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「初めて怒った専務と、隠しきれなかった限界」

教育係のさくらには恋心を知られてはいけない。 — www.pixiv.net · All chapters

「初めて怒った専務と、隠しきれなかった限界」

朝のオフィス。

あなたはいつものように専務室へ向かっていた。

「よし、今日も一日頑張ろう。みんなが働きやすい会社にするためにも、できることをやらないとな」

パソコンを立ち上げ、今日の予定を確認する。

いつもと変わらない一日のはずだった。

しかし、午前十時。

「……え?」

あなたのもとに、慌てた様子の美咲さんが駆け込んできた。

「専務、大変です!」

「どうしたんですか、美咲さん?」

「取引先との合同企画の件なんですが……先方の担当者が、うちの社員たちに無理な要求をしているんです。それに、こちらのミスではないのに、全部うちの責任だと……!」

美咲さんの後ろには、疲れ切った顔をした社員たちがいた。

「私たち、何度も説明したんです。でも、話を聞いてもらえなくて……」

「……そうですか」

あなたは静かに立ち上がった。

いつもなら、まず状況を整理する。

相手の話を聞き、できる限り穏便に解決する。

誰かが困っていれば、笑顔で手を差し伸べる。

それが、あなたのやり方だった。

けれど。

社員の一人が、俯きながら呟いた。

「僕たちがもっと頑張ればよかったんです。専務に迷惑をかけてしまって……」

その言葉を聞いた瞬間。

あなたの中で、何かが変わった。

「……違います」

「え?」

「皆さんは、十分頑張っています」

あなたは社員たちを見渡した。

「何日も残って資料を作って、何度も修正して、先方の要望にも応えてきた。それなのに、これ以上、皆さんだけが我慢する必要はありません」

いつも穏やかなあなたの声に、初めてはっきりとした怒りが滲んでいた。

「専務……?」

美咲さんも驚いていた。

あなたはジャケットを整え、会議室へと向かった。

「僕が話してきます」

1. 初めて見せた、本気の怒り

会議室には、取引先の担当者が二人いた。

あなたが席に着くと、担当者の一人が不機嫌そうに口を開いた。

「ようやく責任者が来ましたか。そちらの社員の対応が悪いので、追加作業をすべて無償でやっていただきたい」

「その件についてですが、追加作業は当初の契約範囲を超えています」

「だから何です? そちらが対応するのは当然でしょう」

「当然ではありません」

担当者が眉をひそめた。

あなたは持参した資料を机に置いた。

「こちらが、これまでの打ち合わせ記録です。追加された要望、変更された納期、そして、その都度こちらが対応した内容をまとめています」

一つずつ、事実を説明していく。

しかし、担当者は資料をろくに見ようともしなかった。

「そんな細かいことはどうでもいいんですよ。そちらの社員が何とかすれば済む話でしょう?」

その瞬間。

あなたは、机に置いていた手をぎゅっと握った。

「……いい加減にしてください」

会議室の空気が凍った。

担当者だけでなく、同席していた社員たちまで息を呑む。

あなたが声を荒らげることなど、誰も見たことがなかった。

「うちの社員を、何だと思っているんですか」

「なっ……!」

「皆さんにも生活があります。家族がいて、守りたいものがあって、それでも会社のために一生懸命働いているんです」

あなたの声は震えていた。

怒りだけではない。

今まで、あなたが見てきた社員たちの努力が、頭の中を駆け巡っていた。

困っている同僚を助ける人。

誰かが失敗すれば、責めるのではなく一緒に解決しようとする人。

自分の仕事が終わっても、遅れている人を手伝う人。

