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「さくらさんが休んだ日と、誰にも知られないお見舞い」

教育係のさくらには恋心を知られてはいけない。 — www.pixiv.net · All chapters

「さくらさんが休んだ日と、誰にも知られないお見舞い」

朝、いつものように会社へ向かったあなた。

今日はさくらさんに会える。

そう思いながら専務室へ向かっていると、スマートフォンが震えた。

画面を見ると、さくらさんからメッセージが届いていた。

さくら『おはようございます。本日、体調不良のため、お休みをいただくことになりました。急なご連絡になってしまい、申し訳ありません』

「……えっ?」

思わず足を止めた。

あなた「さくらさん、大丈夫かな……」

心配だった。

いつも優しく仕事を教えてくれて、困ったときには必ず助けてくれる人。

そんなさくらさんが、今日は会社に来ない。

あなた「……いや、落ち着け。体調が悪いんだから、今はゆっくり休んでもらわないと」

そう自分に言い聞かせ、返信を打った。

あなた『おはようございます。お仕事のことは気にせず、ゆっくり休んでください。何か必要なことがあれば、会社のほうはこちらで対応します』

送信。

あなた「……よし」

スマートフォンをしまった。

あなた(本当は、すごく心配だけど……)

あなた(恋心だけは、絶対に知られてはいけない!)

そう決意して、あなたは仕事を始めた。

ところが。

その日の会社では、思いもよらない小事件が待っていたのだった。

1.消えた重要書類と、慌てる社員たち

午前十時。

専務室で仕事をしていると、ドアが勢いよくノックされた。

コンコン、コンコン!

あなた「どうぞ」

ガチャッ!

美咲さんと、数人の社員が駆け込んできた。

美咲「専務! 大変です!」

あなた「ど、どうしたんですか?」

美咲「今日の午後に使う予定の重要な企画書が、見つからないんです!」

社員A「昨日、確かに会議室で確認したんですが……」

社員B「誰かが別の部署に持っていった可能性もあります!」

社員たちはすっかり慌てていた。

あなたは時計を確認する。

午後の会議まで、あと数時間。

あなた「……分かりました。まず、落ち着きましょう」

美咲「で、でも、もう時間が……!」

あなた「大丈夫です。誰かを疑う前に、最後に確認した場所と、その後の流れを整理しましょう」

その言葉に、社員たちは少しずつ落ち着きを取り戻した。

あなたはホワイトボードを使い、書類が最後に確認された時間、運ばれた場所、関係者の行動を順番に書き出していく。

あなた「昨日、会議室で確認したあと、誰が片づけましたか?」

社員A「私です。ただ、企画書を持ち出した記憶はありません」

あなた「では、片づけたとき、ほかの資料と一緒にまとめましたか?」

社員A「あっ……そういえば、別の部署から届いた資料がありました」

あなた「その資料は、どこへ?」

社員A「書類整理用の棚に……!」

あなた「確認してみましょう」

一同は、書類整理用の棚へ向かった。

しかし、そこにも企画書はない。

美咲「やっぱり、ありません……」

あなた「うーん……」

あなたは棚に残っているファイルを確認した。

すると、ひとつだけ不自然な点に気づいた。

あなた「……このファイル、表紙と中身が合っていませんね」

社員B「え?」

あなたがファイルを開くと、別の資料の間に、探していた企画書が挟まっていた。

美咲「あっ! ありました!」

社員A「よかった……!」

社員B「誰かが持ち出したわけじゃなかったんですね!」

あなた「おそらく、片づけるときに別の資料と一緒になってしまったんでしょう。次からは、保管場所を確認するチェック欄を作りましょうか」

社員たちは、ほっと胸をなで下ろした。

美咲「専務、すごいです! あんなに慌てていたのに、あっという間に解決しちゃいました!」

あなた「いえいえ。みんなが情報を出してくれたおかげですよ」

社員A「ありがとうございます!」

社員B「これで午後の会議にも間に合います!」

みんなが笑顔で部屋を出ていく。

あなたも、ようやく椅子に座った。

あなた「……ふぅ。小事件、解決」

そして、ふと隣の席を見る。

いつもなら、そこにはさくらさんがいる。

『ちゃんと休憩も取ってくださいね』

『その資料、私も確認いたします』

そんな声が聞こえてくる気がした。

あなた「……さくらさんがいたら、なんて言ったかな」

少しだけ、寂しくなった。

あなた(……早く元気になってほしいな)

