第6話:完璧な攻略チャート
第6話:完璧な攻略チャート
ボクが第七王女の前に 跪 ( ひざまず ) くと、玉座の間に激震が走った。
(この男、頭が狂っておるのか!?)
第一王女クリスは目を見開き、
(アリシアは 聡 ( さと ) い女だが、地位も武力も資金も、何もかも足りていない)
第一王子ツァリオンは眉間に皺を寄せ、
(ホロウ・フォン・ハイゼンベルク、いったい何を考えているのだ……っ!?)
第二王子ネードリヒは大口を開け、
( あの ( ・・ ) 極悪貴族が、王選における『最強の騎士』が、どうして私に……!?)
当の本人――第七王女アリシアでさえ言葉を失っている。
まぁ、無理もない話だ。
アリシアは王位継承権『 第十二位 ( さいかい ) 』。
バルタザールの推薦がなければ、王選に参加することもできない、『最弱の候補者』。
一方ハイゼンベルク家は、四大貴族の中でも、極めて大きな力を持つ。
武力・財力・情報網、あらゆる要素を兼ね備えた、『最強の騎士』。
そんなハイゼンベルク公爵が、自ら進んで名乗りあげるなんて、夢にも思っていなかったのだろう。
(王選候補者は、騎士を選ぶ側であると同時に、騎士から選ばれる立場でもある……)
王選を制した候補者は、次代の国王として君臨する。
このとき王位獲得に貢献した騎士には、金銭・領地・ 勲章 ( くんしょう ) ・特権・ 宝物 ( ほうもつ ) など、莫大な褒美が与えられる。
( 反面 ( はんめん ) 、王選に敗れた他の陣営は――悲惨だ)
王族は『王位の正統性を脅かす恐れアリ』とされ、暗殺処刑・ 終身 ( しゅうしん ) 幽閉 ( ゆうへい ) ・国外追放になることが多く……。
騎士や貴族たちは、中央から追いやられ、 閑職 ( かんしょく ) に回される。
(この王選という儀礼は、王族だけの争いじゃない)
騎士として貴族として、どの候補者に就くか、たった一つの判断が家の 命運 ( みらい ) を決定づける。
王国の勢力図が全て塗り替わる、『世紀の大イベント』なのだ。
(そして第七王女は、王選の第一歩目、騎士の選定に苦戦する……)
アリシアは最弱の候補者、彼女に就いたところで、まず勝ちの目はない。
誰も負け戦に臨みたくないから、当然のことだね。
(多くの貴族を訪ね歩き、その全てに断られた彼女は、国内の有力者を調べ上げ――『とある血族』に目を付ける)
それが原作ロンゾルキアの主人公、『勇者』アレン・フォルティスだ
アリシアに頼まれたアレンは、持ち前の善人属性を 遺憾 ( いかん ) なく発揮し、これを 快諾 ( かいだく ) 。
二人は力を合わせて、『神の試練』に挑む。
アレンは勇気を、アリシアは知恵を振り絞り、過酷な旅を乗り越え……迎えた第六章の最終盤面、勇者の力を覚醒させた主人公が、大ボス『堕天使』ルシフェルに一太刀を浴びせる。
(このとき、主人公の可能性に魅せられたルシフェルは、そのままアレン陣営に加わってしまう……っ)
その後、王選を制したアリシアは、クライン王国の盟主に。
第七王女の騎士として、大立ち回りを演じたアレンは、世界中から注目を集め――第七章でさらなる飛躍を遂げる。
(これが第六章の 正史 ( メインルート ) だ)
ボクはこの流れを適度に 汲 ( く ) みつつ、主人公の 成長 ( レベリング ) を阻止しなくちゃいけない。
(今のアレンは、『主人公モブ化計画』によって、大きく弱体化している……)
いくら当代の勇者とはいえ、アリシアが騎士に選ぶとは考えにくい。
(でも……油断と慢心は、絶対に駄目だ)
主人公は世界の 寵愛 ( ちょうあい ) を受けた存在、どんな『ご都合主義』が起きるかわからない。
(例えば第二章では、主人公モブ化計画によって、アレンとエリザは繋がらず、簡単にクリアできる――はずだった)
しかし現実には、ご都合主義的なクソ展開が発生し、二人の間に繋がりが生まれ……少し面倒なことになった。
(アレンに対する最適解は、関わらない/関わらせないこと!)
では、どうするか?
答えは簡単だ。
(主人公を 王選 ( ものがたり ) から排除すればいい!)
そうすれば、ご都合主義的な展開は起こらない。
何せアレンは、 蚊帳 ( メインルート ) の 外 ( そと ) にいるんだからね。
( 第一王女 ( クリス ) ・ 第一王子 ( ツァリオン ) ・ 第二王子 ( ネードリヒ ) 、この三人はプライドが高いから、無名のアレンと組むことはない……)
おそらく他の四大貴族か有名な武人を雇うことだろう。
現状、主人公を騎士に選び、王選に招く可能性があるのは――第七王女アリシアのみ。
(つまり、ここでボクが第七王女と組めば、アレンは 王選 ( メインルート ) に関われない!)
