エピローグ
エピローグ
天喰 ( そらぐい ) の早期討伐を決めたホロウは、早速『二枚のカード』を切る。
「ニア、エリザ、準備はできているな?」
「えぇ、もちろんよ!」
「いつでも行けるぞ!」
ここまでずっと魔力を貯めていた二人は、力強く頷く。
「まずはニアからだ」
「任せて頂戴!」
彼女は右手を頭上に掲げ、渾身の大魔力を解き放つ。
「これが私の全身全霊! ――< 原初の太陽 ( オリジン・フレア ) >ッ!」
遥か上空より降り注ぐ巨大な太陽が、純白の背中を焼き焦がした。
「ギ、ギィイイイイイイイイイイイイ……ッ!」
天喰 ( そらぐい ) はたまらず、巨大な重力波をその身に 纏 ( まと ) い、『全方位防御』を展開。
圧倒的な出力で、原初の一撃を 跳 ( は ) ね 除 ( の ) けた。
「う、嘘……っ」
唖然 ( あぜん ) とするニアを 他所 ( よそ ) に、ホロウは淡々と次の手を打つ。
「エリザ、行けるな?」
「あぁ」
彼女はゆっくりと目を閉じ、
「――< 銀閃 ( ぎんせん ) ・ 断空 ( だんくう ) >ッ!」
斬撃という現象を全方位防御の先、『天喰の体内』に発生させると、
「ギィォオオオオオオオオオオオオ!?」
耳をつんざく凄まじい悲鳴をあげた。
(ふふっ、イイ火力だね)
その直後、天喰の頭上に浮かぶ 天輪 ( てんりん ) が神々しい光を放つ。
(来たな、『 必殺攻撃 ( スペシャル・アタック ) 』!)
HPが50%を下回ったとき、 天喰 ( そらぐい ) は性質の異なる三つの特殊な魔法を使う。
必殺攻撃 ( スペシャル・アタック ) はどれも『規格外の威力』を誇り、まともに食らえば全滅だ。
(まずは第一波――広域殲滅魔法< 呪重の死焔 ( カース・フレイム ) >!)
天喰の巨大な口が開き、
「ゴォオオオオオオオオオオオオ……!」
漆黒の 火焔 ( かえん ) が吹き荒れた。
遥か上空より降り落ちる『炎の 絨毯 ( じゅうたん ) 』を前に、
「お、終わった……っ」
「ひ、ひぃいいいいいいいい!?」
「ホロウ様、どうか次のご指示を……!」
戦場が大混乱に 陥 ( おちい ) る中――ホロウは周囲に悟られぬよう、 宙空 ( ちゅうくう ) に<虚空渡り>を展開した。
米粒にも満たない小さな黒い渦、その奥より響くのは、300年と生きた 老爺 ( ろうや ) の声。
「――< 原初の天氷 ( オリジン・グレイシア ) >」
次の瞬間、極寒の冷気が吹き荒れ、世界が白銀に染まる。
< 呪重の死焔 ( カース・フレイム ) >は、原初の 白氷 ( はくひょう ) に包まれ――ボロボロと崩れ落ちた。
「す、凄ぇ……なんて威力だ……!?」
「でもこんな大魔法、いったい誰が……?」
「うぉおおおおおおおお! さすがはホロウ様だぜッ!」
驚愕と疑問と 喝采 ( かっさい ) が湧く中、
(この魔法は、お 祖父様 ( じいさま ) の<原初の氷>……!?)
ニアだけが、魔法の主を正しく理解した。
(さてさてお次は第二波――召喚魔法< 呪重の死軍 ( カース・アーミー ) >!)
