擬戦が開始された。一夏は頭の中の声に従ってUNACに指示を飛ばしながら楯無に攻撃を仕掛ける。U1が前線で楯無を引きつけ、U2が援護射撃。U3が狙撃位置に就き、U4が上空から機雷をばら撒く。いつもの連携だ。だが——

(——待て。楯無の動きがおかしい)

(え?)

頭の中の声が警告を発した。一夏が楯無の動きを注視する。楯無はU1の攻撃をかわしながら、わざと隙を見せていた。まるでU1を誘い込むように。

(不味い! U1を下がらせろ!)

だが、一夏が指示を出す前にU1は楯無の隙に突っ込んでいた。その瞬間、楯無のカウンターが炸裂する。水のヴェールが螺旋状に渦を巻き、U1の機体を捉えた。U1はそのまま停止した。

「U1!」

一夏が叫ぶが遅い。楯無はU1を無力化すると、すぐさま次の行動に移っていた。U2の援護射撃を水のヴェールで防ぎながら、U3の狙撃位置へと接近する。U3が狙撃を放つが、楯無はそれをかわすと同時に蒼流旋を振るった。水の螺旋がU3の機体を貫く。U3も停止した。

「すごい……」

箒が思わず呟いた。セシリアも鈴音もシャルロットも、その動きに目を奪われている。ラウラはというと、目を見開いて楯無の戦い方を見つめていた。

「その手があったか……」

楯無はUNACの特性を利用していた。UNACはフォーミュラブレインによって自律的に動くが、あくまで一夏の指示が前提にある。楯無はその特性を逆手に取ったのだ。わざと隙を見せることでUNACを誘い込み、カウンターを叩き込む。UNACの自律性を利用した巧みな戦術だった。残るはU4だけ。U4は上空から機雷をばら撒いていたが、楯無はアクア・クリスタルから水の分身を作り出し、U4の注意を引きつける。その隙に本体がU4に接近して一撃で無力化した。

「あとはあなただけよ、一夏君」

楯無がそう言って一夏に向き直る。一夏は唇を噛みしめた。UNACを全て失った。だが、まだ終わっていない。一夏は白鴉・熾天のブレードを構えた。

「行くぞ!」

一夏は楯無に斬りかかる。楯無はそれを水のヴェールで受け止めながら、蒼流旋で反撃する。一夏はそれをかわし、リニアライフルを放つ。だが楯無は水のヴェールでそれを防いでみせる。一夏は頭の中の声の指示に従って対抗する。回避、反撃、防御。あらゆる手を尽くす。だが、楯無はそのすべてを上回っていた。そして——

「終わりよ」

楯無の蒼流旋が一夏の機体を捉えた。判定が表示される。一夏の負けだった。一夏は、その場に膝をついた。悔しさが込み上げてくる。だが、同時にどこか納得している自分もいた。

「……強いな、先輩」

「ふふ。当たり前でしょ? 何せ生徒会長だからね」

楯無はそう言っていつもの飄々とした笑みを浮かべた。一夏は、その笑顔を見て思わず苦笑した。学園最強は伊達ではない。その言葉が、今ならよく分かる。一夏は立ち上がると、楯無に向き直った。

「先輩。一つ聞いてもいいですか」

「何かしら?」

「何故、UNACを使わせたんですか? あれは、先輩にとって不利な条件だったはずです」

「不利? とんでもない」

楯無はそう言って首を振った。

「UNACを使わせたのは、あなたの全力を知りたかったから。そして、UNACの弱点を教えるためよ」

「弱点?」

「そう。UNACは確かに強い。でも、操縦者の指示が前提にある。なら、その指示を出させなければいい。あるいは、指示を出す前にUNACを無力化すればいい。今日の戦いで、それができるって分かったでしょ?」

