エピローグ
エピローグ
頼みの三重結界を破られ、『チェック』を掛けられたラグナは、
「……てめぇらのせいで、俺の計画はもう 滅茶苦茶 ( めちゃくちゃ ) だ。くだらねぇ真似しやがって、『世界最強の召喚獣』が、また遠のいちまったじゃねぇか……」
がっくりと頭を落とし、不気味で異様な『圧』を放つ。
(おっ、これは『イベントシーン』に入ったね。ということは、 あの ( ・・ ) 『 最終攻撃 ( ラストアタック ) 』が来るな)
ラグナに一定のダメージを与えた状態で、<原初の 巨釜 ( おおがま ) ・三重結界>を解くと、『とあるイベント』が発生する。
「もう『上』の命令なんざ、『勇者因子の捕獲』なんざ、どうでもいい……。糞ムカつくてめぇらを、今ここで皆殺しにしてやらぁッ!」
彼が右手をあげると同時、天に浮かぶ黄金の巨釜が、ゆっくりと傾いた。
三重結界で吸い上げた膨大な魔力が、トプトプトプと空中に 注 ( そそ ) がれ――それはやがて『とある武器』を 象 ( かたど ) る。
「――<原初の 巨釜 ( おおがま ) ・ 神殺 ( かみごろ ) しの 槍 ( やり ) >!」
全長100メートルを超える黄金の槍が、レドリックの上空に出現した。
「おいおい、なんだよ、 アレ ( ・・ ) ……っ」
「と、とんでもねぇ魔力の塊だ……」
「あんなもん落とされたら、ひとたまりもねぇぞ……ッ」
周囲の学生たちが、恐怖に顔を引き 攣 ( つ ) らせる中、
「はっ、『 独活 ( うど ) 』か『 張 ( は ) り 子 ( こ ) 』か、中身のない魔法だ」
ホロウだけは、不敵な笑みを浮かべた。
(さてさて、何で 蹴散 ( けち ) らそうかな?)
三重結界が解けたことで、『魔法』と『魔力強化』が解禁されたため、いくらでもやりようはある。
(――よし決めた、殴り飛ばそう!)
シンプル・イズ・ベスト。
ホロウの最も得意とする手段だ。
(念のため、魔力強化だけはしておこうかな。手がジーンとなっても嫌だし)
リスク管理に 長 ( た ) けた彼は、右手に魔力強化を施し、『万全の迎撃態勢』を整える。
その直後、
「これで……終わりだァ!」
ラグナが両手を振り下ろし、<神殺しの槍>が放たれた。
(さて、やるか)
拳を固めたホロウが、足に力を込めたそのとき――『予想外の事態』が起こる。
「――ホロウくん、ここはボクに任せて」
なんと覚醒寸前の勇者が、最前線に躍り出たのだ。
「馬鹿お前、何を言っている!? 危険だ、下がれ!」
「ありがとう。でも、ボクは大丈夫だよ。なんだか今なら、 やれ ( ・・ ) そう ( ・・ ) な気 ( ・・ ) がするんだ」
「違う、お前の心配など一ミリもしていないっ! とにかく、引っ込んでいろッ!(そんな気持ちは、すぐに捨ててきなさい! 絶対にやるなよ? フリじゃないぞ!?)」
深紅の槍が迫る中、アレンは真剣な眼で、ホロウの瞳を真っ直ぐ見つめた。
「ボクは――ホロウくんに憧れているんだ」
「……はっ……?」
「でも、今のままじゃ駄目なんだ。キミに守ってもらっていたら、その大きな背中に隠れていたら、ホロウ・フォン・ハイゼンベルクに追い付けない……いや、追い越せないッ!」
天高く跳び上がったアレン、その体から神聖な光が溢れ出す。
(や、やめろ……っ)
脳裏に浮かぶのは、ロンゾルキアのトラウマ。
(ボクはこれまで、何度も見て来た。アレンの特異な力を、勇者因子の覚醒を、主人公が悪役貴族を滅ぼすところを……ッ)
原作ホロウの死亡シーンが、 走馬灯 ( そうまとう ) のように駆け巡る。
(やめろ、頼むから、やめてくれ……!)