2.さくらさんのいない昼休み

昼休み。

あなたは食堂で昼食を済ませ、いつもの庭へ向かった。

ベンチに腰を下ろし、スマートフォンを取り出す。

さくらさんとのメッセージ画面。

最後に送ったメッセージには、まだ返事がなかった。

あなた「……まあ、寝てるよな」

むしろ、返事がないほうが安心だった。

無理をしてスマートフォンを触るより、ゆっくり休んでいてほしい。

あなたは空を見上げた。

あなた「いつも仕事を頑張ってるもんな……」

思い返せば、さくらさんは自分の仕事だけでなく、周囲の社員の相談にも乗っていた。

あなたが困っているときも、必ず助けてくれた。

あなた「今度は、僕が何かしてあげたいな……」

そこまで考えて、ハッとする。

あなた「……いやいやいや!」

ベンチから少しだけ身を起こした。

あなた「何を考えてるんだ、僕は!」

あなた(お見舞いに行きたいなんて、そんなの……!)

あなた(いや、体調が悪い人を心配するのは普通だ。普通!)

あなた(……でも、さくらさんだから心配なんだよな)

自分の気持ちを整理できず、あなたは両手で顔を覆った。

そのとき。

美咲「……専務?」

あなた「うわっ!?」

振り返ると、美咲さんが立っていた。

美咲「何をそんなに慌てているんですか?」

あなた「い、いや! 午後の仕事について考えていただけです!」

美咲「そうですか?」

美咲さんは少し不思議そうに首をかしげた。

美咲「……さくらさん、早く元気になるといいですね」

あなた「……そうですね」

美咲「いつもお世話になっている方ですものね」

あなた「ええ。本当に」

その言葉だけは、嘘ではなかった。

3.仕事終わりに思いついたこと

午後も、あなたは仕事に集中した。

午前中の小事件をきっかけに、書類管理の手順を見直すことになったが、社員たちと協力して無事にまとめ上げた。

そして、定時。

あなた「今日もお疲れさまでした」

社員たちに挨拶をして、専務室を出る。

帰り道、駅へ向かいながら、ふとコンビニが目に入った。

あなた「……あ」

店内に入ると、ゼリー飲料やスポーツドリンクが並んでいた。

あなたは足を止める。

あなた(さくらさん……ちゃんと水分を取れてるかな)

あなた(食欲がなくても、ゼリーなら食べられるかもしれない)

もちろん、体調によっては食べられないこともある。

だから、無理に飲んだり食べたりしてほしいわけではない。

ただ、少しでも役に立てるなら。

あなたはゼリー飲料をいくつかと、スポーツドリンクを手に取った。

あなた「……よし」

レジで会計を済ませ、袋を持って店を出た。

それから、少し迷った。

あなた(……家まで行くのは、急に訪ねたら迷惑かもしれない)

あなた(インターホンを鳴らして、無理に出てもらうのも違う)