「……はい」

一夏はそう答えた。楯無の言う通りだった。UNACは強い。だが、弱点もある。そのことを身をもって教えられた。

「まあ、今日のところはこれくらいにしてあげる。でも、覚えておいて。UNACはあなたの武器だけど、UNACに頼りすぎたらいつか痛い目を見るわよ」

その言葉は、一夏の胸に深く響いた。楯無はそんな一夏を見て満足そうに頷くと、くるりと踵を返した。

楯無は一夏たちの方をくるりと見渡すと、いつもの飄々とした笑みを浮かべて言った。

「せっかく六人揃ってるんだから、ランダムで三対三の模擬戦見せてもらおうかしら」

「え?」

「昨日の指摘、どれだけ活かせてるか見てみたいのよ。ほら、さっさとチーム分けして」

一夏たちは顔を見合わせた。だが、楯無の言うことはもっともだ。昨日の指摘を活かすための訓練なのだから、その成果を見てもらうのは悪くない。箒が一歩前に出る。

「分かった。じゃあ、くじで決めよう」

「異議なし」

「私も」

「僕も構わない」

「同じく」

六人はその場でくじを作り、引いていった。結果はこうだ。

一夏・箒・ラウラ対セシリア・鈴音・シャルロット

「ふむ。面白い組み合わせになったな」

ラウラがそう言って、隣に並ぶ一夏と箒を見た。箒はすでに雨月、空裂を構えている。一夏も白鴉・熾天を展開した。

「箒は前衛。ラウラはAICで相手の動きを制限しつつ、俺が隙を突く。いつもと逆の立場だけど、できるな?」

「ああ」

「任せろ」

対するセシリア・鈴音・シャルロットの三人も配置に就く。セシリアがブルー・ティアーズを展開しながら言う。

「こちらは私が上空から射撃支援。鈴音が側面から撹乱。シャルロットが中距離で牽制といったところかしら」

「ええ。でも、相手は一夏君よ。昨日の指摘を思い出して、柔軟に動きましょう」

「分かってるよ」

楯無はアリーナの端に下がり、腕を組んで六人の様子を眺め始めた。その目はどこか楽しげだ。

「それじゃあ——始め!」

一夏の声を合図に模擬戦が開始された。箒が真っ直ぐに突っ込む。セシリアが上空から射撃を加えるが、箒はそれをかわしながら前進する。ラウラがAICを展開し、セシリアの動きを封じようとする。

「させるか!」

鈴音が双天牙月を振るってラウラに迫る。ラウラはそれをかわしつつ、AICの範囲を調整する。一夏はその隙にリニアライフルを放った。だが、シャルロットがガルムでそれを撃ち落とす。

「させないよ、一夏君!」

「シャルロット、いい判断だ!」

セシリアがそう叫びながら、体勢を立て直して射撃を再開する。一夏は頭の中の声に問いかける。

(——どう見る?)

(悪くない。だが、相手も昨日の指摘を意識している。連携が硬直していない。柔軟に動いている)

(だな。なら、こっちも柔軟に行くか)

一夏はラウラに声をかける。

「ラウラ! AICの範囲をセシリアじゃなくてシャルロットに!」

「分かった!」

ラウラがAICの照準を切り替える。シャルロットの動きが止まる。その隙に箒が鈴音を押し込み、一夏がセシリアへの射線を確保した。

「もらった!」

一夏のリニアライフルがセシリアの機体を捉える。だが、その瞬間だった。鈴音が箒を振り切って一夏の側面に回り込んでいた。

「一夏さん、甘いですわよ!」

「しまっ——」

鈴音の双天牙月が一夏の機体を捉えようとする。だが、箒がすんでのところで鈴音の攻撃を受け止めた。

「行け、一夏!」

「ああ!」

一夏は箒の援護に応えセシリアとシャルロットを同時に狙う。ラウラのAICがシャルロットを封じ、一夏の射撃がセシリアを捉える。そして箒が鈴音を押し切った。判定が表示される。一夏・箒・ラウラ組の勝利だった。