悪役貴族の切なる願いも虚しく、
「――< 魔法反射 ( マジック・カウンター ) >ッ!」
『勇者因子』が覚醒し、 進化した ( ・・・・ ) 固有魔法 ( ・・・・ ) が炸裂する。
(い、いぃぃぃぃやぁああああああああああああああああああああああああ……ッッッ!!!???)
ホロウが声にならない絶叫をあげ、
「な、なんだと!?」
ラグナは驚愕に目を見開いた。
(<神殺しの槍>が跳ね返された!? いや違う、これはただの反射じゃねぇ! 内包された魔力が桁違いだ……っ)
< 魔法反射 ( マジック・カウンター ) >は、前方のあらゆる魔法を 二倍に ( ・・・ ) 増幅 ( ・・ ) して ( ・・ ) 跳ね ( ・・ ) 返す ( ・・ ) 。
(とにかく、このままじゃヤベェ……っ)
ラグナは 咄嗟 ( とっさ ) に固有を展開し、それを『盾』とした。
「の、呑み込んでやる! 全て! これしきの魔力! 俺の 巨釜 ( おおがま ) でぇええええええええッ!」
<原初の巨釜>の特性『吸収』を使い、なんとか 急場 ( きゅうば ) を 凌 ( しの ) ごうとする。
しかし、これだけの大魔力を瞬時に吸収し切れるわけもなく、
「お、おぉおおおおおおおおおおおおおおおお!?」
ラグナは遥か上空へ打ち上げられ、星となって消えた。
「……か、勝った、のか……?」
誰かがポツリと呟き――歓喜の声が湧きあがる。
「ぃやったーっ!」
「アレンの野郎、やりやがった!」
「いや、普通にホロウだろ。アイツ、どんだけ強いんだよ……」
「ばっひひーん! 3000万っ! 3000万ッ!」
「はぁはぁ、『ホロウ×アレン』……キチャッ!」
「馬鹿、ホロウ様は『誘い受け』よ? そこはやっぱり『アレン×ホロウ』でしょ!」
混沌とした会話が飛び交う中、
(……だ、駄目だ 主人公 ( こいつ ) 、早くなんとかしないと……っ)
ホロウは 幽鬼 ( ゆうき ) のような足取りで、 人目 ( ひとめ ) のないところへ移動し、<虚空渡り>を展開――静かにその場を離れた。
一方のアレンは、
(はぁはぁ……やった、ついにやったぞ! 勇者の力が覚醒したっ! < 零相殺 ( ゼロカウンター ) >が、< 魔法反射 ( マジック・カウンター ) >に進化したッ!)
強い充足感を覚えながら、グッと拳を握り締める。
「ホロウくん、今の見ててくれた……って、あれ?」
振り返るとそこに、『憧れの人』はいなかった。
そんな折、ニアとエリザが駆け付ける。
「凄いじゃないアレン、勇者の力が目覚めたのね?」
「魔法を反射する魔法、あれが勇者の固有なのか?」
「あっ、うん。それより二人とも、ホロウくんを見なかった?」
「ホロウならそっちに……あれ?」
「おかしいな。さっきまでそこにいたはずだが……」
周囲をグルリと見回すも、ホロウの姿はどこにもない。
「どうしたんだろう……何かあったのかな?」
「 あの ( ・・ ) ホロウに何かあるわけないじゃない。どうせまた悪巧みでしょ」
「 あの ( ・・ ) ホロウに何か起こるとは到底思えん。どうせまた悪巧みだろう」
臣下二人 ( ニアとエリザ ) は、ホロウの『武力』と『 謀略 ( ぼうりゃく ) 』に絶大な信頼を寄せていた。
そうしてレドリックが歓喜に 沸 ( わ ) く中――遥か北方の樹林より、『黄金の大魔力』が立ち昇る。
「「「なっ!?」」」
獰猛 ( どうもう ) にして狂暴なそれは、『 獣災 ( じゅうさい ) 』ラグナ・ラインのモノだ。
「そ、そんな……仕留め損なった……!?」
