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「もしも、あなたと結婚したら……? 休暇中に始まった二人の妄想」

教育係のさくらには恋心を知られてはいけない。 — www.pixiv.net · All chapters

「もしも、あなたと結婚したら……? 休暇中に始まった二人の妄想」

1.さくらさんの休日、なぜか浮かぶのはあなたの顔

土曜日。

さくらは自宅のソファに座り、温かい紅茶を飲んでいた。

今日は久しぶりの休暇。会社のことは忘れて、ゆっくり過ごすつもりだった。

……だったのだが。

「……はぁ」

なぜか、ため息が出てしまう。

「お休みの日くらい、仕事のことは忘れないといけませんね」

そう言いながら、テーブルの上に置かれたスマートフォンをちらりと見る。

あなたからの連絡はない。

もちろん、今日はあなたも休暇なのだから、連絡がないのは当たり前だ。

「……今頃、何をしていらっしゃるのでしょうか」

口にした瞬間、さくらは固まった。

「……っ!?」

(な、何を考えているのですか、私は!)

あなたは部下であり、以前は教育係として指導していた大切な社員。

今では専務として、社員みんなを支える頼もしい存在。

そして何より――。

(……好き、なのですよね)

自分の気持ちを自覚してからというもの、あなたの何気ない言葉や笑顔が頭から離れない。

困っている社員を見つければ、真っ先に助けに行く。

自分が疲れていても、周りを気遣う。

そして、さくらが疲れているときには、何も言わずに仕事を手伝ってくれる。

(もしも……あの人と一緒に暮らせたら……)

そこまで考えて。

「…………え?」

さくらの頬が、みるみる赤くなった。

「い、一緒に暮らす……!?」

慌てて紅茶を飲む。

しかし、想像は止まらなかった。

2.妄想その1――もしも、あなたと結婚したら

さくらの頭の中に、ある光景が浮かんだ。

朝。

「さくらさん、朝ですよ。そろそろ起きないと遅刻しますよ」

あなたが優しく声をかけてくれる。

「……あと五分だけです」

「昨日も同じことを言っていましたよ?」

「……あなたが起こしてくださるなら、もう少しだけ」

「それじゃあ、朝ご飯が冷めちゃいますよ」

「……分かりました。起きます」

あなたが笑いながら差し出してくれた手を、さくらがそっと握る。

そして、二人で朝食を食べる。

「今日のお弁当、作っておきましたよ」

「ありがとうございます。……あなたの分も作りましたからね」

「えっ、僕の分まで?」

「夫婦なのですから、当然でしょう?」

「……夫婦?」

「…………」

妄想の中のさくらは、そこで顔を真っ赤にしてしまった。

「……っ!」

現実のさくらも、クッションを抱きしめる。

「な、何を想像しているのですか、私は……!」

しかし、妄想はさらに続いてしまう。

仕事から帰ってきたあなた。

「ただいま、さくらさん」

「おかえりなさい。今日もお疲れさまでした」

「さくらさんも、お疲れさまです」

あなたが自然に笑いかける。

「……夕食、できていますよ」

「ありがとうございます。あ、そうだ。明日は休みですし、一緒に出かけませんか?」

「……っ!」

「さくらさん?」

「い、いえ! 何でもありません!」

(毎日、こんなふうに過ごせたら……)