天喰の巨大な前腕から、
「オォオオオオオオオオオオオオ!」
漆黒の液体が垂れ落ちた。
地面にドロリと積もった汚泥、そこから這い出すのは、大量の『 死兵 ( しへい ) 』。
触れたモノを呪い殺す『不死の兵隊』――総数にして10万を超える。
「ぜ、前方より大量の召喚獣が接近!」
「おいおい、この数は 洒落 ( しゃれ ) になんねぇぞ……っ」
「ホロウ様、いったいどうすれば!?」
あちこちで悲鳴があがる中、上空に極小の黒い渦が浮かび、そこから不思議な声が響く。
「――『 跪 ( ひざまず ) け』」
10万を超える死兵は、静かに 頭 ( こうべ ) を垂れ、完全に無力化された。
(これは、ヴァランの<支配の 言霊 ( ことだま ) >!?)
今度はエリザだけが、魔法の主を理解した。
(最後の第三波は――単体殲滅魔法< 呪重の死槍 ( カース・スピア ) >!)
天喰 ( そらぐい ) の 天輪 ( てんりん ) が輝き、
「ヲォオオオオオオオオオオオオ!」
王国軍の本陣へ向けて、超巨大な 黒槍 ( こくそう ) が放たれた。
「で、デカい……っ」
「なんて規模だ……ッ」
「お願いします、ホロウ様の奇跡を……!」
刹那 ( せつな ) 、漆黒の渦が浮かび、黄金の 巨釜 ( おおがま ) が現れる。
「――<原初の 巨釜 ( おおがま ) ・神殺しの槍>ッ!」
超高出力の巨大な槍が放たれ、< 呪重の死槍 ( カース・スピア ) >と激突――互いに消滅した。
(((やっぱりホロウのやつ、ラグナ・ラインを飼っていやがったな……っ)))
王国軍に志願したレドリックの生徒たちが、 同級生 ( クラスメイト ) の腹黒さを再認識する。
(くくくっ、完璧だね!)
ホロウは自慢の『大ボスコレクション』を活用することで、指揮官席に座ったまま、 天喰 ( そらぐい ) の 必殺攻撃 ( スペシャル・アタック ) を完璧に防ぎ切った。
そして訪れる――『不動時間』。
「 天喰 ( そらぐい ) の動きが止まった! 一気に畳み掛けるぞ!」
ホロウの号令を受け、
「行っけぇええええええええ!」
「勝てる、勝てるぞぉおおおお……!」
「国の未来のため、 天喰 ( そらぐい ) の首を獲るんだッ!」
王国軍の士気は最高潮に上がる。
「「「「「――< 天使の祝福 ( ブレッシング ) >!」」」」」
後衛の支援職が前衛の 膂力 ( りょりょく ) と魔力を底上げし、
「ぬぅんッ!」
ダフネスが<虚飾の 楔 ( くさび ) >を打ち込み、 天喰 ( そらぐい ) の血液を沸騰・凍結させ、
「「「「「――<烈火の嵐>!」」」」」
「「「「「――<氷華の刃>!」」」」」
「「「「「――<轟雷>!」」」」」
魔法士部隊が両側から魔法を撃ち込み、
「「「「「おらぁあああああああああッ!」」」」」
魔剣士部隊が遠距離から斬撃を飛ばす。
王国軍の総攻撃を受け、
「グォオオオオオオオオオオオオ……っ」
天喰 ( そらぐい ) の巨大な両腕が落ちた。
このまま一気に討ち取れるかと思ったそのとき、
「ギュァア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛……!」
天喰 ( そらぐい ) は耳をつんざく雄叫びをあげる。
それと同時、頭上の天輪が六つに裂け、背中に神々しい翼が生えた。
純白の大魔力がライラック平原を包む中、 宙空 ( ちゅうくう ) に大量の 波紋 ( はもん ) が生まれ、そこに強力な魔弾が 装填 ( そうてん ) される。
(ついに来たね、『 最終攻撃 ( フェイタル・アタック ) 』)
ホロウは静かに目を尖らせた。
天喰 ( そらぐい ) は 生命 ( いのち ) の危機に 瀕 ( ひん ) したとき、その巨体に溜め込んだ全魔力を解放して、敵性生命体を滅ぼさんとする。
