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「午前中に仕事を終わらせた僕と、今日一日優しすぎる二人」

教育係のさくらには恋心を知られてはいけない。 — www.pixiv.net · All chapters

「午前中に仕事を終わらせた僕と、今日一日優しすぎる二人」

――もしも、あなたと結婚したら……?

昨夜、そんな妄想をしてしまったさくらさんと美咲さん。

二人は今朝も、その妄想を思い出していた。

さくら「……朝から何を考えているんでしょう、私は……」

美咲「さくらさん、もしかして今日も想像しちゃいました?」

さくら「み、美咲さん!? な、何のことでしょうか?」

美咲「ふふっ。顔、赤いですよ?」

さくら「美咲さんこそ、昨日のことを思い出しているのではありませんか?」

美咲「……そ、それは……!」

二人は顔を見合わせ、同時に視線をそらした。

美咲「……もし、本当にそうなったら……」

さくら「……っ!」

美咲「な、何でもありません!」

二人は慌てて仕事の準備を始めた。

しかし、この日の二人には、ある共通点があった。

あなたに対して、いつも以上に優しくなってしまうことだった。

1.午前八時三十分。専務室の仕事開始!

あなた「よし。今日も一日、頑張りますか!」

休暇明けのあなたは、専務室に入るとパソコンを立ち上げた。

今日の仕事は、取引先への報告書、各部署から届いた書類の確認、来週の会議資料の作成など、なかなかの量だった。

あなた「うーん……。これは少し時間がかかりそうだな」

そう呟きながら、あなたは仕事を始めた。

ただし、今日はいつもと少し違った。

あなた「……よし、ここまで終わったら休憩しよう」

無理に一気に終わらせようとはせず、適度に休憩を挟みながら、一つずつ片付けていくことにしたのだ。

書類を確認して、報告書をまとめる。

メールを返信して、会議資料を整える。

集中して仕事を進めていると――。

コンコン。

あなた「はい、どうぞ」

さくら「失礼いたします。専務、お仕事の進み具合はいかがでしょうか?」

あなた「さくらさん。順調ですよ。ちょうど一区切りついたので、少し休憩しようと思っていたところです」

さくら「まあ……!」

さくらは、あなたの机に目を向けた。

整理された書類。 きちんと記入されたチェックリスト。 そして、休憩時間まで考えて仕事を進めている様子。

さくら(ちゃんと休憩も取っている……。よかったです)

さくら「素晴らしいですね。ですが、根を詰めすぎないでくださいね?」

あなた「ありがとうございます。気をつけます」

さくら「……ふふっ。何か飲み物をお持ちしましょうか?」

あなた「えっ? いえいえ、そこまでしてもらわなくても!」

さくら「いえ。私がそうしたいのです」

あなた「……そ、そうですか?」

さくら「はい。何がお好きですか?」

あなた(……今日のさくらさん、なんだか優しくないか?)

普段から優しい人ではある。

しかし、今日はいつも以上だった。

あなたが少し困った顔をすると、さくらはにこっと微笑んだ。

さくら「そんなに遠慮しなくても大丈夫ですよ」

あなた「……ありがとうございます」

さくら「どういたしまして」

そして、さくらは部屋を出ていった。

あなた「……何だろう。今日、すごく優しいな」

その頃、廊下では。

さくら(……いけません。つい、甘やかしたくなってしまいます……!)

昨夜の妄想が頭をよぎり、さくらは頬を押さえた。

さくら(もしも、あの人と結婚したら……毎朝、こうして飲み物を用意したり……お仕事のあとに、一緒にゆっくりしたり……)

さくら「……っ! 仕事に集中しましょう、私!」

しかし、その頬の赤みはなかなか引かなかった。

2.午前十時。美咲さんまで優しい!?