さくらはクッションに顔を埋めた。

「……幸せ、ですね」

ぽつりとこぼれた本音。

そして、数秒後。

「~~~~っ!!」

自分で自分の妄想に耐えられなくなり、ソファの上でじたばたしてしまった。

3.美咲さんも、同じことを考えていた

一方、その頃。

美咲も自宅で休日を満喫していた。

……はずだった。

「もしも、あの人と結婚したら、かぁ……」

スマートフォンを片手に、ぼんやりつぶやく。

きっかけは、昨日の会社での出来事だった。

あなたは社員たちの仕事を丁寧に振り分け、忙しい人には手助けを申し出ていた。

美咲が書類を抱えて困っていると、あなたは笑顔で言ったのだ。

『美咲さん、無理しないでくださいね。僕にできることなら、いつでも手伝いますから』

ただ、それだけ。

それだけなのに。

「……あの人、誰にでも優しいんだよね」

美咲はクッションを抱きしめた。

「でも、結婚したら……」

そして、想像してしまった。

休日の朝。

「美咲さん、朝ご飯できましたよ」

「えっ、もうできたの?」

「はい。美咲さん、昨日疲れていたみたいだったので」

「……そういうところだよね、ほんと」

照れくさそうに笑いながら、あなたの隣に座る美咲。

食事を終えたあなたが、ふと尋ねる。

「今日はどこか行きたいところ、ありますか?」

「……あなたと一緒なら、どこでもいいかな」

「え?」

「な、何でもない!」

慌てて顔をそらす美咲。

しかし、あなたは穏やかに笑う。

「じゃあ、今日は美咲さんが行きたいところに行きましょう」

「……うん」

そして二人で買い物をして、カフェに寄り、夕方には一緒に帰る。

玄関であなたが言う。

「今日は楽しかったです。また一緒に出かけましょうね」

「……うん。また、絶対ね」

そんな光景を想像した美咲は――。

「……あああああっ!」

自分の部屋でクッションを抱えたまま転がった。

「待って待って待って! 何これ!? 私、あの人と結婚する妄想してた!?」

顔が熱い。

心臓がドキドキする。

「だって、あの人と一緒にいたら絶対楽しいし……困っていたら助けてくれるし……」

そして、声が小さくなる。

「……好き、なのかな」

答えは、まだ口に出せなかった。

けれど、否定することもできなかった。

4.二人の妄想が、さらに暴走する

その日の午後。

さくらのスマートフォンに、美咲からメッセージが届いた。

『さくらさん、今ってお時間ありますか?』

『はい、大丈夫ですよ。どうかなさいましたか?』

『ちょっとお話ししたいことがあって……』

『分かりました。電話しましょうか?』

数分後。

二人は電話で話し始めた。

「それで、美咲さん。お話というのは?」

『……さくらさんって、もしも結婚するなら、どんな人がいいですか?』

「…………え?」

さくらは紅茶のカップを持つ手を止めた。

「ど、どうして急にそんなお話を?」

『い、いえ! 何となくです! 休日で暇だったので!』

「……そうですか」

しばらく沈黙が続く。

そして、さくらが小さく尋ねた。

「……美咲さんは、どんな方がいいのですか?」

『えっ!? わ、私は……』

美咲はクッションをぎゅっと抱きしめる。

『優しくて、周りの人を大切にして、困っている人を放っておけなくて……一緒にいると安心できる人、ですかね』

「…………」

さくらの頭に、あなたの顔が浮かんだ。

(それは……)