「な、なんだこのふざけた魔力は……!?」
「これが 四災獣 ( しさいじゅう ) の力……っ」
「無理だ、勝てっこねぇ……ッ」
全軍が恐怖に身を固める中、
「こ、 これ ( ・・ ) は……っ」
『最速の剣聖』レイラの脳裏を 過 ( よぎ ) るのは、 未曽有 ( みぞう ) の大破壊。
十二年前、彼女は王国軍を率いて、天喰を討伐寸前まで追い詰めた。
しかし、 最終攻撃 ( フェイタル・アタック ) を受けて……。否、この攻撃から兵たちを守るため、捨て身の防御を 敢行 ( かんこう ) し――呪いに 臥 ( ふ ) したのだ。
前線に飛び出した彼女は、自身の固有を解放し、迎撃態勢を取るが……。
(……無理だ。この魔力、前回よりも遥かに強い……っ)
十二年間、世界中の山々を捕食した天喰は、驚異的なほどに育っていた。
それでも、レイラは強い。
前回のように、自軍を守り切ることはできないが……。
自分の身一つならば、なんとかなるだろう。
この盤面における最適解は一つ。
王国軍を即座に見捨て、最前線でダフネスと共闘し、天喰を仕留めること。
しかし、
(私は『剣聖』、民を守る責務がある!)
レイラの高い善性が、決してそれを許さなかった。
一方――この戦闘中、ずっと妻に気を掛けていたダフネスは、当然その動きを把握する。
(やめろ、レイラ! この攻撃は、もはや人間に防げるモノではないッ!)
彼の 明晰 ( めいせき ) な頭脳は、冷静に戦況を分析する。
(私がこのまま攻め続ければ、おそらく 天喰 ( そらぐい ) を落とし切れる。しかしその場合、レイラが……っ)
指揮官として 執 ( と ) るべき答えは一つ。
――妻を見捨てて、天喰を仕留める。
王国の未来と一人の命。
こんなもの、 天秤 ( てんびん ) に掛けるまでもない。
だが、
「――レイラァアアアアアアアアッ!」
ダフネスは最前線を放棄し、レイラを守るために駆け出した。
彼は家族愛の強過ぎる男。
『理』よりも『情』が勝ってしまったのだ。
それは『唯一の負け筋』。
この後、 天喰 ( そらぐい ) の『 最終攻撃 ( フェイタル・アタック ) 』を受けてダフネスは死亡、壊滅的な被害を受けたレイラたちは撤退を 強 ( し ) いられる。
王国軍は歴史的な大敗を 喫 ( きっ ) し、ハイゼンベルク家は没落を辿る――はずだった。
しかしここに、
「ふむ、頃合いだな」
そんな『BadEnd』を許さぬ男がいた。
届いたのは、一本の< 交信 ( コール ) >。
(――父上、ここは自分にお任せください)
(ホロウ!?)
(十二年と溜め続けたその魔力は、防御ではなく攻撃へ―― 天喰 ( そらぐい ) を仕留める最後のチャンスです)
(し、しかし……っ)
(奴の攻撃は、自分が責任を持って防ぎます。ですから、どうか父上は天喰を)
(……わかった、お前を信じよう)
最後の鍵となったのは――『信頼』。
ホロウの積み重ねた実績が、その言葉に重みを生んだ。
(ありがとうございます)
< 交信 ( コール ) >が切断されるや否や、
(くくくっ、これで『勝利条件』は全て揃った!)
飛び切り邪悪な笑みを浮かべたホロウは、ゆっくりと指揮官席を立ち、階段を上るように 宙空 ( ちゅうくう ) を進んでいく。
「ちょっと、どこへ行くつもりなの!?」
「少々厄介な攻撃が来るのでな。迎撃に出る」
「待て、こんなところで< 虚空 ( アレ ) >を使えば――」
「――案ずるな。固有を使わずとも、 それ ( ・・ ) なりに ( ・・・ ) 戦える ( ・・・ ) 」
ニアとエリザを制したホロウは、遥か上空に立ち、天喰と視線を交える。
(さてさて、ようやく来たボクの見せ場。ここはやっぱり『 絵映 ( えば ) え』を意識しなきゃだね!)