「ふう……」

一夏は息を吐いた。今回はチームが違うだけで、ここまで戦い方が変わるのかと改めて実感する。楯無が六人の方へと歩み寄ってきた。

「お疲れ様。昨日より、ずっといいわね」

「本当ですか」

「ええ。特に一夏君。昨日は一人で戦いすぎていたけど、今日はちゃんとチームを意識していた。ラウラに指示を出すタイミングも良かったし、箒との連携も自然だった」

「ありがとうございます」

「それに、相手チームも良かったわ。セシリアの指示、鈴音の撹乱、シャルロットの牽制。それぞれが役割を果たしながら柔軟に対応していた。昨日の指摘をちゃんと活かしている」

「でも、まだ課題はありますよね?」

シャルロットがそう問いかける。楯無は頷いた。

「そうね。まず、一夏君たちのチーム。ラウラのAICは強力だけど、範囲を切り替えるのに時間がかかる。その間、他の二人でカバーできていたけど、相手がもっと速ければ間に合わないかもしれない」

「確かに」

「それから、セシリアたちのチーム。鈴音の撹乱は見事だったけど、箒に止められた場面があった。あそこは、もう一工夫欲しかったわね」

「……はい」

その後も訓練は続いた。楯無も加わっての模擬戦は、くじによってはかなり理不尽な組み合わせになることもあった。一夏とラウラとセシリア対楯無と箒と鈴音、などという組み合わせでは楯無の圧倒的な実力の前に一夏たちが為す術もなく敗れることもあった。だが、どの組み合わせでも得るものは大きかった。一夏は頭の中の声と相談しながら、その都度新しい戦い方を模索した。五人の女子たちも、それぞれが自分の役割を見つめ直し、連携の幅を広げていった。互いに充実した時間だった。

やがて訓練が終わり六人はシャワー室へと向かった。汗を流しながら、今回の訓練について自然と会話が弾む。

「しかし、楯無先輩のあの動きは反則だろ」

箒が髪を洗いながらそう言った。その声には、悔しさと尊敬が入り混じっている。

「そうですわね。特にあの水のヴェール。あれがある限り、私の射撃が通用しませんわ」

「蒼流旋の使い方も見事だった。あれだけ自由自在に操れる人はそういない」

セシリアとラウラがそう続ける。シャルロットも頷いた。

「僕も驚いたよ。まさかUNACの特性をあそこまで利用するなんて。あれは一夏君にとってはいい勉強になったんじゃないかな」

「ええ。一夏もいい刺激になったでしょうね」

鈴音がそう言って笑った。そんな会話の中、楯無はシャワーを浴びながら静かに六人の話を聞いていた。そして、ふと口を開いた。

「ねえ。みんな、一夏君のことだけど」

「一夏がどうかしたのか?」

「うん。訓練を見ていて、ちょっと気になったことがあるの」

楯無の声は、いつもの飄々としたものではなく、どこか真剣だった。五人は思わず耳を傾ける。

「一夏君の戦い方。昨日も言ったけど、彼は一人で戦いすぎる癖がある。でもね、それ以上に気になったのは彼の反応速度と判断の早さよ」

「反応速度?」

「ええ。彼、模擬戦の中で何度も即座に判断を変えていた。ラウラに指示を出すタイミング、箒との連携の切り替え。あれだけ自然にできるものかしら」

「確かに……」

箒が考え込むように言った。

「一夏の判断はいつも的確だ。だが、それは訓練の賜物だと思っていた」

「私もそう思ってた。でも、よく見てるとね。彼まるで別の誰かと相談しているみたいな動きをする時があるのよ」

楯無の言葉に、シャワー室がしんと静まり返った。シャルロットが慎重に口を開く。

「別の誰かと、相談?」

「そう。一瞬の間。まるで頭の中で誰かと会話しているかのような、そんな間が時々ある。勿論私の勘違いかもしれないけどね」

楯無はそう言ってシャワーを止めた。その表情は、いつものように飄々としている。だが、その目はどこか楽しげだった。

「まあ、ただの観察よ。でももし本当に彼が何か隠しているなら、それは面白いと思わない?」

「お、面白いって……」

「だってそうでしょ? あの一夏君が、何かを隠してるなんて。想像するだけでワクワクしない?」

楯無はそう言って笑った。五人は顔を見合わせた。一夏が何かを隠している。その可能性を、五人はそれぞれの胸に刻み込んだ。