そんな人たちが、理不尽な要求のために自分を責めている。

それが、どうしても許せなかった。

「こちらに至らない点があれば、責任を持って改善します。それは当然です」

あなたは、相手の目をまっすぐ見た。

「ですが、契約にない仕事を当然のように押しつけたり、社員の努力を無視して一方的に責任を負わせたりすることは、認められません」

「専務、少し落ち着いて……」

隣の社員が小声で言った。

けれど、あなたは止まらなかった。

「僕は、社員を守る立場にいます。皆さんが安心して働ける環境をつくるのも、僕の仕事です」

そして、最後に。

「このままの条件では、お引き受けできません。契約と記録に基づいて、改めて協議してください」

会議室は静まり返っていた。

しばらくして、取引先のもう一人の担当者が口を開いた。

「……こちらの説明にも問題があったようです。申し訳ありません。条件を整理して、改めて話し合いましょう」

ようやく、話し合いは正常な方向へと進み始めた。

あなたは深く息を吐いた。

「……ありがとうございます。こちらも、誠実に対応いたします」

会議が終わり、あなたは社員たちと一緒に会議室を出た。

そのときだった。

「専務……」

美咲さんが、目を潤ませながらあなたを見つめた。

「私たちのために、怒ってくださったんですね」

「えっ?」

「いつも、私たちのことを助けてくださるのに……今日は、あんなに真剣に……」

「い、いや、その……」

急に恥ずかしくなった。

「当然のことをしただけですよ。僕は専務ですから」

そう言って笑おうとした。

けれど。

「……っ」

一瞬、視界が揺れた。

足元がふらつく。

「専務?」

「だ、大丈夫です。ちょっと、疲れただけで……」

あなたは壁に手をついた。

美咲さんの表情が変わった。

「ちょっと待ってください。顔色、悪いですよ?」

「そんなことないですよ。午後の予定もありますし……」

「専務!」

その声に、廊下の向こうから一人の女性が駆け寄ってきた。

さくらさんだった。

2. さくらさんだけが気づいた異変

「何があったんですか?」

さくらさんはあなたの顔を見た瞬間、表情を変えた。

「……あなた?」

「さ、さくらさん。お疲れさまです」

「お疲れさまです、ではありません」

いつもの丁寧な口調。

けれど、声には明らかな心配が混じっていた。

「顔色が真っ青ですよ。どうされたんですか?」

「いや、ちょっと取引先と話をしていただけで……」

「それだけで、そんな顔になりますか?」

「……なりませんね」

思わず正直に答えてしまった。

さくらさんは小さくため息をついた。

「美咲さん、何があったのか教えていただけますか?」

美咲さんは、先ほどの出来事を説明した。

社員たちへの理不尽な要求。

あなたが一歩も引かずに、みんなを守ったこと。

そして、会議が終わった途端にふらつき始めたこと。

話を聞くにつれて、さくらさんの表情が柔らかくなった。

「……そうだったんですね」

彼女はあなたを見つめた。

「あなたが、皆さんのために」

「……はい。でも、少し言いすぎたかもしれません」

「いいえ」

さくらさんは、きっぱりと言った。

「守るべきもののために、きちんと意見を伝えたんですよね。私は、間違っていなかったと思います」

「さくらさん……」

「ただし」

彼女は一歩近づいた。

「ご自分の体調を無視していい理由にはなりません」

「……あ」

「最近も、お仕事を抱え込みすぎていましたよね?」

「そ、それは……」

「他の部署の仕事を手伝って、社員の相談に乗って、専務としての業務もこなして。今日だって、朝からほとんど休んでいないのではありませんか?」

図星だった。

あなたは目を逸らした。

