第48話
第48話
翌日、僕は昨日に引き続き、書物の編纂に勤しんでいた。午後になって、城内がいつになく慌ただしくなった。気になって戸を開けると、廊下を行き交う人たちは皆、険しい表情をしていた。何かあったのだろうか。不安に思っていると、寛之進さんが部屋に戻ってこられた。「真雪、話がある」そのお顔も、廊下で見かけた人たちと同じように険しかった。「どうしたんですか?」「……戦が始まるやもしれぬ」思いもよらぬ言葉に、僕は息を呑んだ。「いくさ……」「ああ。まだ確かな知らせではないが、敵がこちらへ兵を進めているとの報せが入った」そう話す寛之進さんの声は、いつもと変わらないように聞こえた。「……寛之進さんも、戦へ行かれるのですか?」「領主であるわしが出ずして、誰が兵を率いる」僕の問い掛けに、当たり前のことを告げるような口調が返ってくる。けれど、僕には、それをすぐには理解できなかった。寛之進さんが戦場へ行く。そこでは、人が傷つき、命を落とすことだってある。それなのに、この人は、いつもと変わらない様子でそれを口にしている。「………」僕も、行かなくちゃ。大好きな人を、大好きな人の国を、守りたい。「城には盛継と弥三郎たちが残り、守りを固める。真雪、お主はここに残れ」「そんな……嫌です」寛之進さんからの言葉に、僕は首を振った。「先の時代から来たお主には関係のないことだ。それに、万が一のことだって考えられる」「そうかもしれません。でも、僕は……大好きなあなたの役に立ちたいんです」僕は、寛之進さんの目を見つめた。「戦うことはできません。でも、怪我をした人を助けることならできます。行った先で、食べられる植物を見分けることだってできます。僕にできることは、きっとあります。だから……僕も連れて行ってください」話しているうちに、涙が溢れてきた。でも、ここで伝えなければ、寛之進さんは僕を置いていってしまう。そう思うと、黙っていることなどできなかった。「お願いします。足手まといにならないようにしますから、どうか……」「真雪……」そんな僕を、寛之進さんは優しく抱き締めてくださった。「お主の気持ちはよう分かった」しばらくの沈黙の後、寛之進さんは僕の同行を許してくださった。「但し、わしのそばを離れるな。何があっても、必ずわしの命に従え」「はい、……ありがとうございます」