次の瞬間、漆黒の大魔力が吹き荒れた。
それは原作ホロウの悪性をこれでもかと表現した『 汚泥 ( おでい ) のような黒』。
天喰の放つ純白の魔力を押しのけ、おどろおどろしい闇が世界を呑み込んで行く。
「こ、これって……っ」
「まさか、ホロウ様の魔力……!?」
「嘘だろ……っ。天喰よりも遥かにデケェぞ……ッ!?」
王国軍が恐怖に体を凍らせる中、
「――ゼェノォオ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛!」
天喰は 最終攻撃 ( フェイタル・アタック ) < 呪重殲滅弾 ( カース・グラビドン ) >を発動。
大空を埋め尽くす超高出力の魔弾が、凄まじい速度で一斉に解き放たれた。
対するホロウは、右手を前に突き出す。
それと同時――世界が夜に包まれた。
漆黒に浮かぶは、 深紅 ( しんく ) の恒星。
それはかつて『禁書庫の番人』が行使した広域殲滅魔法。
しかしその威力と規模は、魔女のモノと比較にならない。
不敵な笑みを浮かべた『虚空の王』は――静かに 紡 ( つむ ) ぐ。
「――< 終末の極星 ( ラス・ミーティア ) >」
刹那 ( せつな ) 、 深紅 ( しんく ) の 極光 ( きょっこう ) が世界を 彩 ( いろど ) った。
莫大な魔力を凝縮した星の輝きは、天喰の< 呪重殲滅弾 ( カース・グラビドン ) >を喰らい尽くし、その巨体を 蹂躙 ( じゅうりん ) していく。
「グォオ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛……!?」
天喰は 苦悶 ( くもん ) の声をあげ、その身を 捩 ( よじ ) らせた。
「こ、これは……最高位魔法< 終末の極星 ( ラス・ミーティア ) >!?」
「いやしかし、あの魔法にこんな威力と規模はないはず……っ」
「『神話の大魔法』……ッ」
王国軍が呆然と立ち 竦 ( すく ) む中、
(っと、危ない危ない)
ホロウ ( ・・・ ) は ( ・ ) 慌てて ( ・・・ ) 、 魔法を ( ・・・ ) 中断した ( ・・・・ ) 。
このまま< 終末の極星 ( ラス・ミーティア ) >を行使し続ければ、難なく 天喰 ( そらぐい ) を 屠 ( ほふ ) れるだろう。
そうなった暁には、ホロウ・フォン・ハイゼンベルクの名声は、クライン王国全土へ轟く。
(でも、ボクはそこまで『 無粋 ( ・・ ) 』じゃない)
この時を待ち焦がれた男がいる。
復讐の刃を研ぎ続けた男がいる。
その機会を奪い取り、自分の舞台にするほど、ホロウは無粋な男じゃない。
「―― 12年 ( ・・・ ) 、 本当に ( ・・・ ) 永か ( ・・ ) った ( ・・ ) ……っ」
万感 ( ばんかん ) の呟きと共に立ち昇るのは、< 虚飾 ( きょしょく ) >の大魔力。
重力は荒ぶり、空は煮え立ち、あらゆる法則が乱れ狂う。
「ぐ、グォ……!?」
生命 ( いのち ) の危機を感じ取った天喰は、大きく体を 翻 ( ひるがえ ) し―― 何故か ( ・・・ ) ダフネス ( ・・・・ ) の ( ・ ) もとへ ( ・・・ ) 逃げ ( ・・ ) 出した ( ・・・ ) 。
虚飾の魔力を大量に叩き込まれた結果、前後左右はおろか上下の感覚まで、『あべこべ』になっているのだ。
遥か頭上より落下してくる天喰に対し、ダフネスはゆっくり目を閉じる。
瞼 ( まぶた ) の裏に流れるのは、これまで過ごした 苦渋 ( くじゅう ) の日々。
