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第33話

いつもの登山に行っただけなのに — fujossy.jp · All chapters

第33話

「弥三郎さんは、そう感じたことは…大磯守様や、若殿様が、自分以外の方と、親しくされているのを見聞きしたら、胸がずきってなったりしないんですか?」「……それは、胸が痛むような心地がする、ということでしょうか?生憎、私はそのような心持ちはしたことがございませぬ。私のような者を小姓として迎えて下さった大磯守様、そして、共に育っていく中で私を見初めて下さったもりつ…若殿様のなされることに私が不満を覚えるなど、あってはならぬこと……」「そう……でしょうか」「ええ、少なくとも、私はそのように考えております」「若殿様はどうですか?」「若殿様でございますか?そうですね……若殿様は、幼い頃より私をお傍に置きたがるお方でございました。私が他の者の手伝いをしておりますと、何かと理由をつけて呼び戻されることもございました。今でも、私が別の役目を仰せつかると、あまり良い顔をなさいませぬ」「……それって、」それって、もしかして。「若殿様は、弥三郎さんのことが大好きなんですね」「は……?」弥三郎さんは、心底不思議そうな顔をした。「若殿様の振る舞い、僕には弥三郎さんを独り占めしたいように思えて、それって弥三郎さんが大好きだからじゃないかな、って……」あっ、また僕は余計なことを言ってしまった。「…………」弥三郎さんが無言になったので僕が謝ると、弥三郎さんは口を開いた。「……いえ、我々のことを良く知らぬ貴殿がお感じになられるなら、そうした一面が若殿様にあるのかもしれませぬ」そう話す弥三郎さんの顔は、少し不安そうに見えた。「嬉しくないんですか?若殿様に大好きだって思ってもらえること」「……それは身に余る光栄にございます。ですが、若殿様にはお世継ぎとしてのお役目も果たしていただかねばなりませぬ。大磯守様は、若殿様のお年頃には、すでに若殿様の父となられていたと聞いております。若殿様にも、早くお子を成していただきたいのです」弥三郎さんのお話を聞いて、僕は、この時代に生きる人たちはすごいと思った。植物が種を残すために必死に生きているのと同じように、この人たちもまた、家を守り、命をつないでいくために生きている。そこには、恋愛感情だけでは割り切れない、互いを思い、支え合う気持ちがあるのだと思った。それは、僕のいる時代では、あまり考えたことのない生き方だった。好きになったから結婚して、愛し合って子どもを授かる。それとは違う形が、ここにはあるんだ。