第30話
第30話
「宮前殿、しばし休憩しましょう」お昼を過ぎていることを弥三郎さんに教えられ、僕は初めて、ずいぶん長い時間夢中になっていたことに気づいた。弥三郎さんが持ってきてくれたのは、お城の女性たちが作ったというお団子だった。山で採れた草を混ぜ込んであるらしい。「ん、美味しいです!」口に入れると、蓬によく似た香りがふわりと広がった。「この辺りではよく食べられる団子です」淡々と話す弥三郎さんは、僕の横でそれを静かに食べていた。が、食べ終えると、僕に尋ねてきた。「宮前殿、つかぬ事をお聞きしますが、あの……ちょこれいとという菓子は、まだございますか?」「え?チョコレート?すみません、あれはもうなくなってしまいました。ですが、チョコレートを使った別のお菓子ならありますよ」「左様でございますか……」ここにいる誰よりも大きくて、日に焼けた肌の弥三郎さん。そんな人がそわそわした様子を見せていて、可愛らしく見えた。「どうかしましたか?」「……あの、それを私に頂けませんか……?」周囲を気にしながら、俯き、消え入りそうな声。「もちろんです!ちょっと待っててくださいね」僕は荷物を取りに行くと、中から、チョコレートウエハースを取り出し、弥三郎さんの元に戻った。「これです。これは、薄い生地の間にチョコレートを挟んだお菓子で、ウエハースと言います」「うえ……はあす……ですか……」弥三郎さんは僕が包装紙を外して渡したそれを、珍しいものでも見るように眺めていた。「どうぞ、召し上がってください」「かたじけない……」弥三郎さんは、それをそっと受け取ると、こちらを気にしながら口に運んだ。「……美味しゅうございます……」大きな身体でウエハースを少しずつ味わって食べている弥三郎さん。そんな様子も、可愛らしく見えた。「これ、あとひとつありますので、ご自分で食べても良いですし、盛継さんに……」「……宮前殿。この場では、若殿様とお呼びくだされ」「あっ、すみません……」先ほどまでの柔らかな雰囲気が一変し、弥三郎さんはいつもの厳めしい顔に戻った。僕は思わず、背筋を伸ばした。