あなたは一度休憩を取り、再び仕事に戻った。

そこへ、今度は美咲がやってきた。

美咲「失礼しまーす! 専務、お仕事の調子はどうですか?」

あなた「美咲さん。順調ですよ。もう半分以上終わりました」

美咲「えっ、もうそんなに!?」

あなた「はい。休憩も挟みながら進めています」

美咲「そっかぁ……。よかったです!」

美咲は、ほっとしたように笑った。

そして、手に持っていた小さな袋を机に置いた。

あなた「……これは?」

美咲「お菓子です! 休憩のときにでも食べてください」

あなた「えっ!? わざわざ僕に?」

美咲「はいっ!」

あなた「ありがとうございます。でも、どうして急に?」

美咲「えっ……?」

美咲は一瞬、固まった。

美咲(ど、どうしてって……! 昨日、妄想しちゃったからなんて言えるわけないじゃないですか!)

昨夜のことが頭をよぎる。

もしも、あなたと結婚していたら。

仕事を頑張るあなたに、お菓子を用意して。

疲れて帰ってきたら「お疲れさま」と声をかけて。

休日には二人で買い物に出かけて――。

美咲(……だ、ダメダメ! 想像するだけで恥ずかしい!)

あなた「美咲さん?」

美咲「は、はいっ! えっと……いつも頑張っていらっしゃるので、その……応援です!」

あなた「……ありがとうございます。嬉しいです」

美咲「~~~~っ!」

あなたがいつもの穏やかな笑顔を見せると、美咲は顔を赤くした。

美咲「ど、どういたしまして! 何か困ったことがあったら、いつでも言ってくださいね!」

あなた「はい。頼りにしています」

美咲「……っ! は、はいっ!」

美咲は勢いよく部屋を出ていった。

あなた「……今日の美咲さんも、すごく優しいな」

あなたは袋を開け、もらったお菓子を眺めた。

あなた「……ありがたいな。僕も、もっとみんなの役に立てるように頑張ろう」

あなたは知らなかった。

廊下の向こうで、美咲が壁に背中を預けて、顔を真っ赤にしていたことを。

美咲「……頼りにしています、って……! そ、そんなこと言われたら、もっと好きになっちゃうじゃないですかぁ……!」

3.午前十一時。まさかの仕事終了!

それからも、あなたは順調に仕事を進めた。

一つの作業が終わるたびに、短い休憩を取る。

飲み物を飲み、少し肩を回し、頭を切り替えてから次の仕事に取りかかる。

あなた「よし、会議資料も完成!」

最後の報告書を確認し、チェックリストに印をつける。

あなた「……あれ?」

時計を見た。

午前十一時二十分。

あなた「……終わった」

もう一度、チェックリストを見直す。

あなた「うん。今日の午前中に予定していた仕事、全部終わった!」

思わず小さくガッツポーズをする。

あなた「よしっ!」

そこへ、ちょうどさくらがやってきた。

さくら「専務、先ほどの書類について――」

あなた「あっ、さくらさん! ちょうどよかったです」

さくら「はい?」

あなた「午前中に予定していた業務、全部終わりました!」

さくら「…………え?」

あなた「なので、午後の仕事まで少し時間ができました」

さくらは机の上を見た。

確かに、必要な書類はきれいに整理され、確認も済んでいる。

さくら「……本当に、すべて終わったのですか?」

あなた「はい!」

さくら「す、すごいですね……!」

あなた「今日は途中で休憩を挟んだのがよかったのかもしれません」

さくら「そうですね。無理をせず、効率よく進められたのは素晴らしいことです」

さくらは嬉しそうに微笑んだ。

さくら(ちゃんと休みながら、こんなに早く終わらせて……。本当にすごい方です)