ラグナは<原初の 巨釜 ( おおがま ) >を以って、二倍に 増幅反射 ( ぞうふくはんしゃ ) された<神殺しの槍>を全て吸収し切ったのだ。
今や 巨釜 ( おおがま ) の中は 金色 ( こんじき ) に満たされており、彼の悲願である『世界最強の召喚獣』が、今ここに実を結ぼうとしていた。
未曽有 ( みぞう ) の事態を受けて、レドリックは大パニックとなる。
「おいおいおい、どうすんだよこれ!?」
「ラグナの野郎、絶対にまた来るぞ……っ」
「しかもあの魔力、さっきよりも遥かにデカくなってねぇか!?」
学生たちが恐慌状態に 陥 ( おちい ) る中、
「――みなさん、すぐにこの場を離れましょう! 慌てず落ち着いて、担任の先生ところへ移動してください!」
ニアは教師陣と連携して避難誘導を始め、
「聖騎士協会へ増援を要請しろ! それから王政府へ緊急の< 交信 ( コール ) >を飛ばせ!」
「「「はっ!」」」
エリザが配下の聖騎士たちへ指示を飛ばしたそのとき――『漆黒の大魔力』が天を貫く。
それと同時、
「「「……っ」」」
この場にいる全員が、 恐怖の ( ・・・ ) あまり ( ・・・ ) 動け ( ・・ ) なく ( ・・ ) なった ( ・・・ ) 。
心臓を鷲掴みにされたかのような感覚。
一挙一動が死に繋がる、そんな錯覚さえ覚えた。
それは文字通り、『異次元の大魔力』。
おどろおどろしい闇が、 汚泥 ( おでい ) のような黒が、 金獅子 ( ラグナ ) の輝きを 穢 ( けが ) していく。
「こ、この邪悪な魔力は……っ」
「間違いない、 あの男 ( ・・・ ) だ……ッ」
ニアとエリザが息を呑む中、
「さすがはホロウくん……ありがとう(ボクの失敗を見抜いて、ラグナを仕留めに行ってくれたんだね。やっぱり、まだまだ全然 敵 ( かな ) わないなぁ……っ)」
アレンはただ一人、『尊敬』と『 憧憬 ( どうけい ) 』を深めていた。
■
レドリック魔法学校より、遥か北方に広がるアース樹林。
その最奥に、突如として漆黒の渦が生まれ、『虚空の王』がゆっくりと姿を現す。
一人になれる場所を求めたホロウが、<虚空渡り>の転移先として選んだのが、ここだった。
「……」
念のため周囲を見回し、誰もいないことを確認した彼は、ゆっくりと膝から崩れ落ち、
「――くそったれがぁああああああああッ!」
固く握った右拳を思い切り振り下ろした。
天変地異も 斯 ( か ) くやという衝撃波が吹き荒れる中、ホロウはぐしゃぐしゃと深紅の髪を 掻 ( か ) き 毟 ( むし ) る。
「はぁ、はぁ……。くそ、甘かった……っ」
やはり主人公は、どこまで行っても主人公だ。
アレン・フォルティスは、『超巻き込まれ体質』。
彼が何をせずとも、トラブルを引き寄せ、トラブルに引き寄せられ……いずれ覚醒を果たす。
(アレンを戦いから遠ざけるだけじゃ駄目だ。もはや手段を選ばず、葬り去るしかない……っ)
ホロウはバッと顔を上げ、大きく息を吸い込む。
そして次の瞬間、
「「……くそがぁああああああああ……ッ!」」
二つの ( ・・・ ) 叫び ( ・・ ) がシンクロする。
「「……あ゛……?」」
顔を上げるとそこには――『 獣災 ( じゅうさい ) 』ラグナ・ラインがいた。
<神殺しの槍>に吹き飛ばされた彼は、偶然にも、このアース樹林へ落下していたのだ。
「「……ここで会ったが百年目、よくも『計画』の邪魔してくれたな」」
再びユニゾンを奏でる。
「「……あ゛……?」」
まるで合わせ鏡。