「……少しだけです」

「少しだけ、ですか?」

「……はい」

さくらさんは、じっとあなたを見つめた。

「では、質問を変えます。朝食は召し上がりましたか?」

「……」

「お昼は?」

「……まだです」

「水分は?」

「……朝に少し」

沈黙。

美咲さんが、そっと顔を覆った。

「専務……!」

「い、いや! 仕事が一段落したら食べようと思っていたんです!」

「その一段落が、いつまでたっても来ないんでしょう?」

さくらさんの声が、ほんの少しだけ低くなった。

「……はい」

「もう。あなたという人は……」

そう言いながら、さくらさんはあなたの腕をそっと支えた。

「医務室へ行きましょう。今すぐです」

「でも、午後の会議が……」

「延期します」

「えっ?」

「私が調整します。美咲さん、皆さんにもそう伝えてください」

「分かりました!」

美咲さんは力強く頷いた。

あなたは慌てて口を開く。

「いや、本当に大丈夫ですから! 自分で歩けます!」

「では、歩いてください。ただし、私が付き添います」

「……はい」

さくらさんの有無を言わせない笑顔に、あなたはついに観念した。

その笑顔は優しかった。

けれど、少しだけ怒っていた。

そして何より。

とても、心配してくれていた。

3. 医務室で、初めて聞いた本音

医務室のベッドに腰掛けると、あなたはようやく大きく息を吐いた。

看護担当者に状態を確認してもらい、休むように言われる。

さくらさんは、あなたのそばの椅子に座っていた。

「……さくらさん。午後の仕事、本当に大丈夫ですか?」

「大丈夫です。必要な連絡は済ませました」

「でも、僕がやらないといけない仕事が……」

「今は仕事の話をしないでください」

「……はい」

即答だった。

さくらさんは少しだけ困ったように笑った。

「あなたって、本当に不思議な人ですね」

「不思議、ですか?」

「はい。ご自分が困っているときは、いつも大丈夫だとおっしゃるのに。他の方が困っていると、すぐに助けようとするんですから」

「……それは」

あなたは、天井を見上げた。

「みんなが頑張っているのを知っているからです」

「……」

「誰かが困っていたら、助けたいんです。僕が少し頑張れば、その人が楽になるかもしれない。そう思うと、つい……」

そこで言葉が途切れた。

「今日だって、社員のみんなが自分たちのせいだと思い込んでいて。それを見たら、なんだか……悔しくなってしまって」

あなたは苦笑した。

「普段、あまり怒らないので、自分でもびっくりしました」

すると、さくらさんが静かに言った。

「……私は、嬉しかったです」

「え?」

「あなたが、皆さんを大切に思っていることが伝わってきましたから」

さくらさんは膝の上で手を重ねた。

「あなたは、いつも誰かを助けています。誰かが困っていれば手伝って、失敗した人を責めず、頑張っている人をちゃんと見ている」

「……」

「そんなあなたが、初めてあんなふうに怒ったんですもの」

彼女は微笑んだ。

「きっと、それだけ皆さんのことが大切なんですね」

胸が、ドクンと鳴った。

(……やめてくれ)

(そんな優しい顔で、そんなことを言わないでください……!)

(好きな人にそんなことを言われたら、心臓が持たない……!)

あなたは慌てて布団を引き上げた。

「……あの、さくらさん」

「はい?」

「少し、眠ってもいいですか?」

「もちろんです」

「ありがとうございます……」

顔を隠すために、あなたは布団に潜り込んだ。

さくらさんは不思議そうに首を傾げた。

「……急に恥ずかしくなってしまったのでしょうか?」

「ち、違います!」

「ふふっ。では、そういうことにしておきますね」

(完全にバレてる気がする……!)