もちろん、アリシアと組むことにデメリットはある。
彼女は王位継承権が最も低く、経済力も軍事力も政治力も、ほとんど何も持っていない。
早い話、王族の力を期待することができない、というわけだ。
(でも、大丈夫!)
この世界に転生して七年、ボクは謙虚堅実に努力を続け、『圧倒的な優位性』を確立した。
( 虚 ( うつろ ) ・ボイドタウン・ボスコレクション・ハイゼンベルク家当主の地位・皇帝との 関係 ( コネクション ) 、他にもたくさんの備えがある!)
これらを 駆使 ( くし ) すれば、アリシアの力を頼らずとも、王選をクリアできるだろう。
(結論、この盤面における最適解は――勇者の排除っ!)
第一章で建てた主人公モブ化計画を貫き、アレンをメインルートから追い出すのだ。
そうして状況を整えてから、ゆっくりと『神の試練』に挑めばいい。
(ボクとアリシアに課されるのは、どうせ『最難関のアレ』だろうけど……)
既に100通りの必勝戦略を用意しているので、王選については問題ない。
(ふふっ、『完璧な攻略チャート』だ!)
ここまで0.2秒。
ボクが自慢のプランを 反芻 ( はんすう ) していると、アリシアの口から疑問が発せられる。
「……ホロウ 卿 ( きょう ) 、いったい何を考えているのですか?」
彼女の声は、 微 ( かす ) かに震えていた。
不安・緊張・期待・疑念・動揺、様々な感情が入り混じっている。
(――ふふっ、ここだ!)
今こそ『例のアレ』を使い、アリシアの信用を勝ち取るとしよう。
ボクは伝家の宝刀を――完璧な貴族スマイルを抜き放ち、最高の模範解答を述べる。
「私の考えていることは一つ、王国の輝かしい未来です(ボクが支配する 理想郷 ( ユートピア ) だ!)」
次の瞬間、
「そう、ですか……っ( 悍 ( おぞ ) ましい、なんて邪悪な笑顔なの……ッ。やはりホロウ・フォン・ハイゼンベルクは邪悪、王国の闇であるハイゼンベルク家の当主だ)」
アリシアの警戒が、一気に強まった。
(……なんでぇ?)
笑顔は人間の最も美しい表情であり、相手の警戒心を下げて友好度を上げる――はず、だよね?
ボクが割と真剣に頭を悩ませていると、
(ホロウ 卿 ( きょう ) にはおそらく、いや間違いなく、何かしらの 謀 ( はかりごと ) がある。ただ……この申し出は 天啓 ( てんけい ) に等しい。私が王になれる確率が、完全な 零 ( ぜろ ) から一になる、 望外 ( ぼうがい ) の 僥倖 ( ぎょうこう ) ……)
アリシアは僅かな沈黙を経て――言葉を紡ぐ。
「……騎士の選定は、各陣営における最重要機密。この場での回答は、控えさせていただきます」
「承知しました」
「ただ、非常に興味深いお話です。また後日、お時間をいただけますか?」
「えぇ、もちろんでございます(ふふっ、釣れた釣れた!)」
アリシアとの話が無事に 纏 ( まと ) まったところで、ボクはスッと立ち上がり、貴族の列に戻っていく。
そのとき、
「――待てホロウ! 妾 ( わらわ ) との話が、まだ終わっておらぬぞ!」
第一王女クリスが声を荒げた。
その目は 憤怒 ( ふんぬ ) と 恥辱 ( ちじょく ) に濡れており、今にも飛び掛かって来そうな勢いだ。
一触即発の空気が流れる中、ボクが視線を横へ流すと――第一王子と第二王子が無言のまま頷いた。
「クリス、落ち着け(ホロウを抱き込むのが、最善の策ではあったが……。 現況 ( げんきょう ) において、クリスとの繋がりを 断 ( た ) つのが優先! ……しかしまぁ、存外に愚かな男よ。王選は総合力がモノを言う。アリシアという 荷物 ( ゴミ ) を抱えたままでは、絶対に勝ち抜けん!)」
「姉上、抑えてください(ホロウを騎士にするのが、ベストではあるものの……。今ここでは、クリス―ホロウのライン切りが 正着 ( せいちゃく ) ! ……ただ、欲を 掻 ( か ) いたな青二才め。なんぞ悪巧みをしているようだが、理想だけの 馬鹿女 ( アリシア ) と組んで勝てるほど、この王選は甘くない!)」
(ふふっ、キミたちの立場からすれば、そう動くよね)
他の候補者たちにとって、 第一王女 ( クリス ) とハイゼンベルク家の繋がりこそ、最大の脅威。
これを封じるためなら、ボクのために動いてくれる。
「 妾 ( わらわ ) を 虚仮 ( こけ ) にしおって……っ。ホロウ・フォン・ハイゼンベルク、楽に死ねると思うなよ……ッ!?」
クリスが灼熱の魔力が解き放つ中、
「こ、これより三日後、神殿にて『神の試練』を授かる! 王選候補者はそれまでに、己が騎士を選定し、『盟約』を結ぶように!」
大臣が慌てて話を結び、この場は解散となった。