(なんだこいつ、ボクの真似ばかりしてくるな)
(なんだこいつ、俺の真似ばかりしてきやがる)
台詞 ( せりふ ) どころか、思考まで同じだ。
つい先ほど殺し合いを演じた二人だが……今ここで『最も憎らしい敵』は、やはり あの男 ( ・・・ ) 。
「アレン・フォルティス、まさかあんなタイミングで覚醒するとは……っ」
ラグナが 憎々 ( にくにく ) しげに呟き、
「全くもってその通りだ。なんなんだあのご都合主義的な展開は…… 虫唾 ( むしず ) が走るッ!」
ホロウはそれに強く同意する。
「「……」」
僅 ( わず ) かな沈黙。
「「お前……話せばわかるな」」
再び言葉が重なった。
どういうわけか、二人は妙に馬が合った。
出会い方が違えば、いい友達になれたかもしれない。
(……いや、今からでも遅くない。人間、いつだってやり直せる。そう、 理想郷 ( ボイドタウン ) ならね)
当初の目的――『ラグナ・ライン家族化計画」に立ち戻ったホロウは、嬉しそうに声を 弾 ( はず ) ませる。
「よく生きていたな、ラグナ。てっきり死んだかと思ったぞ?」
「くくっ、それも全て こいつ ( ・・ ) のおかげだ」
ラグナが右手を伸ばせば、黄金に輝く<原初の 巨釜 ( おおがま ) >が出現した。
「アレンの野郎には、むしろ感謝しなくちゃいけねぇかもな。あいつが<神殺しの槍>を強化・反射してくれたおかげで、<原初の巨釜>はついに満たされた!」
「ほぅ(あの一撃を吸収し切ったのか……。さすがは 起源級 ( オリジンクラス ) の固有、やっぱり基本 性能 ( スペック ) がデタラメに高いね)」
ホロウは満足気に微笑み、スッと右手を伸ばす。
「ラグナ、俺の『家族』になれ。そうすれば、命だけは助けてやる」
「……はっ、まさかこんなところで『スカウト』を受けるとはな」
「悪い話ではないぞ? 今は街の開発もかなり進んでいてな。個性豊かな仲間たちが、お前を待っている」
「くくっ、いいぜ。てめぇの下にでもなんでも 就 ( つ ) いてやるよ」
意外にもすんなりと応じたラグナだが、その瞳の奥には 猛々 ( たけだけ ) しい闘志が燃えている。
「もし万が一にも、『世界最強の召喚獣』に勝てればなァ!」
凶暴な笑みを浮かべた彼は、両手をパンと打ち鳴らす。
「見せてやる! 俺が長い修業の果てに辿り着いた『究極の秘術』をッ!」
次の瞬間、
「――<原初召喚・ 熾天使 ( してんし ) グラディア>!」
<原初の 巨釜 ( おおがま ) >が 眩 ( まばゆ ) い光を放ち、その内部に貯蔵した莫大な魔力を湯水の如く吐き出す。
大瀑布 ( だいばくふ ) と 見紛 ( みまご ) うばかりのそれは、輝く黄金の 奔流 ( ほんりゅう ) は、やがて一つの『 生命 ( いのち ) 』を 紡 ( つむ ) いだ。
「ふ、はは……ふはははははははは! やった、やったぞ、俺はついに成し遂げたんだ! 遥か原初の時代から、『伝説の熾天使』を! 『グラディアの魂』を呼び戻したッ!」
宙空に浮かぶ全長30メートルの純白――それこそが、熾天使グラディアだ。
神に創造された熾天使の 一柱 ( いっちゅう ) であり、『剣の 理 ( ことわり ) 』を 司 ( つかさど ) る化物。
神聖な輝きを放つ 威容 ( いよう ) ・羽毛のようなシルクのような純白の体表・背中に生えた六本の巨大な翼、その姿はまさに『天使』。
両手で握る巨大なメイスは、森羅万象を断ち切る、『剣の 理 ( ことわり ) 』を秘めた究極の一振りだ。
「ほぅ……見事なものだな」