あなた「ありがとうございます。午後に備えて、庭で少し休んできますね」

さくら「ええ、ぜひそうしてください」

あなた「では、行ってきます」

さくら「……あっ、専務」

あなた「はい?」

さくら「……ゆっくり、休んできてくださいね」

あなた「……はい。ありがとうございます!」

あなたは笑顔で専務室を出ていった。

さくらは、その後ろ姿を見送りながら胸に手を当てた。

さくら「……本当に、ずるい方です」

誰にも聞こえないくらい小さな声だった。

4.午前十一時半。庭で過ごす、穏やかな時間

会社の庭。

木々の葉が風に揺れ、柔らかな日差しがベンチに差し込んでいた。

あなた「……ふぅ」

ベンチに腰を下ろし、あなたはゆっくり息を吐いた。

あなた「午前中に終わるとは思わなかったなぁ……」

空を見上げる。

あなた「たまには、こういう時間もいいな」

スマートフォンを確認することもなく、仕事のことを考えるのもいったんやめて、ただ庭の景色を眺める。

あなた「……平和だなぁ」

そのとき。

コツ、コツ、コツ。

足音が近づいてきた。

さくら「……あら。専務、こちらにいらしたのですね」

あなた「あっ、さくらさん。はい。少し休憩しています」

さくら「お隣、よろしいでしょうか?」

あなた「もちろんです!」

さくらは少しだけ緊張した様子で、あなたの隣に腰を下ろした。

さくら「お仕事、本当にお疲れさまでした」

あなた「ありがとうございます。さくらさんも、お疲れさまです」

さくら「……ふふっ。ありがとうございます」

二人の間に、穏やかな沈黙が流れた。

さくら(……もしも、結婚したら)

さくらは隣にいるあなたをそっと見た。

さくら(こうして休日に一緒に庭を散歩したり……ベンチに座って、何でもないお話をしたり……)

あなた「……さくらさん?」

さくら「は、はいっ!?」

あなた「何か考え事ですか?」

さくら「い、いえ! 何でもありませんよ?」

あなた「そうですか?」

さくら「はい……」

あなた「……?」

あなたは不思議そうに首をかしげた。

さくら(ああ……。今、私の顔を覗き込んで……!)

さくら「……っ」

あなた「さくらさん、顔が赤いですよ? 暑いんですか?」

さくら「ち、違います! 少し、その……日差しが強いだけです!」

あなた「それなら、日陰に移動しますか?」

さくら「い、いえ! 大丈夫です!」

あなた「……そうですか?」

さくら「はい……ありがとうございます」

あなた(……やっぱり、今日のさくらさんは少し変だな?)

けれど、あなたは深く追及しなかった。

代わりに、ふと思いついたことを口にする。

あなた「……こういう時間、いいですね」

さくら「え?」

あなた「仕事が一段落して、庭でゆっくりできるのって。普段は忙しいですから」

さくら「……そうですね」

あなた「また、こういう時間を作りたいなぁ」

さくら「…………」

さくらの心臓が、ドクン、と跳ねた。

さくら(また……? また、一緒に……?)

あなた「……さくらさん?」

さくら「は、はいっ!」

あなた「……どうかしました?」

さくら「い、いえ……!」

さくらはそっと微笑んだ。

さくら「……私も、そう思います」

あなた「……?」

さくら「こうして、ゆっくりお話しする時間も大切ですから」

あなた「ですね!」

あなたは嬉しそうに笑った。

さくら(……ああ、もう。どうしてこんなに嬉しいのでしょう……)

5.美咲さん、庭に突撃!

そこへ。

美咲「……あっ!」

庭の入り口から、二人を見つけた美咲が顔を出した。

美咲(えっ!? さくらさんと専務が二人でベンチに!?)

さくら「……美咲さん?」

美咲「こ、こんにちはー!」

あなた「美咲さんも休憩ですか?」

美咲「はいっ! そうなんです!」

本当は、さくらがあなたのところに来たのを見かけて、様子を見にきただけだった。

しかし、二人が並んで座っているのを見て、胸が少しだけざわついた。

美咲(……い、いいなぁ。私も隣に座りたい……)

あなた「美咲さんも、どうぞ座ってください」

美咲「えっ!? い、いいんですか?」

あなた「もちろんです。せっかくですから、三人でゆっくりしましょう」

美咲「……っ!」

美咲(さ、三人で……! いえ、嬉しいですけど! でも、昨日の妄想が……!)