【……レイラが……敗れた……?】
耳を疑った第一報。
【何故だ、私は何故あのとき……くだらぬ公務を優先した……っ】
悔いても悔い切れぬ判断。
【すまない、レイラ……っ。本当に、本当にすまない……ッ】
何度も繰り返す 贖罪 ( しょくざい ) の言葉。
【私は……何をやっているのだ……。私は、どうすればよいのだ……ッ】
両の手からサラサラと零れ落ちていく、家族三人で楽しく笑い合えるはずだった、 掛 ( か ) け 替 ( が ) えのない時間。
【くそ、くそ、くそぉ゛……! 許さぬ、絶対に許さぬぞ、 天喰 ( そらぐい ) め……っ。必ずや貴様の脳天を叩き割り、その 肉体 ( からだ ) をグチャグチャにしてくれるわ……ッ】
臓腑 ( ぞうふ ) を焦がす憤怒の炎。
募 ( つの ) りに募った12年の感情、その全てをこの一撃に乗せる。
「――<虚飾・ 一鉄 ( いってつ ) >ッ!」
全魔力を込めた右の 鉄拳 ( てっけん ) が、 天喰 ( そらぐい ) の脳天を撃ち抜いた。
「ブォオ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛!?」
頭蓋 ( ずがい ) が砕け、臓物が四散し、輝く 天輪 ( てんりん ) が光を失い――その 巨躯 ( きょく ) がゆっくりと倒れ伏す。
「――ぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!」
世界の敵 ( ワールドエネミー ) を仕留めた男の雄叫びは、妻の 仇 ( かたき ) を討った夫の 咆哮 ( ほうこう ) は、遥か地平線を超えてどこまでもどこまでも響き渡った。
■
天喰 ( そらぐい ) 討伐の 報 ( ほう ) は、その日のうちに世界中を駆け巡る。
四大国はもちろんのこと、大小様々な国で 号外 ( ごうがい ) が飛び交った。
たった一人の死者も出さずして、天喰を討ち取った完全勝利――これは紛れもなく、 人類史 ( じんるいし ) に残る偉業だ。
指揮官を務めた『虚飾のダフネス』はもちろん、『天才軍師』ホロウ・フォン・ハイゼンベルクの名も、大陸全土へ轟くこととなる。
歴史的な快挙を成し遂げた夜、王城のメインホールでは、呑めや歌えやの大宴会が開かれる。
「 天喰 ( そらぐい ) 討伐を祝して――乾杯!」
国王バルタザールが 音頭 ( おんど ) を取り、
「「「「「かんぱーいッ!」」」」」
王国の正規兵たちが、酒の入ったジョッキを掲げた。
「んぐ、んぐ……ぷはぁ……! まさかこうして再び、うまい酒が呑めるとはのぅ!」
「へ、陛下、あまり御無理をなされては……っ」
近衛 ( このえ ) に 窘 ( たしな ) められたが、
「馬鹿者、こんなときに呑まんでいつ呑むのじゃ! 王たる者、祝いの宴は派手にやらねばならん! それでこそ、兵の士気があがるというモノよ!」
バルタザールはそう言って、肩を揺らして笑う。
賑 ( にぎ ) やかで楽しげな空気が満ちる中、そこかしこであがるのは、ハイゼンベルク家を称える声。
「いやしかし、ダフネス様は恐ろしく 強 ( つえ ) ぇな!」
「あぁ、あの天喰と真っ正面から殴り合っていたぞ!」
「さすがは 起源級 ( オリジンクラス ) の固有魔法、< 虚飾 ( きょしょく ) >の使い手だ!」
ダフネスを褒める声が湧き、
「それにしても、ホロウ様の指揮はとんでもなかったな!」
「あぁ、まるで天喰の思考を先読みしているかのような 神采配 ( かみさいはい ) !」