あなたは布団の中で、心臓の鼓動を必死に落ち着かせた。

けれど、その直後。

「……っ」

頭がずきりと痛み、身体のだるさが強くなった。

「……さくらさん」

思わず、小さな声が漏れた。

「はい。どうしました?」

「……少し、頭が痛くて」

さくらさんの顔から笑みが消えた。

「分かりました。無理に話さなくていいですよ。すぐに担当の方に伝えますね」

彼女はすぐに看護担当者を呼び、あなたの状態を伝えた。

その後も、あなたが落ち着くまで、さくらさんはそばを離れなかった。

4. 眠っているあなたに、さくらさんが告げたこと

しばらくして、あなたは静かな寝息を立て始めた。

さくらさんは、そっと椅子に座り直した。

「……もう」

呆れたように呟く。

「本当に、無茶ばかりするんですから」

けれど、その表情は優しかった。

彼女は、眠っているあなたを見つめた。

「今日、あなたが怒った理由……よく分かりました」

誰もいない医務室。

さくらさんは、小さな声で続けた。

「みんなのことが大切なんですね」

そして、少しだけ俯く。

「……私も、あなたに助けられてばかりです」

以前、仕事がうまくいかずに悩んでいたとき。

忙しさに追われて余裕をなくしていたとき。

あなたはいつも、何も言わずに手を差し伸べてくれた。

特別な見返りを求めることもなく。

ただ、困っている人を助けたいから。

その姿を見るたび、さくらさんの胸には、言葉にできない温かさが広がっていた。

「だから……」

彼女は、眠っているあなたに向かって微笑んだ。

「あなたにも、誰かに頼ってほしいんです」

その声は、いつもの教育係としての声よりも、少しだけ柔らかかった。

「あなたが倒れてしまったら……私は、とても心配ですから」

言い終えてから、さくらさんは自分の言葉に気づいた。

「……あ」

頬が、ほんのり赤くなる。

「い、いえ。教育係として当然の心配です。そう、当然です……!」

誰も聞いていないのに、慌てて言い訳をする。

そして、眠っているあなたをもう一度見つめた。

「……早く元気になってくださいね」

彼女は、そっと微笑んだ。

「また、いつもの笑顔を見せてください」

5. 目を覚ますと、そこには……

一時間ほど経った頃。

「……ん」

あなたはゆっくりと目を開けた。

「……ここは」

「医務室ですよ」

すぐそばから声がした。

「さ、さくらさん!?」

驚いて身体を起こそうとすると、さくらさんがすぐに手を差し出した。

「まだ急に起き上がらないでください」

「す、すみません……」

「謝らなくていいんです。具合はいかがですか?」

「さっきよりは、だいぶ楽になりました」

「よかった……」

その一言を聞いて、あなたは少しだけ安心した。

しかし、ふと気づいた。

「……さくらさん、ずっとここに?」

「はい」

「えっ!? 仕事は!?」

「必要なものは美咲さんたちと分担しました。午後の予定も調整済みです」

「そ、そんな……僕のせいで……」

「あなたのせいではありません」

さくらさんは、まっすぐにあなたを見つめた。

「皆さん、あなたに休んでほしいと思っているんですよ」

「……え?」

「美咲さんから伝言です」

彼女はスマートフォンを取り出し、メッセージを読み上げた。

「『専務、今日は私たちに任せてください。いつも助けてもらってばかりなので、今度は私たちが頑張ります。だから、ゆっくり休んでください』……だそうです」

「……みんな」

胸の奥が、じんわりと温かくなった。

「……そっか」

あなたは小さく笑った。

「僕、ちゃんとみんなに頼ってもいいんですね」

「もちろんです」

さくらさんも笑った。

「むしろ、もっと頼ってください」

「……ありがとうございます」

そのとき、あなたのお腹が小さく鳴った。

ぐぅ。

「…………」

「…………」

沈黙。

あなたはゆっくりと布団を顔まで引き上げた。

「……今のは、聞かなかったことに」

「ふふっ」

さくらさんが笑った。

「朝からあまり召し上がっていないんですから、当然ですよ」

「うぅ……」

「消化のよいものを用意してもらいますね。食べられそうなら、少しずつ召し上がってください」

「……さくらさん」

「はい?」

「本当に、ありがとうございます」

今度は、目を逸らさなかった。

「今日、僕が怒れたのは……みんながいたからだと思います」

「……」

「いつもみんなが頑張っているから、今度は僕が守りたかったんです」

あなたは照れくさそうに笑った。

「でも、僕もまだまだですね。自分のことも、ちゃんと考えないと」

さくらさんは、嬉しそうに目を細めた。

「……はい。そうしてください」

そして、少しだけ意地悪な笑顔を浮かべる。

「では、約束です」

「約束?」

「体調が悪いときは、きちんと申告すること。お仕事を抱え込みすぎないこと。そして、休むときは休むこと」

「……はい」

「よろしいですね?」

「はい……」

「ふふっ。よくできました」

(…………)

(待って)

(今の笑顔、可愛すぎないか!?)

(いや、待て。今は体調回復に集中しろ、僕!)