ホロウの口から 零 ( こぼ ) れたのは――純粋な称賛。
彼にしては珍しく、皮肉や嫌味の 籠 ( こも ) っていない、心からの言葉だ。
(いや驚いた。まさかこんな序盤も序盤で、 熾天使 ( してんし ) を拝めるとは……)
眼前のグラディアは、これまでホロウが戦ってきた中でも『最強の敵』であり、決して第三章で登場していいレベルの存在じゃない。
もしもこれが『怠惰傲慢ルート』だったならば、『即BadEnd』となっていただろう。
(やっぱり召喚士と<原初の巨釜>の組み合わせは、めちゃくちゃ バケる ( ・・・ ) ね。まさに『要は使いよう』だ)
ホロウが感心していると、興奮した様子のラグナがバッと両手を広げる。
「俺はこの最強の力で、熾天使グラディアの剣で、世界を 統 ( す ) べる『王』となる! さぁホロウ、始めようか! いや、もう終わりにしようか!」
「あぁ、 これで ( ・・・ ) お前も ( ・・・ ) 家族だ ( ・・・ ) 」
『謙虚堅実な極悪貴族』が、飛び切り邪悪な笑みを浮かべた次の瞬間、
「……あ゛っ……?」
世界が ( ・・・ ) 斜めに ( ・・・ ) ズレた ( ・・・ ) 。
広大なアース樹林が、巨釜とラグナが、熾天使グラディアが、 真っ ( ・・ ) 二つに ( ・・・ ) 両断 ( ・・ ) された ( ・・・ ) のだ。
黄金の 釜 ( かま ) は大地の上を転がり、熾天使グラディアは 霧散 ( むさん ) する。
「て、てめぇ……何を、しやがった……ッ!?」
「――< 虚空斬 ( こくうざん ) >」
ホロウは虚空の魔力を宿す、不可視の刃を飛ばしたのだ。
それは『神速』・『不可視』・『防御不能』、三拍子揃った凶悪な性能を誇り、初見での回避はまず不可能。
原初の時代を生きた『剣を司る熾天使』でさえ反応できない、『厄災ゼノの斬撃』だ。
「<虚空>……なるほど、 そう ( ・・ ) いう ( ・・ ) こと ( ・・ ) か。道理でクソ 強 ( つえ ) ぇわけだ……ッ」
ラグナの口から血が 溢 ( あふ ) れ、斜めに 断 ( た ) たれた胴体が、ゆっくりズレ始めたそのとき、
「さぁ、約束だ。俺の下に就け」
ホロウは回復魔法を使い、泣き分かれたラグザの胴体を原子レベルで結び付けた。
「……お、おいおい、こりゃなんの冗談だ……っ(切断された胴体を、一瞬で繋げた? もはや回復魔法とかそんなレベルじゃねぇぞ!? 天魔十傑 ( てんまじゅっけつ ) の誰にも、 あの ( ・・ ) ボスにもできねぇ『神業』だ……ッ)」
虎の子の熾天使グラディアを破られ、 神域 ( しんいき ) の回復魔法を 魅 ( み ) せられたラグナは、
「――はっ、完敗だ。てめぇには負けたぜ、 ボイド ( ・・・ ) 」
まるで 憑 ( つ ) き 物 ( もの ) が落ちたように清々しい笑みを浮かべた。
「約束は約束だ。俺はてめぇの下に就く。どうせ子分をやんなら、ド派手にやってやらぁ! この力を使って、ボイドを『王』にしてやるよ!」
「ふっ、こんなに 活 ( い ) きのいい家族は、お前が初めてだぞ」
お互いに握手を結び、 和 ( なご ) やかな空気が流れた。
無理矢理に拉致するのではなく、相手から了承を取って家族へ迎える。
今回の事例は、非常にレアなケースだ。
「つーかよぉ、さっきからずっと気になってたんだが、『家族』ってのはどういう意味――」
ヌポン。
ラグナは漆黒の渦に 呑 ( の ) まれ、ボイドタウンへ飛ばされた。
(ラグナ・ライン――ゲットだぜ!)