「王国最高の――いや、『世界最高の天才軍師』だ!」
「最後に使った大魔法、あれはマジに 痺 ( しび ) れたぜ……」
「これでまだ15歳……末恐ろしい御方だな」
「うちの家も、『ハイゼンベルク派閥』に入れてもらえねぇかなぁ?」
ホロウを絶賛する声は、湯水の如く 溢 ( あふ ) れるばかりだ。
王国軍がハメを外し、 酒宴 ( しゅえん ) に興じる中、
「……」
「……」
ゾルドラ家の当主ゾルディアと次期当主スレインは、メインホールの片隅で所在なさげに立っていた。
本当はこんな場に来たくもなかったのだが……。
四大貴族としての 面子 ( めんつ ) と 体裁 ( ていさい ) があるため、出席せざるを得なかったのだ。
(ホロウ・フォン・ハイゼンベルク、あのクソガキさえいなければ、今頃はゾルドラが武功をあげていたものを……っ)
(覚えておけよホロウ、次の『王選』でその生意気な顔を叩き潰してくれる……ッ)
二人は静かに『復讐の炎』を燃やし、ホロ苦い酒を呑むのだった。
一方、歴史的勝利の立役者となったホロウが、壁際で静かにグラスを傾けていると――ニアとエリザがやってきた。
「やっほ、天才軍師さん」
「 獅子奮迅 ( ししふんじん ) の大活躍だったな」
「ふん、当然だ」
ホロウはそう言って、グラスで口を 潤 ( うるお ) す。
これは一種の照れ隠し。
素直じゃない彼は、面と向かって褒められたとき、 誤魔化 ( ごまか ) す癖があるのだ。
「ねぇねぇ、最後の魔法なんだけど……あれ絶対、途中で止めたよね?」
「 惚 ( とぼ ) けても無駄だぞ? 私達は、お前の本当の実力を知っている」
ニアとエリザはそう言って、嬉しそうに微笑む。
「お父さんに花を持たせるために、自分は黙って手を引くなんて、やっぱりホロウは優しいね」
「お前のそういうところは、とても好ましく思えるぞ」
どうやら二人には、見抜かれていたようだ。
しかし、自分の口からそれを明かすのは、なんだか違うような気がした。
「はっ、くだらぬ妄想も大概にしておけ」
捻くれ者のホロウが、適当にはぐらかしていると、
「――あっ、ホロウくん!」
「……アレンか」
今回仕留め損ねた宿敵が、小さく右手を振りながら、小走りでやってきた。
「凄い活躍だったね! やっぱりホロウくんは天才だよ!」
「そういうお前は、そこそこの活躍だったな」
「あはは、ありがとう」
アレンは肩を揺らしながら、右手をスッと差し出す。
ホロウは 僅 ( わず ) かに眉を上げ、
(まぁ……今日ぐらいはいいか)
同じく右手を伸ばし、
「「――乾杯」」
悪役貴族と主人公、二人はカチンとグラスをぶつけた。
その後ホロウ・ニア・エリザ・アレン、いつもの四人で宴会を楽しんでいると――メインホールの奥が、にわかに騒がしくなった。
(なんだ?)
そちらへ目を向けると、仮設舞台にダフネスが立っていた。
ゴホンと咳払いをした彼は、低く渋い声を響かせる。
「 此度 ( こたび ) 、指揮官を務めさせてもらったダフネスだ。まずは 皆 ( みな ) に感謝を、勇敢な諸君らの奮闘によって、四災獣 天喰 ( そらぐい ) は討たれたっ! これは我々の勝利であり、王国の勝利であり、人類の勝利だッ!」
「「「「「うぉおおおおおおおお……!」」」」」
地鳴りのような歓声が沸いた。
「このような宴で、上の立場の者が長々と語るのは、あまり好ましくないのだが……。どうしても一つ、この場で伝えておきたいことがある」
ダフネスはそこで一拍置き、スッと右手を伸ばした。
「我が誇り――ホロウについてだ」
(んっ?)