あなたの心臓が、ドクン、ドクンと鳴り始める。

さくらさんは、そんなあなたを見て首を傾げた。

「……あら? また顔が赤くなっていますよ?」

「ね、熱があるのかもしれません!」

「では、もう一度確認してもらいましょうか?」

「い、いえ! たぶん、気のせいです!」

「本当ですか?」

「ほ、本当です!」

さくらさんは、くすくすと笑った。

「……では、今日は特別に信じておきますね」

(助かった……!)

……と思った、その直後。

「ただし、明日も無理をしていたら、もっと厳しく注意しますからね?」

「……はい」

あなたは素直に頷いた。

さくらさんの笑顔を見ながら、心の中で誓った。

(みんなを守るためにも、自分を大切にしよう)

(それに……さくらさんに、これ以上心配をかけたくない)

その気持ちだけは、誰にも知られないように。

あなたは、そっと布団の中で顔を隠した。

しかし。

「……ふふっ」

さくらさんは、あなたの様子を見て微笑んでいた。

「本当に、分かりやすい方ですね」

「えっ!? 何がですか!?」

「秘密です」

「さ、さくらさん!?」

いつもの穏やかな医務室に、二人の笑い声が響いた。

後日談「社員たちからの、まさかの反撃」

翌日。

あなたが専務室に入ると、机の上に一枚の紙が置かれていた。

そこには、大きな文字でこう書かれていた。

『専務・強制休憩推進委員会』

「…………何これ?」

ドアが開いた。

美咲さんを先頭に、社員たちがぞろぞろと入ってきた。

「専務! 本日の予定を確認させていただきます!」

「えっ、何ですか!?」

「午前中は通常業務。ただし、一時間ごとに休憩!」

「一時間ごと!?」

「昼食は必ず食堂で!」

「いや、専務室で食べても……」

「食堂です!」

「は、はい!」

さらに別の社員が、書類を差し出す。

「こちら、専務の仕事を分担するための一覧です!」

「ええっ!? こんなに準備してくれたんですか!?」

「いつも専務に助けていただいていますから!」

「今度は、私たちの番です!」

あなたは、思わず目を潤ませた。

「……みんな」

「専務、泣かないでくださいよ!」

「泣いてません! ちょっと目にゴミが……!」

「昨日も同じことを言っていましたね!」

そのとき、入口からさくらさんが顔を出した。

「皆さん、ありがとうございます。私からも、よろしくお願いしますね」

「さくらさんまで!?」

さくらさんは、あなたに優しく微笑んだ。

「専務。昨日、約束しましたよね?」

「……はい」

「今日は、ちゃんと休憩してくださいね」

「……はい」

「よろしいです」

あなたは椅子に座り直した。

社員たちは満足そうに頷き、美咲さんは小さくガッツポーズをした。

そして、さくらさんはあなたにだけ聞こえる声で囁いた。

「……昨日、皆さんを守ってくださったこと。私、とても素敵だと思いましたよ」

「…………っ!?」

ドクンッ!!

あなたの顔が一瞬で真っ赤になった。

「さ、さくらさん!? そ、それは……!」

「ふふっ。では、お仕事頑張ってくださいね」

彼女は最高の笑顔で、ウインクをひとつ。

そして、何事もなかったかのように部屋を出ていった。

「…………」

あなたは机に突っ伏した。

(……無理だ)

(恋心を隠すの、難しすぎる……!)

その様子を見ていた美咲さんが、首を傾げる。

「専務? どうかしました?」

「……何でもありません」

「本当に?」

「……はい」

美咲さんは、にっこり笑った。

「では、まずは休憩しましょう!」

「まだ仕事を始めて五分しか経ってないんですが!?」

オフィス中に笑い声が広がった。

こうしてあなたは、社員たちに支えられながら、少しずつ自分自身も大切にすることを覚えていくのだった。

そして、さくらさんは今日も、あなたのことを気にかけていた。

恋心は、まだ秘密。

けれど、あなたを大切に思う気持ちは、少しずつ二人の間に積み重なっていた。