しばらく考えた末、あなたは以前さくらさんから聞いていた自宅の近くまで向かった。

もちろん、家の敷地には入らず、人目につかない場所を探すのでもなく、通行の邪魔にならない安全な場所を選ぶ。

そして、さくらさんが受け取れるよう、近くの管理人さんに事情を説明して預かってもらうことにした。

あなた「すみません。さくらさんに、体調がよくなってからで構わないので渡していただけますか?」

管理人「分かりました。お知り合いの方ですね」

あなた「はい。会社の者です。どうか、無理のないときにお願いします」

管理人「承知しました」

これなら、さくらさんを起こさずに済む。

あなたは、袋に添えた小さなメモをもう一度確認した。

『お大事にしてください。お仕事のことは心配しないで、ゆっくり休んでくださいね。』

名前は書かなかった。

けれど、筆跡で分かってしまうかもしれない。

あなた「……いや、まさかね」

自分で書いた文字を見つめ、少しだけ顔が熱くなった。

あなた「……帰ろう」

振り返らずに歩き出した。

本当は、さくらさんの顔を見て安心したかった。

でも今は、それよりも、ゆっくり休んでほしかった。

4.翌朝、さくらさんから届いたメッセージ

翌朝。

あなたが専務室でパソコンを起動していると、スマートフォンが震えた。

さくらさんからだった。

さくら『おはようございます。昨日は急にお休みをいただき、申し訳ありませんでした。おかげさまで、少しずつ回復しています』

あなた「……よかった」

思わず、笑顔がこぼれた。

すぐに返信する。

あなた『おはようございます。よかったです! でも、まだ無理はしないでくださいね』

すると、すぐに返事が来た。

さくら『ありがとうございます。実は昨日、家の近くで会社の方から預かり物が届いていたんです』

あなた「…………え?」

心臓が跳ねた。

さくら『ゼリーとスポーツドリンク、それからメッセージも添えてありました』

あなた「……っ!」

あなた(管理人さん、もう渡してくれたのか……!)

さくら『どなたが用意してくださったのか分からないのですが、とても嬉しかったです』

あなたはスマートフォンを握りしめた。

あなた(よかった……!)

しかし、次のメッセージで固まった。

さくら『もしかして、あなたですか?』

あなた「…………」

ドクン。

ドクン、ドクン。

あなた「な、なぜ分かった!?」

思わず声に出してしまった。

ちょうど専務室に入ってきた美咲さんが、目を丸くする。

美咲「専務? どうかしました?」

あなた「な、何でもありません!」

美咲「スマートフォンを持ったまま、すごく赤くなっていますけど……」

あなた「気のせいです!」

美咲「そうですか……?」

美咲さんが不思議そうに首をかしげる中、あなたは必死に返信を考えた。

否定する?

でも、さくらさんに嘘をつきたくない。

かといって、正直に認めたら、心配していた気持ちまで伝わってしまうかもしれない。

あなた(落ち着け……! ただのお見舞いだ。ただの、お見舞い……!)

そして、ようやく返信した。

あなた『……はい。昨日、少しだけ用意させていただきました。突然訪ねるのもご迷惑かと思い、預けていただきました。体調が悪いときに、すみません』

送信。

数秒後。

さくら『謝らないでください』

あなた「……え?」

さくら『とても嬉しかったです。本当に、ありがとうございます』

あなたは画面を見つめた。

さくら『あなたは、いつも周りの方を気遣っていらっしゃいますね』

さくら『でも、ご自身のことも大切にしてくださいね』

あなた「…………」

胸が、きゅっと締めつけられた。

あなた(……ああ、もう)

あなた(そんなこと言われたら、ますます好きになってしまうじゃないか……)

もちろん、その気持ちは送信しない。

代わりに、あなたは短く返信した。

あなた『ありがとうございます。さくらさんも、ゆっくり休んでくださいね』

さくら『はい。元気になったら、また会社でお会いしましょう』

あなた「……はい」

誰もいない専務室で、小さく返事をした。

そして、スマートフォンを胸元から離し、深呼吸する。

あなた「……よし。今日も仕事、頑張ろう」

昨日の小事件は解決した。

さくらさんも、少しずつ元気になっている。

それだけで、今日はいつもより頑張れそうだった。

……ただし。

さくらさんが出社したとき、あのゼリーとスポーツドリンクのお礼を直接言われたら。

あなたの心臓が無事でいられるかどうかは、また別の話である。