第31話
第31話
「……諱は、特別な間柄にある者しか呼ぶことが許されておりませぬ」「特別な、間柄……」その言葉を繰り返した時、僕は以前大磯守様にも同じようなことを言われたのに、思わず尋ねてしまった。「それは家族のような関係、ということでしょうか?」言ってから、しまった、と思った。弥三郎さんの表情が、わずかに変わったからだ。「……それを知らぬということは、貴殿は大磯守様とはまだそこまでの仲ではないのですな」そう言って、弥三郎さんは僕を見た。「えっ、えっと、……」どうしよう。どう答えていいか分からない。僕の中ではあれが誰でもしていることには思えないけど、こっちではそうじゃないかもしれないし。「……貴殿の時代ではどうかは知りませぬが、ここでは肌を合わせ、交わるような間柄ならば、諱を呼ぶことを許されております」「ま、交わる!?!?!?」そんなこと、男同士でもするものなの!?衝撃的すぎて、僕は空いた口が塞がらなかった。「その様子では、貴殿は大磯守様とはまだそのような間柄ではないのですな」「あ、はぁ、そう、ですね……」「……貴殿の場合、その方が良いのかもしれませぬ。交わるということは、その方だけに全てを預けるということ。ここにずっと居られるお覚悟がないのなら、そうしない方が宜しいかと」「そう……ですか……誰でもしているわけではないのですね」あっ、また余計なことを言ってしまった。でも、弥三郎さんは、そんな僕の問い掛けに、真摯に答えてくれた。「他所ではどうか知りませぬが、少なくとも、私はそうです」そして、ご自分が戦災孤児で大磯守様に拾われて育てられたことを話してくれた。