『さくらさんは?』

「……私も、似たようなものです」

『へえ……』

「……ちなみに」

『はい?』

「そのような方は、身近にいらっしゃるのですか?」

『…………』

「…………」

二人とも黙った。

そして、ほぼ同時に。

『……います』

「……いますね」

「「…………」」

電話の向こうで、美咲が小さく笑った。

『……もしかして、同じ人だったりして』

「……ま、まさか!」

さくらの声が裏返る。

『あははっ、冗談ですよ!』

「そ、そうですよね。冗談ですよね」

しかし。

『……でも、もし同じ人だったら、どうします?』

「…………」

さくらは、答えられなかった。

美咲も、笑うのをやめてしまった。

二人とも、本当は少しだけ分かっていた。

互いが思い浮かべている人。

それはきっと――。

『……いえ! この話はやめましょう!』

「そ、そうですね!」

二人は慌てて話題を変えた。

けれど、その後も頭の中では、あなたとの結婚生活がちらちらと浮かんでいたのだった。

5.そして、休暇中のあなたは……

その頃、あなたは自宅でのんびりしていた。

ソファに座り、飲み物を片手に動画を見ている。

「……ああ、休日っていいなぁ」

今日は仕事の連絡も入れず、しっかり休むと決めていた。

ふと、昨日のことを思い出す。

「そういえば、さくらさんも美咲さんも、昨日は忙しそうだったな……」

少し心配になったものの、すぐに首を振った。

「いやいや。二人とも優秀な人だし、今日はちゃんと休んでいるはず」

あなたはそう考え、再び動画に目を向ける。

まさか、その二人が自宅であなたとの結婚生活を想像し、顔を真っ赤にしているなどとは夢にも思わない。

「……今度、みんなで食事にでも行けたらいいな」

あなたが何気なくつぶやいた、その瞬間。

ピコン。

スマートフォンに通知が届いた。

送り主は、美咲。

『お休み中にすみません! 今日はゆっくり休んでいますか?』

「お、珍しいな」

あなたは普通に返信する。

『はい! 今日はのんびりしています。美咲さんもゆっくり休んでくださいね』

送信。

その数秒後。

美咲の部屋では――。

「~~~~っ!!」

美咲がスマートフォンを抱きしめていた。

「ゆっくり休んでくださいね、だって……! もう、そういうところ……!」

さらに、さくらにもあなたからメッセージが届いた。

『さくらさんも、今日は仕事のことを忘れてゆっくりしてくださいね。いつもありがとうございます』

「…………」

さくらは画面を見つめた。

そして、ゆっくりとスマートフォンを胸元に抱いた。

「……本当に、あなたという方は……」

頬が赤くなる。

「……そんなことを言われたら、また想像してしまうではありませんか……」

6.月曜日、何も知らない専務

週明けの月曜日。

あなたが出社すると、さくらと美咲がすでに仕事をしていた。

「おはようございます、さくらさん。美咲さん」

「お、おはようございます!」

「お、おはようございます……!」

二人の返事が、妙にそろった。

「……?」

あなたは首をかしげた。

さくらはいつも通りに見える。

ただし、あなたと目が合うたびに、ほんの少し頬が赤くなる。

美咲は書類を持ったまま、あなたが近づいてくると不自然に姿勢を正した。

「美咲さん、この書類を確認していただけますか?」

「は、はい! もちろんです!」

「……? ありがとうございます」

あなたが笑顔を見せる。

美咲はすぐに顔をそらした。

(だめだ……! 昨日の妄想を思い出しちゃう……!)

その一方、さくらも心の中で必死に自分へ言い聞かせていた。

(落ち着きなさい、さくら。いつも通りに。いつも通りに接するのです……!)

あなたが二人の間を通り過ぎようとした、そのとき。

「……あの、専務」

さくらが呼び止めた。

「はい?」

「その……今週末は、ご予定がありますか?」

「え? いえ、特にありませんけど」

「そ、そうですか……!」

美咲が勢いよく顔を上げた。

「じゃ、じゃあ! 今度、みんなで食事に行きませんか!?」

「いいですね! ぜひ行きましょう!」

あなたは笑顔で即答した。

「さくらさんも、美咲さんも一緒に!」

「…………っ!」

二人の顔が真っ赤になる。

(みんなで……! いえ、まずはみんなで……!)

(でも、もし二人きりになれたら……!?)

妄想が再び始まりかけたところで、あなたが不思議そうに尋ねた。

「……お二人とも、顔が赤いですけど、体調は大丈夫ですか?」

「だ、大丈夫です!」

「問題ありません!」

またしても、二人の返事がそろった。

あなたは安心したように笑った。

「ならよかったです。無理はしないでくださいね」

そして、専務室へ向かっていった。

残されたさくらと美咲は、しばらく無言で顔を見合わせる。

「……美咲さん」

「……はい、さくらさん」

「……今のは、反則ではありませんか?」

「……はい。反則です」

二人はそろって、あなたが去っていった廊下を見つめた。

そして、小さく笑った。

「……困りましたね」

「……本当ですね」

二人とも、まだ自分の気持ちをあなたに伝える勇気はない。

あなたも、二人が何を考えているのかまったく気づいていない。

ただ一つ確かなのは――。

あなたが何気なく優しくするたびに、さくらと美咲の「もしも、あなたと結婚したら」という妄想は、ますます膨らんでいくのだった。

そして、その日の昼休み。

あなたが庭でのんびりお弁当を食べていると、さくらと美咲が同時にやってきた。

「専務、隣に座ってもよろしいですか?」

「僕は大丈夫ですよ。どうぞ」

二人が左右に座る。

あなたは何も疑わず、笑顔で言った。

「なんだか、家族みたいですね」

「「…………っ!?」」

さくらと美咲の思考が、完全に停止した。

「……か、家族……?」

「……家族、ですか……?」

「はい? どうしました?」

あなたは首をかしげる。

二人は顔を真っ赤にしながら、同時に首を横に振った。

「な、何でもありません!」

「そ、そうです! 何でもありません!」

あなたは不思議そうにしながら、お弁当を食べ続ける。

その両隣で、さくらと美咲は心の中で同じことを考えていた。

((……もし本当に、家族になれたら……))

そして二人は、あなたに気づかれないように、そっと微笑んだ。

――恋心を知られてはいけない専務と、結婚生活を妄想してしまった二人の教育係。

月曜日の昼休みは、いつもより少しだけ、ドキドキする時間になったのだった。