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第34話

いつもの登山に行っただけなのに — fujossy.jp · All chapters

第34話

弥三郎さんとの話を終えた僕は、再び草の採取を続けた。やがて、あの青い花……大磯守様が、久しく見ていなかったと話しておられた花の採取方法を説明しようとした。その時、家臣の中で最も年配と思われる方が、口を開いた。「おお、この花も役に立つのですか。夏彦殿が愛したこの花が……」「夏彦殿……?」「ええ、殿がまだ若君だった頃、ことのほか目をかけておられた側仕えにございます」その言葉に、僕はまた、胸がずきっとした。「夏彦殿は花がお好きで、特にこの花を愛されておりました。故に殿はこの花を増やして夏彦殿を喜ばせようと、草花に詳しい者からそのやり方を学んでおられました。そういえば、そなた……」夏彦殿にどことなく似ておられますな。「……!!!!」痛みは、更に強くなった。「あ……あの、その、夏彦さんという方は……」「……夏彦殿はもうおりませぬ。元々病がちで、しかし大磯守様の側仕えとしての役目を果たしたいと戦にも無理をして戦ううちに重い病を患い、……」そこから先の言葉を、僕はぼんやりと聞いた。僕によく似ているという、僕と同じように植物が好きな、大磯守様の側仕えだった人。僕が現れて、大磯守様は何を思われたのだろう。でも、そんなこと、聞けるわけがない。「……この花の草はこのくらいにしておきましょう」僕は、この花を見ていることが辛くなってしまって、この場からすぐに離れようとした。そんな僕に、採取を全て終えた後で弥三郎さんが声を掛けてきた。「宮前殿」いけません、と、弥三郎さんは僕の近くで囁くように言った。大磯守様よりも更に低い声には、とても威圧感があった。「……ごめんなさい」僕のことを見ていたのだろう。でも、僕には、出来なかった。どうしてこんな気持ちになるのか。僕は、あの人に。大磯守様に、僕の知らない誰かがいて当然なのに。それなのに、その存在を知るたび、胸がずきずきと痛んで、苦しくなる。そこに……。