「確かにこやつはまだ若く、未熟なところもある。だがしかし、『 類稀 ( たぐいまれ ) な知略』と『圧倒的な武力』を併せ持つ『自慢の 倅 ( せがれ ) 』だ」
(こ、これは……っ)
「私も既に四十を数え、魔法士としての最盛期を過ぎた。憎き天喰を討ち取り、長年の 宿願 ( しゅくがん ) を果たした今、もはや思い残すことは何もない。今後は裏方に回り、 新たな ( ・・・ ) 当主 ( ・・ ) を支えたいと思う」
(おいおい、まさか……!?)
「今この時を 以 ( も ) って、私は 栄 ( は ) えある当主の座を 退 ( しりぞ ) き、ホロウ・フォン・ハイゼンベルクを正統な後継者とする!」
次の瞬間、メインホールは大歓声に包まれる。
「ホロウ様が、ハイゼンベルク家の新当主だァ!」
「ホロウ様、当主就任おめでとうございますっ!」
「『虚飾』のダフネス様が裏で支え、『天才軍師』ホロウ様が表に立つ、か…… 凄 ( すげ ) ぇ布陣だな」
「おいおい、『最速の剣聖』レイラ様を忘れちゃいかんぞ?」
「こりゃ、ハイゼンベルク家の将来は 安泰 ( あんたい ) だな!」
祝いの言葉が飛び交い、軽快な 指笛 ( ゆびぶえ ) が響く中、
(くくく……素晴らしい! 最高だよ、父上っ!)
ホロウは 凛々 ( りり ) しい 外面 ( そとづら ) を保ちつつ、腹の底で邪悪に微笑む。
それを横目に見たニアとエリザは、
(これ、また悪い事を考えているわね……っ)
(これは、またよからぬことを 企 ( くわだ ) てているな……っ)
軽くのけぞりながら、ゴクリと息を呑んだ。
大観衆の前で当主に指名されたホロウは、礼儀正しく頭を下げる。
「―― 浅学非才 ( せんがくひさい ) なこの身ですが、 謹 ( つつし ) んでお受けいたします。 先人 ( せんじん ) の築きし家と領地を守り、さらなる繁栄に導くべく、『謙虚堅実』に 精進 ( しょうじん ) する所存です」
『怠惰傲慢な極悪貴族』はそう言って、飛び切り邪悪な笑みを浮かべた。
こうしてハイゼンベルク家50代目当主『ホロウ・フォン・ハイゼンベルク』が誕生するのだった。
■
王城の大宴会が終わった後、ボクは禁書庫へ飛んだ。
(本当は自室に戻って、恒例の『振り返り』をしたかったんだけど……)
うちの屋敷は天喰討伐に沸き、お祭り騒ぎになっている。
とてもじゃないけど、静かに考えごとをできる状況じゃない。
そういうわけで、どこか『イイ感じの場所』を探した結果――禁書庫がヒットしたのだ。
(幸いエンティアの魔力は、ボイドタウンにある。今この自然図書館にいるのは、大人しい分身体だけ)
振り返りをするには、もってこいだ。
「――よっこいしょっと」
エンティアがいつも座っている、真っ白な椅子に深く腰掛け、『思考の海』に 浸 ( ひた ) る。
(第四章を簡単に 纏 ( まと ) めると……序盤は 天魔十傑 ( てんまじゅっけつ ) の下半分を始末して、中盤は国王バルタザールを延命させて、終盤は天喰を討伐した)
他にもゾルドラ家の 密偵 ( みってい ) カーラ先生を抱き込んだり、『 スケルトン製造機 ( ラグナ ) 』に無限の労働力を吐き出させたり、ドドンたちドワーフ族を配下に引き 摺 ( ず ) り込んだり……。
毎度のことながら、今回もイベント 尽 ( づ ) くしだった。
そろそろ『南国のリゾート』とかで、ゆっくりと羽根を伸ばしたいなぁ。
(とにもかくにも、第四章を 総括 ( そうかつ ) すると――『完璧な出来栄え』だ)
シナリオの進行速度・イベントの回収量・第五章以降への布石、どれを取っても申し分ない。
特に 天喰 ( そらぐい ) を『死者ゼロ』で討ち取ったのが大きいね。
(王国最高の天才軍師として、ホロウ・フォン・ハイゼンベルクの名は世界中に轟き――クライン王国の王族たちにも、その力を見せ付けることができた)
人類史に残る 武功 ( ぶこう ) を立てたんだ、『王選』にも 弾 ( はず ) みがついたことだろう。
(唯一の誤算は……勇者の覚醒)
でもまぁ 第二段階 ( マジック・カウンター ) と 第三段階 ( アタック・カウンター ) は、二つで一つみたいなモノだから、そこまで強化されたわけじゃない。
(『メインルートの主人公』と照らし合わせると、今のアレンの実力は『第二章終盤』ってところかな?)