美咲は空いている場所に腰を下ろした。

あなた「そういえば、美咲さん。午前中にお菓子をありがとうございました」

美咲「えっ? あっ、いえいえ!」

あなた「おいしかったです」

美咲「…………」

あなた「……美咲さん?」

美咲「……よかったですぅ……」

あなた「えっ?」

美咲「な、何でもないです!」

美咲は顔を両手で覆った。

さくら「……美咲さん。お気持ちはわかりますが、少し落ち着いてください」

美咲「さくらさんだって、さっきからずっと顔が赤いですよね!?」

さくら「なっ……!?」

あなた「……えっ?」

二人「…………」

あなた「……お二人とも、体調が悪いんですか?」

さくら「ち、違います!」

美咲「元気です!」

あなた「そ、そうですか……」

あなたは心配そうに二人の顔を見比べた。

あなた「もし何かあったら、遠慮なく言ってくださいね。僕にできることなら手伝いますから」

さくら「…………」

美咲「…………」

二人(……そういうところです!!)

心の中で、声がそろった。

6.優しすぎる二人と、まったく気づかないあなた

昼休みが近づいてきた頃。

あなた「さて、そろそろ専務室に戻りますね。午後の準備もありますから」

さくら「……もう戻られるのですか?」

あなた「はい。でも、ゆっくり休めました。お二人とも、ありがとうございました」

美咲「……いえ!」

あなた「それじゃあ、また午後に!」

あなたは軽く手を振って、庭をあとにした。

残されたさくらと美咲。

しばらく、二人とも何も言わなかった。

やがて、美咲が小さな声で呟いた。

美咲「……さくらさん」

さくら「……はい」

美咲「今日、優しくしすぎちゃいましたね……」

さくら「……否定できません」

美咲「私、あの人が『おいしかったです』って言っただけで、すごく嬉しくなっちゃって……」

さくら「私は……『また、こういう時間を作りたい』とおっしゃったときに……」

美咲「……ああぁ……!」

二人はそろって顔を覆った。

美咲「……昨日、結婚したらどうなるんだろうって妄想しただけなのに……」

さくら「まさか、今日一日こんなことになるなんて……」

美咲「……もし、本当にそうなったら、私たち、どうなっちゃうんでしょうね?」

さくら「……さあ。想像するだけでも、少し怖いですね」

美咲「……でも」

さくら「……はい?」

美咲「……ちょっとだけ、幸せそうだなって思っちゃいました」

さくらは驚いたように目を見開いた。

そして、ふっと優しく微笑んだ。

さくら「……私も、同じことを考えていました」

二人は顔を見合わせた。

美咲「……明日からは、もう少し普通に接しましょうね!」

さくら「ええ。そうしましょう」

美咲「絶対ですよ!」

さくら「……はい」

美咲「……さくらさん、今ちょっと怪しい笑顔でしたよ?」

さくら「美咲さんこそ、笑っていらっしゃいますよ?」

美咲「ふふっ!」

さくら「ふふふっ……!」

結局、二人は笑い合ってしまった。

――その頃、専務室では。

あなた「……よし、午後の仕事も頑張ろう!」

あなたは机に向かい、パソコンを開いていた。

あなた「それにしても、今日はいい日だなぁ。仕事も順調だし、さくらさんも美咲さんも優しいし……」

あなたは満足そうに頷いた。

あなた「……僕も、もっと二人の力になれるように頑張らないとな!」

その純粋な一言を、もし二人が聞いていたら。

きっと、また顔を真っ赤にしていたことだろう。

なにしろ――。

あなたはまだ、二人が昨夜からずっと「もしも、あなたと結婚したら……?」という妄想に振り回されていることを、まったく知らないのだから。

そして午後。

さくらと美咲は、朝に決めた約束を早くも破りかけることになる。

なぜなら、専務室のドアが開き、あなたが笑顔でこう言ったからだ。

あなた「さくらさん、美咲さん。よかったら、今日のお昼、一緒に食べませんか?」

さくら「…………っ!」

美咲「…………っ!」

二人(……それは、まるで……!)

あなた「……あれ? お二人とも、どうしました?」

さくら「……い、いえ。喜んで、ご一緒させていただきます」

美咲「わ、私もですっ!」

あなた「よかった。じゃあ、行きましょう!」

あなたは笑顔で歩き出した。

その後ろで、さくらと美咲はこっそり顔を見合わせる。

美咲(……これ、午後も心臓がもちません……!)

さくら(……まったく同感です……!)

そして二人は、あなたに気づかれないように深呼吸をしてから、そっと後を追いかけたのだった。