起源級 ( オリジンクラス ) の固有魔法<原初の巨釜>を手に入れたホロウは、グッと拳を握り締める。
(ふふっ、ラグナの召喚士としての技量は確かなものだったし、低位の魔獣なら相当な数を操れるはず。これでボイドタウンは、一気に発展するぞっ!)
こうして目標の大ボスを――『無限の労働力』を確保したホロウは、ハイゼンベルクの屋敷へ飛ぶのだった。
■
ハイゼンベルクの屋敷に戻り、自室の椅子に腰掛けたボクは、長く深く息を吐く。
(ふぅー……さて、始めるか)
もはや恒例となった『章の振り返りタイム』だ。
(予想していたことだけど、この第三章は本当に忙しかったね)
メインどころは、だいたい三つかな?
・ボイドタウンで二つの巨大事業、武器の超大量産とニュータウンの設立を開始。
・リンとセレスさん、天才魔法研究者ケルビー 母娘 ( おやこ ) の確保。
・第三章の大ボス『獣災』ラグナを家族に迎え入れ、『無限の労働力』をゲット。
他にも帝国へ軽い警告を入れたり、魔法炉の調整を進めたり、チェスのイベントで 箔 ( はく ) を付けたり、カーラ先生を二重スパイにしたり……超大量のサブイベントをこなし、『将来の準備』を済ませた。
大切なところをしっかりと押さえ、細かい要素も完璧に拾い上げている。
(第三章の出来は――満点越えの120点……いや、150点だね!)
自分で言うのもなんだけど、本当に上手くやれたと思う。
冒頭に作った『攻略チャート』、アレがけっこう効いたかもしれないな。
(ただ最後に一つ、大きな 問題 ( トラブル ) が起きてしまった……)
そう、主人公アレン・フォルティスの『覚醒』だ。
彼の中に眠る勇者因子が、ついに目覚めてしまった。
(でも、よくよく考えれば、そこまで慌てふためくことはない)
勇者の固有魔法は、原作ロンゾルキアで唯一の『進化する固有魔法』。
今は最弱の< 零相殺 ( ゼロカウンター ) >から、二番目に弱い< 魔法反射 ( マジック・カウンター ) >へ進化しただけ。
本来ならこの覚醒は、第一章の途中で起きるはずだった。
しかし、ボクの企てた『主人公モブ化計画』によって、アレンは著しく弱体化し……今やもう第三章の 終着点 ( エンディング ) 。
単純計算、彼のレベリングは、二回り以上も遅れている。
(だから、そんなに慌てる必要はない)
ボクは依然として、『絶対的な有利盤面』を築いている。
(でも、それに 胡坐 ( あぐら ) を 掻 ( か ) いて、なんの対策も練らないのは――『怠惰傲慢』な行いだ)
その油断と慢心こそが、原作ホロウを何度も破滅へ導いてきた。
ここは『謙虚堅実』に 襟 ( えり ) を正し、なんらかの手立てを講じるべきだろう。
(実際のところ、今のアレンはまだかなり弱いけど……。この調子でひょいひょいと覚醒を続けられるのは、原作と同じ 水準 ( レベル ) まで強化されるのは、さすがにちょっとマズい)
勇者因子のさらなる覚醒を防ぐためには、アレンの覚醒条件を知っておく必要がある。
(勇者因子の覚醒条件は、『一定以上の経験値を獲得した状態で、とある情動を激しく揺さぶられること』)
前者の経験値については、先々代勇者ラウル・フォルティスとの修業によって満たされた。
そこはもう仕方がない。
(今ここで考えるべきは後者、『 とある ( ・・・ ) 情動 ( ・・ ) とは、いったいなんなのか?』だ)
あのときアレンは、ラグナの放った<神殺しの槍>に 晒 ( さら ) され、絶体絶命の危機に 瀕 ( ひん ) し――そこで勇者の力が目覚めた。
(当時の状況から考えて、引き金となったのは、焦燥・絶望・苦悩……。なんらかの『負の感情』であることは間違いない)
うーん……厄介だね。
アレンは『超巻き込まれ体質』、あらゆるトラブルに吸い寄せられ、一人で勝手に 窮地 ( きゅうち ) へ 陥 ( おちい ) る『典型的な主人公』だ。
