第45話
第45話
大磯守様と松千代くんが庭先で木刀を使って遊び始めると、ようさんがぽつりと言った。「貴方様を見ていると、夏彦様を思い出しますわ」「夏彦……さん……」また、その名前。忘れようとしても忘れられない名前が再び、僕の心を刺激した。「……あなたは、夏彦さんをご存知なのですか?」尋ねると、ようさんは懐かしそうに微笑んだ。「ええ。私が幼い頃、よく一緒に庭で花を摘んだり、首飾りを作っていただいたりして過ごしました」「そうですか……」幼い頃、家同士の事情で人質としてこの城に来たようさんにとって、夏彦さんは遊び相手になってくれる優しい人だったらしい。「夏彦様はお花が大好きな、素敵な方でした。殿にとっても、最も信頼されていらした、美しい御方であったと私は思います……」「…………」花が好きで、心優しく、美しい、僕に似ている、という夏彦さん。そして、今、目の前にいるこの人のことも、大磯守様は……。「……すみません、まだ作業の途中でしたので、もうよろしいでしょうか?」頭の中がぐちゃぐちゃになって、僕は三人から離れたいと思った。「申し訳ございません。長居をしてしまいまして」「いえ、こちらこそわざわざお越し頂きまして、ありがとうございました」ようさんが退室すると、戸の向こうから、庭にいらした大磯守様が僕に済まんなと声を掛けてくださった。僕はそれを聞いていたけれど、返事をしなかった。どうして、こんなにも胸が苦しいのだろう。夏彦さんは、花が好きで、心優しく、美しい人だったという。花が好きなところと、僕自身は自分の顔立ちが特別美しいとは思っていないけれど、夏彦さんとよく似ているらしい。けれど、大磯守様が最も信頼し、心を許していたのは、僕ではなく夏彦さんだったわけで。……僕は、あの人の代わりなんだろうか。そう考えた途端、胸の奥がひどく痛んだ。