現在は第四章の最終盤、明日からは『第五章』が始まる。
主人公のレベリングは、 依然 ( いぜん ) として周回遅れ。
だから、そこまで慌てる必要はない。
(『主人公対策』については、また後日ちゃんと考えるとして……)
今は『第四章のスペシャルクリア報酬』とも呼ぶべき――『新当主就任』を喜ぼう。
正直これは、本当に デカい ( ・・・ ) 。
勇者覚醒というマイナスを 補 ( おぎな ) って余りあるどころか、差し引きすると『超大幅なプラス』だ。
(次期当主と当主――両者の差はあまりに大きい。はっきり言って、 次元が ( ・・・ ) 違う ( ・・ ) )
次期当主というのは、跡目というポジション。
ハイゼンベルク家がかなり強いため、それなりに 敬 ( うやま ) われこそするが……『実態としての力』は何も持っていない。
(でも当主になった今、ボクは四大貴族ハイゼンベルク家の力を、極悪貴族の力を自由に振るうことができる!)
権力・発言力・影響力、どれを取ってもこれまでとは桁違い!
もちろん、社会的なステータスも『爆上がり』だ!
(ハイゼンベルク家当主という地位は、今後のメインルート攻略において、絶大な力を発揮するだろう)
ボクは今日、『一つ上のステージ』にコマを進めたのだ。
さて、第四章の振り返りはこれぐらいにして、そろそろ『次』へ進もうか。
(明日から始まる『第五章』は――)
次のイベントへ思考を 傾 ( かたむ ) けたそのとき、 五獄 ( ごごく ) の一人、帝国担当のアクアから< 交信 ( コール ) >が飛んできた。
(――ボイド様、夜分遅くに申し訳ございません。至急お伝えしたいことが)
(どうした?)
(つい先ほど、アルヴァラ帝国より 密使 ( みっし ) が届きました。彼らの話によれば、『皇帝陛下が 虚 ( うつろ ) の統治者ボイド殿との極秘会談を望んでいる』、とのことです)
(ほぅ、実にいいタイミングだ。『近日中に 帝城 ( ていじょう ) へ出向く』と伝えろ。『詳細については追って連絡する』ともな)
(はっ、かしこまりました)
< 交信 ( コール ) >切断。
(ふふっ、皇帝からの『招待状』が届いたみたいだね!)
思いがけず 家督 ( かとく ) も継げたし、王選はまだ少し先だし、王国の景色も少し見飽きてきたところだし……。
「第五章はアルヴァラ帝国へ、楽しい楽しい『 観光 ( しんりゃく ) 』に行こうか!」
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【※読者の皆様へ、大切なお知らせ】
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
第4章はこれにて完結!
ちょうどキリのいいここで、皆様に大切なお願いがあります。
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本作を最後まで続けるためには、皆様の応援が必要不可欠なので、どうか何卒お願いしますッ!
私も完結まで書き切れるよう、全力で頑張ります!