このままじゃ、いつどんなイベントに巻き込まれて、何がきっかけで覚醒するかわかったもんじゃない。
(最も確実な手段は、主人公を 屠 ( ほふ ) ることなんだけど……。ボクがこの手で始末するのは、さすがにちょっと 危険 ( ・・ ) 過ぎる ( ・・・ ) )
今のアレンと戦った場合、ボクの勝率は99.9%。
十中八九、瞬殺だね。
(ただ…… あの ( ・・ ) 『呪われた勇者因子』は、千年前に 非業 ( ひごう ) の死を遂げた、『初代勇者』の 怨讐 ( おんしゅう ) ――憎悪に満ちた 煮凝 ( にこご ) りだ)
『虚空因子』を宿すボクが、ゼノの力を持つボクが、アレンを手に掛けた場合……どんな『暴走』が起こるかわからない。
殺 ( や ) るならばこの手を汚さず、他の第三者に殺ってもらうべきだ。
「……主人公をいい感じに始末できるような『超ビッグイベント』があれば、この先いろいろ楽になるんだけどなぁ……」
まっ、そんな都合のいい話はないよね。
(――さて、第四章はなんだったかな?)
第三章の振り返りもそこそこにして、次の章について思考を巡らせたそのとき――自室の扉が勢いよく開け放たれ、オルヴィンさんが駆け込んできた。
「ほ、ホロウ様、大変なことが……!」
「どうした、何があった?」
礼節を重んじる彼が、ノックもなしに入ってくるなんて、よほどの事態だろう。
「王国西部に…… あの ( ・・ ) 憎き ( ・・ ) 『 天喰 ( そらぐい ) 』が観測されましたッ!」
「 天喰 ( そらぐい ) ぃ……?」
あぁ、そうだったそうだった。
(次の第四章は、『 四災獣 ( しさいじゅう ) 天喰 ( そらぐい ) 編』だ)
ここはかなり大変だ。
何せ原作ロンゾキルア『前編』の 締 ( し ) め 括 ( くく ) り、第一章・第二章・第三章の『総決算』にあたる、とても大切な章だからね。
(ボクはそこでハイゼンベルク家の力を……否、『極悪貴族』ホロウ・フォン・ハイゼンベルクの力を見せ付ける。父ダフネスへ、四大貴族の当主たちへ、そして何より クラ ( ・・ ) イン ( ・・ ) 王国の ( ・・・ ) 王族 ( ・・ ) たちへ ( ・・・ ) !)
そのためにこの第三章で、いろいろと『仕込み』を済ませ――。
(……いや、待てよ)
このとき、ホロウ 脳 ( ブレイン ) がかつてないほどに回転し――『悪魔のルート』を構築した。
「く、くくくっ……ふははははははははッ! そうか、来たか、 来て ( ・・ ) くれ ( ・・ ) たか ( ・・ ) !」
「ぼ、坊ちゃま……?」
『四災獣』 天喰 ( そらぐい ) を利用して、主人公アレン・フォルティスを葬り去る!
そのための方程式が、今ここに導き出された!
(くくくっ、覚悟しておいてねアレン?)
次の第四章が、キミの『エンディング』だ!
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
【※読者の皆様へ、大切なお知らせ】
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
第1章はこれにて完結!
ちょうどキリのいいここで、皆様に大切なお願いがあります。
ほんの少しでも、ホロウの物語を楽しんでくださった方は、本作の『書籍版』を買って応援していただけないでしょうか?
書籍版には新規エピソード+美麗なイラストがたくさん収録されています!
Web版はプロットVer・書籍版は完全Ver、というぐらい完成度に差があるので、どうぞ手に取っていただけると嬉しいです!(KADOKAWA電撃文庫より好評発売中!)
商業の世界は売上が全て……っ。
本作を最後まで続けるためには、皆様の応援が必要不可欠なので、どうか何卒お願いしますッ!
私も完結まで書き切れるよう、全力で頑張ります!